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第25話:女性の悲鳴が聞こえなかったすか、俺には何にも聞こえなかったぞ

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 今日の仕事の場所は村の近くの遺跡周辺。
 ほぼ廃墟になった城だ。

 到着すると、城と言っても小さいなあと俺は思った。
 二階建ての家くらいの高さしかない。

 そして、仕事はこの城の周辺のスライム退治。
 つまらん。

「ああ、つまらんなあ。ちょっとこの城の中を見学しようか」
「ダメっすよ。城の周辺のスライム退治を依頼されたんすから。不法侵入すよ」

 意外と真面目な相棒。
 まあ、廃城の中に入っても仕方がないか。

 さて、そぼそぼとスライム退治を始めようとすると相棒が俺に言った。

「あれ、今、女性の悲鳴が聞こえなかったすか」
「いや、俺には何にも聞こえなかったぞ」

「そうすか。空耳っすかね。まあ、人間は年を取ると高い音が聞こえなくなると聞いたことがありますけど」
「なんだよ。俺がおっさんだから聞こえくなったって言いたいのか」
「まあまあ、別にリーダーをバカにしているわけじゃないすよ。それに、悲鳴というよりはうめき声みたいな感じでしたっすね」

 すると、小石が俺のハゲ頭に落ちてきた。

「イテテ」

 まあ、ほんの豆粒みたいな石だ。
 廃城の壁が崩れてきたのか。

「おい、石が落ちて来たぞ。多分、城の壁が少し崩れてきたんだろう。近寄らない方がいいぞ」

 しかし、相棒が城の方をじっと見ている。
 すると、再度、小石が落ちてきた。

「ありゃ、また落ちてきた。おい、危ないぞ。城の壁から離れた方がいいぞ」
「いや、おかしいっすね」

「何がおかしいんだ」
「城壁の上の方の窓か知らないっすが、そこから小石が落ちてきたんすよ」

「だから崩れてきたんだろ。危険だぞ」
「いや、その小石が、一旦、上がって、そして落ちて来たんですよ。壁からはがれて落ちてきたんじゃないすね。誰かが投げているんすよ」

「何、するとこの城に小石を投げるモンスターがいるのか」
「なんすか、小石を投げるモンスターって。そんなのいるわけないすよ」

 相棒は城の中に入ろうとする。

「おい、不法侵入じゃないのか」
「いや、何か事件が起きてる雰囲気がしますよ」

 うーん、相棒はシーフだ。
 勘は鋭いかもしれん。

 しかし、俺も久々にわくわくしてきたぞ。

 スライム退治はもう飽き飽きしている。
 相手が小石を投げるモンスターでもいいぞ。

 さて、玄関を開けようとするが、俺は相棒に待ったをかける。

「おい、もしかして、この廃城の悪霊の呪いがかかっていて開けると死ぬとかあるかもしれんぞ」
「そんな、大丈夫すよ」

 あきれ顔で、あっさりと扉を開ける相棒。
 そういうわけで、俺と相棒は城の中に入るが、一階は何も無い。

「何も無いすね」
「いや、動くな。床のタイルをうっかり踏むとこの城全体が崩れる仕掛けがあるかもしれない」
「また、しょうもない冒険小説でも読んだんすか。だいたい、床のタイルも全部ボロボロじゃないすか」

「お前、夢がないぞ。俺たちは冒険者だぞ。次から次へとわけのわからない仕掛けが襲ってくるのが通例だろ。なぜか突然、矢が飛んできたりとか、変な怪物の像があって近づくと口から炎を吹いたりとか」
「だから、それは小説すよ。ここは廃城でもう大勢の人たちが何度も入ったことがあるから、たとえそんな仕掛けがあっても、とっくの昔に撤去されてますよ」

 やれやれ。
 せっかく、俺が冒険者気分でわくわくしてるのに。

 さて、城の内壁にある石の階段を上がって行く。
 廃城なんで、この階段も今にも崩れそうだな。
 恐々、上がって行く。

 そして、二階の部屋の前まで上った。
 すると、うめき声というか、女性が何かウーウー言っている声が聞こえてきた。

「お、これは、やはりモンスター小石投げ女が居るんではないか。そして、この部屋に入ると呪われて小石が毎日頭に降って来るんだ」
「なにをわけのわからないこと言ってんすか」
「確かにそうだな。よし、中に入ろう」

 とにかく、スライム退治には飽き飽きしているんだ。
 俺は冒険したいんだ。
 しかし、扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。

