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第41話:クーデター発生
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翌日は夜勤。
小隊長当番はあたし。
分隊の夜勤はリーダーの部隊。
いつもの通り、ヒマ。
仕事してる振りをして居眠り……のはずだったんだけど。
突然、深夜に近衛連隊から電報が送られてきた。
『現政府を打倒し軍事革命に対し支持と協力を求める 近衛連隊』
おいおい、いきなりクーデター発生かよ。
みんなで騒然としていると、チャラ男ことロベルトが珍しく真面目な顔で、あたしに聞いてきた。
「プルム小隊長殿、それで、うちらはどっちに協力するんで?」
「は? 何言ってんのよ、チャラ男! 反乱を起こした連中に協力するわけないじゃん」
「だけど、もし反乱が成功したら、プルム小隊長殿は銃殺になるかもしれないっすよ。俺っちらは下っ端なんでお咎め無しと思いますけど」
今度はニヤニヤするロベルト。
あたしが仰天してロベルトに聞き返す。
「えー! 何で私が銃殺されんのー!」
「だって、今現在のこの警備大隊のトップじゃないすか。で、クーデターが成功したら、プルム小隊長殿は逆らったことになるじゃないすか。見せしめに銃殺になるっすよ」
ロベルトがヘラヘラ、ニヤニヤ笑いながらも、あたしを脅かすように説明する。
ますますビビるあたし。
目隠しされて、柱に縛られて、銃殺される自分を想像してしまった。
クソー! チャラ男の奴、上司を虐めやがってー!
あたしに恨みでもあんのか!
なんで、よりにもよって、あたしがこの大隊の責任者の時にクーデターなんて起るんだよー!
「リーダー、どうすればいいと思いますか」
分隊長席に腕を組んで座っているリーダーに相談するが、いつものように、腕を組んで、ただ悩むだけのリーダー。
「うーん、うーん」
だめだ、こりゃ。
「プルム、アレサンドロ大隊長のご自宅に電話したら」
冷静なアデリーナさんのアドバイス。
そうだ、赤ひげのおっさんの家には電話があるんだ。
しかし、おっさんのとこに電話するが、誰も出ない。
「また、電話線切られたの?」
戸惑うあたし。
「反乱軍が交換所を占拠したんじゃねーすか」
相変わらずニヤニヤしているロベルト。
焦っているあたしを嘲笑っているような態度だ、コノヤロー!
「けど、交換手は出たよ」
「別のとこから、電話機をつなげてるかもしれないっすね。まあ、かの有名なドラゴンキラー、プルム小隊長殿のご命令とあらば、軍隊とドンパチやってもいいっすよ、おいらは。ライフルをガンガン発射してみたいんすよ」
またヘラヘラしながら、ライフルをかまえる仕草をするロベルト。
このチャラ男は、またライフルでヒャッハーしたいのか!
そして、なぜかあたしに向かって、嬉しそうにニヤニヤしながらライフルの照準を合わせる仕草をするロベルト。
ビビってしまうあたし。
なんであたしを狙うんだよ!
嫌がらせかよ!
蛸の足で殴られた復讐かよ!
「やい、チャラ男! 何やってんの! だいたい警備隊が軍隊に勝てるわけないでしょー!」
あたしがヒステリー気味にロベルトに向かって怒鳴るのだが、ロベルトが再び真面目な顔して言った。
「まだ、分からないっすよ。だいたい、どの程度の規模の反乱なのか分からないし」
ジェラルドさんが、首謀者は軍隊をクビになった人と言ってたんだよなあ。
やっぱり、赤ひげのおっさんが関わっているのか!
だから電話に出ないのか。
どうしよう。
そうだ、とりあえず人数を集めよう。
寮に連絡だ。
「ミーナさん、隣の寮に行って、今いる隊員を全員呼んできて」
「はい! 分かりました」
緊張した顔で足早に走っていくミーナさん。
おしとやかなミーナさんがちゃんと走るの初めて見たな。
音を立てないで走ってるぞ。
ってそんなこと考えてる場合ではない。
銃殺なんてやだよー!
まだ死にたくないよー!
怖いよー!
寮からジェラルドさんが来た。
相変わらずイケメンだなあ~。
素敵。
って、だからそんな事考えてる場合じゃないよー!
