ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険

守 秀斗

文字の大きさ
上 下
58 / 82

第58話:マリーオ・バーバと対決

しおりを挟む
「プルムさん、起きて下さい」

 ダリオさんに揺り起こされた。
 ふう、ぐっすりと眠ってしまったようだ。
 ダリオさんのマッサージのおかげかな。

「これをどうぞ」

 渡されたのが、きれいに縫われたズボン。
 あたしより全然うまいね。

 ズボンを履いて、懐中時計を見ると、午前十一時。
 ダリオさんに缶詰を出されて、朝食兼昼食をとる。

「とりあえず、この場所から離れましょう」
「はい」

 部屋に割れた鏡があって、ちょっと顔を見たら、ありゃ、例のアホ毛が立っていた。
 けど、今はアホ毛にかまっているヒマは無い。

「ダリオさん、どちらへ行くつもりですか」
「高い建物へ行って、屋上から双眼鏡で周囲を見渡してみるのはどうでしょうか」
「ああ、それはいい考えですね」

 今日は快晴だ。
 これがデートならどんなによかったことか。

 実際は、地上に転がっている死体をよけて、小さい路地から大通りに戻る。
 ひとブロック先に四階建ての立派な建物があった。
 その建物の前に大きい広場がある。

 とりあえず、そっちへ向かって二人で路上を歩いていると、男の大声が聞こえてきた。

「おい、ダリオ」
「その声はマリーオさんですか」

 ダリオさんが答える。
 見回してみるが、声が建物に反響しているのか、どこから呼びかけているのかよくわからない。

「お前に会うとは思わなかったな。てっきり、あの目立ちたがり屋のルチオのクソじじいが来ると思ってたんだがな。まあ、そこのアホ毛女と一緒にゾンビに喰い殺されればいいさ」
「もう、こんなことはやめて、当局に自首してください」

「ふざけるな! お前が大学本部に通報したからクビになったんだぞ」
「私は通報なんてしてません。あなたのことが心配でルチオ教授には相談しましたが」
「あのろくでなしのルチオは、お前が俺のことを危険人物だからクビにしろと進言してきたと大学本部から聞いたんだけどな。で、余った研究費は自分にくれとさ」

 もしかして研究費が欲しいから、このマリーオって人をクビに追い込んだのか。
 ルチオ教授、ちょっとひどくないか。

「あなたのためを思って相談したんです。それに、自分から辞めたんじゃないですか」
「教授会に呼び出されて、つるし上げになって仕方なく辞めたんだ。クビと大して変わらんよ。だいたい、なんで俺より十五歳年下のお前がさっさと、講師、准教授、教授に、とんとん拍子に出世して、俺が四十過ぎても助教のままだったんだよ」

 うーん、こりゃ、嫉妬も絡んでいるね。
 どうやら、犯人のマリーオは年下のダリオさんに先を越されたんで、焦って研究成果を出そうとして、逆にゾンビにはまってしまったみたいだなあ。

 しかし、昼間ならゾンビも居ないので、場所さえ分かれば、フランコのおっさんが言っていたように簡単に捕まえられるとあたしは思っていたんだけど。

 嫌な匂いがしてきた。
 奇声とうめき声が聞こえてくる。
 真っ昼間にゾンビが現れた。

 前後にそれぞれ、八人、計十六人いる。
 また、挟み撃ちだ。
 
 あたしはびっくりして、ダリオさんに聞く。

「ダリオさん、なんで、こんな真っ昼間にゾンビが現れるんですか」
「いや、私にもわかりません。ゾンビは夜にしか現れないはずなんですが」

 ダリオさんも焦っている。

「ダリオ、お前の研究もいい加減だったってことだな」

 マリーオの笑い声が聞こえてきた。
 すぐ近くに隠れてはいるんだろうけど、どこにいるか分からない。

「とにかく応戦しましょう」

 あたしは、高い建物へ逃げるため、その方面から来るゾンビをライフルで撃つ。
 ダリオさんは逆から来るゾンビと応戦している。

 あたしは、五人撃ち倒した。
 残りは三人。

 あれ、その三人なんだけど、見覚えがあるぞ。
 先頭のゾンビより、やや後ろにいる二人。

 まさか、あれはアベーレにベニート!
 じゃあ、前にいるゾンビは、もうガリガリに痩せて、骸骨同然だけど、チェーザレじゃないか!

 着ている服、死んだときと同じだ。
 黒い背広でノーネクタイのゾンビ。

 どうしよう。
 そんな、撃てないよ。
 あたしは、ライフルの引き金を引こうとしたが、指先が振るえて力が入らない。

「どうしたんですか、プルムさん!」

 ダリオさんがチェーザレたちにライフルを向けるが弾が出ない。
 弾切れのようだ。
 
 もう目の前にいる、チェーザレたちのゾンビが襲いかかってきた。
 ごめん、チェーザレ、アベーレ、ベニート!

