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第64話:王宮警備隊長になった
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あたしの名前はプルム・ピコロッティ。
ナロード王国王宮警備隊長(併任)だ。
気が付けば、もう二十三歳。
十代の頃が、懐かしいなあ。
うら若き二十三歳。
って、名乗るのも苦しくなってきた。
いまだに乙女だけど。
国境近くのボルド地域から首都メスト市まで、鉄道が開通した。
早朝、駅に行くと、蒸気機関車なるものが停まっている。
デカい。
全体は真っ黒で、先頭車両の煙突から煙が出ている。
なかなか迫力があるなあ。
車輪もデカい。
売店で、ボルド地方特製のチョコレートを二箱買う。
サビーナちゃんとパオロさんにお土産だ。
何か駅前で号外を配っているけど、発車寸前なので、機関車に飛び乗った。
これが、鉄道か。
客車を十台引っ張っている。
座席は向かい合わせのボックスシート。
あたしは中年の紳士と同席になった。
機関車が出発。
速いなあ。
窓から見ると、乗合馬車が走っているのが見えた。
ボルド地域に来る時は、乗合馬車を乗り継いだんだっけ。
途中で宿泊したり、結局、二日かかった。
今や六時間でいける。
お馬さん一生懸命に走っているけど、あっと言う間に、蒸気機関車に追い越されていく。
もうお馬さんの時代も終わりかなあ。
世の中、どんどん進んで行きますね。
「もうすぐトンネルです」
乗員が大声をあげて、列車内の通路を走っている。
あたしの前に座っていた、紳士が窓を閉めた。
蒸気機関車が出す煙が、車内に入らないようにするためか。
いちいち面倒ですな。
途中の駅で同席の紳士が降りていったが、座席に号外を忘れて行った。
と言うか捨てていったのかな。
中身を見てみる。
『皇太子殿下、御結婚へ』
おお、皇太子様ついに結婚か。
お相手は、カクヨーム王室の縁戚の女性。
ふーん、元看護師か。
写真が載っていて、もの凄い美人! じゃなかった。
けど、大人しそうな感じの女性だなあ。
まあ、王室の方々って、大人しそうな品の良い人たちばっかりだけど。
但し、イガグリ坊主(王様)を除く。
政略結婚か。
あたしがどうのこうの言う問題じゃないけど。
この鉄道も、本当はいざというときには、ボルド地域に兵隊や武器をすぐに送れるよう設置したらしい。
まあ、平和になるならいいんじゃね。
けど、結婚。
いいなあ。
妄想する。
相手の顔は、結局、リーダー。
やれやれ。
それにしても、王宮警備隊長って何じゃ。
フランコのおっさん、また面倒な仕事をあたしに押し付ける気じゃないだろうな。
それとも、あのイガグリ坊主(王様)の陰謀か?
少しうつらうつらしていたら、首都メスト市に到着。
終点はメスト駅。
かなりデカいな。
ナロード王国初の鉄道の駅らしい。
昼食は、王宮前の大通りにあるラーメン屋でしょう油ラーメンを食べる。
このラーメン屋の主人はクーデター騒ぎで逮捕されたけど、今はオーナーが変わって店自体は存続している。
ん? 何だか、大通りを大勢の人がデモしているなあ。
おまけに、それに罵声を浴びせている連中もいる。
中指を立てている奴もいるぞ。
何やってんだ。
うるさくて、ラーメンが不味くなるじゃないか。
さて、午後に王宮へ入って、安全企画室に行ったら、再び清掃道具の倉庫になっていた。
どうなってんのと、あらためて扉を見ると、『安全企画室は下記の場所に移動しました』って紙が貼ってある。
この丸っこい文字はサビーナちゃんが書いたんだな。
そう言えば、部屋は工事中だとフランコのおっさんが言ってたのを思い出した。
その案内に沿っていくと、王族の住む部屋に近づいていく。
いいのかなあとそろりそろりと歩いていくと、トイレがあった。
中を見ると、スゲー豪華なトイレ。
って、ここじゃないや。
そのすぐ近くにあったぞ、安全企画室が。
扉がやたら豪華。
装飾がスゲー。
中に入ると、これまた広い部屋。
高い天井。
ふかふかの絨毯。
きれいな分厚いカーテン。
窓もデカい。
キャビネットやら備品も全部新品で高そうなのばっかりだ。
でっかい会議用の机もある。
部屋の真ん中くらいに、サビーナちゃんが豪華な机に座っている。
何だか入りづらいなあ。
室長だけど。
去年は、トイレの隣の狭苦しい元清掃道具用倉庫部屋だったもんな。
入口付近から、声をかける。
「サビーナちゃん」
「プルムさん!」
あたしに気づいたサビーナちゃんが嬉しそうにこちらに歩いてくる。
なんだかすっかり大人だな。
歩き方が優雅だぞ。
体が成熟しとる。
まあ、もう二十一歳だけど。
うーん、けど、ちょっと太ってないかい。
ん? 男からすると、ガリガリに痩せているより、多少太っているほうが魅力的だって? そうなんだ。あたしも太るか。って全然太らないんだよなあ。
だからもてないんだって? うるせーよ!
