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第24話:気がつけばすっかり禿げてるんだ、前からじゃないすか
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俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
出発の準備をする際、ふと、安宿の部屋の鏡に顔を映す。
自分の顔をじっくりと見るのは久々だな。
鏡にはブサイクな冴えないおっさんが映っている。
およそ、美男子とは真逆の顔だったが、それに老いがプラスされ、さらにブサイクになっている。
しかも、髪の毛がすごく後退しているではないか。
いつの間にこんなに禿げてしまったのか。
「やれやれ」
「どうしたんすか」
スライム退治に行く準備をしている相棒が声をかけてくる。
こいつはまだ若いのでフサフサの頭だ。
「いや、気がつけばすっかり禿げてるんだ。がっかりだよ」
「前からじゃないすか」
「うーん、自分では気づかなかった」
「でも、元々ブサイクなリーダーは髪の毛が有ろうが無かろうが関係ないんじゃないすか」
「うるさいぞ」
確かにブサイクであることは自覚している。
「けどなあ、髪の毛が薄くなると自分がますます老いていくのをあらためて自覚してしまい、憂鬱な気分になるぞ」
「自然の摂理だからしょうがないんじゃないすか」
「けど、老人でもフサフサな人がいるよなあ。ああ、うらやましい」
「人それぞれっすよ。気にしても仕方がないすよ」
「お前はフサフサでいいよなあ。お前の髪の毛、俺に少しくれないか」
「嫌ですよ。禿げてるのを見られるのが嫌なら、冑とか防具を頭につければいいんじゃないすか」
「高くて買えないし、スライム退治には必要ないな」
「じゃあ、いっそのこと頭を剃り上げてスキンヘッドにしたらどうすか」
「うーん、その髪形は似合う人と似合わない人がいるんだよな。俺は頭の形がカッコ悪いんだ。髪の毛を全部剃るとそれが目立ってしまう」
「でも、誰も気にしませんよ。ブサイクで出腹でハゲのおっさんが歩いていても」
「そうかなあ。けど、情けないんだなあ」
「中途半端に生えている方が情けないっすよ。中途半端はリーダーの人生そのものみたいですけどね」
「うるさいぞ」
しかし、中途半端な人生って言うのは事実だな。
「それに鏡で見る自分の顔は、実際の顔とはちょっと違うんすよ」
「何、これは魔法の鏡か。そうか、わざと俺の頭をハゲにしたのか」
「違いますって。鏡を見る時、人間は自分では気づかないまま一番よく見えるように顔を動かすんですよ。つまり、実際には他人からすると、リーダーの思っている以上にさらに冴えないハゲのおっさんがいるってことっす」
「何だよ、それ。ああ、外に出る気をなくしたぞ」
「そんなこと言ってないで、そろそろ出かけませんか。また、食堂でパンを貰いに行く羽目になりますよ」
「ああ、仕方がない。やれやれ、仕事には行くか」
「今日もスライム退治っすか」
「そうだぞ」
俺と相棒は村の通りを歩く。
「おい、道行く人たちが俺の頭を見てないか」
「誰も見てないっすよ。何、急に気にしてんすか。昨日だってこの道を歩いていたじゃないすか」
「うーん、皆が俺のことを馬鹿にしているような気がしてきた」
「気のせいですよ。ブサイクで出腹の禿げたおっさんが歩いていても誰も気にしませんよ。つーか、今までも馬鹿にされてきたんじゃないすか。もう慣れてるでしょ」
「うるさいぞ。ああ、でもやる気が起きないなあ。俺はどんどん老いていく。お前が前に言ったとおり、俺の人生は最後の一秒までスライム退治で終わるのか」
「元気出してくださいっすよ。禿げたくらいで、気を落とさないでほしいっす」
しかし、自分の老いた顔をまじまじと見て思ったのは、やはり自分の人生は失敗だったなあということだ。
何にも成し遂げてない冴えないおっさんの顔だった。
おまけに禿げた。
情けない。
そんな俺に相棒が言った。
「そう言えば、ある有名人は禿げたことを揶揄されて、こう切り返したみたいっすよ。『髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである』って言ったそうっす」
「おお! 何と素晴らしい言葉だ。歴史的名言じゃないか。偉人名言録に載せたらどうだ。さぞかし偉大な事を成し遂げた人物なんだろうな」
「それが、毀誉褒貶の激しい人で、『ペテン禿げ』とか呼ばれたりしてるらしいすけど」
「いや、素晴らしい人物に違いないぞ。普通は怒るか無視するかだ。そんな返事は思い付かない。ユーモアもある。大物だな。その人を俺は尊敬するぞ」
「いくら褒めても金は恵んでくれそうにもないすけどね」
いや、何か元気が出て来たぞ、俺は。
「そうだ! 俺も髪の毛が後退しているんじゃないぞ、俺が前進しているんだ。今はスライム退治だが、いつかは前進、前進、大前進して、ドラゴンを倒すぞ!」
俺は思わず、村の道をドスドスと歩く。
「うわ!」
張り切って歩いていたら、石につまづいて転んでしまった。
「イテテ」
「ちゃんと気をつけて歩いて下さいっすよ。ドラゴンを倒すどころか、小石に倒されてるじゃないすか」
「ううむ、面目ない」
