スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗

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第8話:この遺跡薄っぺらいなあ、薄っぺらいっすね

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「この遺跡薄っぺらいなあ」
「薄っぺらいっすね」

 俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
 普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。

 そして、今回、冒険者ギルドに依頼されたのは、またもやしょぼいスライム退治。

 しかし、生きていくには仕方がない。
 少しでも金を稼がないといかん。

 しかし、指定された場所まで、けっこう遠かった。
 小さい砂漠を走破し、そして、山に到着。
 両側が切り立った峡谷を通り抜けなければいけなかった。
 
 まあ、峡谷と言っても乾いていて、水が通ってない。
 簡単に歩ける。

 もう、だいぶ前に干上がったようだな。
 モンスターも全く現れない。

 そして、そのかなり狭い峡谷を通り抜けると、そこにはバカでかい遺跡があった。
 何か知らないが巨大人物像が何体かあり、でかい入口が三つほどあるぞ。

「おお、これはすごい遺跡じゃないか。宝物とかがあるんじゃないか」
「そうすかねえ。そもそも、俺っちらが依頼されたのはスライム退治じゃなかったすかねえ」

「いや、これは大冒険の始まりなのだ。こんな立派な遺跡を俺たちは発見したんだ」
「発見も何も冒険者ギルドに指定されてこの場所に来たんすけど」

「お前、ロマンがないなあ。この遺跡を見て何とも思わないのかよ」
「いや、だから冒険者ギルドが知っているんだから、他の冒険者もすでに知っているんじゃないすか」

 全く、相棒の奴、しらけきっているな。
 
「スライム退治ばかりで、お前はすっかり冒険者としての気構えを無くしているぞ。とにかくこの遺跡に入るぞ」
「うぃっす」

 俺たちは遺跡の中に入った。
 すると、何てことだ、一歩歩いたら、行き止まり。
 
「おいおい、この遺跡薄っぺらいなあ」
「薄っぺらいっすね」

「何だよ、外見はすごい豪華なのに、奥行が全然ないじゃないか。幅は広いけど」
「山の壁に彫っただけじゃないすか」

 こりゃ、つまらん。

 いや、そんなことはないぞ、こんなに正面が豪華な遺跡で。
 どこかに隠し扉があるに違いない。

「おい、隠し扉を探すぞ。そして、そこから俺たちの大冒険が始まるんだ」
「いや、そんなものないんじゃないすか」

「お前、しらけてるなあ。それでも冒険者かよ」
「そんなものがあったら、とっくの昔に他の冒険者が見つけてますよ。まあ、こんな薄っぺらい遺跡で張り切ったって、仕方がないじゃないすか。それにしても、この薄っぺらい感じは、リーダーの人生みたいっすね」
「うるさいぞ」

 元々、夢とロマンに満ち溢れた冒険をするために、今の職業についた俺。
 気が付けばスライム退治ばっかり。

 そして、今や、おっさんだ。
 やれやれ。

 遺跡の奥で、いや、奥と言っても入口から一歩しか歩いていないが、なにか隠し扉がないか探す。
 しかし、何もない。
 土の壁があるだけだ。

「リーダー、あきらめましょう。冒険者ギルドの依頼はスライム退治なんだから」
「いや、何かあるかもしれないぞ」

 幅が広いので横に歩いていくと女性がいた。

「おい、女がいるぞ。もしかして、この女性はどこかの国から逃げてきた美人のお姫様とかじゃないのか。そして、彼女を助けた俺たちは英雄になるんだ」
「何か以前もそんなアホな妄想してなかったすか、リーダーは。こんな薄っぺらい遺跡になんでお姫様がいるんすか」

 俺たちがごちゃごちゃ話していると、その女が近づいてきた。
 美人のお姫様ではなく、ただのおばさんだった。
 がっかりする俺。

「お待ちしてたよ。あんたたち、スライム退治に来たんだろ」
「うむ、そうだが」
「あたしが冒険者ギルドに依頼したんだよ。あたしでも倒せそうだったんだけど、腰が痛いんでね」

 腰痛のおばさんの代わりにスライム退治。
 何か情けなくなってくるなあ。

「じゃあ、さっそく、頼むよ」

 そう言って、端っこの梯子を上るよう俺たちは腰痛おばさんに指示された。
 仕方なく、俺たちは梯子を上る。

 一応、二階もあるんだな。
 薄っぺらいけど。

 そして、スライムが三匹いた。

 俺と相棒はあっさりとスライムを退治した。
 つまらん。

 しかし、この二階も狭いな。
 人が一人しか通れないぞ。

「まあ、仕事は終わった。戻るか」

 俺が梯子の方へ歩いていくと、突然岩が落ちてきた。

「うわ!」

 驚いて、立ち止まる俺。

「危なかったすね、リーダー」
「うむ、この岩に当たっていたら死んでいたな」

「いや、そうとは限らないんじゃないすか」
「なんでそう思うんだよ」

「かなり薄っぺらいっすよ、この岩」
「うーむ、確かにそうだ」

「奥行きが深かったら、真四角の立方体の岩が落ちてきて潰されて、あの世逝きだったかもしれないすけど」
「薄っぺらいから当たっても大した事なかったかもしれんなあ」

「薄っぺらい人生を歩んできたリーダーに相応しい危機でしたね」
「うるさいぞ」

 一階に戻り腰痛おばさんにスライム退治完了の報告をした。
 ついでに岩が落ちてきたことも言ってやった。

「そうかい、ちょっと修復が必要かねえ。ここは観光地にするつもりなんだから」
「へ? 観光地」

「そうだよ、見栄えはいいからねえ。まあ、中身は何もないけど」

 ううむ、やはり大冒険とは全く関係ない場所だったのか。
 中身は何も無しか。

 俺の人生と一緒だな。
 いや、外見が立派なだけましかもしれん。
 俺はただのおっさんだからな。

「まあ、帰るか。ちゃんと仕事は終了させたしな」

 すると、相棒が聞いてきた。 

「ところで、リーダーの人生一発大逆転計画はどうなってんすか」
「まだ考えているんだ」

「やめたほうがいいっすよ、リーダーは薄っぺらい仕事ばかりやってたんすから。ろくなことにならないすよ」
「うるさいぞ」

 しかし、いまだになんのいいアイデアも浮かばない。
 いや、俺はまだ生きているぞ。

 死ぬまでに何とかしてやる。
 こんな薄っぺらい人生で終わりとかは無しだ。

 そう、俺は思うのであった。
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