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第29話:下水道の中を男が追って来る
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ミルドレッドとアレックス、ウォルフォードの三人はフロイドが暮らしていた場所まで戻り、そこから梯子を使って、また例の地下室まで上った。
重い石の蓋をアレックスとウォルフォードが閉める。その際、ウォルフォードが転んでしまう。
「痛い!」
脚を擦っているウォルフォード。
アレックスが心配して声をかけた。
「大丈夫ですか、ウォルフォードさん」
「いや、何かのゴミに足がすべってしまった。でも、重いねえ。怪盗フロイドは一人でこの石を開けてたんだから、すごい力持ちだったんですねえ」
脚を擦っているウォルフォードを見てミルドレッドはポケットのフォークを思い出した。
「さっき、ウォルフォードさんはハンフリー市長とつながっている警官の目星がついているんだって言ってましたよね」
「うん、ただ、証拠がないんですよね」
「あの、これは証拠にならないですか」
ミルドレッドがフォークをウォルフォードに見せた。
「前にアレックスが、私が男に襲われた時に、そいつの太腿に刺したんです。その時のキズと一致すれば、その証拠になるんじゃないですか。まだ、完全には治ってないと思います。後、昨夜も腕に刺しました」
「うーん、確かミルドレッドさんが追いはぎに襲われたとオブライエン警官からは聞いているなあ。それに昨夜は腕にも刺したんですか。証拠になるかもしれませんね。これは私が預かっておきますよ。とにかくミルドレッドさんはローディニアの警察で保護しますので」
地下室から階段を降りて、再び、携帯ランプで照らしながら下水道を歩いていく三人。相変わらず下水の流れが速くその音が反響している。
「ああ、けど、もっと早くミルドレッドの話を聞いて真剣に探していたら、あの金塊は全部俺たちのものになったんだけどなあ」
アレックスがぼやいている。
「ちょっと、アレックス。それ、泥棒じゃないの」
「あ、そうか。警官のウォルフォードさんの前で言ってはいけないことですよね」
「えーと、まあ、聞かなかったことにします」
思わず笑ってしまうミルドレッド。
でも、さきほど思ったようにあの金塊は市に戻すんだろう。どうにか、貧民街の人のために使用できないのかなあとミルドレッドは思った。もう死んでしまったフロイドもそう願っていたはずだ。
「ウォルフォードさん、あの金塊を貧民街の貧しい人のために使用できないんでしょうか」
「いや、警察にはあの金塊をどのように使うかは決められないですね。あくまで市長や市議会が決めることですよね」
「そうですか」
何かいい方法はないかなとミルドレッドが考えていると、突然、背筋がぞっとしてきた。
すると、誰かが後ろから下水道の側道を走って来る。
「誰だ!」
アレックスが携帯ランプを向けた。
走ってきた男が叫んだ。
「おい、『フロイドの鍵』を渡せ!」
男が拳銃を発射する。ウォルフォードが側道に倒れた。
「大丈夫ですか! ウォルフォードさん」
「……ああ、足に当たったようだ」
ウォルフォードが呻いた。
アレックスがミルドレッドに叫ぶ。
「逃げろ、ミルドレッド!」
男が側道を走って来る。その男にアレックスがむしゃぶりつくが、拳銃で頭を叩かれて、アレックスも側道に倒れた。ミルドレッドは下水道の側道を走って逃げる。男が追って来た。拳銃を発射してくる。何発か撃ってきた。ミルドレッドの顔をかすめる。ミルドレッドは驚いて転んでしまった。男がミルドレッドに近づいてきた。
「おい、『フロイドの鍵』を渡しな。撃ち殺されたいのか」
殺される恐怖に怯えながらも、ミルドレッドは考えた。この男は金塊の場所は知らないはず。そして、『フロイドの鍵』の正体も知らないだろう。ミルドレッドは下水の急流の上に『フロイドの鍵』を持った手を伸ばす。
「あたしを撃ってもいいけど、そうしたら、この鍵はこの下水に飲まれてどこかへ消えてしまうわ」
「くそ、この女、痛い目に遭わしてやる。後、この鍵の使える部屋、お前、知ってるんじゃないのか」
男がミルドレッドの腹に蹴りをいれた。
「うう……」
思わずお腹をおさえるミルドレッド。そして、男がミルドレッドの顔面を平手打ちにする。
「おい、この『フロイドの鍵』が使える部屋はあの貧民街のどこにあるんだよ、さっさと教えろ!」
古い下水道にあることは知らないようだとミルドレッドは思った。そこに、再びアレックスが走って来て、男を殴ろうとした。