一応、全部で三十人に増えた。
とりあえず、会議室で全員で相談する。
あたしはみんなに質問した。
「何で近衛連隊がクーデターを起こすんの?」
「三年前のカクヨーム王国との戦争で一番戦死者が多かったのに、何も論功行賞が無かったから、不満を持っているって噂はあったけど」
リーダーが教えてくれる。
ああ、何か聞いたことあるなあ。
半魚人コスプレ強盗事件の犯人も、その件で近衛連隊を辞めたってことだった。
そういや、チェーザレも近衛連隊の兵士に知り合いがいるんだとか言ってたなあ。
そっから情報を聞き出したのだろうか。
あれ、いろいろと思い出してきたぞ。
そこに、名無しの分隊長が意見を言った。
「多分、誰かが中心になって、いろんな組織に連絡していると思うんです。そういう中心人物たちを一網打尽にすればいいんじゃないですか」
「中心人物ってどこにいるの」
「近衛連隊長名で連絡があったから、近衛連隊本部じゃないですかね」
「いや、この電報おかしい点があって、近衛連隊としか書いてなくて、近衛連隊長本人の名前が入ってないんですよね」
ジェラルドさんが電報を示しながら言った。
「どうしますか、プルム小隊長」
皆に聞かれる。
皆にどうするって言われて、顔見られてきょどるあたし。
こらこら、あたしはリーダータイプじゃないんよ。
それに、とにかく銃殺はいやなんよ。
全部、放り出して、密かに逃げ出そうかな。
って、さすがにそれはいかん。
しかし、どうすればいいんだろう。
うーん、赤ひげのおっさんが絡んでいるとは思えないんだよなあ。
もうすぐ定年で居酒屋やるんでしょ。
そういやセルジオ元大佐って人もいたなあ。
この前、廊下の端っこでヒソヒソと赤ひげ大隊長と話してたんだけど。
なんだか人生ヤケクソって感じだった。
お酒臭かったなあ。
ただ、軍に恨みがあっても、アル中じゃあクーデターなんて出来ないでしょ。
そうすると……。
突然、ロベルトがドカッと大きな音をあげて、椅子から立ち上がる。
急に立ち上がったんで、ビビるあたし。
「な、何よ」
「ちょっと、トイレ行っていいすか」
ヘラヘラしているロベルト。
「何だよ、ビビらせんな、チャラ男! 勝手に行けよ!」
そう言った途端あたしは急に思いだした。
確か、サビーナちゃんの家に行った帰りに、公衆トイレに寄ったんだっけ。
隣の男子トイレからクーデターって言葉が聞こえてきたぞ。
あの声は、思い出した、ブルーノ元中佐に似ていた。
多分、そうだ。
ただ、どこに居るのか。
うーん、とまた悩んでいると、ロベルトがトイレから帰ってきて、依然としてヘラヘラしながらあたしに向かって言う。
「腹減ったすねえ、ラーメンの出前でも取りますか?」
「ふざけんな! そんな場合じゃねーよ!」
思わず怒鳴りつける。
こいつは大変な事件が起きてんのに、ふざけた奴だと思ったら、また思い出したぞ。
そうだ、チャラ男が蛸と戦った下らん事件があったが、その後、ルチオ教授と三人でラーメン屋に行ったなあ。
二階に電話機が何台かあったぞ。
あそこから、いろんな部署に協力を呼びかけているんではないか。
ラーメン屋の主人は近衛連隊の軍属だったから協力しているに違いない。
この前も、朝っぱらから賭博場に行く際に、ブルーノ元中佐がラーメン屋に入るのを見た。
朝からラーメンって変だなと思ったけど。
よし、こうなったらラーメン屋に突撃だ!
