38 / 82
第38話:チェーザレの死
しおりを挟む
小隊長ともなると、世間のしがらみがきつくなる。
また、赤ひげのおっさんに大隊長室に呼び出されて怒られた。
「お前、小隊長になったのに、まだ東地区担当の自警団長に挨拶に行ってないんだってな。自警団には大変お世話になっているんだぞ。相手に失礼だろが。さっさと行け!」
うーん、行こうと思ってたんだけど、あたしのモットーの「今日出来ることは明日も出来る」が働いているうちに、結局、忘れていた。
やれやれ、面倒だな。
嫌なら警備隊を辞めて泥棒に戻れよって? けどねえ、泥棒だって、しがらみがあるんよ。
山奥に一人で仙人みたいには生きていけないんよ。
人は一人では生きていけないんよ。
それに、リーダーと離れたくないなあという気持ちがまだ残ってるんよ。
まだ未練が残っているのかって? もう、あきらめろって? あきらめてるよ。けど、離れたくないんよ。
リーダーの顔だけ見てるだけでいいんよ。
でも、未練たらたら、情けないあたし。
さて、自警団と言うと、緊急時に民間人が即席で結成して暴れたりする団体とかイメージする人もいるかもしれないけど、この都市の自警団は大昔からあり、治安の維持やら、防災活動などその他細々とした住民からの苦情の応対も行っている。実際のところ、小さい事件は自警団で処理して、警備隊には事後報告がほとんどだ。
まあ、町内会みたいなもんね。
昔は、犯罪が起きると自警団が処罰してたらしいけど、各地域の自警団の間で刑罰の違いがあったりして、今は、警備隊が全体をまとめているって感じね。
自警団員はボランティア活動。
自警団長は、だいたいその区域の名士がやっている。
さて、その東地区担当の自警団長のご自宅を訪問する。
おお、豪邸だ。
さすが名士。
庭に池があって、でっかい鯉を飼ってたりする。
かなりの金持ちだな。
自警団長のお名前はフェデリコ・デシーカさん。
太った背の低い、陽気な感じのおじさんだ。
そのフェデリコさんにご挨拶。
「この区域担当の警備隊小隊長のプルム・ピコロッティと申します。ご挨拶が遅れて、大変申し訳ありません」
「いえいえ、かの有名なドラゴンキラーにお会いできるとは光栄ですなあ」
また、ドラゴンキラーか。
いつまで言われ続けるのだろうか。
いい加減にしてくれって感じ。
やれやれ。
豪華な応接室であたしとフェデリコさんが歓談していると、団員の人が部屋に飛び込んできた。
「団長、ご報告があります!」
変死体が発見されたそうだ。
フェデリコさんに頼まれる。
「プルム小隊長殿も、一応、来ていただけますか」
「はい、分かりました」
あたしも同行することになった。
ゴミ収集場所で死体が発見されたとのこと。
自警団の人が集まっている。
ごみ溜めの中に到着。
すると、黒い背広でノーネクタイのずんぐりした男があおむけで死んでいる。
え! 見たことあるぞ!
チェーザレだ。
びっくりしたあたしは、思わず叫んでしまった。
「チェーザレ!」
「プルム小隊長殿は、あの死んでいる男をご存知なんですか」
フェデリコさんに聞かれる。
「あ、はい、あのう、情報屋の人ですね」
「情報屋ですか。怪しげな仕事をしてた奴ですな。警備隊もこういう人種と付き合わなければいけないとは大変ですな」
「はあ」
戸惑うあたし。
「遺族とかに連絡したいんですけど、プルム小隊長殿は御存知ですか」
団員さんに聞かれた。
「出身は、ラドゥーロ市の西地区トランクイロ街です」
すると、フェデリコさんに聞かれてしまった。
「何で知ってるんですか」
「……本人から聞きました」
それを聞いた一人の団員があたしとフェデリコさんに言った。
「ラドゥーロ市のトランクイロ街って有名なスラム街ですよ」
「スラム街出身か。人間の屑がゴミ溜めで死んだってことだな」
フェデリコさんが笑った。
それにつられて、自警団も全員で大笑いしている。
同郷とは言えなかった……。
「あの、警備隊で引き取りますので」
あたしはそう申し出て、チェーザレの遺体を引き取ることにした。
チェーザレは刺殺されていた。
チェーザレの死体は簡素な棺に入れて、あたしも知り合いのトランクイロ街のボス、アドリアーノ・ロベロに頼んで引き取ってもらうことにした。
寮に帰って、ベッドに倒れ込む。
いつもはイケメンとのデートを妄想しているあたし。
だけど、今日はチェーザレの顔ばかり浮かんでくる。
この首都に来たのもあたしのコネを期待して来たんだっけ。
でも、最初からケンカしまくり。
なんでだろう。
うーん、よく考えると、あたしがイライラしているときだったなあ。
タイミングが悪かった。
って、言い訳に過ぎないな。
と言うか、あたしがひどいんだな。
チェーザレも十代でぐれちゃったけど、粋がってただけかも。
小さい頃はよく遊んだ。
けど、チェーザレから暴力とか振るわれたことなんて一度も無い。
だいたい、虐められたこともないぞ。
からかわれたことはあるけど。
最後に会ったのは、罵倒しまくった日。
けど、チェーザレは全然怒らなかったなあ。
確か、五日前くらいだっけ。
借金まで肩代わりしてくれたのに。
何にも助けなかった。
憂鬱。
悲しくなる。
チェーザレの奴、死んだあとまで嫌がらせか。
ベッドで横になって、泣いた。
