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第71話:スポルガ川の汚染調査
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朝、出勤して、いつもどおりの官報整理だ。
だらだらと仕事する。
サビーナちゃんのお腹が日に日に目立って行く。
もうすぐ約一年と半年間もお休みか。
ちょい、寂しいなあ。
それにしても、リーダーのうつ病というのがよくわからんが、やはりアタックするのは職場に復帰してからのほうがいいのかなあと考えていると、四角い顔のおっさんに呼び出された。
やれやれ。
また無理難題を押し付ける気じゃないだろうな。
官房長官室に行く。
……………………………………………………
「最近、スポルガ川が汚れている。工場からの廃液のせいだろう」
「そういえば、この前、川近くを散歩したとき、変な臭いがしてましたね」
「以前から、私の考えで工業廃水の規制は始まっているんだがな。違法な廃液を流している悪質な工場がないか調査してこい。あと、川をきれいにする対策案も考えろ」
「なんだか珍しく地味な活動ですね」
「これも立派な仕事だぞ。自然との共存だ」
「まあそうですけど、こういうのは内務省がやればいいんじゃないですか。確か、皇太子御夫妻の御結婚パレードの頃、内務省の職員がスポルガ川を調査していたのを見かけたんですけど」
「内務省は、一度調査したので、今度はお前が調査しろ」
偉そうに言うフランコのおっさん。
あたしはまるで便利屋みたいだな。
「でも、あたし一人でやるって無茶じゃないですか」
「お前、元警備隊員なんだから、警備隊に協力してもらえればいいだろ。簡単なことだ。それにお前はドラゴンキラーだろ」
ゾンビだろうが、ドラゴンだろうが、皇太子御夫妻結婚パレードだろうが、カルト教団だろうが、川の汚染調査だろうが、みんな簡単なことになるのか、おっさん!
だいたい、川の汚染調査とドラゴンキラーは関係ねーよ。
あと、警備隊の皆さんからはハブられとるんよ。
自業自得だけど。
悲しい……。
「警備隊に頼まなくても、バイトを雇えばいいじゃないですか」
「金が無いんだよ。シム・ジョーンズ教団事件で偽装軍用船に乗っただろ。あの船の購入代の経費を一部負担しているんだ」
へ~そうなんだ。
なんだか、クラウディアさんとアデリーナさんがごちゃごちゃやってたのはその件か。
まあ、随分豪華な船だったけど。
しかし、要するに警備隊員なら、タダでこき使えるってわけか。
せこいぞ、四角い顔のおっさん!
「それから、安全企画室は定員をもう一人増やすことにした。サビーナはもうすぐ産休だろ」
「え、本当ですか!」
三人になれば官報整理も楽になるぞ。
「明日来る予定だ。机も用意しといたぞ」
フランコのおっさんがそう言って、話は終わり。
……………………………………………………
で、翌日、新人さんをお待ちしてたら、異動して来たのが警備隊のミーナ・ミラーノさんではないか。
あたしがサビーナちゃんを、強引にこっちへ異動させたので、警備隊と道筋が出来たのかもしれん。
「プルム室長、今日からよろしくお願いいたします。あと、サビーナさんもよろしくお願いいたします」
ミーナさんが挨拶する。
「アハハ、プルムでいいですよ」
「ミーナさんと一緒なら楽しくお仕事が出来ますね。こちらこそよろしくお願いします」
サビーナちゃんも嬉しそうにしている。
さて、スポルガ川周辺の調査の件だけど。
何だか地味な仕事だなあ。
まあ、命のやり取りしなくていいから気楽だし、官報整理よりはやりがいはありそうだけど。
スポルガ川は首都メスト市の中央辺り、西から東に流れている。
