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第60話:国境警備隊長になった

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 あたしの名前はプルム・ピコロッティ。
 ナロード王国国境警備隊長(併任)だ。

 スラム街に食料が支給されたそうだ。
 フランコ官房長官に伝えた結果、政府が動いたらしい。
 こんないい加減なあたしでも、世の中の役に立ったのかと思うと少し嬉しい。

 ところで、今、あたしはナロード王国とカクヨーム王国の国境付近にいる。
 ボルド地域と呼ばれている。
 何度もカクヨーム王国と領土争いをした地域だ。
 
 時間を巻き戻す。

……………………………………………………

 ゾンビ退治も終わり、また安全企画室で、官報の整理。
 サビーナちゃんから、いろいろとダリオさんのおのろけ話を聞かされる。

 毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、ダリオがなにした、あーした、こーした、そーした、どーしたって喋りまくるんよ。
 ツレーヨ。

 サビーナちゃんは悪くないけどさ。
 去年は楽しかったなあ。

 癒し系のサビーナちゃん。
 今はつらいぞ。

 癒しどころか、拷問よ。
 何とかしてくれ。

「ダリオさん、ホンットに! ヤサシーのねえー。どこでもいつでも優しいのね。自分がソファとかで昼寝してるときも優しいの?」

 あたしは少し嫌味っぽく言う。

「はい、ベッドの上でも優しいです」

 ニコニコ顔のサビーナちゃん。
 おい、おい、おい、なにきわどい発言してんの! 

 どうやら本人も気づいてないみたい。
 頭の中はダリオだらけ。
 新婚呆け状態。

 ったく、あたしはベッドの上で男性に優しくされたことなんて一度もないし、だいたい、一人でしか寝た事ないぞー!

 なんて、思っていたら部屋の扉が開き、官房長官室の秘書官で癒し系青年のパオロさんが入ってきた。

「また、お手伝いしましょうか」

 例のブランドチョコを手土産に持ってきた。

「ありがとうございまーす」

 あたしは、ほっとする。

 サビーナちゃんのダリオさんのろけ話から世間話へ。

「皇太子殿下が結婚されるそうですよ」

 パオロさんが教えてくれた。
 ふーん、殿下も来年で、もう三十歳だもんな。

「それで、お相手は」
「うーん、そこまでは知りません」

 なんだ、単なる噂話かいな。
 まあ、王室も大変ね。
 誰でもいいってわけじゃないからなあ。
 
 あたしは誰でもいいぞ。
 ってわけじゃない。
 しかし、寂しいなあ……。

 え? お前に選ぶ権利があるのかって? ウルセーヨ!

 パオロさんとお喋りしながら、つまらん官報整理をしていると、あれ、なんかいい香りがしてきたぞ。
 扉の隙間から眩い光が入ってきた。
 ノックの音がした。

「開いてますよ」
「お仕事中、失礼します」

 情報省参事官で天然女神のクラウディアさんが入ってきた。

 今日のファッションは、迷彩柄のTシャツに迷彩柄のショートパンツと黒いブーツ。
 綺麗だけど、太股が色っぽすぎ。
 そんな恰好で仕事していいのかね。

 しかし、よく見ると、迷彩柄かと思ったら、緑色や黒色や茶色の犬の影絵の組み合わせだ。
 どこで買ったんだ?

 どーゆーファッション感覚なんだ、この人は。

「クラウディア様、突然、何用でございますでしょうか」
「申し訳ありません。仕事の件じゃないんです」

「と言いますと?」
「今度、ヨガ教室を開くんです。皆さんもよかったら参加しませんか」

 ニコニコしながら、チラシをくれた。
 どうやら、個人的にヨガの勉強をして、インストラクターの資格を取ったらしい。

 そういや、ヨガの本を読んでいたなあ。
 チラシを見ると、情報省福利厚生室とある。

「こんな場所があったんですか」
「割と大きい部屋で、普段はエアロビクスとかやっているみたいですね。プルムさん、どうですか。もちろん、無料ですよ」
「面白そう、プルムさん、行きましょうよ」

 サビーナちゃんも乗り気だ。
 ダリオさん以外にも興味を持つのねと嫌味を言おうと思ったが、やめた。

 自分が情けなくなる。
 まあ、クラウディアさんがわざわざ来て下さったので、ちょっと参加してみるか。
 
 しかし、ヨガと言うと、クラウディアさんが教皇庁で行方不明になったことがあったなあ。
 実際は、応接室のソファの陰でヨガの瞑想やらしてたら、そのまま熟睡してた。
 正直、アホじゃねと思ったけどね。