「サビーナちゃん、お久しぶり。何だか、凄い豪華な部屋ね。入っていいの」
「もちろんですよ。この部屋で一番お偉いのはプルムさんですよ」
ニコニコ顔で笑うサビーナちゃん。
性格は全然変わってなさそうだ。
「これ、お土産。ボルド地域製のチョコレート」
「お気遣いありがとうございます」
「この部屋って、いつ完成したの?」
「プルムさんが、国境へ出発して、次の日ですね」
何だと。
あたしがいなくなって、次の日にこの豪華な部屋にすぐに引っ越したのか。
何か、ひっかかるんだよなあ、嫌がらせかよ。
部屋の奥に大理石のデカい机がある。
これがあたしの使う机か。
何だか大袈裟じゃないのか。
あたしには似合いそうもないんだけど。
この大理石冷たくて、机に顔面を付けて居眠りしたら、凍傷になりそうだ。
部屋の入り口近くに置いてある、豪華な来客用のソファで、サビーナちゃんとお喋り。
「あたしのいない間、一人で安全企画室の仕事は大変だったんじゃないの?」
「いえ、全然楽でした」
「え、そうなんだ。何してたの」
「いつもの官報整理以外は、王様のお相手ですね」
「は?」
「お茶くみとか、王様や王室の方々とお喋りしたり。あと、王様とチェスとかオセロとかトランプゲームの相手してました」
「なによ、そのチョー楽勝な仕事! あたしにはゾンビ軍団やらドラゴンと対決させて、サビーナちゃんはお茶くみですか」
この違いはいったい何なんだよ。
「だって、プルムさんは室長じゃないですか。私は室員ですよ。格が全然違いますよ」
「まあ、そうかもしれないけど」
あたしは死ぬ思いまでして、働かされたっていうのに。
うーん、何だか釈然としない。
「要するに王様やフランコ長官は、プルムさんを信頼しているんじゃないですか。だってドラゴンキラーですよ」
う~ん、そうは思えん。
シーフの勘よ。
弄ばれているあたし。
遊んでるとしか思えん。
あのイガグリ坊主(王様)め。
まあ、サビーナちゃんはいいけどさ。
あのイガグリ坊主(王様)は何の仕事をしているんだろう?