でっかい会議用の机に、最新の地図を広げて見ると、東の方にメスト市工場地帯がある。
東地区警備隊の管轄区域だ。
フランコのおっさんはそこを調査しろとは言ってたんだが。
とりあえず、バルド警備隊大隊長のとこへ行って協力を仰ぐか。
……………………………………………………
東地区警備隊庁舎に行って事情を説明すると、バルドが渋い顔をした。
「何で警備隊が工場の汚染調査をやんなきゃいけないの」
「しょうがないじゃない。四角い顔のおっさん、じゃなくてフランコ官房長官がそうしろって言うんよ」
「断れないの?」
「長官、うるさい人なんよ。警備隊は市民を守る義務があるでしょ。川の汚染からも守らなきゃいけないんじゃない」
無茶苦茶な論理を振りかざしてお願いするあたし。
「えー、そんなのありかよ」
「そこを、何とか、どうにか、よろしくお願いいたします」
あたしは大隊長机に額を擦りつける。
「しょうがないなあ。わかったよ」
「ありがとうございまーす」
持つべきものは昔の仲間かな。
さっそく、各事業所の工場から出る排水のサンプルを取り、メスト市立大学で検査してデータ作りをする仕事をお任せした。
さて、帰りに内務省に寄って、二年前に行われた調査報告書を預かり、安全企画室に戻る。
それを見ると、一応、ほとんどの工場は、ぎりぎり基準を守っているみたいだが、そんな工場ばかりじゃあ、全体で越えちゃうんじゃね。
それから、メスト市市民の生活排水は下水道から、そのまま流している。
これも汚染の原因のひとつかもしれん。
フランコのおっさんからは、川をきれいにする対策案も考えろって指令を受けたが、どうやったらきれいに出来るんだろう。
でっかい会議用の机に座って考えるが、全く思い浮かばないぞ。
あたしの頭の悪さを理解してないようだな、フランコのおっさんは。
「サビーナちゃん、どう思う」
「うーん、どうしましょうか」
サビーナちゃんも地図を見ながら悩んでいるだけ。
すると、ミーナさんが案を出した。
「西の方にある他の川から、用水路を作ってきれいな水を導入すればいいんじゃないでしょうか」
「おお、そのアイデアいいかもしれない」
ものすごくお金かかりそうだけど。
「生活排水とかはどうしたらいいと思う?」
「下水道を整備して、浄化槽を付けたりすればいいんじゃないでしょうか」
またミーナさんのご意見。
ミーナさん優秀だなあ。
とは言え、地図と調査資料だけ眺めていても、漠然としている。
全体像を把握したくなった。
とりあえず、スポルガ川を船で下って、メスト市の中の間だけでも、実地調査してみるか。
しかし、妊娠しているサビーナちゃんに悪臭がする川の調査をさせるのはまずいな。
「ミーナさん。明日、スポルガ川の調査をするんで、一緒に来てくれますか」
「はい、わかりました」
穏やかに会釈するミーナさん。
頭の良い人が異動してきて良かった。
サビーナちゃんには留守番してもらうことにした。
……………………………………………………
翌日、天気は晴れ。
スポルガ川は流れがゆったりとしている。
小型の蒸気船を雇って、ミーナさんと一緒に乗って、のんびりとメスト市の西から川を下っていく。
悪臭がする場所としないところがあるなあ。
だいたい、工場だけじゃなくて、生活排水もじゃんじゃん流しているじゃないか。
工場だけのせいじゃないぞ。
こりゃ、きれいにするのはそう簡単にはいかないんじゃないか。
あまり臭くない場所を船で下っていると、あれ、川辺のベンチでぼんやりと座っている男性がいる。
無精髭で、髪はボサボサ。
顔も青白い。
おまけに、パジャマ姿にサンダル。
よく見ると、リーダーじゃん。
思わず、「リーダー!」と声をかけてしまった。
「あ、プルムじゃないか。あれ、ミーナさんも一緒か」