あたしはジェラルドさんに言った。
「多分、ブルーノ元中佐が絡んでます。居場所は、多分、王宮前のラーメン屋だと思います」
「なぜ、そう思うんですか」
ジェラルドさんに聞かれた。
「公衆トイレでブルーノ元中佐らしき人物の声を聞いたんですよ」
そんなわけで、みんなで王宮の前のラーメン屋まで走る。
まあ、間違っているかもしれんが、その時は、トンズラしよっと。
ロベルトは背中にライフルをしょって自転車に乗っている。
「お先にっす!」
そして、ラーメン屋を通り過ぎて、曲がろうとして、壁にぶつかって倒れた。
放っておく。
シャッターが閉まっているが、シーフ技で簡単に開けた。
ラーメン屋に乱入して、二階に上ると、五人いて机に地図を広げている。
その中に、ブルーノ元中佐がいた。
びっくりした顔で、叫んだ。
「お前は、ドラゴンキラー」
「やい、反乱軍、おとなしく降伏しろ!」
あたしが叫ぶと、銃で撃ってきた。
「ひえ!」
銃弾があたしの顔をかすめる。
ラーメン屋の二階で銃撃戦になった。
狭い場所なんで、ちと怖い。
しかし、こっちが大勢でライフルをガンガンぶっ放したので、結局、クーデターの首謀者の連中は、あたしらの人数の多さにあきらめたのか、あっさり降伏した。
ブルーノ元中佐が二階の窓から飛び降りて逃走をこころみたけど、足をくじいたところを、戻って来たロベルトがライフルの銃床でぶん殴って、逮捕。
まあ、ブルーノ元中佐は酒臭くなかったからなあ。
なにか目標を見つけたからじゃないかと思ったんよ。
けど、男はやっぱ仕事がないといかんのかね。
働いたら負けがモットーのあたしにはわからんなあ。
そして、連行されるブルーノ元中佐に罵倒された。
「おい、ドラゴンキラー、お前のようなさぼり魔に見抜かれるとは思わなかったぜ」
さぼり魔言うな!
……………………………………………………
後日、クーデターを鎮圧したので、王宮の謁見の間で表彰式。
鎮圧したっていうけど、ラーメン屋の二階でちょっと銃撃戦しただけなんだけどなあ。
チェーザレを殺した犯人はブルーノ元中佐だった。
ジェラルドさんと話していたのを偶然見て、その内容を聞いてしまったので、殺害したようだ。
例の一千万エンを押収物倉庫から盗んだ元近衛兵は、その金をクーデターの資金として、ブルーノ元中佐に援助したらしい。それを使って電話機を購入したみたい。
ブルーノ元中佐は、軍をクビになったのを恨んで、似たように論功行賞の件で軍部に不満を持つ近衛連隊長を煽ったらしい。しかし、クーデターを起こそうとしたけど、参加するはずのその近衛連隊長があやふやな態度を取ったので、軍隊はほとんど動かなかったようだ。
御下賜品をいただく。
また、万年筆かと思いきや、何か箱が大きくて重い。
意地汚いあたしはすぐ中身をみちゃう。
おっと、箱を開けると双眼鏡が入ってきた。
なんで双眼鏡?
わからん。
まあ、いいや。
面白いので、あちこち見てみる。
すると、イガグリ坊主の王様のニカッとした顔がドアップで見えた。
「うわ!」
思わず、大きな声を出してしまった。
でも、王様は気にしていないみたい。
しかし、王様、前歯二本も欠けてるし、他の歯もガタガタ。
歯の色も茶色っぽく汚い。
歯磨きしてるのか?
「あーそれから、キミ、キミ、来年度から大隊長ね、ヨロシクー!」
何ですと。
えー! 大隊長に昇進!
いいんかい? 泥棒がなって。
それに、あたしとしては小隊長だって嫌なのに。
ちなみに、クラウディアさんも表彰された。
今日のファッションは、白いブラウスに花柄プリーツロングスカート。
何を着ても素敵だけど、犬はどこだ、犬は。
よく見ると、花柄のところどころに小さい犬がデザインされてる。
変なデザインだ。
どこで売っているんだ、この服。
ところで、珍しいね、裏方の情報省なのに。
ちょっとクラウディアさんに聞いてみる。
「クラウディア様、珍しいですね。表彰されるなんて」
「私もよく分からないんですよ。大した事してないです。ジェラルド小隊長から、クーデターの件で連絡があった後、軍隊を首になった人を個別訪問したんですよ。ブルーノ元中佐の自宅にも行ったんです」
「そうなんですか」
「で、ブルーノさんに、あなたはクーデターを起こそうとしてますかって聞いたんです」
ニコニコしながら答えるクラウディアさん。
は? おいおい、この人、ホントに頭がおかしいんじゃね。
「はい、クーデターを起こすつもりです」なんて答えるわけないじゃん!
もう、天然お嬢様から天然姫に昇進だ。
しかし、そのおかげで、計画がばれたと思ったブルーノ元中佐が焦って、協力するはずだった近衛連隊長の承認を得ずに、クーデターを早めてしまい、まとまりがないまま鎮圧されてしまった。
あたしが、公衆トイレで聞いた会話は、ブルーノ元中佐と近衛連隊長みたい。
あと、官房長官とかいう人が殺されそうになったけど、逃げて無事。
後は被害は無し。
クラウディアさんは、怪我の功名か。
って、本当なのか。
まあ、いっか!
