スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第17話:落とし穴に落ちたぞ、これは困りましたっすね

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 さて、今日もいつも通りのつまらんスライム退治。
 場所も村の近くの森。

 全然、冒険してないぞ。

「ああ、つまんねーぞ」
「しょうがないんじゃないすか」

 その時、地面が揺れた。

「お、地震だ。おい、上から落ちてくる危険物から身を守るために、なにか頑丈な物の下に隠れるんだ」
「そんなの、村道にあるわけないすよ。つーか、上を見ても青空が続いているだけじゃないすか。何から隠れるんすか」

 相棒はのんびりとしている。

「おい、お前には冒険者としての気構えがないぞ」
「でも、あっさりと地震は静まりましたね」

 確かに大した地震じゃなかったな。
 さて、俺と相棒はだらだらと歩きながら目的地に進む。

「ああ、それにしても、いつ美少女は現れるんだよ、亡国のお姫様とか」
「また妄想してますね、リーダーは」

 妄想でもしてなきゃ、こんなつまらん仕事は続けられんよ。

 さて、スライム退治の場所に向かって森の中を進んでいく。
 すると、道が左右に分かれていた。

「あれ、確か一本道のはずなんだが」
「前にもこういうことありましたっすね」

 そして、古い看板が立っていた。

『左はすぐに行き止まりで何もありません』

「どうやら、右の道が本道らしいっすね」
「いや、待て」

 看板のすぐ隣の大木にでっかい紙が貼ってあり、何か書いてある。

『左の道には絶対に入らないで下さい、危険です!!!』

「おいおい、何か怪しい紙が貼ってあるぞ」
「うーん、危険って書いてあるんだから、危険なんじゃないすかねえ」

「いや、単なる行き止まりなら、危なくないだろ。なんでわざわざ『危険です』なんて書いてあるんだ」
「崖とかあって崩れたら危ないとかそんなことじゃないすか。さっさと右の本道へいきましょうよ」
「いや、この看板を書いた奴はこの先に宝箱を隠したに違いない。だから、誰も入って行かないようにしたんだ。そして、その宝箱に秘密の地図が入っているんだ。そこから大冒険が始まるんだ、美少女との出会いが待っているんだ」

 いつもと同じように相棒がしらけた顔をする。

「なんでこんなしょぼい森の中に宝箱を隠すんすか。だいたいなんで大冒険につながるんすか。それに美少女に出会うとか、また妄想すか」
「うるさいぞ、とにかく左の道へ行こう」
「ろくなことにならないっすよ」

「けど、この前は本道でない方に行ったおかげで珍しいモンスターを倒せたじゃないか」
「単に運が良かっただけじゃないすか、あの時は。だいたい、その珍しいモンスターは結局本道にいたじゃないですか」
「うるさい、左だ、左へ進むぞ」

 俺は強引に左の道へ進む。

「どうせ、すぐに行き止まりじゃないすか」
「お前、俺たちはこれから大冒険に……って、もう行き止まりか……」

 十歩ほど行くと、すぐに行き止まり。
 大木で道がふさがれて、奥の方には何も無いようだ。

「ほら、俺っちが言った通りじゃないすか。もう、さっきの所まで戻りましょうよ」

 相棒があくびしながら言ったが、その大木に妙な文字が刻んであるのを俺は見つけてしまった。

『恋人たちがこの木に一緒に手を当てると永遠に幸せに暮らせます』

「おい、何か怪しいぞ。この木を触ると永遠に幸せに暮らせますと刻んである」
「単なるイタズラじゃないすか」

「いや、誰か何か企んでいるんだ、陰謀だ、陰謀だ」
「だからと言って、ブサイクで出腹のリーダーと一緒に木に手を当てるのは嫌っすよ、タイプじゃないっす」

 そういや、こいつ男が好きだったな。

「そんなことわかってるよ。俺だって男と永遠に幸せに暮らしたくないよ。相手が美少女ならともかく」
「だから、さっさと戻りましょうよ」

 いや、どうも怪しいぞ。
 あのさっきの分かれ道に貼ってあった紙といい。

「とにかく、この木を調べよう」
「何もないんじゃないすかって、うわー!」

 俺たちが木に近づくと、突然、地面が崩れて、俺と相棒は穴の中に落ちてしまった。
 かなり深いぞ。

「おい、大丈夫か」
「ああ、何とか大丈夫っす」

「どうやら落とし穴に落ちたぞ」
「これは困りましたっすね」

 幸い、お互いかすり傷程度で済んだようだ。
 大人が縦に四人分くらいの深さ。

 下手したら、大ケガしていたぞ。
 打ち所が悪ければ死んでいたかもしれん。

「誰だ、こんなとこに落とし穴なんて作りやがって。これは悪辣な連中の陰謀に違いない。いや、もしかして俺たちを食おうってつもりじゃないのか」
「けど、危険だって貼り紙がありましたっすよねえ。悪意があるとは思えないっす。警告を無視して、無理に入った俺っちらが悪いんじゃないすか。猟師がイノシシを捕獲するために罠でも仕掛けたんじゃないすかね」