「こいつ、ミルドレッドにひどいことしやがって」
しかし、アレックスが振り上げた拳は空を切って、男に逆に叩きのめされる。そして、男がアレックスの頭に拳銃をつきつけた。
「おい、このガキが死んでもいいのか」
銃をアレックスの頭に突きつける男。
「やめて!」
ミルドレッドは叫んで、『フロイドの鍵』を渡そうとするが、その時、後ろからウォルフォードがやってきて、男の背中を蹴った。
「うわ!」
下水道に落ちる男。急流にのみ込まれるが、なんとか反対側の側道に這い上がって、崩れた壁に手を付いた。そして、立ち上がるとミルドレッドたちに拳銃を向けてきた。
「お前ら全員殺してやる!」
その男から、ミルドレッドたちが逃げようとする。すると、大きな生き物が男のいる側道を走ってきた。大きいドブネズミだ。
「な、なんだよ、この動物は!」
男がびっくりして、側道の窪みに入る。すると、突然、男が苦しみだした。ゴホゴホと咳き込む。
「……く、苦しい。何だ、これは……」
男は喉を押させながら、反対側の側道で倒れてしまった。
「どうしたの、何が起きたのかしら」
「多分、有毒ガスを吸ったんだ。向こうの側道の窪んだところに溜ってたんだろう」
アレックスがそう言うと、下水に飛び込んで、反対側にいく。有毒ガスを吸わないようハンカチを顔に巻く。そして、倒れている男をかついで、こちらの側道へ連れて来た。アレックスが男の胸に耳をあてた。
「まだ生きてる。よしロープで縛ってやるぞ、この野郎」
男を縛り上げると、ウォルフォードが男のマフラーを取った。
「ああ、この男は知っている」
「もしかして、目星をつけていた警官ですか」
ミルドレッドがウォルフォードに聞いた。
「そうだね。ハンフリー市長の指示で動いていたと思われる男だよ。署長の急死の件も疑いを持たれているんだけど、実は犯罪組織のボスが死んだのもこいつのせいかもしれないんですよ。ボスは銃撃戦で死んだってことなんだが、どうも変なんですよ。周りは警官で囲まれていたのになぜか流れ弾が当たって死んでしまったってことなんだが、こいつが隙を狙って殺したんじゃないかなって、私は思っているんです」
「そうだ、ウォルフォードさん、撃たれた脚は大丈夫ですか」
ウォルフォードは脚の上部をハンカチで縛っている。
「ああ、多分、大丈夫だろう。大したキズじゃないですよ。でも、この下水道の臭いはやはりひどいねえ」
重い石の蓋をアレックスとウォルフォードが閉める。その際、ウォルフォードが転んでしまう。
「痛い!」
脚を擦っているウォルフォード。
アレックスが心配して声をかけた。
「大丈夫ですか、ウォルフォードさん」
「いや、何かのゴミに足がすべってしまった。でも、重いねえ。怪盗フロイドは一人でこの石を開けてたんだから、すごい力持ちだったんですねえ」
脚を擦っているウォルフォードを見てミルドレッドはポケットのフォークを思い出した。
「さっき、ウォルフォードさんはハンフリー市長とつながっている警官の目星がついているんだって言ってましたよね」
「うん、ただ、証拠がないんですよね」
「あの、これは証拠にならないですか」
ミルドレッドがフォークをウォルフォードに見せた。
「前にアレックスが、私が男に襲われた時に、そいつの太腿に刺したんです。その時のキズと一致すれば、その証拠になるんじゃないですか。まだ、完全には治ってないと思います。後、昨夜も腕に刺しました」
「うーん、確かミルドレッドさんが追いはぎに襲われたとオブライエン警官からは聞いているなあ。それに昨夜は腕にも刺したんですか。証拠になるかもしれませんね。これは私が預かっておきますよ。とにかくミルドレッドさんはローディニアの警察で保護しますので」
地下室から階段を降りて、再び、携帯ランプで照らしながら下水道を歩いていく三人。相変わらず下水の流れが速くその音が反響している。
「ああ、けど、もっと早くミルドレッドの話を聞いて真剣に探していたら、あの金塊は全部俺たちのものになったんだけどなあ」
アレックスがぼやいている。
「ちょっと、アレックス。それ、泥棒じゃないの」
「あ、そうか。警官のウォルフォードさんの前で言ってはいけないことですよね」
「えーと、まあ、聞かなかったことにします」
思わず笑ってしまうミルドレッド。
でも、さきほど思ったようにあの金塊は市に戻すんだろう。どうにか、貧民街の人のために使用できないのかなあとミルドレッドは思った。もう死んでしまったフロイドもそう願っていたはずだ。
