18 / 69
第18話:えーと、モンスターを倒したんだけど……、どうしたんすか
しおりを挟む
俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
今日も村から少し離れた山の麓にある森の中でスライム退治。
しかし、何の冒険心をかきたてることもない、そして、何の変哲もない平らな一本道が指定された場所。
つまらん。
「ああ、つまらんなあ」
「そっすねえ、はあ~」
「おいおい、あくびすんなよ。お前には冒険者として気構えが足りないぞ」
「しかし、相手はスライムっすよ」
「他のモンスターが襲ってくるかもしれないじゃないか。冒険者は常に革命的警戒心を持って行動しなきゃいけないんだぞ」
「革命的警戒心を持っている割には、すっかり腹が出てますね、リーダーは」
「うるさいぞ。とにかくちゃんと仕事しろ」
「ういっす」
二手に分かれて、森の中を探索。
全然スライムがいないなあと俺が思っていると、おっと、不穏な雰囲気がするぞ。
長年の冒険者の勘だ。
スライム退治ばかりとは言え、何十年もただぼんやりと冒険者をやっていたわけではない。
木の陰に何者かがいるぞ。
俺はスライムを探す振りをして、周囲に気を配る。
すると、何者かが背後から襲いかかって来た。
俺はさっと振り向いて、剣を振る。
バシッ!
悲鳴をあげて、そのモンスターは倒れた。
「やった、モンスターを倒したぞ!」
と言っても、このモンスターもありきたりな奴だな。
少し離れた場所から相棒が声をかけてきた。
「何かあったんすか」
「おう、今、モンスターが俺に襲いかかってきたんだ。あっという間に倒してやったぞ。えーと、あれ……」
地面に倒れているこん棒を持った小柄な犬の顔をした獣人モンスター。
スライムほどではないが、それでもよく見る平凡なモンスターなのだが。
あれ、名前が出てこない。
「えーと、モンスターを倒したんだが、うーん、何だっけ、こいつ」
「どうしたんすか」
相棒が近づいてきた。
「おっと、久々にスライムじゃないモンスターを倒したじゃないですか、これは……」
「おい、待て」
「なんすか、何を待つんすか」
「名前が出てこないんだよ」
「えっと、このモンスターは……」
「だから、待て、俺が思い出すまで」
「どうしたんすか、ド忘れしちゃったんすか」
うーん、うーん、とにかく名前が出てこない。
この犬顔の獣人面モンスターは、特に珍しくも無い平凡な名前のはずだが。
「うーむ、どうしても名前が出てこないぞ。ああ、俺はもうボケ老人になってしまったのか。俺はもうダメなのか。ああ、イライラする。おい、このモンスターの名前は何だっけ」
「コボルトっすよ。コボル『ド』って説もありますけど」
「おお、そうだ、思い出したぞ。コボルトだ。ああ、けど、俺はもうダメなんじゃないのか。こんな雑魚モンスターの名前まで忘れるなんて」
そう言えば、この前、久々に会った知り合いの名前を思い出せなかった。
他にも昔の知人で顔は覚えているのに名前が出てこないことが多くなってきたぞ。
「うーん。名前は忘れるけど、顔を覚えている場合が多いんだよなあ」
「そんなもんじゃないすか。顔は印象的ですけど、名前は記号みたいなもんすからねえ」
「それにしても、ああ、俺はすっかり老けてしまった。このままだと徘徊老人になってしまうんじゃないのか」
「そんな心配する必要ないんじゃないすか。本当に呆けてしまうと、忘れた事自体を忘れるみたいっすよ」
