上 下
82 / 82

最終話:あたしの結婚式

しおりを挟む
 あたしとバルドの結婚式です。

 まあ、式にこぎ着けるまで、いろいろとありましたけどね。
 レッドドラゴンや吸血鬼、狼男、ゾンビ、クトゥルフよりも強敵な姑、親族軍団。

 スラム街出身で、現在無職、貯金ゼロのあたしは平身低頭。
 なんとか許してもらいました。
 
 ウェディングドレス姿のあたし。
 あたしがこんな格好をするとは。
 いまだに信じられないぞ。
 
 けど、もっと早く着たかったなあ。
 バルドにちょっと文句を言った。

「もっと早く、プロポーズしてくれればいいのに」
「いや、君がすごい勢いで出世しちゃうから」

 男のプライドってやつですか。
 それで、あたしが無職になったから、告白したんかい。
 ちっさいなあ。

 まあ、いっか!

「いつからあたしのことが好きだったの?」
「うーん、裸を見た時からかなあ」

 ニエンテ村の時か。
 十六歳のときじゃない。
 ちょっとロリコンはいってるんでない? 

 まあ、いっか! 
 体形は大して変わってないし。

「旦那様、なにか、あたしにご注文はありますか?」
「よく君をつけていたことがあるんだが、何やら怪しげな賭博場に入ってたね。ギャンブルはやめてほしいなあ」

 つけてたって、ストーカーかよ。
 よく、後ろから視線を感じたことがあったけど、こいつだったのか。
 危ない奴だな。

 あれ、ピンチな時もあったけど、隠れて見てただけかよ。
 まあ、いっか!

 それに、あたしはいつの間にかすっかりギャンブルから卒業してしまった。
 やっぱり、心の隙間がふさがれたのかしら。
 
 サビーナちゃんとダリオさんが来た。

「プルムさん、すっかり女らしくなりましたね~」

 サビーナちゃんがニコニコ笑う。
 でかい胸を見せつける。

「アハハ、そう」

 このオンナー! 今までのあたしは女じゃなかったんかい! 
 まあ、太っても可愛いから許すよ、サビーナちゃん!

 ダリオさんは完全にハゲちゃったな。
 それでも、カッコいいけど。

 おっと、式場に、えらくいい香りがしてきたぞ。
 なんかスゲー眩い光が。
 おお、女神が舞い降りてきた。

 クラウディアさんまで来てくれた。
 ちょっと薄化粧してきたぞ。
 神々しくて、目が痛い。

 今日のファッションは清楚な恰好。
 白いブラウス、紺色のスカートにぺったんこの靴。犬がないぞと思ったら、短い靴下の横に犬柄の刺繍。小学生かよ。地味。それなのに花嫁のあたしより一億倍目立っているぞ!

「プルムさん、バルドさん、おめでとうございます!」
「クラウディア様、ありがとうございます! 懲戒免職になったあたしの結婚式に出てくれるなんて、嬉しいです」

「それが、私もクビになりまして」
「えー! どうしてですか」

「分限免職になりました」
「分限免職って何ですか?」
「簡単に言うと、無能だからお前はいらないということですね。かばってくれていた王様が退位しちゃったので、即行でクビになりました。それに、私は以前から『参事官』じゃなくて、『惨事官』って、陰で呼ばれていたみたいですよ、ウフフ!」

 クラウディアさん、ウフフとか笑ってるけど、いいのか。
 後、『惨事官』って自覚してたんかい。

 そうそう、イガグリ坊主頭の王様は突然退位した。

『王様辞めるよーん。働いたら負け! 朕は勝っている』という言葉を残して。

 ふざけとる。
 まあ、皇太子殿下が新たに国王になられるので、これからはこのナロード王国もいい国になるでしょう。

「これから、どうするんですか」
「ヨガ教室でも開こうかなと思ってたんですが、プルムさんのウェディングドレス姿を見たら、私も結婚したくなっちゃった! もう三十三歳だし」

 そのセリフを聞いた途端、クラウディアさんの周りに男どもがむらがる。
 あたしはぶっ倒される。

 花嫁のあたしを踏んづける奴もいる。
 美人には勝てまへん。

 それにしても、クラウディアさん、三十三歳だったのか。
 全然若い。

 初めて会った時と、全然変わらん。
 むしろ若くなっている。

 十代後半に見えるぞ。
 まさかクトゥルフか。

 いや、まさにクトゥルフ以上に不思議な存在。
 世界遺産に登録したらどうだ。
 いっそ世界新七不思議に入れたらどうかって感じだ。

 バルドに助けられる。

「なんなんよ、あの人たち」

 男どもはクラウディアさんに名刺を渡したり、自己紹介している。

「会社の連中かな。あんな綺麗な人いないからね」

 むむ、何だと!

