スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第15話:沼にナイフを落としてしまったぞ、しょうがないっすね

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 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 さてさて、今日も、いつも通りのつまらんスライム退治。
 今回の場所は村近くの森にある沼の周辺。

「おい、おもろーないぞ」
「そっすね」

「なんとかならんか」
「なんともならんすね」

 ああ、つまらない。
 おまけにスライムがあまり出現しない。
 草木の陰に隠れてないかと、ウロウロ歩きながら探す。

「イテテ。おい、下を見ながら歩いていたら、首やら腰が痛くなってきたぞ」
「どうしようもないっすね。もう、おっさんですからね、リーダーは」 

 やれやれ。
 もう年寄りか、俺は。

 若い頃に戻りたいよ。
 年は取りたくないもんだ。

 腰痛も肩こりも縁が無かった。
 やれやれ。

 しかし、腰が痛いなあ。
 腰のベルトに差していた小型ナイフの柄で、腰を叩く。

 ありゃ、手が滑ってしまった。
 チャポン! と音がした。

「おっと、しまった! 沼にナイフを落としてしまったぞ」
「しょうがないっすね」

「どうしようかなあ」
「この沼、そんなに深くないみたいすよ」
「そうか。でも、あの安物ナイフのために沼に飛び込む気にならないなあ」

 ああ、若い頃だったら、さっと飛び込んでナイフを回収しただろう。
 泳ぎは得意なほうだったしなあ。
 けど、おっさんになると何もかも面倒になる。

「おい、お前が沼に入って、あのナイフを取って来てくれないか」
「いやっすよ。落としたのはリーダーなんだから、自分で飛び込んで拾ってきたらどうすか」

 まあ、確かに自分のミスは自分で責任を取らなくてはいかん。
 けど、面倒だなあ。
 沼は水が濁っていて、水深は浅くても、ナイフを探すのは大変そうだ。

 俺が悩んでいると、人の気配がした。
 老人がやって来る。

 相棒に挨拶してきた。

「こんにちは。冒険者の方ですかな」
「そっす。スライム退治やってます」

「それはご苦労様。でも、何かお困りのようですが」
「ああ、俺っちらのリーダーがナイフを一本、沼に落としたんですよ」
「そうですか。この沼はそんなに深くないですがね。ちょっと探せば見つかるんじゃないですか」

 そう言うと、御老体は沼の近くの木に括りつけてあったロープを引っ張る。
 そして、籠を引き上げた。

 中には何匹か魚が入っていた。
 この御老体が仕掛けた魚を捕まえる籠か。
 漁師かな、この御老体は。

 すると、御老体が妙な顔をした。

「お、ナイフが二本、罠の籠に刺さっているぞ」

 引き上げた籠には二本のナイフが刺さっていた。
 一本は俺が落とした安物ナイフのようだ。
 しかし、もう一本の方は全体がきれいな黄金色の高価そうなナイフだ。

「どっちがあんたが落としたナイフだね」

 御老体に聞かれた。
 あれ、何だかこういう話を聞いたことがあるぞ。

 池にしょぼい鉄製の剣を落としたら、美女の妖精が現れて、最初は金色の剣、そして、次に銀色の剣、最後にしょぼい剣を見せて、お前が落としたのはどれだって聞く話。正直にしょぼい剣と答えると、「お前は正直者だ」と妖精に褒められて全部もらえるって話だ。

 おれは、こっそりと相棒に相談した。

「おい、まさか、あの御老体はこの沼の妖精じゃないか」
「なにわけのわからないこと言ってんすか。普通の老人じゃないすか。ただの村人でしょ」

「いや、老人の振りをして、実は美しい女神なんだ。そして、これをきっかけに大冒険が始まるんだ」
「また、妄想してますね。それにしても、あの黄金色のナイフ、高そうじゃないすか。そっちをもらっちゃえばいいんじゃないすか」

「何、言ってるんだよ、ここは正直に答えるんだ。そうすると『お前は正直者だ』と褒められて二本とも、もらえるんだ」
「子供すか、リーダーは。そんな童話みたいな話と一緒にしないでくださいっすよ。相手はただのお爺さんっすよ。いつまで妄想人生を歩むつもりすか」
「うるさいぞ」

 そして、俺は御老体に正直に言った。

「そっちのしょぼいナイフですね」

 老人が俺にしょぼいナイフを渡した。
 そして、残った黄金色のナイフをしげしげと見ている。
 俺は相棒にささやいた。

「お、これから『あなたは正直者ですね、この黄金のナイフも差し上げましょう』ってことになるぞ」
「ならないっすよ。アホらしい」

 すっかりしらけている相棒。

 すると、老人はナイフを沼にポイッと捨ててしまった。
 驚いて俺は聞いた。

「あれ、御老体、なんで捨てちゃったんですか」
「あのナイフ、金メッキのおもちゃだよ。子供が遊びで使うおもちゃじゃないの。いらないだろ、そんなもの」

 そう言って、魚が入った籠を持って去っていく老人。

「ほら、女神やら妖精なんか出てこないじゃないすか」
「ううむ」

「いい加減妄想はやめたらどうすか。もうリーダーの人生はメッキだらけで、この先、碌な事が起きませんよ」
「うるさいぞ」

 しかし、確かにしょぼいメッキだらけの人生だ。
 何にもしてないぞ。
 何の成果もあげてない。
 誰からも褒められてない。

「ああ、でも、あの黄金色のナイフを受け取らなくてよかったなあ。おもちゃのナイフを使ってる冒険者なんて、笑われるところだった」
「メッキが剝げなくてよかったっすね」
「うるさいぞ」

 ああ、けどメッキだらけの人生でも、いつかは本当に黄金色に輝くような大冒険をしたいものだと思いながら、またスライム退治に勤しむ俺であった。
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