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第42話:ジェラルドさんに告白する

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 あたしは、ジェラルドさんを警備隊庁舎の屋上に呼び出した。
 屋上の端っこでそわそわするあたし。

 人生、初の告白だ。
 リーダーの時は、告白できなかったからね。
 けど、勘違いだったら、どうしよう。

「お前のことなんか好きになるわけないじゃん、アハハ!」

 大爆笑するジェラルドさんを想像するあたし。
 ああ、やっぱり呼び出さなければよかったかなあ。
 なんて考えていたら、ジェラルドさんが来た!

「何でしょうか、プルム小隊長」

 ジェラルドさんは真面目な顔をしている。
 真面目な顔していると言いにくい。
 勤務時間中だし。

 ああ、いいや、言ってしまえ!
 って、何て言うんだっけ。

 えーと。
 とりあえず、お付き合いかな。

 あたしは顔面真っ赤。

「で、出来れば、あの、私と、そのお付き合いをしていただけないでしょうか」
「申し訳ありません」

 即行で頭を下げるジェラルドさん。

 ……わずか一秒で振られた。

 ギネス記録級ね。
 やっぱり勘違いか。
 そうか、仕方がないな。

 あれ、全然ショックじゃないぞ。
 何だろう、この不思議な感覚は。

 あたしがボーッとしていると、ジェラルドさんがさめざめと泣きだした。
 あれ、なんで泣いてるの、この人。

 この場合、泣くのはあたしの方なんじゃないの。
 あたしが告白すると目が痛くなるのか。

 この人、花粉症なの。
 花粉の季節だっけ。

 今は秋だぞ。
 それとも、お前は花粉みたいな女だって言いたいのか。

「……本当に申し訳ありません。あなたを誤解させてしまったかもしれません」
「はあ」

 冷静なあたし。
 いや、冷静と言うより頭がボンヤリとしている。
 おっと、急に思い出してきたぞ。

 前にバルドが言ってたなあ。
 何だっけ。
 なんとかバイアス。

 そうだ、思い出した。
 これがあの「正常化バイアス」ってやつか。

 あんまりショックなんで、振られたのに逆に冷静になってる。
 ジェラルドさんに告白したことが、あたしの心の中で無かった事になっているんだ。

「実は、あなたと仲の良い人に近づきたくて、けど、怖くて、出来れば仲を取り持ってほしいと思って、何度もあなたのところに行ったんです。申し訳ありません」

 まだ泣いているジェラルドさん。

 あ、そうなんだ。
 ふーん、あたしの小隊には何人か女性隊員がいるけど、あたしと仲が良い独身女性はサビーナちゃん。

 サビーナちゃんが好きなのね。
 まあチャラ男のロベルトよりはマシか。
 チャラ男に弄ばれたあげく捨てられるより、泣いているけど、この誠実そうな男性の方がいいかもね。