 しかし、教皇庁と言うと、ああ、フランチェスコさんの顔が思い出される。
 やっぱり寂しい……。

 ん? 気が付くとパオロさんが、バクバクと自分が持ってきたチョコレートを食べているぞ。

「では、皆さんお待ちしております」

 クラウディアさんが帰っていった。
 すると、パオロさんはチョコを食べるのをやめた。
 怪しいぞ。

「パオロさん、クラウディアさんと何かあるんですか?」

 わざとらしく聞いてみる意地悪なあたし。

「い、いやあ、な、何もないですよ」

 またバクバクとチョコレートを食べているパオロさん。
 パオロさん、こりゃクラウディアさんに惚れてるな。

 まあ、あれだけ美人なら、嫌いな男性はいないでしょう。
 美人と言っても、中身はメチャクチャな人ではあるけどね。

 でも、パオロさんにクラウディアさんの事で、ちょっかいをかけるのはやめておこう。
 チョコを全部食われてしまう。

 つーわけで、翌日の昼休み、クラウディアさんが講師のヨガ教室なるものに行ってきた。
 情報省三階の福利厚生室に行ってみる。

 入ると、広い部屋で壁一面が全面鏡張り。
 すでに、三十人くらい女性がいる。

 お、いい香りがしてきた。
 クラウディアさんが入ってきた。
 ウォ! 眩しい。

 と言っても、ごく普通の黒い長袖レオタードと白いタイツ姿なんだけど、なんだこの眩しさは。何を着ても似合うとは羨ましい。頭の美しい金髪はアップにしてまとめている。お、まとめている髪飾りに犬のマスコットを発見。

 クラウディアさん、スタイル抜群ではないか。
 もう少し、背が高ければスーパーモデルだな。

 で、鏡にはその美の女神みたいなクラウディアさんが映っている横に、色気ゼロで、上下赤いジャージ姿のチビがいる。

 ジャージの脇には、ださい白い線。
 あたしのことだ。

 まるで中学生。
 おまけにジャージの片方の膝に穴が空いていて、頭には例の間抜けなアホ毛が立っている。

 この自分のしょぼくれた格好。
 干物のような女が映っている。

 同じ生き物とは思えない。
 なんて、この世は不公平なんだ。
 やれやれ。

 さて、ヨガの講習会だが、いろいろとクラウディアさんがポーズを取ってくれるんだけど、それを真似するのが、けっこう難しい。

 サビーナちゃん意外にも苦戦している。
 あたしは、なんとかついていける。
 けっこう体が柔らかいんだなと自分でもわかった。

「プルムさん、うまいですね」

 クラウディアさんに褒められる。
 まあ、嬉しいですけど、外見がこれじゃあ、どうしようもないですね。

 あれ、よく見ると端っこに一人ジャージ姿の男性がいる。
 パオロさんではないか。

 クラウディアさんのレオタード姿を見に来たのかな。
 もう、このむっつりスケベ。

「これからは上級者用なので、無理な人は見てるだけでかまいません」

 クラウディアさんが、思いっきり背中をそらして、一旦ブリッジ状態になり、片足だけまっすぐ天井に伸ばす。

 うーん、これはかなり大胆なポーズだな。あたしには出来ないなあって、見てるだけにしていたら、パオロさんが前かがみで部屋を出て行った。
 お腹でもこわしたのか?
 ん? あんまり聞かないほうがいいって? そう、じゃあ聞かない。

 で、最後は瞑想のポーズ。
 瞑想してたら、寝ちゃった。

 サビーナちゃんにそっと起こされた。
 けど、なんかすっきりした感じがする。

 さて、ヨガ教室も終わって、安全企画室に戻ると、フランコのおっさんに呼び出された。
 官房長官室に行く。

「なんでしょうか」
「国境に行ってくれ」

 辞令を渡される。

『ナロード王国国境警備隊長(併任)に任命する』とある。

「何ですか、これ」
「北東にあるボルド地域という場所を知ってるか」

「えーと、隣のカクヨーム王国と領土問題で何度も戦争になったとこですね」
「そこに行って、警備隊の指導をしてくれ」

「なんで、あたしなんですか」
「向こうの希望だよ」
「は?」

 あたしってそんなに有名なのか。
 指導ってなんだ? 