「王様って、サビーナちゃんと遊んでいる以外は何やってんの?」
「まあ、はっきり言って王様は働いてないですね。宝物の整理くらいです。本当はいろんな儀式とかあるみたいなんですけど、面倒くさがって極力やらないみたいです」
なんだか、サビーナちゃんは少し小声になる。
「宝物ってなに?」
「王様だから、いろんな贈り物を貰うんですよ。けど、飽きちゃうと、他の人にあげちゃうようですよ。御下賜品として」
は? いらなくなると賜品として配布してたのか。
あたしが貰った万年筆とかも中古品かよ。
何だか、この下賜品とやらに、統一性がないし、古キズがあったりしたけど、そういう理由だったのか。
表彰式も中古品を配るために開催してたんじゃないのか、あのイガグリ坊主(王様)は。
「サビーナちゃんも何かもらったの?」
「結婚したばっかりですって言ったら、高価なお皿とか、お茶セットとかいっぱいくれました」
「ふーん、要するにサビーナちゃんは王様のごひいきね」
「違いますよ。王様が一番気に入ってるのは、クラウディアさんですよ。遠くから見ているだけで満足だそうですよ」
「まあ、あれだけ美人ならねえ」
なるほど、クラウディアさんはスケベ爺さんのご贔屓か。
多分、世界で一番綺麗な人だから、仕方がないね。
神聖魔法が使えるとかじゃなくて、クラウディアさんが「惨事」官じゃなくて参事官でいられるのは、王様のお気に入りだからかね。
いまだに参事官とやらが、どれくらい偉いのかあたしには分からんのだけど。
「クラウディアさん、いっそのこと王室にお輿入れすればいいのに」
「いえ、遠くから見ているだけでいいんですって」
うーん、確かにあの人を近くに置くと大惨事を招きかねない。
イガグリ坊主(王様)は、慎重派だな。
部屋の窓から、情報省が見える。
お、なんだか眩い光が。
さすがにいい香りはしてこないけど。
クラウディアさんが机に座って、仕事をしているのが小さく見える。
一応、真面目に仕事はしているんだな。
中身はメチャクチャだと思うけど。
「王様が窓から、情報省で働いてるクラウディアさんをよく見てましたよ」
クラウディアさんがいる部屋が全面ガラス張りなのもそのためか。
いやらしいなあ、あのひひ爺のイガグリ坊主(王様)め。
「しかし、ここからだと、小さくしか見えないね」
「双眼鏡使ってましたよ」
「なにー! 双眼鏡だと!」
そうか、あたしが下賜品で貰った双眼鏡はイガグリ坊主(王様)のお古か。
あの双眼鏡のせいでひどい目に会ったのに。
イガグリ坊主(王様)の奴、許さん! と逆恨みする。
「それから、王様は面白い事を言うんですよ。『働いたら負け』って」
えー! 何だって!
『働いたら負け』ってあのイガグリ坊主(王様)が言い出したことだったのか。
ふざけとる!
よし、あたしのモットーからは除くことにする。
今から、『働かざるもの食うべからず』に変更だ!
「ところで、あたしって、王国王宮警備隊長ってのに併任になったんだけど、サビーナちゃん、そんな警備隊あったの知ってる?」
「確か、つい最近発足したようですよ」
「ふーん、けど、なんであたしが隊長なんだろう」
「それはプルムさんがドラゴンキラーだからですよ」
また、ドラゴンキラーかよ。
いい加減にしてほしいぞ。
「けど、王宮警備隊は普段はヒマだと思いますよ。王様がひきこもりで外に出ないんですよ」
「へ? 王様は働かないどころか、ひきこもってんの?」
「まあ、『働いたら負け!』って言ってますから」
うーん、本当かなあ。
ひきこもってるふりをして、いろいろと陰謀を企んでいるんじゃないか。
あの、イガグリ坊主(王様)は。
前から思っているんだけど、ラスボスじゃねーか、本当に。
「けど、今年は大変ですね」
「なんで?」
「皇太子殿下の結婚式がありますので。首都をパレードするから、警備で大変だと思いますよ」
「そうだ、皇太子様、結婚だよ、結婚!」
なぜかガッツポーズをするあたし。
フランコのおっさん、また面倒な仕事をあたしに押し付けたってことなのだろうか?
なんか恨みでもあるんか、あたしに。
とは言うものの、この件をあらためて聞いたとたん、珍しくあたしは張り切ってるぞ!
結婚式よ、結婚式、皇太子殿下の結婚式! 盛り上がるわー!
え? お前の結婚式はどうなってるんだって? うるさいわい! いつかあるわよ!
……あると思う……。
「王室のパレードって、今までは近衛連隊が仕切るのが恒例で、隊長が馬に乗って先導するのが普通だったみたいです」
「確か、今の近衛連隊長って女性じゃなかったっけ」
あたしが警備隊大隊長の時に、挨拶周りに来て会ったなあ。
あれは三年前くらいだったかな。
玄関前にその女性が到着したら、隊員のみんなが窓から見ていて、大歓声があがった。
えらい人気があったなあ。
あれ、名前なんだっけ?