さて、クーデター騒ぎは終わったし。
次はあたしの番だ。
小隊長当番はあたし。
分隊の夜勤はリーダーの部隊。
いつもの通り、ヒマ。
仕事してる振りをして居眠り……のはずだったんだけど。
突然、深夜に近衛連隊から電報が送られてきた。
『現政府を打倒し軍事革命に対し支持と協力を求める 近衛連隊』
おいおい、いきなりクーデター発生かよ。
みんなで騒然としていると、チャラ男ことロベルトが珍しく真面目な顔で、あたしに聞いてきた。
「プルム小隊長殿、それで、うちらはどっちに協力するんで?」
「は? 何言ってんのよ、チャラ男! 反乱を起こした連中に協力するわけないじゃん」
「だけど、もし反乱が成功したら、プルム小隊長殿は銃殺になるかもしれないっすよ。俺っちらは下っ端なんでお咎め無しと思いますけど」
今度はニヤニヤするロベルト。
あたしが仰天してロベルトに聞き返す。
「えー! 何で私が銃殺されんのー!」
「だって、今現在のこの警備大隊のトップじゃないすか。で、クーデターが成功したら、プルム小隊長殿は逆らったことになるじゃないすか。見せしめに銃殺になるっすよ」
ロベルトがヘラヘラ、ニヤニヤ笑いながらも、あたしを脅かすように説明する。
ますますビビるあたし。
目隠しされて、柱に縛られて、銃殺される自分を想像してしまった。
クソー! チャラ男の奴、上司を虐めやがってー!
あたしに恨みでもあんのか!
なんで、よりにもよって、あたしがこの大隊の責任者の時にクーデターなんて起るんだよー!
「リーダー、どうすればいいと思いますか」
分隊長席に腕を組んで座っているリーダーに相談するが、いつものように、腕を組んで、ただ悩むだけのリーダー。
「うーん、うーん」
だめだ、こりゃ。
「プルム、アレサンドロ大隊長のご自宅に電話したら」
冷静なアデリーナさんのアドバイス。
そうだ、赤ひげのおっさんの家には電話があるんだ。
しかし、おっさんのとこに電話するが、誰も出ない。
「また、電話線切られたの?」
戸惑うあたし。
「反乱軍が交換所を占拠したんじゃねーすか」
相変わらずニヤニヤしているロベルト。
焦っているあたしを嘲笑っているような態度だ、コノヤロー!
「けど、交換手は出たよ」
「別のとこから、電話機をつなげてるかもしれないっすね。まあ、かの有名なドラゴンキラー、プルム小隊長殿のご命令とあらば、軍隊とドンパチやってもいいっすよ、おいらは。ライフルをガンガン発射してみたいんすよ」
またヘラヘラしながら、ライフルをかまえる仕草をするロベルト。
このチャラ男は、またライフルでヒャッハーしたいのか!
そして、なぜかあたしに向かって、嬉しそうにニヤニヤしながらライフルの照準を合わせる仕草をするロベルト。
ビビってしまうあたし。
なんであたしを狙うんだよ!
嫌がらせかよ!
蛸の足で殴られた復讐かよ!
「やい、チャラ男! 何やってんの! だいたい警備隊が軍隊に勝てるわけないでしょー!」
あたしがヒステリー気味にロベルトに向かって怒鳴るのだが、ロベルトが再び真面目な顔して言った。
「まだ、分からないっすよ。だいたい、どの程度の規模の反乱なのか分からないし」
ジェラルドさんが、首謀者は軍隊をクビになった人と言ってたんだよなあ。
やっぱり、赤ひげのおっさんが関わっているのか!
だから電話に出ないのか。
どうしよう。
そうだ、とりあえず人数を集めよう。
寮に連絡だ。
「ミーナさん、隣の寮に行って、今いる隊員を全員呼んできて」
「はい! 分かりました」
緊張した顔で足早に走っていくミーナさん。
おしとやかなミーナさんがちゃんと走るの初めて見たな。
音を立てないで走ってるぞ。
ってそんなこと考えてる場合ではない。
銃殺なんてやだよー!
まだ死にたくないよー!
怖いよー!
寮からジェラルドさんが来た。
相変わらずイケメンだなあ~。
素敵。
って、だからそんな事考えてる場合じゃないよー!