「バルドもクラウディアさんのほうがいいんでしょ」

 ちょっと嫉妬するあたし。

「俺、あの人、苦手だなあ。プルムのほうが断然いいよ」
「え? ホントに! ホントに!」

 嬉しいー!

「あんな美人が家に居たら落ち着かないよ。窒息死するかもしれない。プルムなら大丈夫だからなあ」

 あたしは美人じゃないってことかよ! 
 事実だけど。

 まあ、いっか!

 ちなみにアデリーナさんは欠席。
 実は、魔法禁止令の時以来、疎遠になってしまった。
 仕方が無い。
 これも人生かな。
 
 リーダーとミーナさんがやって来た。

「プルム、おめでとう」

 ああ、やっぱり素敵。
 あたしの理想はやっぱりリーダーよ。

 え? もう浮気かよって? 
 違いますよ。

 理想は理想。
 現実は現実。

 もう、あたしも大人なんよ。
 理想と現実を一緒にはしない。

 さて、ブーケトスだ。
 ついにあたしが花束を投げる方になったのだ。

 感激!

「昔、これでプルムにボコボコにされたことがあったなあ」

 バルドがなんとなくしみじみとした顔で言った。

「そんなことあったっけ。ああ、リーダーとアデリーナさんの結婚式のときか、アハハ!」

 あたしは笑って誤魔化す。

 え? これからいろいろと大変じゃないかって? 
 お前に子育てできるんかって? 

 そんなことは百も承知よ!
 今は、この幸せを楽しむんよ!
 とにかく、ハッピーエンド!

 キャッホー! 

 あたしはみんなに向かって、花束を高々と投げた。

……………………………………………………

 ところで、「ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険」という題名だけど、恋はともかく、ファンタジーっぽい冒険してないぞって?
 
 ちゃんとドラゴン出てきたじゃない。

 ダンジョンはどうしたって? 
 伝説の剣とか、秘宝とかはどうしたって? 
 美人は出てくるけど、もうちょっと神秘的な妖精とか、エルフとか、ケモミミとかは?
 それに、ゴブリンもコボルトもオーガもオークもサイクロプスもワイバーンも全く出てこないじゃないかって?
 スライムすら出てこないぞって?

 だいたい、リーダーやバルドが剣や斧をふるっているとことか、アデリーナさんが攻撃魔法を使ってる場面とか、サビーナちゃんが弓矢を放ったりとか、全然ないじゃないかって? 
 これじゃあ、公務員の話じゃないかって?

 公務員の話なんて読ませんな、コノヤロー! と言いたいのでございますか?

 違うわい!
 人生は一度きりよ!

 人生なんてあっという間なんだから!
 人生そのものがいつも冒険なんよ!
 題名なんてどうでもいいんよ!

 え? いい加減な奴だって? 

 そんなこと最初から知ってんでしょ!

(END)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【改訂版】ピンク頭の彼女の言う事には、この世は乙女ゲームの中らしい。

歌川ピロシキ
ファンタジー
エステルは可愛い。 ストロベリーブロンドのふわふわした髪に零れ落ちそうに大きなハニーブラウンの瞳。 どこか舌足らずの口調も幼子のように天真爛漫な行動も、すべてが愛らしくてどんなことをしてでも守ってあげたいと思っていた。 ……彼女のあの言葉を聞くまでは。 あれ?僕はなんで彼女のことをあんなに可愛いって思ってたんだろう? -------------- イラストは四宮迅様(https://twitter.com/4nomiyajin) めちゃくちゃ可愛いヴォーレを描いて下さってありがとうございます<(_ _)> 実は四月にコニーも描いていただける予定((ヾ(≧∇≦)〃)) -------------- ※こちらは以前こちらで公開していた同名の作品の改稿版です。 改稿版と言いつつ、全く違う展開にしたのでほとんど別作品になってしまいました(;´д`) 有能なくせにどこか天然で残念なヴィゴーレ君の活躍をお楽しみいただけると幸いです<(_ _)>

魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎
ファンタジー
 魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……? ※本作は全 181 話、【完結保証】となります ※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...