「けど、深すぎやしないか」
「そういや、そうすねえ」

 ああ、スライム退治を続けたあげくこんな落とし穴で最期を遂げるのか、俺は。

「こんなしょぼい森の中で落とし穴に引っかかってしまうとは。冒険者として無念だ」
「そんな、嘆いているより早く脱出しましょうよ」
「それもそうだな」

 とりあえず、俺は落とし穴の壁に手をついて、肩に相棒が足を乗せて壁を這い上がろうとする。
 
「どうだ、出られそうか」
「いや、出口が高すぎて無理っすねえ」

「何か、登っていけそうな出っ張りとかないのかよ」
「うーん、全然、無いっすねえ。ツルツルの壁っす。こりゃ、登れませんよ」

「おいおい、このままだとこの穴の中で餓死するぞ」
「餓死はいやっすねえ」

 一旦、相棒が俺の上から降りた。
 相棒が周囲を見回す。

「横に穴とか空いてないすかねえ」
「おお、落とし穴に落ちたら、横穴があって、そこがダンジョンにつながっていて、モンスターが住んでいて、そいつらを片っ端からやっつけて、そして、亡国の姫を救う、ああ、なんという大冒険か」

「また、妄想してますね。周りに横穴なんてないすよ、硬い岩で囲まれて」
「うむ、じゃあ、何かしら呪文を唱えれば、穴が開いて、そこからダンジョンへと……」

「またっすか。いい加減、もうおっさんなんだから、そういう妄想はやめたほうがいいんじゃないすかね」
「うるさいぞ」

 しかし、確かに横穴なんぞ無いし、単なる穴に落ちただけだ。

「おい、まずいぞ。どうやって脱出すればいいんだ」
「大声出して、助けを呼ぶしかないんじゃないすか」

「なんか冒険者として情けなくないか、それ」
「しょうがないんじゃないすか。それにこの道に入って、すぐに行き止まりだったし、本道からはそんなに離れてないから、でっかい声をだせば、誰か歩いている人に何とか聞こえるんじゃないすかね」

 やれやれ。
 何とも情けない。

 しかし、こんな落とし穴で死ぬのはごめんだ。
 そこで俺たちが大声を出そうとしたところ、上の方で人の気配がする。

「あれ、落とし穴に誰か落ちてるぞ」

 数人で喋っているのが聞こえてきた。
 おお、偶然にも誰かが通りかかったのか。
 俺は大声をあげる。

「おい、落とし穴に落ちたんだ、助けてくれ!」
「わかりました。じゃあ、ロープを降ろしますね」

 ロープが下まで降りてきた。

「いや、待てよ。これは罠なんじゃないのか。引き上げて、俺たちを食べてしまうモンスターじゃないのか」
「なんでモンスターがロープを降ろしてくれるんすか。普通の人間でしょ」

 ますますあきれ顔の相棒はさっさとロープに捕まって引き上げられる。
 しばらくして、またロープが降りてきた。

「ああ、重いなあ」

 引っ張りあげられる間、上から声が聞こえてくる。

「すんません。うちのリーダー、ちょっと小太りなんで」

 なんだか相棒が謝ってる。
 確かにますます腹が出てきた。

 もっと痩せないといけないなあ。
 そんなことを考えていたら、落とし穴から出ることが出来た。

 すると、村人風の若者が数人いる。
 大量の藁も運んできている。
 どうやら、自分たちの仲間が結婚するんで、びっくりさせるために落とし穴を作ったらしい。

 あの木に刻まれた『この木に一緒に手を当てると永遠に幸せに暮らせます』という文字もこの連中の仕業のようだ。結婚する二人が木に触ろうと近づくと落とし穴に落ちるイタズラを考えたらしい。

「おい、くだらんイタズラはともかく、こんな深い落とし穴を作って大ケガしたらどうすんだよ。俺たちのような熟練の冒険者だから無傷だったんだぞ」
「いや、ほんの少し掘っただけなんですけど」

 連中の言い分では少し掘ったが、念のため、ケガしないように下に藁をしきつめようと一旦、村に帰ったようだ。ただ、危ないので誰か入らないよう警告の紙を木に貼ったのだが、どうやら、掘った後に土の中に空洞があってそれが陥没したらしい。そう言えば、ここに来る途中、地震があったな。それの影響か。

「まあ、これに懲りて、くだらんイタズラはしないように。その結婚するとかいう二人は普通に祝ってやれ」
「はあ、全く申し訳ございません」

 平身低頭の若者たちと別れて、俺と相棒はさっきの分かれ道まで戻った。

「全く、しょうもないガキどものせいで貴重な時間を取られてしまったなあ」
「リーダーに貴重な時間なんてあったんすか」
「うるさいぞ」

「でも、さっき熟練の冒険者とか言ってましたけど、スライム退治ばっかじゃないすか。それに危ないと貼り紙があったのに、無視して入ったのは俺っちらですよ。おまけに、あんな若造たちの仕掛けた落とし穴に引っかかるなんて、全然、熟練してないすね」
「うるさいぞ。とにかく人生とは、油断しているといつ落とし穴に落ちるかもしれないってことだ、わかったな」

「なにを偉そうなこと言ってんすか。リーダーの人生ははずっと落とし穴に落ちたまんまじゃないすか」
「うるさいぞ」

 しかし、迂闊と言えばそれまでだ。
 全く、冒険者として成長していないってことだ。

 一般の村人に助けられるとは。
 不甲斐ない。

 いや、それでも、いつかは大冒険して世間のみんなを見返してやるんだ。
 スライム退治に向かいながら、俺はそう心に誓ったのだった。
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