一応、全部で三十人に増えた。
とりあえず、会議室で全員で相談する。
あたしはみんなに質問した。
「何で近衛連隊がクーデターを起こすんの?」
「三年前のカクヨーム王国との戦争で一番戦死者が多かったのに、何も論功行賞が無かったから、不満を持っているって噂はあったけど」
リーダーが教えてくれる。
ああ、何か聞いたことあるなあ。
半魚人コスプレ強盗事件の犯人も、その件で近衛連隊を辞めたってことだった。
そういや、チェーザレも近衛連隊の兵士に知り合いがいるんだとか言ってたなあ。
そっから情報を聞き出したのだろうか。
あれ、いろいろと思い出してきたぞ。
そこに、名無しの分隊長が意見を言った。
「多分、誰かが中心になって、いろんな組織に連絡していると思うんです。そういう中心人物たちを一網打尽にすればいいんじゃないですか」
「中心人物ってどこにいるの」
「近衛連隊長名で連絡があったから、近衛連隊本部じゃないですかね」
「いや、この電報おかしい点があって、近衛連隊としか書いてなくて、近衛連隊長本人の名前が入ってないんですよね」
ジェラルドさんが電報を示しながら言った。
「どうしますか、プルム小隊長」
皆に聞かれる。
皆にどうするって言われて、顔見られてきょどるあたし。
こらこら、あたしはリーダータイプじゃないんよ。
それに、とにかく銃殺はいやなんよ。
全部、放り出して、密かに逃げ出そうかな。
って、さすがにそれはいかん。
しかし、どうすればいいんだろう。
うーん、赤ひげのおっさんが絡んでいるとは思えないんだよなあ。
もうすぐ定年で居酒屋やるんでしょ。
そういやセルジオ元大佐って人もいたなあ。
この前、廊下の端っこでヒソヒソと赤ひげ大隊長と話してたんだけど。
なんだか人生ヤケクソって感じだった。
お酒臭かったなあ。
ただ、軍に恨みがあっても、アル中じゃあクーデターなんて出来ないでしょ。
そうすると……。
突然、ロベルトがドカッと大きな音をあげて、椅子から立ち上がる。
急に立ち上がったんで、ビビるあたし。
「な、何よ」
「ちょっと、トイレ行っていいすか」
ヘラヘラしているロベルト。
「何だよ、ビビらせんな、チャラ男! 勝手に行けよ!」
そう言った途端あたしは急に思いだした。
確か、サビーナちゃんの家に行った帰りに、公衆トイレに寄ったんだっけ。
隣の男子トイレからクーデターって言葉が聞こえてきたぞ。
あの声は、思い出した、ブルーノ元中佐に似ていた。
多分、そうだ。
ただ、どこに居るのか。
うーん、とまた悩んでいると、ロベルトがトイレから帰ってきて、依然としてヘラヘラしながらあたしに向かって言う。
「腹減ったすねえ、ラーメンの出前でも取りますか?」
「ふざけんな! そんな場合じゃねーよ!」
思わず怒鳴りつける。
こいつは大変な事件が起きてんのに、ふざけた奴だと思ったら、また思い出したぞ。
そうだ、チャラ男が蛸と戦った下らん事件があったが、その後、ルチオ教授と三人でラーメン屋に行ったなあ。
二階に電話機が何台かあったぞ。
あそこから、いろんな部署に協力を呼びかけているんではないか。
ラーメン屋の主人は近衛連隊の軍属だったから協力しているに違いない。
この前も、朝っぱらから賭博場に行く際に、ブルーノ元中佐がラーメン屋に入るのを見た。
朝からラーメンって変だなと思ったけど。
よし、こうなったらラーメン屋に突撃だ!
あたしはジェラルドさんに言った。
「多分、ブルーノ元中佐が絡んでます。居場所は、多分、王宮前のラーメン屋だと思います」
「なぜ、そう思うんですか」
ジェラルドさんに聞かれた。
「公衆トイレでブルーノ元中佐らしき人物の声を聞いたんですよ」
そんなわけで、みんなで王宮の前のラーメン屋まで走る。
まあ、間違っているかもしれんが、その時は、トンズラしよっと。
ロベルトは背中にライフルをしょって自転車に乗っている。
「お先にっす!」
そして、ラーメン屋を通り過ぎて、曲がろうとして、壁にぶつかって倒れた。
放っておく。
シャッターが閉まっているが、シーフ技で簡単に開けた。
ラーメン屋に乱入して、二階に上ると、五人いて机に地図を広げている。
その中に、ブルーノ元中佐がいた。
びっくりした顔で、叫んだ。
「お前は、ドラゴンキラー」
「やい、反乱軍、おとなしく降伏しろ!」
あたしが叫ぶと、銃で撃ってきた。
「ひえ!」
銃弾があたしの顔をかすめる。
ラーメン屋の二階で銃撃戦になった。
狭い場所なんで、ちと怖い。
しかし、こっちが大勢でライフルをガンガンぶっ放したので、結局、クーデターの首謀者の連中は、あたしらの人数の多さにあきらめたのか、あっさり降伏した。
ブルーノ元中佐が二階の窓から飛び降りて逃走をこころみたけど、足をくじいたところを、戻って来たロベルトがライフルの銃床でぶん殴って、逮捕。
まあ、ブルーノ元中佐は酒臭くなかったからなあ。
なにか目標を見つけたからじゃないかと思ったんよ。
けど、男はやっぱ仕事がないといかんのかね。
働いたら負けがモットーのあたしにはわからんなあ。
そして、連行されるブルーノ元中佐に罵倒された。
「おい、ドラゴンキラー、お前のようなさぼり魔に見抜かれるとは思わなかったぜ」
さぼり魔言うな!