「分かった。仲を取り持ってあげる。本人次第だけど」
「ええ、本当ですか。ありがとうございます」

 まだ泣いているジェラルドさんに固く握手される。
 何だかどうでもよくなってるあたし。

「大丈夫。ちゃんとうまく伝えてみるから」

 そう言いつつ、遠い目になってるあたし。

「是非ともお願いします。彼によろしくお伝え願います」

 嬉し泣きするジェラルドさん。

「は? 彼?」

……………………………………………………

 ジェラルドさんは男が好きだったのか。
 好きな相手はチャラ男ことロベルト。

 まあ、仲を取り持ってやろう。
 だって、泣いてお願いされちゃったら、しょうがないじゃない。

 但し、ジェラルドさんには、あたしが告白したことは口止め。
 けど、見込みないんじゃないかと思った。
 相手はチャラ男じゃん。

 密かに会議室へロベルトを呼んで、もう単刀直入に聞いたんよ。
 ジェラルドさんのことは隠して。

 あんた、男が好きかって?
 すると、チャラ男ことロベルトは「ウヒャヒャ!」と笑う。

 そりゃそうだよねとあたしは思ったんだけど。

「よく分かりましたっすね。さすがはドラゴンキラーっすね」
「へ?」

 おいおい、本当かよ。
 あと、この場合ドラゴンキラーは関係無いだろ。

 ジェラルドさんみたいなのはタイプかって聞いてみたんよ。

「おー! ド真ん中ストライクっす」

 ホントかよー!
 で、ジェラルドさんのことを伝えたら喜んじゃって。

 去年、ロベルトが主催した女だらけのハーレム懇親会は何だったんだろう。
 どうも自分のセクシャリティを隠したかったみたい。

 ああ、疲れた。
 けどさ、あたしは何なのよ。

 疲れて、寮に帰る。
 寮母のジュスタおばさんに廊下で会ったので、聞いてみた。

「以前、ジェラルドさんがお前の事をじっと見てたよって言ってたけど、それ、いつのことですか?」
「あんたが、あのロベルトって変な奴と運動場にいたときだよ」

 ジェラルドさんはロベルトを見てたのね。
 がっくり。

 自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
 ぐったりとして寝た。

……………………………………………………

 ジェラルドさんとロベルトの結婚式に行きました。
 職場関係は、さすがにあたしだけ。

 あたしは二人の仲を知っているので、招待されてしまった。
 あんまり、行く気がしなかったけど。
 いや、差別は良くない。

 しかし、やはり、あまり気持ちのいい感じがしないなあ。
 男ばっかの結婚式。

 女性の恰好してる人もいるけど。
 でも、うーん、どうも居心地が悪い。

 盛り下がるあたし。
 いや、差別は良くないぞ。

 マッチョ系の男性同志のカップルが多い。
 頭はスキンヘッドで、ヒゲを生やして、筋肉ムキムキ。

 気持ち悪いなあ。
 いや、差別は良くないです。

 なぜか、やたらと声をかけられる。
 どうも、男の子に間違えられてるみたい。

 こんなに男性に声をかけられたのは、人生初めてだぞ。
 けど、嬉しくない。
 いやいや、とにかく差別は良くないですよね。

 けど、盛り上がらんなあ。
 まあ、ジェラルドさんとロベルトが幸せならいいか。

 あれ、ジェラルドさんが花束を投げた。
 何してんの? 

 ああ、ブーケトスか。 
 ジェラルドさんが花嫁なんか?
 と考えてたら、花束があたしの手に自然と落ちてきた。

 周りの皆さんから大拍手。
 これって、運が良いのか、悪いのか。

 困惑するあたし。
 いったい、これからどうなんの、あたしの恋愛活動は?

……………………………………………………

 年度末に、アレサンドロ大隊長との引継ぎをした。
 顔に似合わず繊細な赤ひげのおっさん。

 やたら細かく教えてくれるが、頭の悪いあたしには難しい。
 夜遅くまでかかる。

「私は大隊長になんか本当はなりたくなかったんですが。できれば平隊員に戻りたかったんですよ」
「俺も、お前を平に戻すか、またはクビにしろと人事には何度も言ったんだがな」

 思わず、ガハハ! と二人で笑う。

 分厚いマニュアルまでくれた。
 凄い細かい引き継ぎ書だ。
 インデックスまでついてる。

「難しいから、後で聞いてもいいですか」
「かまわんよ。あと退職記念で懐中時計を貰ったんだ。だから、今使ってる奴をお前にやるよ。これで遅刻とかはやめるように」
「わあ、ありがとうございます」

 おっさんすっかり丸くなったな。 

 残ってる皆で、玄関でお見送り。
 珍しく笑顔で手を振る赤ひげ大隊長。

 アレサンドロ大隊長殿、お疲れ様でした。

 え? アレサンドロ大隊長が首都メスト市の地図を見て、赤線を引いてたのは何だったのかって?
 居酒屋を開店する場所を考えていたみたい。
 クーデター発生当日も、官庁街周辺をウロウロして開店予定場所の確認をしてたから、電話に出なかったようです。

 警備隊庁舎の廊下の端で、コソコソと大隊長と話していたセルジオ元大佐はどうなんだって? 
 赤ひげのおっさんに、お金を借りにきただけみたいっす。
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