忘れちゃった。
あたしは頭が悪い。
「あの女性の近衛連隊長って、なんて名前だっけ?」
「オリヴィア・デ・ロレンツィ様ですね」
「そうそう、オリヴィアさんだ。あのスーパーモデルみたいな人ね。晴れの舞台にふさわしいんじゃね」
あの人なら、パレードでも見栄えがいいだろうな。
あたしは、馬に乗って華麗な近衛兵の軍服で馬車を先導するオリヴィアさんを頭に思い浮かべた。
「まあ、警備の方については、あたしは裏方で充分よ」
「それが、王様から聞いたんですが、フランコ官房長官が先導は王宮警備隊長にやらせるよう画策しているみたいですよ」
「え? 王宮警備隊長って、あたしのことじゃん。そんな事なんにも聞いてないぞ」
おいおい、あたしは馬になんか乗れないよ!
……………………………………………………
理由を聞くため、四角い顔のおっさんことフランコ官房長官に会いに行く。
官房室に行くと、パオロさんが出てきた。
「あ、プルムさん、お元気でしたか」
「ええ、これお土産です。ボルド地域のチョコレート」
「わあ! ありがとうございます!」
本当はドラゴン秘儀団に殺されそうになったが、パオロさんに文句言っても仕方が無い。
ん? パオロさん、口をちょっともぐもぐしてる。
何だか甘い香りがするぞ。
これは、あたしがプレゼントする前に、すでに自前のチョコを食べてたな。
そんなにチョコばっか食べていて大丈夫かね。
さて、フランコのおっさんの部屋に通される。
「久しぶりだな。国境警備はご苦労だった」
普段は機嫌悪そうなのに、なぜかニヤニヤしている。
「ドラゴンを四匹も退治したんだってな。お前のおかげで、カクヨーム王国との関係も良くなったぞ」
ドラゴンを四匹も普通の人間が倒せるわけないでしょー!
嫌味で言ってるのか、この四角い顔のおっさんは。
おまけに、いつもはあたしを立たせっぱなしなのにソファに座らせやがった。
何か怪しいなあ。
「あのー、王宮警備隊って何人いるんですか」
「今んところお前一人だ」
「は?」
何だよ、それ?
「警備隊本部に、警備騎馬隊というのがあるのは知っているか」
「ええ、警備隊本部前に、馬に乗って整列しているのを見たことありますけど」
「以前のクーデター騒ぎで、私は反乱軍の近衛兵士に殺されそうになったんだ。それで、前々から軍隊とは別に王室を守る警備隊を作りたいと思っていたんだよ」
「警備騎馬隊を使うわけですか」
「そうだ、あらたに王宮警備隊として再編成することにしたんだ」
ふーん、そういやクーデター騒ぎの時、官房長官が殺されそうになったって話があったけど、このフランコのおっさんの事だったのか。
本当は王室じゃなくて、自分を守りたいんじゃないのか?
まあ、作るのはいいけどさ。
「なんで、私が隊長になるんですか? しかも、併任って?」
「警備騎馬隊長が去年度でちょうど定年になったからだよ」
「だったら、今いる隊員の中から、誰か適当な人を昇進させればいいじゃありませんか」
「警備騎馬隊長は大隊長クラスなんだが、他の隊員はみんな平隊員だからな」
「はあ」
「まあ、併任は結婚パレードが終わるまでだ。その後は、適任者を他のところから持ってくる」
「なんで、私なんですか」
「お前はドラゴンキラーだろ。隊長にぴったりだ」
おい、おっさん! またドラゴンキラーかよ!
