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第3話:警察に逮捕される
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いきなり見知らぬ女に犯人扱いされてしまったミルドレッドは逃げる間もなく、その場で警官たちに逮捕されてしまい、警察の馬車に押し込まれてしまった。警官たちにいくら訴えても全く聞いてくれない。そのまま、すぐ近くにあるエンフィールド市中央警察署まで連行されてしまった。
その中のやり取りでわかったのは、殺されたのは、やはりミルドレッドが想像していたとおり、自分が寝ていた二段ベッドの下段に寝ていたお婆さんだった。首をナイフで切り裂かれていたようだ。入口の警備員も、お婆さんよりも前に首を切られて殺されたらしい。その後、犯人は部屋の中に入ったようだ。部屋の扉は警備員がいるので特に閉めていなかった。一階も同様で誰でも出入りは出来た。
目撃者によると犯人は黒いコートを着て、黒いズボンを履いていたようだ。ミルドレッドも黒いジャケットに同じ色のズボンを履いていた。それに殺されたお婆さんの上の段のベッドを使って寝ていた。たったそれだけの理由で逮捕されてしまった。
留置場の床に寝転びながら、ミルドレッドは腹を立てていた。あのお婆さんならともかく、このあたしにあの屈強な警備員を殺せるわけないじゃないかと。荷物のカバンも、ポケットに入れていたなけなしのお金なども全部取り上げられて、夜遅くまで取り調べが行われた。
特にこの事件の主担当を名乗る小柄で小太りの警官のオブライエンって奴の態度が横柄でひどく、その取り調べも無意味な尋問がただ繰り返されるだけ。おまけに、昨夜は貧民休息所近くの橋の上で女性が刺殺された事件があって、その件についても根掘り葉掘り聞かれた。
一旦、取り調べが中止になった時は夜中だった。その後、なぜか警察署を出て、また警察用馬車に乗せられる。いったいどこに連れていかれるのかと不安になったミルドレッドだったが、警察署から橋を渡って、数分も経たないうちに、すぐ向こう側の大きい建物に到着すると降ろされて、そのまま留置場に放り込まれた。牢番にミルドレッドは訴えた。
「あの、私は今日は朝にパン一枚しか食べてないんですけど」
「もう、食事の配膳は終わったよ」
冷たく牢番に言われてしまった。今日はもう食事の提供は終わったそうで、腹をすかしたまま冷たい床に横になっている。留置場は狭い廊下の片側だけにいくつか設置されていて、彼女が放り込まれたのは一番奥の部屋だった。
ミルドレッドは、警察の留置場に入れられるなんて初めてのことだったが、妙に部屋の天井が高いと思った。自分の背丈の三倍以上はあるんじゃないだろうか。もっと狭苦しい部屋を想像していたのだが、天井の隅には排気口がついている。留置場に必要なのかなと思った。床も壁も木製の板張りだ。何となく犯罪者は石造りの建物に押し込まれるような気がしていたので、ちょっと不思議だった。木製なら簡単にぶち破ることが出来るのではとも思ってしまった。
また、他の留置場には男たちが何人も拘留されているようだが、自分は一人だけだ。どうやら今日は女性の逮捕者はあたしだけらしいなとミルドレッドは思った。それにしても、昼食も夕食も取っていない。ミルドレッドがお腹をすかしてぐったりと横になっていると、牢番が声をかけてきた。
「おい、差し入れだぞ」
太った牢番が差し出した皿にパンが一枚が載っている。
「差し入れって、誰からですか」
「アレックスって奴からだよ。こんな時間なんだが、特例だ」
自分が逮捕されたのをアレックスはどこからか聞いたようだ。教会関係者かなとミルドレッドは思った。お腹がペコペコだったミルドレッドは、パン一枚でもありがたいとすぐに食べてしまった。多少は元気が出てきた。
