上 下
73 / 82

第73話:安全企画室長(部長級)になった

しおりを挟む
 あたしの名前はプルム・ピコロッティ。
 ひらきなおるのも疲れてきた二十六歳まだまだ乙女。

 部長になっても、相変わらず乙女だ。
 寂しいよう……。
 お見合いでもしようかしら。

……………………………………………………

 新しい必殺技が進化した。
 両手を使って、一度に十六本の小型ナイフを投げる。
 的に円周上に刺さる。
 凄いでしょ!
 あたしって、天才じゃないかなあ。

 え? 敵が大砲もっていたらって? うーん、それにはかなわないなあ。
 じゃあ、何の役に立つんだって? そうだなあ、宴会芸の役にたつと思う……。

……………………………………………………

 リーダーとミーナさんが正式に結婚した。
 しかし、式は行わないそうだ。
 そのため内輪で、ちょっとお祝いをすることにした。

 場所は赤ひげのおっさん経営の居酒屋ドラゴンキラー。
 店に行くと、あれ、知っている顔の店員さんがいるぞ。

 レッドドラゴン事件で軍隊をクビになったセルジオ元大佐じゃないの。
 無職はやめて、居酒屋を手伝っているのか。

 リーダーとミーナさんには結婚祝いとして、ペアグラスを差し上げた。
 あと、赤ひげのおっさんにドラゴンがデザインされたダーツゲームをお土産に持って行った。

 店の隅にダーツを設置。
 即席のダーツ大会になる。

 あたしは五回投げて、百発百中。
 赤ひげのおっさん、ますます丸くなったというか、客商売だからかね。あたしがダーツを真ん中に当てるとセルジオ元大佐と一緒に、「プルムちゃん、凄いぞ!」と大拍手で褒められた。拍手されるのも、「ちゃん」付けでよばれるのも初めて。ビビるあたし。はっきり言って怖いぞ。
 サビーナちゃんは育休で欠席。
 アデリーナさんは来るわけないか。
 ミーナさん、おしとやかに投げるので、的に当たっても刺さらずに落ちてしまう。最後の一本の時、酒に酔ったあたしは、的のドラゴンをアデリーナさんと思ったらどうですかと冗談を言ったら、バシッと、ど真ん中に刺さる。その後、振り返り、あたしを見てニヤリと笑うミーナさん。震えるあたし。もしかして、実はけっこう恐ろしい人かもしれん。
 バルド、まあまあ。
 ロベルト、ど真ん中だったり、思いっきり外したり、最後はなぜか真後ろに投げやがった。後ろに立っていたあたしの顔面に刺さりそうになったところを、危うくよける。

「びっくりさせんな、チャラ男!」

 ビビっているあたしに、ヘラヘラとした態度のロベルト。

「ヘッヘッヘッ! すんませんっす、プルムさん」

 ニヤニヤしながらあやまるけど、こいつわざとじゃないか。警備隊時代に、鼻紙を丸めて顔面にぶつけたり、蛸の足で殴ったり、決裁サインハンコを無理矢理代わりに押させたりと虐めたから、いつか本格的に復讐されるんではないかとビクビクして心配になるあたし。
 リーダー、全部外す。性格が優しすぎるんよ。ダーツでもドラゴンさんには当てたくないんよ。
 その擁護は無理がある、単にヘタなだけじゃないかって? ううむ、そうなのか。けど、何度も言うけど、優しい事には変わらないぞ。

……………………………………………………

 最近、ジーンズなるものが流行っている。
 洗濯したあと、アイロンをかけんでもいいのが、ズボラなあたしには楽でよい。
 あたし唯一の自慢のすっきりとした脚にもぴったりだ。

 そのジーンズを履いて、出勤途中、大通りでデモ行進が行われているのを見かけた。
 魔法使いの格好をしている人たちだ。

 あれ、先頭の人、どっかで見た事あるぞ。
 うーん、顔ははっきりと覚えている。

 どっかで会ったんだが。
 どこだっけ?