……………………………………………………
後日、クーデターを鎮圧したので、王宮の謁見の間で表彰式。
鎮圧したっていうけど、ラーメン屋の二階でちょっと銃撃戦しただけなんだけどなあ。
チェーザレを殺した犯人はブルーノ元中佐だった。
ジェラルドさんと話していたのを偶然見て、その内容を聞いてしまったので、殺害したようだ。
例の一千万エンを押収物倉庫から盗んだ元近衛兵は、その金をクーデターの資金として、ブルーノ元中佐に援助したらしい。それを使って電話機を購入したみたい。
ブルーノ元中佐は、軍をクビになったのを恨んで、似たように論功行賞の件で軍部に不満を持つ近衛連隊長を煽ったらしい。しかし、クーデターを起こそうとしたけど、参加するはずのその近衛連隊長があやふやな態度を取ったので、軍隊はほとんど動かなかったようだ。
御下賜品をいただく。
また、万年筆かと思いきや、何か箱が大きくて重い。
意地汚いあたしはすぐ中身をみちゃう。
おっと、箱を開けると双眼鏡が入ってきた。
なんで双眼鏡?
わからん。
まあ、いいや。
面白いので、あちこち見てみる。
すると、イガグリ坊主の王様のニカッとした顔がドアップで見えた。
「うわ!」
思わず、大きな声を出してしまった。
でも、王様は気にしていないみたい。
しかし、王様、前歯二本も欠けてるし、他の歯もガタガタ。
歯の色も茶色っぽく汚い。
歯磨きしてるのか?
「あーそれから、キミ、キミ、来年度から大隊長ね、ヨロシクー!」
何ですと。
えー! 大隊長に昇進!
いいんかい? 泥棒がなって。
それに、あたしとしては小隊長だって嫌なのに。
ちなみに、クラウディアさんも表彰された。
今日のファッションは、白いブラウスに花柄プリーツロングスカート。
何を着ても素敵だけど、犬はどこだ、犬は。
よく見ると、花柄のところどころに小さい犬がデザインされてる。
変なデザインだ。
どこで売っているんだ、この服。
ところで、珍しいね、裏方の情報省なのに。
ちょっとクラウディアさんに聞いてみる。
「クラウディア様、珍しいですね。表彰されるなんて」
「私もよく分からないんですよ。大した事してないです。ジェラルド小隊長から、クーデターの件で連絡があった後、軍隊を首になった人を個別訪問したんですよ。ブルーノ元中佐の自宅にも行ったんです」
「そうなんですか」
「で、ブルーノさんに、あなたはクーデターを起こそうとしてますかって聞いたんです」
ニコニコしながら答えるクラウディアさん。
は? おいおい、この人、ホントに頭がおかしいんじゃね。
「はい、クーデターを起こすつもりです」なんて答えるわけないじゃん!
もう、天然お嬢様から天然姫に昇進だ。
しかし、そのおかげで、計画がばれたと思ったブルーノ元中佐が焦って、協力するはずだった近衛連隊長の承認を得ずに、クーデターを早めてしまい、まとまりがないまま鎮圧されてしまった。
あたしが、公衆トイレで聞いた会話は、ブルーノ元中佐と近衛連隊長みたい。
あと、官房長官とかいう人が殺されそうになったけど、逃げて無事。
後は被害は無し。
クラウディアさんは、怪我の功名か。
って、本当なのか。
まあ、いっか!
さて、クーデター騒ぎは終わったし。
次はあたしの番だ。
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「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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