「はい、警備隊からプルムさんの部署へ異動しました」
「そうか。知らなかった」
リーダーはなんとなく恥ずかしそうにしている。
疲れてるのかな。
うつ病ってどんな感じになるのか、いまいちよくわからんのだけど。
今、リーダーって何歳だっけ。
あたしより三つ年上。
二十八歳か。
それにしては、すこし若白髪が目立つ。
アデリーナさんとなんでうまくいかなかったんだろう。
リーダー優しすぎるからなあ。
ちゃんと食事を取っているのだろうか。
手料理を食べさせてあげたい。
って、あたし料理が全然できないんだっけ。
ちょっと船長さんにお願いして、船を停めてもらう。
「リーダー、あの、失礼ですが、お体の調子はどうなんですか」
「うーん、あんまりよくなくてねえ。ところで、何で船に乗ってるの」
「スポルガ川の汚染調査です」
「そんなこともしているんだ。プルムはえらいなあ」
別に好きでしているわけではありませんが。
とは言え、リーダーのことが心配でソワソワしてきた。
「それじゃあ、お仕事頑張ってくれよ」
そう言って、帰って行くリーダー。
なんだか背中がうら寂しい感じ。
あたしの初恋の相手。
あれ、初恋だったっけ。
いいや、初恋の相手ということにしよう。
もう、船から飛び降りて、後ろから抱きしめたくなる。
川の調査なんて、もう吹っ飛ばすか。
と言いたいんだけど、あたしも、もう大人なんよ。
勤務時間が終わったら、即行でリーダーの家に行くことにした。
東地区の工場地帯まで下るとかなり悪臭がする。
魚の死骸が流れていたり、川の表面に白い泡がブクブク浮いてたり。
お、東地区警備隊員がいる。
「サンプル採取お疲れ様です!」
あたしが声をかけると嫌な顔されちゃった。
ろくでなし大隊長だったあたしの依頼だと分かって、やる気をなくしたのかもしれない。
悲しいぞ。
やっぱり自業自得だけど。
夕方、メスト市の端っこまで行って、そこで船から降りた。
もう、今日は勤務時間も過ぎたし、仕事はやめにして、さっさとリーダーのご自宅へ行こうと思ったら、見覚えのあるおっさんに話しかけられた。
「プルム室長、ご無沙汰ですな」
東地区自警団長のフェデリコ・デシーカさんではないか。
何でこんなとこにいるんだろう。
フェデリコさんがミーナさんの方をちらりと見て言った。
「出来れば、二人で話したいことがあるんです」
何だろう、大事な話なのか。
「ミーナさん、このまま直帰していいですよ」
「わかりました」
ミーナさんと別れて、フェデリコさんの豪邸へ行く。
応接室に通されると、フェデリコさん、やたら世間話をするのだが、なかなか本題に入らない。あたしとしてはさっさと切り上げて、リーダーのご自宅へ行きたいのだが、この人、東地区の自警団長なんで、機嫌を損ねるとバルドの警備大隊の業務に支障がきたすかと思い、我慢する。
適当に話を合わせていると、スポルガ川の件についてフェデリコさんから聞かれた。
「ところで、プルム室長は、今、スポルガ川の汚染検査をやっているようですが」
「はあ、フランコ官房長官の命令ですから。なんで知ってるんですか」
どっから聞いたんだろう。
「知り合いの警備隊員が私の工場の周りをウロウロしているから聞いたんですよ」
「ああ、そうですか」
「ここらへんの工場の多くは私が所有しているんです」
へえ~知らんかった。
さすが大金持ち。
「と言うわけでこれを」
フェデリコさんが微笑みつつ、ソファテーブルの上に、分厚い封筒を置く。
何じゃ、これは。
「……これは何ですか」
不審がるあたし。
「まあ、何と言いますか、工場経営もけっこう大変で。社員とその家族も養う責任が私にはあるんですよ。そういうわけでよろしくお願いいたします」
「はあ」
まさか、これ賄賂じゃないか!