「そうなのか。しかし、最近、頭の方も回転が鈍くなってきた。若い頃は何事も意欲的に試みて、細かい作業も難なくこなしたものだが、最近は全ての事が面倒だし、同じ事を長く続けてると疲れてくる。年は取りたくないもんだなあ」
「全ての事が面倒だとか言ってますけど、相変わらずドラゴン退治とか美少女とかはいつも言ってますね、リーダーは」
「うるさいぞ」
でも、なんでコボルトが出現したんだろう。
こいつは確か集団戦が得意で、鉱山とかに現れることが多いのだが。
一匹で森の中に現れるとは。
「何でコボルトがこんなところに現れたんだろう」
「確か、最近、ちょっと離れた鉱山で大規模なコボルトと冒険者グループとの戦いがあったって聞いた事がありまっすね。そこから逃げてきた奴じゃないすか」
「何だよ、俺たちはそのコボルトとの戦いに呼んでくれなかったのかよ、冒険者ギルドは」
「まあ、スライム退治専門家みたいに思われてきましたっすねえ、俺っちたちも」
やれやれ。
このままだと本当にスライム退治で人生終わりそうだなあ。
「おい、いいのかよ。ずっとスライムを倒し続けて、最後は自分が倒れてしまうって。こんな人生でいいのか、お前は」
「うーん、まあ、実力を考えると、そんなもんじゃないすか」
「いやだぞ、俺は。スライム退治の専門家で終わるなんて」
「でも、けっこうスライムには詳しくなったんじゃないすか」
「そんなもんに詳しくなってもしょうがないだろ。ああ、ドラゴン退治、魔王退治、そして、美少女姫との出会いはいつになるんだ」
「一生ないんじゃないすか。まあ、とりあえず、その出腹をへこませるのが専決っすね」
「出腹は関係ないだろ」
「でも、一瞬でコボルトを退治したんだから、まだ、リーダーは冒険者としてやっていけそうじゃないすか」
「うむ、そうだな」
「それにコボルトならスライムの十倍の報酬っすね」
「よし、今日の仕事はこれで切り上げるか」
今回はいつもよりも多額の報酬を得たし、それに、まだ俺の剣の腕も落ちていないようだ。
まだ、頑張れるんじゃないのか、俺は。
大した腕じゃないが。
まあ、一応、満足する俺であった。
そう、俺はまだ死んでいない。
まだ、可能性は残ってるぞ。
ほんの少しだろうけど。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
今日も村から少し離れた山の麓にある森の中でスライム退治。
しかし、何の冒険心をかきたてることもない、そして、何の変哲もない平らな一本道が指定された場所。
つまらん。
「ああ、つまらんなあ」
「そっすねえ、はあ~」
「おいおい、あくびすんなよ。お前には冒険者として気構えが足りないぞ」
「しかし、相手はスライムっすよ」
「他のモンスターが襲ってくるかもしれないじゃないか。冒険者は常に革命的警戒心を持って行動しなきゃいけないんだぞ」
「革命的警戒心を持っている割には、すっかり腹が出てますね、リーダーは」
「うるさいぞ。とにかくちゃんと仕事しろ」
「ういっす」
二手に分かれて、森の中を探索。
全然スライムがいないなあと俺が思っていると、おっと、不穏な雰囲気がするぞ。
長年の冒険者の勘だ。
スライム退治ばかりとは言え、何十年もただぼんやりと冒険者をやっていたわけではない。
木の陰に何者かがいるぞ。
俺はスライムを探す振りをして、周囲に気を配る。
すると、何者かが背後から襲いかかって来た。
俺はさっと振り向いて、剣を振る。
バシッ!