「ウォルフォードさん、あの金塊を貧民街の貧しい人のために使用できないんでしょうか」
「いや、警察にはあの金塊をどのように使うかは決められないですね。あくまで市長や市議会が決めることですよね」
「そうですか」
何かいい方法はないかなとミルドレッドが考えていると、突然、背筋がぞっとしてきた。
すると、誰かが後ろから下水道の側道を走って来る。
「誰だ!」
アレックスが携帯ランプを向けた。
走ってきた男が叫んだ。
「おい、『フロイドの鍵』を渡せ!」
男が拳銃を発射する。ウォルフォードが側道に倒れた。
「大丈夫ですか! ウォルフォードさん」
「……ああ、足に当たったようだ」
ウォルフォードが呻いた。
アレックスがミルドレッドに叫ぶ。
「逃げろ、ミルドレッド!」
男が側道を走って来る。その男にアレックスがむしゃぶりつくが、拳銃で頭を叩かれて、アレックスも側道に倒れた。ミルドレッドは下水道の側道を走って逃げる。男が追って来た。拳銃を発射してくる。何発か撃ってきた。ミルドレッドの顔をかすめる。ミルドレッドは驚いて転んでしまった。男がミルドレッドに近づいてきた。
「おい、『フロイドの鍵』を渡しな。撃ち殺されたいのか」
殺される恐怖に怯えながらも、ミルドレッドは考えた。この男は金塊の場所は知らないはず。そして、『フロイドの鍵』の正体も知らないだろう。ミルドレッドは下水の急流の上に『フロイドの鍵』を持った手を伸ばす。
「あたしを撃ってもいいけど、そうしたら、この鍵はこの下水に飲まれてどこかへ消えてしまうわ」
「くそ、この女、痛い目に遭わしてやる。後、この鍵の使える部屋、お前、知ってるんじゃないのか」
男がミルドレッドの腹に蹴りをいれた。
「うう……」
思わずお腹をおさえるミルドレッド。そして、男がミルドレッドの顔面を平手打ちにする。
「おい、この『フロイドの鍵』が使える部屋はあの貧民街のどこにあるんだよ、さっさと教えろ!」
古い下水道にあることは知らないようだとミルドレッドは思った。そこに、再びアレックスが走って来て、男を殴ろうとした。
「こいつ、ミルドレッドにひどいことしやがって」
しかし、アレックスが振り上げた拳は空を切って、男に逆に叩きのめされる。そして、男がアレックスの頭に拳銃をつきつけた。
「おい、このガキが死んでもいいのか」
銃をアレックスの頭に突きつける男。
「やめて!」
ミルドレッドは叫んで、『フロイドの鍵』を渡そうとするが、その時、後ろからウォルフォードがやってきて、男の背中を蹴った。
「うわ!」
下水道に落ちる男。急流にのみ込まれるが、なんとか反対側の側道に這い上がって、崩れた壁に手を付いた。そして、立ち上がるとミルドレッドたちに拳銃を向けてきた。
「お前ら全員殺してやる!」
その男から、ミルドレッドたちが逃げようとする。すると、大きな生き物が男のいる側道を走ってきた。大きいドブネズミだ。
「な、なんだよ、この動物は!」
男がびっくりして、側道の窪みに入る。すると、突然、男が苦しみだした。ゴホゴホと咳き込む。
「……く、苦しい。何だ、これは……」
男は喉を押させながら、反対側の側道で倒れてしまった。
「どうしたの、何が起きたのかしら」
「多分、有毒ガスを吸ったんだ。向こうの側道の窪んだところに溜ってたんだろう」
アレックスがそう言うと、下水に飛び込んで、反対側にいく。有毒ガスを吸わないようハンカチを顔に巻く。そして、倒れている男をかついで、こちらの側道へ連れて来た。アレックスが男の胸に耳をあてた。
「まだ生きてる。よしロープで縛ってやるぞ、この野郎」
男を縛り上げると、ウォルフォードが男のマフラーを取った。
「ああ、この男は知っている」
「もしかして、目星をつけていた警官ですか」
ミルドレッドがウォルフォードに聞いた。
「そうだね。ハンフリー市長の指示で動いていたと思われる男だよ。署長の急死の件も疑いを持たれているんだけど、実は犯罪組織のボスが死んだのもこいつのせいかもしれないんですよ。ボスは銃撃戦で死んだってことなんだが、どうも変なんですよ。周りは警官で囲まれていたのになぜか流れ弾が当たって死んでしまったってことなんだが、こいつが隙を狙って殺したんじゃないかなって、私は思っているんです」
「そうだ、ウォルフォードさん、撃たれた脚は大丈夫ですか」
ウォルフォードは脚の上部をハンカチで縛っている。
「ああ、多分、大丈夫だろう。大したキズじゃないですよ。でも、この下水道の臭いはやはりひどいねえ」
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