「ちょっと俺っちにまかせてくださいよ」

 相棒がサササと鍵を開けてしまう。
 さすがシーフ。

「うむ、お前をちょっと見直したぞ」
「そりゃ、シーフを名乗ってますからね。普段はスライム相手にナイフを使ってるだけっすけど」

 さて、扉を開ける。
 なんと部屋の中には若い女性がいた。
 猿ぐつわをされて、体を縛られて座っている。

「おお、これは山賊にさらわれた亡国の姫ではないか」
「また、妄想すか。格好からすると村娘さんにしか見えませんけど」
「とにかく助けよう」

 女性を助けようとすると、下から大声が聞こえてきた。

「おい、お前ら、何勝手に城の中に入って来てんだよ!」

 お、こいつらがお姫様を誘拐した山賊どもか。
 相手は五人もいるぞ。

 しかし、俺も長年、冒険者をやっていたわけではない。
 最近はスライム退治ばかりではあったが。

「姫、しばらくお待ちください。悪党どもを成敗してきます」

 俺はうやうやしく膝をついて、頭を下げる。
 そして、階段の上から悪党どもに大声をあげる。

「かかってこい、山賊どもが。全員、この正義の剣を受けてみよ」

 俺は剣をカッコよく抜いて、階段を駆けおりようとした。

「ウワ!」

 しかし、勢いが強かったのか、階段が崩れ落ちる。

「ヒエー!」

 俺は崩れた階段ごと下に落ちた。
 気が付くと、下にいた五人組が瓦礫の下敷きになって気絶している。

 上の方から相棒が声をかけてきた。
 
「リーダー、大丈夫すか」
「ああ、ケガはない。それから山賊どもをみんなやっつけたぞ。ところで、姫の方は大丈夫か」
「あのー、この女性、お姫様じゃなくて、この村の農家の娘さんなんすけど」

 どうやら、あの五人組は村の愚連隊らしい。
 一人が村の娘さんをさらって、この城の中に連れ込んで、いかがわしいことをしようと仲間を誘ったようだ。
 全く、けしからん奴らだ。

 あの小石は、男が仲間を誘いに出かけている間に、この娘さんが城の外に俺たちが来たのに気づいて縛られた手で何とか投げていたようだ。
 
 ろくでなし五人組を村役場に連行してやった。
 娘さんは家まで送り届けて、家族の人からは感謝された。

 そんなことをしていると、いつの間にか夕方。
 しかし、俺は満足している。

「いやあ、久々に冒険者らしいことをしたんじゃないかな。悪党どもをやっつけて、相手はお姫様ではなかったが、助けたんだからな」
「まあ女性を助けたのはいい事したと思いますっけど。でも、冒険者らしいって、単に階段が崩れて相手がそれの下敷きになっただけじゃないすか。おまけに、リーダーも一緒に落ちたんだから。その出腹で体が重くなったのが原因じゃないすか。この前も似たようなことがあった覚えがありまっすね」

「うるさいぞ。この出腹がクッションになって落ちた時でもケガしなくて済んだんだ」
「そんなわけないでしょ。で、今日はどうするんすか」
「何をどうするんだ」

「夕食ですよ。金無いじゃないすか」
「おお、そう言えばスライムを一匹も退治してないぞ」

 愚連隊を相手にしていたら、スライム退治のことをすっかり忘れていた。

「まあ、また宿屋の食堂で余ったパンを恵んでもらいますか」
「仕方がないか」

 すっかり冒険者気分も無くなって、部屋でそぼそぼとパンを食べる。
 しょぼい食事だ。

「ああ、すっかりカッコいい冒険者の気分だったのが、すっかり冷めてしまったなあ」
「いいじゃないすか。パン一枚だから出腹が引っ込んで」

「うるさいぞ。でも、お前、あの小石の異変によく気が付いたな。けっこう、能力があるんじゃないか」
「いや、誰でも気付くんじゃないすか。リーダーには冒険者としての気構えが足りないっすね」

 相棒に嫌味を言われてしまった。

「しかし、スライム退治ばかりやってると自分は冒険者なのか害虫駆除者なのかわからなくなってくる。やっぱり大冒険がしたいぞ。ああ、あの娘さんが亡国の姫だったらなあ」
「だから、何でこんなド田舎の村に亡国の姫がいるんすか。とりあえず妄想はやめたらどうすか」
「うるさいぞ」

 しかし、妄想じゃなくて、本当に大冒険がしたいんだ、俺は。
 薄いパンを食べながらそう思う俺であった。
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