「今まで、この手の行事は近衛連隊が仕切っていたようなんですけど。近衛連隊は不満を持っているんじゃないですか」
「そういうわけで、明日、会議があって話し合うことにした」
フランコのおっさんは依然として、ニヤニヤしている。
釈然としない。
いつもは怒鳴ってばかりのフランコのおっさんが、妙に機嫌よくニヤニヤしていた。
なんか、おかしいぞ。
フランコのおっさん、なんか隠してないか。
なんか変だなあと思いつつ、長官室を出て、パオロさんに会釈すると、ありゃ、さっきあげたチョコレートが開けられて、もうほとんど無くなっている。
「パオロさん、チョコ本当に好きなんですね」
「アハハ、いやあ、好きなものは好きなんで」
あんまり甘い物食べ過ぎると、糖尿病とかにならないのかね。
パオロさんの体調が心配だ。
ナロード王国王宮警備隊長(併任)だ。
気が付けば、もう二十三歳。
十代の頃が、懐かしいなあ。
うら若き二十三歳。
って、名乗るのも苦しくなってきた。
いまだに乙女だけど。
国境近くのボルド地域から首都メスト市まで、鉄道が開通した。
早朝、駅に行くと、蒸気機関車なるものが停まっている。
デカい。
全体は真っ黒で、先頭車両の煙突から煙が出ている。
なかなか迫力があるなあ。
車輪もデカい。
売店で、ボルド地方特製のチョコレートを二箱買う。
サビーナちゃんとパオロさんにお土産だ。
何か駅前で号外を配っているけど、発車寸前なので、機関車に飛び乗った。
これが、鉄道か。
客車を十台引っ張っている。
座席は向かい合わせのボックスシート。
あたしは中年の紳士と同席になった。
機関車が出発。
速いなあ。
窓から見ると、乗合馬車が走っているのが見えた。
ボルド地域に来る時は、乗合馬車を乗り継いだんだっけ。
途中で宿泊したり、結局、二日かかった。
今や六時間でいける。
お馬さん一生懸命に走っているけど、あっと言う間に、蒸気機関車に追い越されていく。
もうお馬さんの時代も終わりかなあ。
世の中、どんどん進んで行きますね。
「もうすぐトンネルです」
乗員が大声をあげて、列車内の通路を走っている。
あたしの前に座っていた、紳士が窓を閉めた。
蒸気機関車が出す煙が、車内に入らないようにするためか。
いちいち面倒ですな。
途中の駅で同席の紳士が降りていったが、座席に号外を忘れて行った。
と言うか捨てていったのかな。
中身を見てみる。
『皇太子殿下、御結婚へ』
おお、皇太子様ついに結婚か。
お相手は、カクヨーム王室の縁戚の女性。
ふーん、元看護師か。
写真が載っていて、もの凄い美人! じゃなかった。
けど、大人しそうな感じの女性だなあ。
まあ、王室の方々って、大人しそうな品の良い人たちばっかりだけど。
但し、イガグリ坊主(王様)を除く。
政略結婚か。
あたしがどうのこうの言う問題じゃないけど。
この鉄道も、本当はいざというときには、ボルド地域に兵隊や武器をすぐに送れるよう設置したらしい。
まあ、平和になるならいいんじゃね。
けど、結婚。
いいなあ。
妄想する。
相手の顔は、結局、リーダー。
やれやれ。
それにしても、王宮警備隊長って何じゃ。
フランコのおっさん、また面倒な仕事をあたしに押し付ける気じゃないだろうな。
それとも、あのイガグリ坊主(王様)の陰謀か?
少しうつらうつらしていたら、首都メスト市に到着。
終点はメスト駅。
かなりデカいな。
ナロード王国初の鉄道の駅らしい。
昼食は、王宮前の大通りにあるラーメン屋でしょう油ラーメンを食べる。
このラーメン屋の主人はクーデター騒ぎで逮捕されたけど、今はオーナーが変わって店自体は存続している。
ん? 何だか、大通りを大勢の人がデモしているなあ。
おまけに、それに罵声を浴びせている連中もいる。
中指を立てている奴もいるぞ。
何やってんだ。
うるさくて、ラーメンが不味くなるじゃないか。
さて、午後に王宮へ入って、安全企画室に行ったら、再び清掃道具の倉庫になっていた。
どうなってんのと、あらためて扉を見ると、『安全企画室は下記の場所に移動しました』って紙が貼ってある。
この丸っこい文字はサビーナちゃんが書いたんだな。
そう言えば、部屋は工事中だとフランコのおっさんが言ってたのを思い出した。
その案内に沿っていくと、王族の住む部屋に近づいていく。
いいのかなあとそろりそろりと歩いていくと、トイレがあった。
中を見ると、スゲー豪華なトイレ。
って、ここじゃないや。
そのすぐ近くにあったぞ、安全企画室が。
扉がやたら豪華。
装飾がスゲー。
中に入ると、これまた広い部屋。
高い天井。
ふかふかの絨毯。
きれいな分厚いカーテン。
窓もデカい。
キャビネットやら備品も全部新品で高そうなのばっかりだ。
でっかい会議用の机もある。
部屋の真ん中くらいに、サビーナちゃんが豪華な机に座っている。
何だか入りづらいなあ。
室長だけど。
去年は、トイレの隣の狭苦しい元清掃道具用倉庫部屋だったもんな。
入口付近から、声をかける。
「サビーナちゃん」
「プルムさん!」
あたしに気づいたサビーナちゃんが嬉しそうにこちらに歩いてくる。
なんだかすっかり大人だな。
歩き方が優雅だぞ。
体が成熟しとる。
まあ、もう二十一歳だけど。
うーん、けど、ちょっと太ってないかい。
ん? 男からすると、ガリガリに痩せているより、多少太っているほうが魅力的だって? そうなんだ。あたしも太るか。って全然太らないんだよなあ。
だからもてないんだって? うるせーよ!