やばいぞ。
フェデリコさん、はっきりとは言わないけど。
「えーと、これは、その受け取れないですね。見なかったことにします」
封筒をフェデリコさんの方に押しやる。
泥棒なんで、封筒の上から触るだけで、わかったぞ。
お札だ。
賭博で勝った金なら嬉しいけど。
泥棒のくせに随分真面目だなって? うーん、こういうのは苦手なんよ。
フェデリコさんの自宅に忍び込んで金庫から盗むってんなら面白いんだけど、こんなあからさまにやられちゃあねえ。
「そうですか。出来ればお手柔らかにお願いしたいんですが」
依然として微笑んでいるフェデリコさん。
しかし、目は笑っていない。
陽気な人だと思っていたんだけど、裏の顔を見てしまった。
そそくさとお暇することにした。
玄関まで見送ってくれたけど。
顔は笑ってはいるが、鋭い目つきであたしに向かってフェデリコさんが言った。
「私はフランコ官房長官とも親しいんですよ」
何だろう。
一種の脅しかね。
ちとむかついたが、どうも落ち着かない。
はっきり言って、ゾンビとの戦いの時よりも冷や汗をかいたぞ。
すっかり夜遅くなってしまった。
夜に、リーダーのご自宅に訪問するのは失礼かもしれん。
日をあらためることにした。
あんまり調子も良くなかったようだし。
……………………………………………………
翌日、フランコ長官に報告すると、おっさんもびっくりしている。
「中は見たのか」
「見てないです。ただ、はっきり言われませんでしたけど、賄賂ですよ、どう考えても。検査結果はまだ出てないんですけど、それには目を瞑ってくれってことでしょう」
珍しく、官房長官が悩んでいる。
「うーん、困ったなあ」
フェデリコさんとは親しいのは事実らしい。
長年、自警団をまとめてくれた人でもあるんだよなあ、フェデリコさん。
しかも、ボランティア。
代わりを探すとなると大変だろうなあ。
「逮捕しますか」
「いや、ちょっと待て。これは高度な政治的問題なんだ」
そんなに高度とは思えないけどな。
「ちょっと様子を見るか……」
珍しく、あやふやな態度のフランコのおっさん。
これは、ひょっとしてゾンビ退治より難しいかもしれん。
だらだらと仕事する。
サビーナちゃんのお腹が日に日に目立って行く。
もうすぐ約一年と半年間もお休みか。
ちょい、寂しいなあ。
それにしても、リーダーのうつ病というのがよくわからんが、やはりアタックするのは職場に復帰してからのほうがいいのかなあと考えていると、四角い顔のおっさんに呼び出された。
やれやれ。
また無理難題を押し付ける気じゃないだろうな。
官房長官室に行く。
……………………………………………………
「最近、スポルガ川が汚れている。工場からの廃液のせいだろう」
「そういえば、この前、川近くを散歩したとき、変な臭いがしてましたね」
「以前から、私の考えで工業廃水の規制は始まっているんだがな。違法な廃液を流している悪質な工場がないか調査してこい。あと、川をきれいにする対策案も考えろ」
「なんだか珍しく地味な活動ですね」
「これも立派な仕事だぞ。自然との共存だ」
「まあそうですけど、こういうのは内務省がやればいいんじゃないですか。確か、皇太子御夫妻の御結婚パレードの頃、内務省の職員がスポルガ川を調査していたのを見かけたんですけど」
「内務省は、一度調査したので、今度はお前が調査しろ」
偉そうに言うフランコのおっさん。
あたしはまるで便利屋みたいだな。
「でも、あたし一人でやるって無茶じゃないですか」
「お前、元警備隊員なんだから、警備隊に協力してもらえればいいだろ。簡単なことだ。それにお前はドラゴンキラーだろ」
ゾンビだろうが、ドラゴンだろうが、皇太子御夫妻結婚パレードだろうが、カルト教団だろうが、川の汚染調査だろうが、みんな簡単なことになるのか、おっさん!