しかし、例え老人になっても前進してやるぞ。
そう心に誓いながら、スライム退治へ向かう俺であった。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
出発の準備をする際、ふと、安宿の部屋の鏡に顔を映す。
自分の顔をじっくりと見るのは久々だな。
鏡にはブサイクな冴えないおっさんが映っている。
およそ、美男子とは真逆の顔だったが、それに老いがプラスされ、さらにブサイクになっている。
しかも、髪の毛がすごく後退しているではないか。
いつの間にこんなに禿げてしまったのか。
「やれやれ」
「どうしたんすか」
スライム退治に行く準備をしている相棒が声をかけてくる。
こいつはまだ若いのでフサフサの頭だ。
「いや、気がつけばすっかり禿げてるんだ。がっかりだよ」
「前からじゃないすか」
「うーん、自分では気づかなかった」
「でも、元々ブサイクなリーダーは髪の毛が有ろうが無かろうが関係ないんじゃないすか」
「うるさいぞ」
確かにブサイクであることは自覚している。
「けどなあ、髪の毛が薄くなると自分がますます老いていくのをあらためて自覚してしまい、憂鬱な気分になるぞ」
「自然の摂理だからしょうがないんじゃないすか」
「けど、老人でもフサフサな人がいるよなあ。ああ、うらやましい」
「人それぞれっすよ。気にしても仕方がないすよ」
「お前はフサフサでいいよなあ。お前の髪の毛、俺に少しくれないか」
「嫌ですよ。禿げてるのを見られるのが嫌なら、冑とか防具を頭につければいいんじゃないすか」
「高くて買えないし、スライム退治には必要ないな」
「じゃあ、いっそのこと頭を剃り上げてスキンヘッドにしたらどうすか」
「うーん、その髪形は似合う人と似合わない人がいるんだよな。俺は頭の形がカッコ悪いんだ。髪の毛を全部剃るとそれが目立ってしまう」
「でも、誰も気にしませんよ。ブサイクで出腹でハゲのおっさんが歩いていても」
「そうかなあ。けど、情けないんだなあ」
「中途半端に生えている方が情けないっすよ。中途半端はリーダーの人生そのものみたいですけどね」
「うるさいぞ」
しかし、中途半端な人生って言うのは事実だな。
「それに鏡で見る自分の顔は、実際の顔とはちょっと違うんすよ」
「何、これは魔法の鏡か。そうか、わざと俺の頭をハゲにしたのか」
「違いますって。鏡を見る時、人間は自分では気づかないまま一番よく見えるように顔を動かすんですよ。つまり、実際には他人からすると、リーダーの思っている以上にさらに冴えないハゲのおっさんがいるってことっす」
「何だよ、それ。ああ、外に出る気をなくしたぞ」
「そんなこと言ってないで、そろそろ出かけませんか。また、食堂でパンを貰いに行く羽目になりますよ」
「ああ、仕方がない。やれやれ、仕事には行くか」
「今日もスライム退治っすか」
「そうだぞ」
俺と相棒は村の通りを歩く。
「おい、道行く人たちが俺の頭を見てないか」
「誰も見てないっすよ。何、急に気にしてんすか。昨日だってこの道を歩いていたじゃないすか」
「うーん、皆が俺のことを馬鹿にしているような気がしてきた」
「気のせいですよ。ブサイクで出腹の禿げたおっさんが歩いていても誰も気にしませんよ。つーか、今までも馬鹿にされてきたんじゃないすか。もう慣れてるでしょ」
「うるさいぞ。ああ、でもやる気が起きないなあ。俺はどんどん老いていく。お前が前に言ったとおり、俺の人生は最後の一秒までスライム退治で終わるのか」
「元気出してくださいっすよ。禿げたくらいで、気を落とさないでほしいっす」
しかし、自分の老いた顔をまじまじと見て思ったのは、やはり自分の人生は失敗だったなあということだ。
何にも成し遂げてない冴えないおっさんの顔だった。
おまけに禿げた。
情けない。
そんな俺に相棒が言った。
「そう言えば、ある有名人は禿げたことを揶揄されて、こう切り返したみたいっすよ。『髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである』って言ったそうっす」
「おお! 何と素晴らしい言葉だ。歴史的名言じゃないか。偉人名言録に載せたらどうだ。さぞかし偉大な事を成し遂げた人物なんだろうな」
「それが、毀誉褒貶の激しい人で、『ペテン禿げ』とか呼ばれたりしてるらしいすけど」
「いや、素晴らしい人物に違いないぞ。普通は怒るか無視するかだ。そんな返事は思い付かない。ユーモアもある。大物だな。その人を俺は尊敬するぞ」
「いくら褒めても金は恵んでくれそうにもないすけどね」
いや、何か元気が出て来たぞ、俺は。
「そうだ! 俺も髪の毛が後退しているんじゃないぞ、俺が前進しているんだ。今はスライム退治だが、いつかは前進、前進、大前進して、ドラゴンを倒すぞ!」
俺は思わず、村の道をドスドスと歩く。
「うわ!」
張り切って歩いていたら、石につまづいて転んでしまった。
「イテテ」
「ちゃんと気をつけて歩いて下さいっすよ。ドラゴンを倒すどころか、小石に倒されてるじゃないすか」
「ううむ、面目ない」
しかし、例え老人になっても前進してやるぞ。
そう心に誓いながら、スライム退治へ向かう俺であった。
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