「サビーナちゃん、お久しぶり。何だか、凄い豪華な部屋ね。入っていいの」
「もちろんですよ。この部屋で一番お偉いのはプルムさんですよ」
ニコニコ顔で笑うサビーナちゃん。
性格は全然変わってなさそうだ。
「これ、お土産。ボルド地域製のチョコレート」
「お気遣いありがとうございます」
「この部屋って、いつ完成したの?」
「プルムさんが、国境へ出発して、次の日ですね」
何だと。
あたしがいなくなって、次の日にこの豪華な部屋にすぐに引っ越したのか。
何か、ひっかかるんだよなあ、嫌がらせかよ。
部屋の奥に大理石のデカい机がある。
これがあたしの使う机か。
何だか大袈裟じゃないのか。
あたしには似合いそうもないんだけど。
この大理石冷たくて、机に顔面を付けて居眠りしたら、凍傷になりそうだ。
部屋の入り口近くに置いてある、豪華な来客用のソファで、サビーナちゃんとお喋り。
「あたしのいない間、一人で安全企画室の仕事は大変だったんじゃないの?」
「いえ、全然楽でした」
「え、そうなんだ。何してたの」
「いつもの官報整理以外は、王様のお相手ですね」
「は?」
「お茶くみとか、王様や王室の方々とお喋りしたり。あと、王様とチェスとかオセロとかトランプゲームの相手してました」
「なによ、そのチョー楽勝な仕事! あたしにはゾンビ軍団やらドラゴンと対決させて、サビーナちゃんはお茶くみですか」
この違いはいったい何なんだよ。
「だって、プルムさんは室長じゃないですか。私は室員ですよ。格が全然違いますよ」
「まあ、そうかもしれないけど」
あたしは死ぬ思いまでして、働かされたっていうのに。
うーん、何だか釈然としない。
「要するに王様やフランコ長官は、プルムさんを信頼しているんじゃないですか。だってドラゴンキラーですよ」
う~ん、そうは思えん。
シーフの勘よ。
弄ばれているあたし。
遊んでるとしか思えん。
あのイガグリ坊主(王様)め。
まあ、サビーナちゃんはいいけどさ。
あのイガグリ坊主(王様)は何の仕事をしているんだろう?
「王様って、サビーナちゃんと遊んでいる以外は何やってんの?」
「まあ、はっきり言って王様は働いてないですね。宝物の整理くらいです。本当はいろんな儀式とかあるみたいなんですけど、面倒くさがって極力やらないみたいです」
なんだか、サビーナちゃんは少し小声になる。
「宝物ってなに?」
「王様だから、いろんな贈り物を貰うんですよ。けど、飽きちゃうと、他の人にあげちゃうようですよ。御下賜品として」
は? いらなくなると賜品として配布してたのか。
あたしが貰った万年筆とかも中古品かよ。
何だか、この下賜品とやらに、統一性がないし、古キズがあったりしたけど、そういう理由だったのか。
表彰式も中古品を配るために開催してたんじゃないのか、あのイガグリ坊主(王様)は。
「サビーナちゃんも何かもらったの?」
「結婚したばっかりですって言ったら、高価なお皿とか、お茶セットとかいっぱいくれました」
「ふーん、要するにサビーナちゃんは王様のごひいきね」
「違いますよ。王様が一番気に入ってるのは、クラウディアさんですよ。遠くから見ているだけで満足だそうですよ」
「まあ、あれだけ美人ならねえ」
なるほど、クラウディアさんはスケベ爺さんのご贔屓か。
多分、世界で一番綺麗な人だから、仕方がないね。
神聖魔法が使えるとかじゃなくて、クラウディアさんが「惨事」官じゃなくて参事官でいられるのは、王様のお気に入りだからかね。
いまだに参事官とやらが、どれくらい偉いのかあたしには分からんのだけど。
「クラウディアさん、いっそのこと王室にお輿入れすればいいのに」
「いえ、遠くから見ているだけでいいんですって」
うーん、確かにあの人を近くに置くと大惨事を招きかねない。
イガグリ坊主(王様)は、慎重派だな。
部屋の窓から、情報省が見える。
お、なんだか眩い光が。
さすがにいい香りはしてこないけど。
クラウディアさんが机に座って、仕事をしているのが小さく見える。
一応、真面目に仕事はしているんだな。
中身はメチャクチャだと思うけど。
「王様が窓から、情報省で働いてるクラウディアさんをよく見てましたよ」
クラウディアさんがいる部屋が全面ガラス張りなのもそのためか。
いやらしいなあ、あのひひ爺のイガグリ坊主(王様)め。
「しかし、ここからだと、小さくしか見えないね」
「双眼鏡使ってましたよ」
「なにー! 双眼鏡だと!」
そうか、あたしが下賜品で貰った双眼鏡はイガグリ坊主(王様)のお古か。
あの双眼鏡のせいでひどい目に会ったのに。
イガグリ坊主(王様)の奴、許さん! と逆恨みする。
「それから、王様は面白い事を言うんですよ。『働いたら負け』って」
えー! 何だって!
『働いたら負け』ってあのイガグリ坊主(王様)が言い出したことだったのか。
ふざけとる!
よし、あたしのモットーからは除くことにする。
今から、『働かざるもの食うべからず』に変更だ!
「ところで、あたしって、王国王宮警備隊長ってのに併任になったんだけど、サビーナちゃん、そんな警備隊あったの知ってる?」
「確か、つい最近発足したようですよ」
「ふーん、けど、なんであたしが隊長なんだろう」
「それはプルムさんがドラゴンキラーだからですよ」
また、ドラゴンキラーかよ。
いい加減にしてほしいぞ。
「けど、王宮警備隊は普段はヒマだと思いますよ。王様がひきこもりで外に出ないんですよ」
「へ? 王様は働かないどころか、ひきこもってんの?」
「まあ、『働いたら負け!』って言ってますから」
うーん、本当かなあ。
ひきこもってるふりをして、いろいろと陰謀を企んでいるんじゃないか。
あの、イガグリ坊主(王様)は。
前から思っているんだけど、ラスボスじゃねーか、本当に。
「けど、今年は大変ですね」
「なんで?」
「皇太子殿下の結婚式がありますので。首都をパレードするから、警備で大変だと思いますよ」
「そうだ、皇太子様、結婚だよ、結婚!」
なぜかガッツポーズをするあたし。
フランコのおっさん、また面倒な仕事をあたしに押し付けたってことなのだろうか?
なんか恨みでもあるんか、あたしに。
とは言うものの、この件をあらためて聞いたとたん、珍しくあたしは張り切ってるぞ!
結婚式よ、結婚式、皇太子殿下の結婚式! 盛り上がるわー!
え? お前の結婚式はどうなってるんだって? うるさいわい! いつかあるわよ!
……あると思う……。
「王室のパレードって、今までは近衛連隊が仕切るのが恒例で、隊長が馬に乗って先導するのが普通だったみたいです」
「確か、今の近衛連隊長って女性じゃなかったっけ」
あたしが警備隊大隊長の時に、挨拶周りに来て会ったなあ。
あれは三年前くらいだったかな。
玄関前にその女性が到着したら、隊員のみんなが窓から見ていて、大歓声があがった。
えらい人気があったなあ。
あれ、名前なんだっけ?
忘れちゃった。
あたしは頭が悪い。
「あの女性の近衛連隊長って、なんて名前だっけ?」
「オリヴィア・デ・ロレンツィ様ですね」
「そうそう、オリヴィアさんだ。あのスーパーモデルみたいな人ね。晴れの舞台にふさわしいんじゃね」
あの人なら、パレードでも見栄えがいいだろうな。
あたしは、馬に乗って華麗な近衛兵の軍服で馬車を先導するオリヴィアさんを頭に思い浮かべた。
「まあ、警備の方については、あたしは裏方で充分よ」
「それが、王様から聞いたんですが、フランコ官房長官が先導は王宮警備隊長にやらせるよう画策しているみたいですよ」
「え? 王宮警備隊長って、あたしのことじゃん。そんな事なんにも聞いてないぞ」
おいおい、あたしは馬になんか乗れないよ!
……………………………………………………
理由を聞くため、四角い顔のおっさんことフランコ官房長官に会いに行く。
官房室に行くと、パオロさんが出てきた。
「あ、プルムさん、お元気でしたか」
「ええ、これお土産です。ボルド地域のチョコレート」
「わあ! ありがとうございます!」
本当はドラゴン秘儀団に殺されそうになったが、パオロさんに文句言っても仕方が無い。
ん? パオロさん、口をちょっともぐもぐしてる。
何だか甘い香りがするぞ。
これは、あたしがプレゼントする前に、すでに自前のチョコを食べてたな。
そんなにチョコばっか食べていて大丈夫かね。
さて、フランコのおっさんの部屋に通される。
「久しぶりだな。国境警備はご苦労だった」
普段は機嫌悪そうなのに、なぜかニヤニヤしている。
「ドラゴンを四匹も退治したんだってな。お前のおかげで、カクヨーム王国との関係も良くなったぞ」
ドラゴンを四匹も普通の人間が倒せるわけないでしょー!
嫌味で言ってるのか、この四角い顔のおっさんは。
おまけに、いつもはあたしを立たせっぱなしなのにソファに座らせやがった。
何か怪しいなあ。
「あのー、王宮警備隊って何人いるんですか」
「今んところお前一人だ」
「は?」
何だよ、それ?
「警備隊本部に、警備騎馬隊というのがあるのは知っているか」
「ええ、警備隊本部前に、馬に乗って整列しているのを見たことありますけど」
「以前のクーデター騒ぎで、私は反乱軍の近衛兵士に殺されそうになったんだ。それで、前々から軍隊とは別に王室を守る警備隊を作りたいと思っていたんだよ」
「警備騎馬隊を使うわけですか」
「そうだ、あらたに王宮警備隊として再編成することにしたんだ」
ふーん、そういやクーデター騒ぎの時、官房長官が殺されそうになったって話があったけど、このフランコのおっさんの事だったのか。
本当は王室じゃなくて、自分を守りたいんじゃないのか?
まあ、作るのはいいけどさ。
「なんで、私が隊長になるんですか? しかも、併任って?」
「警備騎馬隊長が去年度でちょうど定年になったからだよ」
「だったら、今いる隊員の中から、誰か適当な人を昇進させればいいじゃありませんか」
「警備騎馬隊長は大隊長クラスなんだが、他の隊員はみんな平隊員だからな」
「はあ」
「まあ、併任は結婚パレードが終わるまでだ。その後は、適任者を他のところから持ってくる」
「なんで、私なんですか」
「お前はドラゴンキラーだろ。隊長にぴったりだ」
おい、おっさん! またドラゴンキラーかよ!
「今まで、この手の行事は近衛連隊が仕切っていたようなんですけど。近衛連隊は不満を持っているんじゃないですか」
「そういうわけで、明日、会議があって話し合うことにした」
フランコのおっさんは依然として、ニヤニヤしている。
釈然としない。
いつもは怒鳴ってばかりのフランコのおっさんが、妙に機嫌よくニヤニヤしていた。
なんか、おかしいぞ。
フランコのおっさん、なんか隠してないか。
なんか変だなあと思いつつ、長官室を出て、パオロさんに会釈すると、ありゃ、さっきあげたチョコレートが開けられて、もうほとんど無くなっている。
「パオロさん、チョコ本当に好きなんですね」
「アハハ、いやあ、好きなものは好きなんで」
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パオロさんの体調が心配だ。
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