だいたい、川の汚染調査とドラゴンキラーは関係ねーよ。
あと、警備隊の皆さんからはハブられとるんよ。
自業自得だけど。
悲しい……。
「警備隊に頼まなくても、バイトを雇えばいいじゃないですか」
「金が無いんだよ。シム・ジョーンズ教団事件で偽装軍用船に乗っただろ。あの船の購入代の経費を一部負担しているんだ」
へ~そうなんだ。
なんだか、クラウディアさんとアデリーナさんがごちゃごちゃやってたのはその件か。
まあ、随分豪華な船だったけど。
しかし、要するに警備隊員なら、タダでこき使えるってわけか。
せこいぞ、四角い顔のおっさん!
「それから、安全企画室は定員をもう一人増やすことにした。サビーナはもうすぐ産休だろ」
「え、本当ですか!」
三人になれば官報整理も楽になるぞ。
「明日来る予定だ。机も用意しといたぞ」
フランコのおっさんがそう言って、話は終わり。
……………………………………………………
で、翌日、新人さんをお待ちしてたら、異動して来たのが警備隊のミーナ・ミラーノさんではないか。
あたしがサビーナちゃんを、強引にこっちへ異動させたので、警備隊と道筋が出来たのかもしれん。
「プルム室長、今日からよろしくお願いいたします。あと、サビーナさんもよろしくお願いいたします」
ミーナさんが挨拶する。
「アハハ、プルムでいいですよ」
「ミーナさんと一緒なら楽しくお仕事が出来ますね。こちらこそよろしくお願いします」
サビーナちゃんも嬉しそうにしている。
さて、スポルガ川周辺の調査の件だけど。
何だか地味な仕事だなあ。
まあ、命のやり取りしなくていいから気楽だし、官報整理よりはやりがいはありそうだけど。
スポルガ川は首都メスト市の中央辺り、西から東に流れている。
でっかい会議用の机に、最新の地図を広げて見ると、東の方にメスト市工場地帯がある。
東地区警備隊の管轄区域だ。
フランコのおっさんはそこを調査しろとは言ってたんだが。
とりあえず、バルド警備隊大隊長のとこへ行って協力を仰ぐか。
……………………………………………………
東地区警備隊庁舎に行って事情を説明すると、バルドが渋い顔をした。
「何で警備隊が工場の汚染調査をやんなきゃいけないの」
「しょうがないじゃない。四角い顔のおっさん、じゃなくてフランコ官房長官がそうしろって言うんよ」
「断れないの?」
「長官、うるさい人なんよ。警備隊は市民を守る義務があるでしょ。川の汚染からも守らなきゃいけないんじゃない」
無茶苦茶な論理を振りかざしてお願いするあたし。
「えー、そんなのありかよ」
「そこを、何とか、どうにか、よろしくお願いいたします」
あたしは大隊長机に額を擦りつける。
「しょうがないなあ。わかったよ」
「ありがとうございまーす」
持つべきものは昔の仲間かな。
さっそく、各事業所の工場から出る排水のサンプルを取り、メスト市立大学で検査してデータ作りをする仕事をお任せした。
さて、帰りに内務省に寄って、二年前に行われた調査報告書を預かり、安全企画室に戻る。
それを見ると、一応、ほとんどの工場は、ぎりぎり基準を守っているみたいだが、そんな工場ばかりじゃあ、全体で越えちゃうんじゃね。
それから、メスト市市民の生活排水は下水道から、そのまま流している。
これも汚染の原因のひとつかもしれん。
フランコのおっさんからは、川をきれいにする対策案も考えろって指令を受けたが、どうやったらきれいに出来るんだろう。
でっかい会議用の机に座って考えるが、全く思い浮かばないぞ。
あたしの頭の悪さを理解してないようだな、フランコのおっさんは。
「サビーナちゃん、どう思う」
「うーん、どうしましょうか」
サビーナちゃんも地図を見ながら悩んでいるだけ。
すると、ミーナさんが案を出した。
「西の方にある他の川から、用水路を作ってきれいな水を導入すればいいんじゃないでしょうか」
「おお、そのアイデアいいかもしれない」
ものすごくお金かかりそうだけど。