 あたしは三人の額を次々と撃ち抜く。
 チェーザレたちは路上に倒れた。

 幼馴染の頭を撃ってしまった。
 ショックで呆然と突っ立っているあたしの手をダリオさんが引っ張って、そのまま、四階建ての建物に逃れた。

 最上階まで上る。
 人気のない部屋に入って、隠れることにした。
 
 よく、ホラー小説でゾンビになった友人を撃つ場面があるけど、のほほんと読んでいた。
 まさか、自分がそんな事をするはめになるとは。

 実際はえらいショックだ。
 苦悩するあたし。

「なんで撃たないんですか。もう少しでやられるところでしたよ」

 ダリオさんがちょっと怒っている。

「ごめんなさい。さっき撃った三人は、私の知り合いだったんです……」
「え、そうだったんですか」
「特に一人は、ちょっと行き違いがあって、最後に会った時、ひどいことを言ってしまったんです。いつか謝ろうと思ってた人なんです」

 謝るどころか、頭を撃ってしまった……。
 涙がポロポロとあふれてきた。

 泣くあたしを優しく抱きしめてくれるダリオさん。
 乙女心がヒートアップ!
 しない。

 ただ、悲しいだけ。

 少し経って、ダリオさんが優しく気遣ってくれる。

「落ち着きましたか」
「はい、申し訳ありませんでした。取り乱してしまって」

 あたしは、少し冷静さを取り戻した。
 マリーオがゾンビのすぐ近くにいることは、はっきりした。

 あたしのことを「アホ毛女」と呼んだ。
 アホ毛なんて近くにいなければ見えない。
 それにしても、死体を操るとは許せん。

「私たちがこの建物にいるのはわかっているのに、襲ってきませんね」
「さっきも人数が少なかった。もしかしたら、昼間で操れるゾンビの人数は少ないかもしれません」

 確か、八人ずつ、十六人で挟み撃ちにしてきた。
 しかし、弾は後、二発しかない。

「ダリオさん、一旦、撤退しましょうか」
「いえ、私が囮になります。そこの広場の中央に私が立てば、ゾンビたちは襲って来るでしょうが、かなり広いので、ゾンビを操るために、マリーオは必ず姿を現すと思います。プルムさんは探して撃ってください」

 なんと、勇敢な人だなあ。

「大丈夫ですか」
「マリーオは私を憎んでいるようです。しかし、私にも責任があります。ルチオ教授に相談したのが間違いだったのかもしれません。本当は、彼に自首してもらいたいんですが」

 なんか、責任感もあって、誠実な人だ。
 ルチオ教授や、その弟子だったカルロさんに聞かせてやりたいな。
 まあ、あたしもいい加減女だけど。

 ルチオ教授と言えば、突然、あたしは思いだした。
 確か、オガスト・ダレスの狼男事件の時は、本を閉じれば、人間に戻ったなあ。
 ゾンビも、本を閉じれば死体に戻るんじゃないか。

「マリーオ本人よりも、ゾンビを操っているのに使用している本を撃てばいいんじゃないですか」
「それはまかせます。プルムさんを信じます」

 よし、イケメンに信じますと言われたら、もう張り切るしかないぞ!

 建物の前に出て、大きい広場の中央にダリオさんが立つ。

「マリーオさん、話し合いましょう」

 あたしは、二階まで降りて、窓からこっそりと双眼鏡でマリーオを探す。

「何を話すって言うんだよ!」

 マリーオが怒鳴っている。
 その声の方へ目を向けるが見当たらない。

「自首していただければ、ルチオ教授のいい加減さを証言して、裁判をあなたの有利な方へ持って行くようします」
「今さら、そんなことしたってしょうがないだろ。そういや、さっきのアホ毛女はどこに行った」

「彼女はもう逃げました」
「そうか、じゃあゾンビに喰われて死んじまえ、ダリオ!」

 奇声と唸り声が聞こえてきた。
 また、ゾンビが現れた。

 ノロノロと歩きながらダリオさんを取り囲むように、ゆっくりと近づいていく。
 しかし、マリーオが見当たらない。

 あたしは、焦って、そこら中、双眼鏡で探すがいない。
 まずいぞ。

 いったん、双眼鏡じゃなくて、自分の目で見る。
 そこで、あたしは気づいた。

 ゾンビたちは十七人いる。
 さっきは十六人だった。

 マリーオは、あのゾンビ集団の中に紛れ込んでいるんじゃないだろうか。
 再び、双眼鏡でゾンビたちを見る。

 ダリオさんにゾンビが襲いかかろうとした瞬間、双眼鏡であたしは見つけた。
 他のゾンビたちと違い、本を持っているのがいる。

 ゾンビが本を持つわけない。
 そいつが持っている本を狙って、撃った。

 命中!

 本が地上に落ちて閉じると、ゾンビたちは一気に倒れて、死人に戻った。

 慌てて本を拾おうとするマリーオの足を撃つ。
 倒れて、足をおさえているマリーオをダリオさんが捕まえた。
 あたしは急いで一階に下りて、ダリオさんのもとへ走った。

「ダリオさん、大丈夫ですか」
「ええ、危ないところでしたね」

 ちょっとダリオさんが笑った。
 手錠かけると、マリーオはあきらめたのか、すっかり大人しくしている。 

 本を拾ってみると、表紙に金の五芒星が描いてあった。

「これはネクロノミカンなの」
「ああ、そうだ」

 マリーオが言うには、普通サイズの本だけど、ネクロノミカン簡易版でゾンビ限定版だそうだ。
 それを使って、昼間でもゾンビを操られるようになった。

 但し、昼間は十六人が限界だそうだ。
 そう言えば、オガスト・ダレスの狼男も十六匹だったな。
 偶然なのだろうか?

 このネクロノミカンはダークスーツの男に貰ったそうだ。
 あれ、オガスト・ダレスもダークスーツの男に貰ったとかいってたなあ。
 何か、怪しいぞ。

 誰かが裏で操っているんじゃないか。
 しかし、目的が分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...