スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

文字の大きさ
上 下
28 / 69

第28話:よし!決めたぞ、え?清掃員になるんすか

しおりを挟む
 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 さて、今日もいつもと変わらぬスライム退治を終えて、相棒と宿屋の二階の部屋に戻る。
 さて、ベッドの上でくつろごうとしたら、もよおしてしまった。

「ちょっと、便所へ行ってくる」

 相棒に声をかけると、俺は部屋を出て共同便所へ向かう。
 すると、便所の入口に「清掃中」の掲示板が立っていた。

 やれやれ。
 俺の人生は何かしようとすると邪魔が入るんだよな。

 仕方ない。
 一階の便所へ行こうとして、ふと清掃員の顔を見る。
 あれ、この人は。

「おお、久しぶりじゃないか」

 向こうから声をかけてきた。

「どうも、こんにちは」

 この男性は、その昔、ちょっと知っていた先輩剣士だ。
 しかし、俺より何倍も優秀な冒険者で、随分お金を稼いでいた印象があったのだが。
 何で、こんな安宿で便所掃除なんてしているんだ。

 すると、その元冒険者で今は清掃員の男がニヤリと笑った。

「お、その表情は何で便所の清掃員なんかしてるんだって考えてるんだろ」
「えーと、まあ、そうですね。あなたはけっこうお金持ちの印象があったんですけど」
「金持ちにはなったけど散財しまくって、おまけに株の投資で大失敗してさあ。金が無くなって、おまけにケガして冒険者も廃業。今や、清掃員さ」

 うーん、けっこう有名な冒険者だったのだが、今や、清掃員か。
 けど、意外と本人は元気そうだな。

「あのー、何て言いますか、清掃員って楽しいですか」
「ああ、楽しいぞ。変なモンスター相手に剣を振り回すのは飽きたよ。それにこれも立派な仕事だぞ」

 うーん、負け惜しみではないかと俺は思ったのだが、その元剣士はあんまり気にしていないようだ。
 やたら、昔の話をしてくる。

「俺の知り合いはほとんどモンスターにやられたよ。やっぱり長生きした方が勝ちだと思うんだけどな」
「はあ、そうですか……」

 まあ、清掃員も立派な仕事ではあるが、スライム退治よりもさらに退屈な感じがしてくるなあ。

「あんたは仕事の方はうまくいってるのか」
「いえ、うまくいってないですね。スライム退治ばっかりですね」

「でも、死ぬ危険はあんまりなさそうだな」
「まあ、そうですけどね」

「人生は先の事なんてわからないが、やはり生きてる方が勝ちだと思うんだ。まあ、いつかは死ぬけどな」
「そうですね。じゃあ、清掃のほう頑張ってください」
「おう、あんたもスライム退治を頑張ってくれよな」

 俺は一階に下りて便所で用を足し、部屋に戻る。
 ベッドにつまらなそうに横になっている相棒に聞いてみた。

「おい、お前は便所掃除とスライム退治って、どっちが面白いと思う」
「何でそんなこと聞くんすか」

 俺は便所で会った元冒険者のことを相棒に話した。

「うーん、スライム退治もつまらないすけど。でも、やっぱり清掃員よりスライム退治の方が面白いと思いますよ。まあ、清掃員の方が安定していて、危険もないですけど」
「そうだよなあ。けど、俺たちもいつ大ケガして、清掃員になるかもしれないぞ」

「それはそれでいいんじゃないすか」
「お前、野望ってものがないのか、若いのに」
「適当に暮らせればいいんすよ」

 ヘラヘラ笑う相棒。

「そういうところがダメなんだ。お前は冒険者としての気構えに欠けているぞ」
「しかし、スライム退治を毎日やってるのも、まあ、気楽ではありますよ」

「でもなあ、それで人生終わりってのも、何と言うか、つまらんと言うか」
「でも、ほとんどの人は毎日、同じ仕事をして年を取って、まあ、最後は死んでいくってことじゃないすかねえ」

「そうなんだがなあ。少しは輝きたいと思わないのか」
「だから、それはごく一部の人じゃないすかね。俺っちはスライム退治で充分すよ。まあ、リーダーのように出腹にはならないよう注意しまっすけどねえ」
「うるさいぞ。出腹は関係ないだろ」

 俺が例によって相棒に文句を言ってると、なんだか廊下で騒ぎが起きている。
 何が起こったのかと廊下に出ると、あの元剣士が運ばれていく。

「どうしたんだ」
「この人、便所で滑って、思いっ切り頭を打ったんですよ」

 宿屋の従業員が教えてくれた。

「うーん、先程までは元気だったのに」
「人生、何が起きるかわかりませんすね」

……………………………………………………

 そして、数日後、その元剣士が死んだことがわかった。

「うーん、人生先の事なんて本当にわからない、生きてる方が勝ちと言っていたが、まさか、その直後死んでしまうとは」
「あの便所、床が滑りやすいんすよ。俺っちも転んだことがありますから。でも、本人は満足じゃないすか」

「何でそう思うんだ」
「そりゃ、冒険者としてけっこう成功して、大儲けして、好き勝手な事したんでしょ。最後は失敗したけど、それまでは随分楽しんだんだから」

 そうだよなあ、有名冒険者としてモテモテ、うまいもん食って、人生楽しんだんだ。
 俺とは大違いだ。

「よし! 決めたぞ」
「え? なんすか、清掃員になるんすか」

「違うぞ、大冒険するんだ。人生大逆転だ」
「また、それっすか。やめたほうがいいっすよ」

「あの元剣士は人生楽しんだんだ。俺はちっとも楽しんでない。これから楽しんでやるぞ」
「無理じゃないすか。大ケガして清掃員、いや、案外、明日にでも便所で転んで頭打って、あの元剣士のようにあの世に逝くのがリーダーに合ってますよ」
「うるさいぞ」

 そう、大冒険をするんだ、かかって来いドラゴン、魔王、そして、ようこそ美少女。
 やっぱりこれしかないと俺は思うのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...