 会ったことは確かなんだけど。
 名前は全く思い出せんが。

「魔法禁止令反対!」

 シュプレヒコールをあげている。
 魔法禁止令なんて、いつのまに出来たんじゃ。

 この首都メスト市は、攻撃魔法は禁止だったけど。
 国中で魔法が禁止になったら、冒険者たちはどうすんだろう。
 
 あれ、アデリーナさんが庁舎から出てきた。
 すっかりショートヘアにしている。
 デモ隊に向かって、怒鳴っている。

「イヴァーノ・アルベリーニ、見苦しいからやめなさい」

 イヴァーノ・アルベリーニ!
 おお、思い出したぞ。
 レッドドラゴン事件の時に、盗賊討伐隊に参加するため、あたしらのパーティが泊っている宿屋の隣の部屋に泊って、その後、ドラゴンが出現したら、さっさと撤退した人じゃないか。
 十年前かあ。

 なんだか、懐かしいなあ。
 人生あっという間。

 当時はカッコよかった魔法使いの服。
 うーん、昔はカッコよく見えたのに、今見るとださいな。

 今はジーンズの方がカッコいい。
 流行とは不思議なもんですな。

「アデリーナ、お前も昔は魔法使いだっただろ」
「もう時代は変わったのよ」

 ふざけんな、この裏切り者! とデモしている人たちが卵をアデリーナさんに投げつけている。
 それにもめげず説得を試みているアデリーナさん。

 昔の仲間だからかね。
 偉いなあ。

 しかし、アデリーナさん、さっさと公務員に転職して正解だったな。
 あたしが勧めたんだけど。

 しかし、デモ隊の方もだんだんひどくなって、小石とか投げつける奴も出てきた。
 こりゃ、いかんとアデリーナさんを助けに行く。

「アデリーナさん、逃げないと」

 官舎の中に連れて行く。

「大丈夫ですか」

 卵をハンカチで拭いてやる。

「ありがとう、もういいから」

 アデリーナさんはさっさと職場へ行ってしまった。
 あれ、何か泣いていたような。
 気のせいかな。

 結局、警備隊がやって来て、デモ隊を抑えている。
 冒険者の時代も本格的に終わりか。
 世の中、変わっていきますね。

 まあ、あたしは泥棒だから。
 泥棒はいつの時代もいるからね。
 今は開店休業中だけど。
 
……………………………………………………

 数日後、いつも通りミーナさんと官報整理をやっていたら、安全企画室にずいぶん太った若いご婦人とその旦那さんと思われる人たちが入ってきた。
 はて、誰だろうとよく見ると、サビーナちゃんではないか。
 すると、隣の若ハゲの男性は、まさかダリオさん!

「ご無沙汰です。プルムさん、ミーナさん」

 サビーナちゃん、太りすぎじゃないのか。
 まるで、別人だぞ。

「プルムさん、変わらないですね。いつまで経っても若いなあ」
「アハハ、そう」

 あんた変わり過ぎだよ!

「プルムさん、お久しぶりです」

 すっかり髪の毛が後退して、お腹も出ているダリオさん。
 ゾンビ退治の時から、五年しか経ってないけど、えらい変わりようだなあ。
 まあ、お二人仲良さそうなんで、なによりです。

「今日はどうしたの」
「育休の手続きです。ついでにプルムさんたちにも挨拶しようと思ってきたんです」

 ソファで昔話に花を咲かせていると、パオロさんが部屋に入ってきた。
 いつものようにブランドチョコを持って。

「お手伝いしましょうか」
「ありがとうございます」

 パオロさんが会議用机に座って、官報整理を手伝っていると、すぐその後に、フランコ長官とクラウディアさんが入ってきた。
 今日のクラウディアさんのファッションは、白いブラウスにオーガンジーフラワースカート。犬はどこだと探すと、耳飾りに犬が居た。

 フランコ長官にゾンビ退治で活躍したダリオさんを紹介する。

「いやあ、ゾンビ事件の時は大変お世話になりましたな、ハッハッハ」

 相手が偉い大学の教授と分かるやいなや急に愛想が良くなるおっさん。
 外面はいい人だからな、この四角い顔のおっさんは。
 あたしには怒鳴ってばかりなのに。

「ところで、何用でしょうか? 長官」
「百年前の官報を見たいのだが」

 部屋のファイルキャビネットを見せる。

「きれいに整理されてますね」

 クラウディアさんが感心している。
 少しは、見習ってほしいね、情報省参事官殿。

 あんたの部屋、書類がメチャクチャじゃないか。
 そのうち、大地震が起きて、書類に埋もれて窒息死しても知らんぞ。

「こういうこともあろうかと、私が整理させているんですよ」

 偉そうなフランコ長官。 
 本当かよ、あたしが着任した時、何もやらせることが無いから適当に仕事を作って、あたしに押し付けたんじゃないのか、四角い顔のおっさん!