ミルドレッドは再び留置場の床に、頭の後ろで手を組んで寝そべった。留置場の中には照明はなく、外の廊下のランプの光のみで薄暗く、中途半端な明るさでかえって眠れない。ミルドレッドは床に横になってぼんやりとする。
しかし、なぜあのお婆さんは殺されたのだろうとミルドレッドは思った。最近、売春婦たちを殺す連続殺人鬼の話を聞いたことがあるが、そいつの犯行とは思えない。そいつの被害者は若い女性ばかりだと聞いている。貧民休息所の警備員も殺されたが、その殺人鬼は男性を殺したことはないようだ。
わざわざ警備員まで殺して、女性たちが大勢いる部屋の中に入って、なぜ一番部屋の隅っこの窓際のベッドで寝ていたあのお婆さんを殺したのだろうか。部屋はほぼ真っ暗なはずなのに。せいぜい外のガス灯の光が入ってくるくらいだ。目撃者の話によるとまっすぐにお婆さんのところへ犯人は近づいたらしい。そこで少しやり取りがあった後、あのお婆さんは殺されてしまったようだ。その後、犯人はさっさと逃げて行ったようだ。
ミルドレッドは、昨夜、お婆さんに水をあげた時を思い出した。あの時、まだ部屋のランプは灯っていた。そして、あのお婆さんは窓から外を見た。確か、ガス灯の下で、路上に黒いフロックコートに黒いズボン姿の男が立っていた。顔はマフラーで隠していたので見えなかったが、その男がこっちを向いたような気がした途端、そいつはすぐに歩いてどこかへ行ってしまった。
もしかして、あの男はお婆さんが窓から顔をのぞかせたのを見たんじゃないだろうか。それで部屋のどこら辺にいるかがわかったのではないのか。しかし、なんであのお婆さんを殺す必要があったのだろうか。
一応、明日、このことを警察に言ってみようかとミルドレッドは思った。ただ、今日の警官のあの取り調べの態度だと自分の言うことなんて全然聞いてくれない気もしてきた。その日暮らしで浮浪者同然の自分の人権なんて無いも同じだ。このまま、あのお婆さんや警備員殺しの犯人に決めつけられるんじゃないだろうかとミルドレッドが不安になっていると、突然、天井の隅っこの排気口に小さいノコギリが現れた。ミルドレッドが驚いて立ち上がると、小声で囁かれた。
「ミルドレッド、牢番はどうしている?」
その中のやり取りでわかったのは、殺されたのは、やはりミルドレッドが想像していたとおり、自分が寝ていた二段ベッドの下段に寝ていたお婆さんだった。首をナイフで切り裂かれていたようだ。入口の警備員も、お婆さんよりも前に首を切られて殺されたらしい。その後、犯人は部屋の中に入ったようだ。部屋の扉は警備員がいるので特に閉めていなかった。一階も同様で誰でも出入りは出来た。
目撃者によると犯人は黒いコートを着て、黒いズボンを履いていたようだ。ミルドレッドも黒いジャケットに同じ色のズボンを履いていた。それに殺されたお婆さんの上の段のベッドを使って寝ていた。たったそれだけの理由で逮捕されてしまった。
留置場の床に寝転びながら、ミルドレッドは腹を立てていた。あのお婆さんならともかく、このあたしにあの屈強な警備員を殺せるわけないじゃないかと。荷物のカバンも、ポケットに入れていたなけなしのお金なども全部取り上げられて、夜遅くまで取り調べが行われた。
特にこの事件の主担当を名乗る小柄で小太りの警官のオブライエンって奴の態度が横柄でひどく、その取り調べも無意味な尋問がただ繰り返されるだけ。おまけに、昨夜は貧民休息所近くの橋の上で女性が刺殺された事件があって、その件についても根掘り葉掘り聞かれた。
一旦、取り調べが中止になった時は夜中だった。その後、なぜか警察署を出て、また警察用馬車に乗せられる。いったいどこに連れていかれるのかと不安になったミルドレッドだったが、警察署から橋を渡って、数分も経たないうちに、すぐ向こう側の大きい建物に到着すると降ろされて、そのまま留置場に放り込まれた。牢番にミルドレッドは訴えた。
「あの、私は今日は朝にパン一枚しか食べてないんですけど」