「生活排水とかはどうしたらいいと思う?」
「下水道を整備して、浄化槽を付けたりすればいいんじゃないでしょうか」
またミーナさんのご意見。
ミーナさん優秀だなあ。
とは言え、地図と調査資料だけ眺めていても、漠然としている。
全体像を把握したくなった。
とりあえず、スポルガ川を船で下って、メスト市の中の間だけでも、実地調査してみるか。
しかし、妊娠しているサビーナちゃんに悪臭がする川の調査をさせるのはまずいな。
「ミーナさん。明日、スポルガ川の調査をするんで、一緒に来てくれますか」
「はい、わかりました」
穏やかに会釈するミーナさん。
頭の良い人が異動してきて良かった。
サビーナちゃんには留守番してもらうことにした。
……………………………………………………
翌日、天気は晴れ。
スポルガ川は流れがゆったりとしている。
小型の蒸気船を雇って、ミーナさんと一緒に乗って、のんびりとメスト市の西から川を下っていく。
悪臭がする場所としないところがあるなあ。
だいたい、工場だけじゃなくて、生活排水もじゃんじゃん流しているじゃないか。
工場だけのせいじゃないぞ。
こりゃ、きれいにするのはそう簡単にはいかないんじゃないか。
あまり臭くない場所を船で下っていると、あれ、川辺のベンチでぼんやりと座っている男性がいる。
無精髭で、髪はボサボサ。
顔も青白い。
おまけに、パジャマ姿にサンダル。
よく見ると、リーダーじゃん。
思わず、「リーダー!」と声をかけてしまった。
「あ、プルムじゃないか。あれ、ミーナさんも一緒か」
「はい、警備隊からプルムさんの部署へ異動しました」
「そうか。知らなかった」
リーダーはなんとなく恥ずかしそうにしている。
疲れてるのかな。
うつ病ってどんな感じになるのか、いまいちよくわからんのだけど。
今、リーダーって何歳だっけ。
あたしより三つ年上。
二十八歳か。
それにしては、すこし若白髪が目立つ。
アデリーナさんとなんでうまくいかなかったんだろう。
リーダー優しすぎるからなあ。
ちゃんと食事を取っているのだろうか。
手料理を食べさせてあげたい。
って、あたし料理が全然できないんだっけ。
ちょっと船長さんにお願いして、船を停めてもらう。
「リーダー、あの、失礼ですが、お体の調子はどうなんですか」
「うーん、あんまりよくなくてねえ。ところで、何で船に乗ってるの」
「スポルガ川の汚染調査です」
「そんなこともしているんだ。プルムはえらいなあ」
別に好きでしているわけではありませんが。
とは言え、リーダーのことが心配でソワソワしてきた。
「それじゃあ、お仕事頑張ってくれよ」
そう言って、帰って行くリーダー。
なんだか背中がうら寂しい感じ。
あたしの初恋の相手。
あれ、初恋だったっけ。
いいや、初恋の相手ということにしよう。
もう、船から飛び降りて、後ろから抱きしめたくなる。
川の調査なんて、もう吹っ飛ばすか。
と言いたいんだけど、あたしも、もう大人なんよ。
勤務時間が終わったら、即行でリーダーの家に行くことにした。
東地区の工場地帯まで下るとかなり悪臭がする。
魚の死骸が流れていたり、川の表面に白い泡がブクブク浮いてたり。
お、東地区警備隊員がいる。
「サンプル採取お疲れ様です!」
あたしが声をかけると嫌な顔されちゃった。
ろくでなし大隊長だったあたしの依頼だと分かって、やる気をなくしたのかもしれない。
悲しいぞ。
やっぱり自業自得だけど。
夕方、メスト市の端っこまで行って、そこで船から降りた。
もう、今日は勤務時間も過ぎたし、仕事はやめにして、さっさとリーダーのご自宅へ行こうと思ったら、見覚えのあるおっさんに話しかけられた。
「プルム室長、ご無沙汰ですな」
東地区自警団長のフェデリコ・デシーカさんではないか。
何でこんなとこにいるんだろう。
フェデリコさんがミーナさんの方をちらりと見て言った。
「出来れば、二人で話したいことがあるんです」
