スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第20話:このリーダーは無能だな、何の話すか

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 今日は残念ながら仕事を取れなかった。
 ヒマだ。

 仕方がないので、受付で小説を借りた。

 部屋のベッドに寝転んで読む。
 隣のベッドでは相棒が何もせずに、ただ、ぼんやりと横になっている。

「うーん、このリーダーは無能だな」
「何の話すか」

「この小説に出てくる主人公のリーダーはろくに目的地のジャングル奥地の周辺を事前調査せずに、結局、自分の冒険者パーティーを全滅させちゃうんだよ」
「でも、ジャングル奥地の事前調査って、難しそうすけどねえ」

「まあ、そうだな。誰も一度も行ったことのない場所だし、それに裏切り者まで出てくるんだな」
「そりゃ、全滅してもしょうがないんじゃないすか」

「そこを何とかするのが、リーダーの力量なわけだ。この小説のリーダーはパーティー全員を統率できる能力に欠けていたわけだな」
「だとすると、全く統率力の無い出腹リーダーのパーティーは裏切り者が続出と言うか、全員裏切って、出腹リーダーはどこかへ取り残されるんじゃないすかね」
「うるさいぞ。お前も裏切るのか、俺のことを」

「裏切らないし、見捨てもしませんっすよ。だいたい、スライム退治で何を裏切れって言うんすか。ただ、呆れてるだけっすね。妄想ばっかりの出腹リーダーのアホさ加減に」
「うるさいぞ」

「でも、リーダーは仕事の前に事前調査なんてしてるんすか」
「してないぞ」

「じゃあ、リーダーも無能ってことっすね」
「うるさいぞ。だいたい、村のすぐ近くでスライム退治してるだけなのに事前調査なんて必要ないだろ」

「まあ、そうっすけどね。でも、そんな考えだからいつまで経ってもスライム退治で人生終わったんじゃないすか、リーダーは」
「まだ、俺の人生は終わってないぞ。これから大冒険をするのだ。それも入念に先の事を考えて準備を怠らない。人生は常に先の事を予想して考えて行動するのだ」

「そう言ってるわりには、何も考えずに毎日スライム退治ばっかりじゃないすか。そんないい加減なリーダーの性格じゃあ、大冒険なんて無理っすよ」
「うるさいぞ」

 ああ、しかし、スライム退治じゃなくて、本当にもっと大冒険したいなあ。

「だいたい、この小説の作家は才能がないな」
「何でそう思うんすか」

「むさ苦しい男しか出てこないんだ。美少女を出せよ、美少女! 美少女!」
「また、美少女すか。何でジャングルの奥地に冒険に行くのに美少女が必要なんすか」

「そんなのどうでもいいんだよ。美少女を出せよ、おもろーないぞ。突然、現れてもいいんだよ」
「お話の整合性無しで美少女を出しても読んでる方はしらけるだけっすよ」

「しかし、美少女を出さないと読者に受けないぞ」
「そういうのが嫌になって、たまには硬派な小説を書きたかったんじゃないすか、その作家は。唐突に美少女が出てくる小説なんて、書いていてアホらしくなったんすよ」

「いや、人生は何が起きるかわからないから面白いんだよ。先がわからないのがいいんだ。人生は冒険だ。そして、突然、美少女が現れるんだ」
「なんかさっきと逆のことを言ってますね。入念に先の事を考えて準備を怠らないとか言ってなかったすか」

「その通り、入念に先の事を考えて準備を怠らないこと。しかし、それでも突然、思ってもいなかったことが起きる。これこそ大冒険だ。そして人生も同じだ」
「まあ、大冒険と言っても、出発直後、すぐに思ってもいなかったモンスターが現れて、あっさりやられて人生終わりじゃないすか、リーダーの場合は」
「うるさいぞ」

「だいたい先の事を全然考えていないから、スライム退治ばっかり。そして、今やすっかり出腹のおっさんになったんじゃないすか」
「うるさいぞ、出腹は余計だろ」

 しかし、この出腹、何とかならんかな。

「とにかく冒険者としての気構えが大切なのだ。常に何が起きるか慎重に事を進めること。人生も同様だな」
「はい、はい、わかりましたっす。けど、リーダーはいつも同じ事を言ってるような気がしてきましたっすよ。今までも、本当に先の事を考えていたんすかね。で、その結果が毎日スライム退治っすか。さて、ちょっと便所へ行ってきます」

 相棒が部屋を出て行く。
 でも、相棒の言う通り、先の事なんて全く考えずに生きてたらいつの間にか、出腹のおっさんになっていたのは事実だ。

 やれやれ。

 あれ、相棒がなかなか戻ってこない。
 便秘か。
 すると、やっと戻って来た相棒が、足をひきずっている。

「どうしたんだよ」
「いやあ、共同便所の床で滑って足を打ってしまったんすよ。ああ、痛い」

「だから言っただろ。便所の床がツルツルで滑るかもしれない。こういうことを予想していれば足のケガをしなかったわけだ。お前はやはり冒険者としての気構えに欠けているぞ」
「便所で転んだくらいで大げさっすね」
「まあ、とにかくこれはつまらん小説だった。受付に返してくる」

 俺は部屋を出ようとして、扉を開けたら、うっかりその扉に頭をぶつけてしまう。

「イテテ」
「何やってんすか。宿屋の部屋から出る時点でもうダメじゃないすか。冒険者としての気構えが全然無いじゃないすか、リーダーは」

 相棒に嫌味を言われてしまった。

「うーむ、面目無い」
「もう、リーダーは大冒険なんて考えない方がいいんじゃないすか。ろくなことにはならないすよ」
「うるさいぞ、とにかく俺は大冒険するのだ」

「で、何をするんすか」
「今、考えているところだ」

「いつも考え中っすね。考えている間に人生終わりそうっすね、リーダーは」
「うるさいぞ」

 しかし、何も考えが浮かばないのも事実だ。
 何かきっかけはないだろうか。
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