「もう、食事の配膳は終わったよ」
冷たく牢番に言われてしまった。今日はもう食事の提供は終わったそうで、腹をすかしたまま冷たい床に横になっている。留置場は狭い廊下の片側だけにいくつか設置されていて、彼女が放り込まれたのは一番奥の部屋だった。
ミルドレッドは、警察の留置場に入れられるなんて初めてのことだったが、妙に部屋の天井が高いと思った。自分の背丈の三倍以上はあるんじゃないだろうか。もっと狭苦しい部屋を想像していたのだが、天井の隅には排気口がついている。留置場に必要なのかなと思った。床も壁も木製の板張りだ。何となく犯罪者は石造りの建物に押し込まれるような気がしていたので、ちょっと不思議だった。木製なら簡単にぶち破ることが出来るのではとも思ってしまった。
また、他の留置場には男たちが何人も拘留されているようだが、自分は一人だけだ。どうやら今日は女性の逮捕者はあたしだけらしいなとミルドレッドは思った。それにしても、昼食も夕食も取っていない。ミルドレッドがお腹をすかしてぐったりと横になっていると、牢番が声をかけてきた。
「おい、差し入れだぞ」
太った牢番が差し出した皿にパンが一枚が載っている。
「差し入れって、誰からですか」
「アレックスって奴からだよ。こんな時間なんだが、特例だ」
自分が逮捕されたのをアレックスはどこからか聞いたようだ。教会関係者かなとミルドレッドは思った。お腹がペコペコだったミルドレッドは、パン一枚でもありがたいとすぐに食べてしまった。多少は元気が出てきた。
ミルドレッドは再び留置場の床に、頭の後ろで手を組んで寝そべった。留置場の中には照明はなく、外の廊下のランプの光のみで薄暗く、中途半端な明るさでかえって眠れない。ミルドレッドは床に横になってぼんやりとする。
しかし、なぜあのお婆さんは殺されたのだろうとミルドレッドは思った。最近、売春婦たちを殺す連続殺人鬼の話を聞いたことがあるが、そいつの犯行とは思えない。そいつの被害者は若い女性ばかりだと聞いている。貧民休息所の警備員も殺されたが、その殺人鬼は男性を殺したことはないようだ。
わざわざ警備員まで殺して、女性たちが大勢いる部屋の中に入って、なぜ一番部屋の隅っこの窓際のベッドで寝ていたあのお婆さんを殺したのだろうか。部屋はほぼ真っ暗なはずなのに。せいぜい外のガス灯の光が入ってくるくらいだ。目撃者の話によるとまっすぐにお婆さんのところへ犯人は近づいたらしい。そこで少しやり取りがあった後、あのお婆さんは殺されてしまったようだ。その後、犯人はさっさと逃げて行ったようだ。
ミルドレッドは、昨夜、お婆さんに水をあげた時を思い出した。あの時、まだ部屋のランプは灯っていた。そして、あのお婆さんは窓から外を見た。確か、ガス灯の下で、路上に黒いフロックコートに黒いズボン姿の男が立っていた。顔はマフラーで隠していたので見えなかったが、その男がこっちを向いたような気がした途端、そいつはすぐに歩いてどこかへ行ってしまった。
もしかして、あの男はお婆さんが窓から顔をのぞかせたのを見たんじゃないだろうか。それで部屋のどこら辺にいるかがわかったのではないのか。しかし、なんであのお婆さんを殺す必要があったのだろうか。
一応、明日、このことを警察に言ってみようかとミルドレッドは思った。ただ、今日の警官のあの取り調べの態度だと自分の言うことなんて全然聞いてくれない気もしてきた。その日暮らしで浮浪者同然の自分の人権なんて無いも同じだ。このまま、あのお婆さんや警備員殺しの犯人に決めつけられるんじゃないだろうかとミルドレッドが不安になっていると、突然、天井の隅っこの排気口に小さいノコギリが現れた。ミルドレッドが驚いて立ち上がると、小声で囁かれた。
「ミルドレッド、牢番はどうしている?」
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