また、赤ひげのおっさんに大隊長室に呼び出されて怒られた。
「お前、小隊長になったのに、まだ東地区担当の自警団長に挨拶に行ってないんだってな。自警団には大変お世話になっているんだぞ。相手に失礼だろが。さっさと行け!」
うーん、行こうと思ってたんだけど、あたしのモットーの「今日出来ることは明日も出来る」が働いているうちに、結局、忘れていた。
やれやれ、面倒だな。
嫌なら警備隊を辞めて泥棒に戻れよって? けどねえ、泥棒だって、しがらみがあるんよ。
山奥に一人で仙人みたいには生きていけないんよ。
人は一人では生きていけないんよ。
それに、リーダーと離れたくないなあという気持ちがまだ残ってるんよ。
まだ未練が残っているのかって? もう、あきらめろって? あきらめてるよ。けど、離れたくないんよ。
リーダーの顔だけ見てるだけでいいんよ。
でも、未練たらたら、情けないあたし。
さて、自警団と言うと、緊急時に民間人が即席で結成して暴れたりする団体とかイメージする人もいるかもしれないけど、この都市の自警団は大昔からあり、治安の維持やら、防災活動などその他細々とした住民からの苦情の応対も行っている。実際のところ、小さい事件は自警団で処理して、警備隊には事後報告がほとんどだ。
まあ、町内会みたいなもんね。
昔は、犯罪が起きると自警団が処罰してたらしいけど、各地域の自警団の間で刑罰の違いがあったりして、今は、警備隊が全体をまとめているって感じね。
自警団員はボランティア活動。
自警団長は、だいたいその区域の名士がやっている。
さて、その東地区担当の自警団長のご自宅を訪問する。
おお、豪邸だ。
さすが名士。
庭に池があって、でっかい鯉を飼ってたりする。
かなりの金持ちだな。
自警団長のお名前はフェデリコ・デシーカさん。
太った背の低い、陽気な感じのおじさんだ。
そのフェデリコさんにご挨拶。
「この区域担当の警備隊小隊長のプルム・ピコロッティと申します。ご挨拶が遅れて、大変申し訳ありません」
「いえいえ、かの有名なドラゴンキラーにお会いできるとは光栄ですなあ」
また、ドラゴンキラーか。
いつまで言われ続けるのだろうか。
いい加減にしてくれって感じ。
やれやれ。
豪華な応接室であたしとフェデリコさんが歓談していると、団員の人が部屋に飛び込んできた。
「団長、ご報告があります!」
変死体が発見されたそうだ。
フェデリコさんに頼まれる。
「プルム小隊長殿も、一応、来ていただけますか」
「はい、分かりました」
あたしも同行することになった。
ゴミ収集場所で死体が発見されたとのこと。
自警団の人が集まっている。
ごみ溜めの中に到着。
すると、黒い背広でノーネクタイのずんぐりした男があおむけで死んでいる。
え! 見たことあるぞ!
チェーザレだ。
びっくりしたあたしは、思わず叫んでしまった。
「チェーザレ!」
「プルム小隊長殿は、あの死んでいる男をご存知なんですか」
フェデリコさんに聞かれる。
「あ、はい、あのう、情報屋の人ですね」
「情報屋ですか。怪しげな仕事をしてた奴ですな。警備隊もこういう人種と付き合わなければいけないとは大変ですな」
「はあ」
戸惑うあたし。
「遺族とかに連絡したいんですけど、プルム小隊長殿は御存知ですか」
団員さんに聞かれた。
「出身は、ラドゥーロ市の西地区トランクイロ街です」
すると、フェデリコさんに聞かれてしまった。
「何で知ってるんですか」
「……本人から聞きました」
それを聞いた一人の団員があたしとフェデリコさんに言った。
「ラドゥーロ市のトランクイロ街って有名なスラム街ですよ」
「スラム街出身か。人間の屑がゴミ溜めで死んだってことだな」
フェデリコさんが笑った。
それにつられて、自警団も全員で大笑いしている。
同郷とは言えなかった……。
「あの、警備隊で引き取りますので」
あたしはそう申し出て、チェーザレの遺体を引き取ることにした。
チェーザレは刺殺されていた。
チェーザレの死体は簡素な棺に入れて、あたしも知り合いのトランクイロ街のボス、アドリアーノ・ロベロに頼んで引き取ってもらうことにした。
寮に帰って、ベッドに倒れ込む。
いつもはイケメンとのデートを妄想しているあたし。
だけど、今日はチェーザレの顔ばかり浮かんでくる。
この首都に来たのもあたしのコネを期待して来たんだっけ。
でも、最初からケンカしまくり。
なんでだろう。
うーん、よく考えると、あたしがイライラしているときだったなあ。
タイミングが悪かった。
って、言い訳に過ぎないな。
と言うか、あたしがひどいんだな。
チェーザレも十代でぐれちゃったけど、粋がってただけかも。
小さい頃はよく遊んだ。
けど、チェーザレから暴力とか振るわれたことなんて一度も無い。
だいたい、虐められたこともないぞ。
からかわれたことはあるけど。
最後に会ったのは、罵倒しまくった日。
けど、チェーザレは全然怒らなかったなあ。
確か、五日前くらいだっけ。
借金まで肩代わりしてくれたのに。
何にも助けなかった。
憂鬱。
悲しくなる。
チェーザレの奴、死んだあとまで嫌がらせか。
ベッドで横になって、泣いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる