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第63話:初デート

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 ドラゴンも退治されて、その件についてもフランコのおっさんがカクヨーム王国に連絡したらしく、国境も平和になりました。

 しかし、退屈。
 このど田舎は賭博場もない。
 仕方が無く、単なる視察やら見回りのルーチンワーク。

 こうやって年を取っていくのか。
 首都メスト市に帰りたいので、フランコのおっさんに連絡したけど、とりあえず念のためそこにいろって。

 どうも、例の皇太子殿下とカクヨーム王国の女性との結婚話の調整で忙しいらしい。
 ただ、時間が過ぎていく。
 
 え? 恋愛はどうしたって? 
 う~ん、最近、疲れてんのよ。
 眠い。

 眠いなあと、うつらうつらしていたら、ランベルト副隊長があたしの執務室に入って来た。
 執務室で二人っきり。

「プルム隊長、明日は休日ですよね」
「えーと、そうですね」

「明日、二人で湖に行きませんか」
「はあ、視察ですか」

「近くに素敵なお茶屋さんがあるんですよ」
「ああ、そうですか。わかりました」

「では、失礼します」
「はい、お疲れ様です」

 あたしも宿舎に帰る。
 さっきの会話を冷静に考える。
 えーと。

「休日に」
「二人で」
「湖の近く」
「素敵なお茶屋さんに」
「行く」

 ウォ!
 こ、これ、デートの誘いじゃない! 
 ヤッター! 神はあたしを見捨ててなかったわ。

 初デート! 初デート!
 純然たる本当のデート! 
 マジにデート!

 二十二歳にして初デート! 
 舞い上がるあたし。
 乙女心がヒートアップ! 

 部屋を飛び跳ね、ベッドヘタイブ! ベッドの上をゴロゴロ転がる。
 ベッドから落っこちて、部屋の隅まで転げていく。

 何、着ていこう? 
 お化粧はどうしよう。
 ちょっと、化粧してみた。

 ピエロになった。
 だめだ、こりゃ。
 
 一旦、顔を洗ったら、すっぴんのほうがいいじゃない。
 悩んだすえ、ナチュラル・メイク。

 普段すっぴんだからそれでいいや。
 くそー、もっと化粧の練習しとけばよかった。

 その代わり、かわいいスカートを履こう。
 って、急に派遣されたから、そんなもん持ってこなかったぞー!
 仕方が無い。

 一番マシな、上は白いシャツ、下は水色パンツ姿にした。
 うむ、一応、清潔感はあるな。
 かわいいポシェットを持って行く。
 寝る。
 眠れん!

……………………………………………………

 翌日。
 待ち合わせ場所の近くの大きな木に上って、双眼鏡で監視するあたし。
 五時間前に来た。

 昨日は緊張で眠れんかった。
 もしかしたら、ふざけていたのか、だましていたのか、からかっていたのか、はたまたドラゴン秘儀団の残党がまだ残っていて復讐に来たのか。

 あ、ランベルトさんが来た。
 ホントに来た! 

 約束の時間の五分前。
 現実よ!
 五分ほど待つ。

 よし、突撃だ!
 ちょっと小走り。

 まるで今着たように、さりげなく近づく。
 ランベルトさんがあたしに気付く。

「ごめんなさい、待った?」
「いいえ、ちょうど今来たところですよ」

 微笑むランベルトさん。
 くう~、この会話、このシチュエーション、何度夢見てきたことか。

 三千回は妄想してたぞ。
 ガッツポーズをしたくなるが、我慢する。

 湖でボートに乗る。
 夢にまで見たこのシチュエーション。

 周りは、きれいな湖の風景。
 ボートだ! ボートだ! 

 イケメンと二人っきりでボートだ!
 本当に夢じゃないのか。

 ランベルトさんがお勧めの、湖近くの素敵なお茶屋さんに入る。
 うっ、しまった。!

 待ち合わせ場所に五時間前に来たので、トイレに行きたくなった。
 う~ん、我慢できない。

 けど、恥ずかしい。
 言いだせん。

 ああ、けど我慢出来ない。
 漏らすよりはましだ。

 トイレ以外で、もっといい単語があったはずだ。
 頭が悪くて、緊張しているあたしは度忘れ。 

 便所だっけ。
 違う。

 化粧直しかな。
 けど、ほぼすっぴんだもんなあ。

 そうだ、お手洗いだ。

「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってきます」

 今のセリフ、自然よね!

 トイレで用を足す。
 ああ、すっきりした。

 鏡を見ると、ゲッ! またアホ毛が立っている。
 クソー! いつの間に。
 
 トイレでアホ毛を直していると、なんだか店で騒ぎが起きている。

「なんなのよ、あのちんちくりんの女は」

 ちんちくりん?
 もしかして、あたしのことか。
 何のこっちゃ。

 トイレから出ると、ランベルトさんと女が言い争いをしている。

「あのー、どちらさまですか」
「ランベルトの妻だけど」

 へ?
 結婚してたの、ランベルトさん。
 じゃあ、浮気じゃないの。

 あたしがびっくりしていると、もう一人の女が、またランベルトに近づいて来た。

「あんた、独身じゃなかったの」

 ランベルトさんに怒っている。
 きょどっているランベルトさん。
  
 憮然とするあたし。

「私は、降りますので」

 怒って、さっさと帰る。
 残りで言い争いをしているけど、もう、知らん。

 せっかくの初デートが悲惨な思い出になってしまった。
 三股かけられた。
 いやなん股かわからない。

 イケメンだから仕方がないのかね、まあ、女として見てくれてありがとう。
 じゃねーよ!

 その後、ランベルト副隊長とは事務的な関係になった。
 今回はあたしが振ったってことになるんかな? 

 どうでもいいけど。
 どっちにしろ、恋愛不成立。

 恋愛活動連敗記録を更新してしまった。
 人生ちとつらくなってきた。

 え? もうあきらめろって? うるさい!
 クソー! 純愛よ、純愛!
 純愛、純愛、純愛、純愛、純愛!
 とにかく純愛を貫き通すの!
 とは言うものの……。

 突然、鼻くそ男の顔が浮かんでくる。チェーザレだ。

『妙にこだわると処女をこじらせて、ずっとそのまんまだぞ』

 ウルセー! と叫びたくなったが、最近、弱気なあたし。

 イケメンばっか追い回しているからそうなるんだって? 外見だけじゃないぞって?
 だいたい、自分の顔覚えているのかって? 

 うるさいぞー!
 
 とにかく、イケメンは心もイケメンじゃないと。
 え? そんなイケメンはいないって?
 女の方から近寄ってくるって?

 だいたい、お前もイケメンに近寄っているじゃないかって?
 仕方がないぞって?

 うーん、そうなのかなあ……。

 いや、リーダー。
 リーダーは誠実な人よ。
 やはりリーダーこそ、あたしの理想よ!
 
 純愛原理主義者とか言って、リーダーに懸想しながら他のイケメンを漁るとは、どこが純愛なんだって? うぬぬ、そうかもしれん。

 だいたい、リーダーはアデリーナと結婚してんじゃんって? そうだよなあ。
 ううむ。

 なんだか暗くなるあたし。
 これから、あたしの恋愛活動どうすればいいんじゃ!
 
……………………………………………………

 ある日、王国官房室から電報が届いた。

『ナロード王国王宮警備隊長(併任)に任命する。至急戻られよ』

 また異動か。
 まあ、ここは飽きた。

 もう清々したわ。
 賭博場も無いし。

 あれ、王宮警備隊なんてあったっけ?
 あと、また併任かよ。
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