 さぼりのやり方かよ。
 それとも万引きか。
 最近、万引きはやってないんだよなあ。

 ギャンブルの指導か。
 この前大勝利したのが伝わっているのか。
 そんなこたーないわね。

「併任ってなんですか」
「そのままだ。二つの職務をやるってことだ」

「できませんよ、一度になんて」
「まあ、とにかく現地へ行って、国境警備隊長の職務に専念しろ」

「その間、安全企画室の仕事はどうするんですか」
「サビーナがいるだろ」

「大丈夫ですか、サビーナちゃんで」
「心配すんな。私がフォローする」

 仕方なく、あたしはサビーナちゃんに安全企画室の事はまかせて、ボルド地域まで乗合馬車を乗り継ぎながら、目指すことになった。

 乗合馬車の窓から見ると、鉄の棒を平行線で並べているのが見えた。
 他の客に聞いてみた。

「あれは何をひいているんですか」
「鉄道線路の設置工事ですね」

 その線路の上に、蒸気機関車というものを走らせる計画のようだ。
 数時間でボルド地域まで行けるようになるんだと。
 ほんまかいな。

 二日がかりで、安宿に泊まりながら、ボルド地域に到着した。
 国境警備隊本部を訪問する。

 施設の入り口で、ランベルト第一副隊長とバルトロ第二副隊長が出迎えてくれた。
 お、ランベルト第一副隊長なかなかのイケメンだ。
 三十代かな。

「こちらが呼んだとはいえ、かの有名なドラゴンキラーが来るっていうんで、みんな戦々恐々してたんですよ。そしたらこんな可愛らしい人が来るなんて、あ、いや、失礼」

 ランベルト第一副隊長が笑いながら、握手を求めてきた。
 
「アハハ、いや、気にしないで」

 イケメンに可愛らしいと言われて、舞い上がるあたし。
 おっと、ダメダメ、もう二十二歳だからね。
 もう大人なんよ。

 子供じゃないから、もっと落ち着かなきゃ。
 外見は全然変わってないけど。
 中身もあんまり変わってないか。

 まあ、焦ってはいるけどさ。
 いまだに乙女だし。

 国境警備隊庁舎は、白い一階建ての建物だが、かなりデカい。
 あたしには個室を用意してくれた。

『国境警備隊長(併任)』とプレートが扉に付いている。

 なんだか偉そうだな。
 ところで、併任じゃない隊長さんはどこにいるんだ?

 会議室に通される。
 幹部クラスが十人ほど、すでに座っていた。
 
 ゾンビ事件で手柄をとったのに辺境の地に飛ばされるとは。
 懲罰人事かよと思ったんですけど。
 けっこう重要な職務みたい。

 隊員数は百五十名。
 警備大隊と同じ程度だな。
 
 ランベルト副隊長から説明を受ける。

「カクヨーム王国との非武装中立地帯にドラゴンが出現したと目撃情報があったんです」

 えー! ドラゴンが出現したなんて聞いてないよ。
 フランコのおっさん、ちゃんと事前に教えてくれよ。

 それとも教えたら、あたしがトンズラすると思ったのか。
 肝心のドラゴンの大きさは、六年前にニエンテ村に現れたレッドドラゴンのようなバカでかい奴ではなく、通常の大きさではあるようなんだけど。

「ドラゴンが出現したことは極秘になっております。新聞社にも知らせておりません」

 ドラゴンが現れて、併任でない本物の隊長さんはストレスで倒れて入院中だそうだ。
 おいおい、あたしも逃げたくなったぞ。

 けど、相手はモンスターだもんな。
 あたしはランベルト副隊長に質問した。

「こっちがドラゴンを刺激しなければ、また、どこか他の場所へ去って行く可能性もあるんじゃないですか」
「それが、どうも人間に操られているようなんです」

 ランベルト副隊長が困った表情を見せた。
 あれ、ドラゴンって人間には操れないって、以前、クラウディアさんが言ってたけど。

「軍隊がドラゴンも倒せる巨大な大砲を持っていたはずですけど。それを設置できないんですか?」

 またあたしがランベルト副隊長に質問する。

「ここに設置して、カクヨーム王国を刺激するとまずいんです。相手を刺激して、また戦争になりかねない」

 と言うわけで、ドラゴンキラーのあたしの出番だそうだ。
 だからと言って、あたしに剣で倒せって言うんかい!

 おいおい、本当にドラゴン倒したんなら、すごく頼りになるだろうけど、あたしは違うんだけど。期待されたって困るよ。
 フランコ官房長官わかってんのかなあ。

 それとも、あのイガグリ坊主(国王)の陰謀か。
 不信感が増大するあたし。

「とりあえず、今日は遅いのでプルム隊長には、宿舎にご案内します」

 ランベルト副隊長が連れて行ってくれた。
 なかなか、広くて住みやすそうな宿舎だなあ。

 しかし、部屋の中に入っても、ベッドヘタイブ! する気も起らん。
 ベッドの端にちょこんと力なく座る。

 ふざけんな! フランコの四角い顔のおっさん、またはイガグリ坊主(王様)!
 あたしが『ドラゴンキラー』なんてもんじゃないって知ってるはずだろ!

 あたしにドラゴンを倒せるわけないでしょー!
 あたしに「死ね!」って言ってるようなもんじゃん。

 トンズラするか?

 けど、隊員たちを放っておくわけにはいかないよなあ。
 戦争になったら、なお、まずいし。

 冷静に考えるぞ。
 ドラゴンは人の言うことはきかないはず。

 しかし、報告では人間によって操られているようだ。
 もしかして、また、ドラゴン秘儀団の連中か。
 残党かね。

 また、あいつらか。
 しつこいね。

 これを最後に潰してやるぞ!
 って、どうすりゃいいの?
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