 しかし、百年前の官報なんて、何で見るのかねとあたしが思っていると、ドカン! と部屋の扉が開いた。
 アデリーナさんだ。
 ドスドスと歩いてくる。

 一同、唖然としていると、クラウディアさんが真っ青な顔で怯えて、フランコ長官の陰に小さくなって、震えて隠れている。
 クラウディアさん、またポカでもやったのかなあと思っていたんだけど。

「フランコ長官!」

 アデリーナさんが怒鳴りつける。

「魔法禁止令は拙速すぎるんではないんですか」
「いや、これは政府全体で決めたものですから」

 珍しくフランコ長官がビビっている。

「冒険者の人たちの生活については、どうお考えなんですか」
「いや、失業対策は、一応考えているんですよ。アデリーナ参事官殿」

 あれ、いつの間にかアデリーナさん、参事官に出世しとる。
 って、参事官ってどれくらい偉いのかいまだによくわからんのだけど。

 そこに、ミーナさんがすっと立って、アデリーナさんを牽制する。

「アデリーナ参事官、今、仕事中なので、怒鳴るのは止めていただけますでしょうか。はっきり言って、あなたの声は騒音です。そんなんだから、わたしの主人が病気になったんです」
「何ですってー!」

 両者掴み合いの大喧嘩。
 ついには首を絞め合っている。

 しかし、この部屋にこんなに人が居るのって初めてじゃないか。
 いつもは閑散としているのに。
 八人も居るぞ。

 以前に居た、トイレの隣の元清掃用具倉庫部屋だったら、窒息死してるな。
 なんて、考えている場合ではない。

「ちょ、ちょっと、仕事中ですよ、やめてください」

 二人の喧嘩を何とか止める。
 結局、アデリーナさんはブツクサ言いながら出て行った。

 何だろう。
 あの人、ストレス溜まっているのかなあ。

 サビーナちゃんとダリオさんもびっくりしつつ、帰っていった。
 ところで、なんで魔法が禁止になったのだろう。
 フランコ長官に聞いてみるか。

「なんで、魔法が禁止になったんですか」
「モンスターが居なくなったからだ」

「何で居なくなったんですか」
「理由はわからんが、とにかく居なくなってしまったんだよ」

「つまり、モンスター退治の仕事を主にしていた冒険者は、もう必要ないってことですか」
「まあ、そういうことだな。一応、回復系の魔法は許可証を発行することにして、合法にしたんだけどな」

 食べるのに困った冒険者の犯罪が増えているようだ。
 盗賊集団になったりしているらしい。

 そういうわけで、魔法が禁止になった。
 いずれ、剣や斧、弓矢などの武器も携帯禁止になるかも知れないようだ。

 フランコ長官が百年前の官報を取り出す。

「お前も一緒に官房長官室に来てくれるか」
「わかりました。すいません、その前にちょっとトイレに行っていいですか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【改訂版】ピンク頭の彼女の言う事には、この世は乙女ゲームの中らしい。

歌川ピロシキ
ファンタジー
エステルは可愛い。 ストロベリーブロンドのふわふわした髪に零れ落ちそうに大きなハニーブラウンの瞳。 どこか舌足らずの口調も幼子のように天真爛漫な行動も、すべてが愛らしくてどんなことをしてでも守ってあげたいと思っていた。 ……彼女のあの言葉を聞くまでは。 あれ?僕はなんで彼女のことをあんなに可愛いって思ってたんだろう? -------------- イラストは四宮迅様(https://twitter.com/4nomiyajin) めちゃくちゃ可愛いヴォーレを描いて下さってありがとうございます<(_ _)> 実は四月にコニーも描いていただける予定((ヾ(≧∇≦)〃)) -------------- ※こちらは以前こちらで公開していた同名の作品の改稿版です。 改稿版と言いつつ、全く違う展開にしたのでほとんど別作品になってしまいました(;´д`) 有能なくせにどこか天然で残念なヴィゴーレ君の活躍をお楽しみいただけると幸いです<(_ _)>

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎
ファンタジー
 魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……? ※本作は全 181 話、【完結保証】となります ※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります

処理中です...