何だろう、大事な話なのか。
「ミーナさん、このまま直帰していいですよ」
「わかりました」
ミーナさんと別れて、フェデリコさんの豪邸へ行く。
応接室に通されると、フェデリコさん、やたら世間話をするのだが、なかなか本題に入らない。あたしとしてはさっさと切り上げて、リーダーのご自宅へ行きたいのだが、この人、東地区の自警団長なんで、機嫌を損ねるとバルドの警備大隊の業務に支障がきたすかと思い、我慢する。
適当に話を合わせていると、スポルガ川の件についてフェデリコさんから聞かれた。
「ところで、プルム室長は、今、スポルガ川の汚染検査をやっているようですが」
「はあ、フランコ官房長官の命令ですから。なんで知ってるんですか」
どっから聞いたんだろう。
「知り合いの警備隊員が私の工場の周りをウロウロしているから聞いたんですよ」
「ああ、そうですか」
「ここらへんの工場の多くは私が所有しているんです」
へえ~知らんかった。
さすが大金持ち。
「と言うわけでこれを」
フェデリコさんが微笑みつつ、ソファテーブルの上に、分厚い封筒を置く。
何じゃ、これは。
「……これは何ですか」
不審がるあたし。
「まあ、何と言いますか、工場経営もけっこう大変で。社員とその家族も養う責任が私にはあるんですよ。そういうわけでよろしくお願いいたします」
「はあ」
まさか、これ賄賂じゃないか!
やばいぞ。
フェデリコさん、はっきりとは言わないけど。
「えーと、これは、その受け取れないですね。見なかったことにします」
封筒をフェデリコさんの方に押しやる。
泥棒なんで、封筒の上から触るだけで、わかったぞ。
お札だ。
賭博で勝った金なら嬉しいけど。
泥棒のくせに随分真面目だなって? うーん、こういうのは苦手なんよ。
フェデリコさんの自宅に忍び込んで金庫から盗むってんなら面白いんだけど、こんなあからさまにやられちゃあねえ。
「そうですか。出来ればお手柔らかにお願いしたいんですが」
依然として微笑んでいるフェデリコさん。
しかし、目は笑っていない。
陽気な人だと思っていたんだけど、裏の顔を見てしまった。
そそくさとお暇することにした。
玄関まで見送ってくれたけど。
顔は笑ってはいるが、鋭い目つきであたしに向かってフェデリコさんが言った。
「私はフランコ官房長官とも親しいんですよ」
何だろう。
一種の脅しかね。
ちとむかついたが、どうも落ち着かない。
はっきり言って、ゾンビとの戦いの時よりも冷や汗をかいたぞ。
すっかり夜遅くなってしまった。
夜に、リーダーのご自宅に訪問するのは失礼かもしれん。
日をあらためることにした。
あんまり調子も良くなかったようだし。
……………………………………………………
翌日、フランコ長官に報告すると、おっさんもびっくりしている。
「中は見たのか」
「見てないです。ただ、はっきり言われませんでしたけど、賄賂ですよ、どう考えても。検査結果はまだ出てないんですけど、それには目を瞑ってくれってことでしょう」
珍しく、官房長官が悩んでいる。
「うーん、困ったなあ」
フェデリコさんとは親しいのは事実らしい。
長年、自警団をまとめてくれた人でもあるんだよなあ、フェデリコさん。
しかも、ボランティア。
代わりを探すとなると大変だろうなあ。
「逮捕しますか」
「いや、ちょっと待て。これは高度な政治的問題なんだ」
そんなに高度とは思えないけどな。
「ちょっと様子を見るか……」
珍しく、あやふやな態度のフランコのおっさん。
これは、ひょっとしてゾンビ退治より難しいかもしれん。
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貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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