悲鳴をあげて、そのモンスターは倒れた。
「やった、モンスターを倒したぞ!」
と言っても、このモンスターもありきたりな奴だな。
少し離れた場所から相棒が声をかけてきた。
「何かあったんすか」
「おう、今、モンスターが俺に襲いかかってきたんだ。あっという間に倒してやったぞ。えーと、あれ……」
地面に倒れているこん棒を持った小柄な犬の顔をした獣人モンスター。
スライムほどではないが、それでもよく見る平凡なモンスターなのだが。
あれ、名前が出てこない。
「えーと、モンスターを倒したんだが、うーん、何だっけ、こいつ」
「どうしたんすか」
相棒が近づいてきた。
「おっと、久々にスライムじゃないモンスターを倒したじゃないですか、これは……」
「おい、待て」
「なんすか、何を待つんすか」
「名前が出てこないんだよ」
「えっと、このモンスターは……」
「だから、待て、俺が思い出すまで」
「どうしたんすか、ド忘れしちゃったんすか」
うーん、うーん、とにかく名前が出てこない。
この犬顔の獣人面モンスターは、特に珍しくも無い平凡な名前のはずだが。
「うーむ、どうしても名前が出てこないぞ。ああ、俺はもうボケ老人になってしまったのか。俺はもうダメなのか。ああ、イライラする。おい、このモンスターの名前は何だっけ」
「コボルトっすよ。コボル『ド』って説もありますけど」
「おお、そうだ、思い出したぞ。コボルトだ。ああ、けど、俺はもうダメなんじゃないのか。こんな雑魚モンスターの名前まで忘れるなんて」
そう言えば、この前、久々に会った知り合いの名前を思い出せなかった。
他にも昔の知人で顔は覚えているのに名前が出てこないことが多くなってきたぞ。
「うーん。名前は忘れるけど、顔を覚えている場合が多いんだよなあ」
「そんなもんじゃないすか。顔は印象的ですけど、名前は記号みたいなもんすからねえ」
「それにしても、ああ、俺はすっかり老けてしまった。このままだと徘徊老人になってしまうんじゃないのか」
「そんな心配する必要ないんじゃないすか。本当に呆けてしまうと、忘れた事自体を忘れるみたいっすよ」
「そうなのか。しかし、最近、頭の方も回転が鈍くなってきた。若い頃は何事も意欲的に試みて、細かい作業も難なくこなしたものだが、最近は全ての事が面倒だし、同じ事を長く続けてると疲れてくる。年は取りたくないもんだなあ」
「全ての事が面倒だとか言ってますけど、相変わらずドラゴン退治とか美少女とかはいつも言ってますね、リーダーは」
「うるさいぞ」
でも、なんでコボルトが出現したんだろう。
こいつは確か集団戦が得意で、鉱山とかに現れることが多いのだが。
一匹で森の中に現れるとは。
「何でコボルトがこんなところに現れたんだろう」
「確か、最近、ちょっと離れた鉱山で大規模なコボルトと冒険者グループとの戦いがあったって聞いた事がありまっすね。そこから逃げてきた奴じゃないすか」
「何だよ、俺たちはそのコボルトとの戦いに呼んでくれなかったのかよ、冒険者ギルドは」
「まあ、スライム退治専門家みたいに思われてきましたっすねえ、俺っちたちも」
やれやれ。
このままだと本当にスライム退治で人生終わりそうだなあ。
「おい、いいのかよ。ずっとスライムを倒し続けて、最後は自分が倒れてしまうって。こんな人生でいいのか、お前は」
「うーん、まあ、実力を考えると、そんなもんじゃないすか」
「いやだぞ、俺は。スライム退治の専門家で終わるなんて」
「でも、けっこうスライムには詳しくなったんじゃないすか」
「そんなもんに詳しくなってもしょうがないだろ。ああ、ドラゴン退治、魔王退治、そして、美少女姫との出会いはいつになるんだ」
「一生ないんじゃないすか。まあ、とりあえず、その出腹をへこませるのが専決っすね」
「出腹は関係ないだろ」
「でも、一瞬でコボルトを退治したんだから、まだ、リーダーは冒険者としてやっていけそうじゃないすか」
「うむ、そうだな」
「それにコボルトならスライムの十倍の報酬っすね」
「よし、今日の仕事はこれで切り上げるか」
今回はいつもよりも多額の報酬を得たし、それに、まだ俺の剣の腕も落ちていないようだ。
まだ、頑張れるんじゃないのか、俺は。
大した腕じゃないが。
まあ、一応、満足する俺であった。
そう、俺はまだ死んでいない。
まだ、可能性は残ってるぞ。
ほんの少しだろうけど。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる