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第34話:小隊長になった

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 あたしの名前はプルム・ピコロッティ。
 ナロード王国首都警備隊小隊長だ。

 朝早く来て、警備隊庁舎の玄関の掃除をする。
 セルジョ小隊長が亡くなったのに、まだやらされてるのかって? いや、あたしが勝手にやってるだけなんよ。

 なんか掃除したいんよ、セルジョ小隊長に申し訳なくて。
 一緒に掃除を手伝ってくれたこともある。

 あたしがテキトーに掃除してるのに、セルジョ小隊長は一生懸命に掃除してたなあ。
 その後ろ姿が忘れられない。

 忘れっぽいあたしなのに。
 セルジョ小隊長殿、怒らせてばかりで、ごめんなさい。

 それにしても、あたしが小隊長に昇進したのは、巨大スター・バンパイアを退治したと思われているためだろうか。
 それとも、オガスト・ダレスを逮捕したからだろうか。

 不思議だ、こんなサボり魔でいい加減な女を小隊長なんかに昇任させるなんて。
 年齢も十九才。
 もしかしたら、人事部がテキトーに仕事をしているのかもしれん。
 
 赤ひげのおっさんにちょっと聞いてみた。すると、大笑いされる始末。

「俺に人事の権限は無いぞ。事情は知らん。俺なら、即刻クビにしてやるけどな、ワハハ!」

 やれやれ。

「それから、小隊長になったんだから、東地区担当の自警団長に挨拶に行ってこい」とも言われた。
 ふーん、あたしも管理職だからかね。
 自分も管理できんのに。

 いつ行こうかな。
 いつでもいいか。
 今日出来ることは明日も出来ると。

 それにしても、いいのかね、こんないい加減なあたしが小隊長になって。
 正式には、首都メスト市東地区第一大隊第五小隊長。

 まあ、実際に巨大スター・バンパイアを倒したのは吸血鬼のケンカ番長だけどね。
 お礼と嫌がらせを兼ねて、ケンカ番長ことヴラディスラウス・ドラクリヤ四世が住んでいるとか噂されている城に、トマトジュースとニンニクの詰め合わせセット、それから吸血鬼コスプレ用の犬歯を着払いで送ってやった。

 しばらくして、ケンカ番長からお礼の返事が来た。

『ドラゴンキラー様、このたびはトマトジュースの他にニンニクという滅多に味わうことのできない素晴らしいお品を頂戴し、誠にありがとうございます。その深い味わいに驚き、美味しくいただきました。また、犬歯の換わりも送っていただいて、大変ありがたく重宝しております。後、百年も経てば新しい歯も生えてくるでしょうから、こちらからお礼を兼ねてご挨拶に参上いたします』

 ニンニクは美味しかったのか。
 吸血鬼伝説もいい加減だな。
 あと、挨拶に来るって書いてあるけど、百年後と言ったらあたしはこの世にいないけどね。
 
 ところで、あたしに小隊をまとめられるのだろうか。
 小隊長としての威厳がほとんど無いあたし。

 部下は六人編成の分隊が五つあり、計三十人もいるぞ。
 顔はすぐに覚えたが、名前がなかなか覚えられん。
 やはり、あたしは頭が悪い。

 しかし、意外にもまとまっている。
 みなさん真面目ですね。
 あたしを反面教師にしているのかな。

 しかし、実は気の弱いあたし。
 人見知りだし。
 不安でしょうがない。

 そのため、あたしの補佐役みたいな役割として、仲良しのリーダーとバルドを分隊長に昇進させることを、密かに赤ひげのおっさんを通じて人事部に頼むと、意外にもあっさりと承認された。おっさんも、あたしが小隊長であることに不安らしいので、人事部にねじ込んだらしい。

 ついでに、育休から復帰したアデリーナさんとサビーナちゃんも分隊長にしようとしたら、本人たちに断られた。アデリーナさんは育児で忙しいのかな。サビーナちゃんは尻ごみ。まあ、断られたら仕方がない。二人ともリーダーの分隊に所属。

 だいたい、あたしも平の警備隊員に戻りたいんだけどね。
 しかも、出来ればリーダーの分隊に。

 ところで、チャラ男ことロベルトはどうなんだって? うーん、別に嫌いじゃないけど、ちょっといい加減だから、保留。

 あたしに言われたくないかもしれんけど。
 同じくリーダーの分隊員のまま。

 バルドの分隊も部下が五人だけど、顔は覚えているが、名前が覚えられん。
 こんな頭の悪いあたしが小隊長になって、本当にいいんか?

 まあ、難しいことはバルド、細々な調整はリーダーにおまかせ!
 あたしは楽をする。

 働いたら負け!

 分掌区域は第二十一区域から第二十五区域まで広がったんだけど、管理職なんで基本は巡回しない。
 散歩できないじゃないか。
 つまらんなあ。

 電話機が各部屋の小隊長の机の脇に設置された。
 たまに赤ひげのおっさんから電話がかかってきて、ビビるあたし。

 後、庁舎や寮の玄関や運動場に電灯が設置された。
 ずいぶん明るいなあ。
 いずれ、ランプは消え行く運命なのか。

 自転車も増えた。
 ロベルトが大喜びで、乗って遊んでる。

 ますます仕事をさぼってやがる。
 けしからん!
 と自分の事を棚に上げて思う。

 ある日、電話がきたので取ったら、赤ひげのおっさんだった。

「教皇様がお亡くなりになった。それで、ナロード教皇庁は南地区にあるが、葬式の警備などで我々の大隊も応援に行くことになった。しかし、お前の小隊は留守番してろ」

 ちなみに、教皇様は突然死。五十五歳。
 心臓麻痺だとか。

 まだ、そんな老齢ではないのに、かわいそう。
 まあ、あたしは宗教には全然興味無いけど。

 それにしても、赤ひげのおっさんはあたしの事は全く信用していないようだ。
 けど、しょうがないね。

 自分で自分のことも信用してないし。
 まあ、働いたら負けのあたしにとっては都合がいいけど。

 教皇様の葬儀の日。
 赤ひげのおっさんや、他の小隊も居ないので、つい、机に思いっきり顔面をくっつけ、涎を垂らして爆睡。

「小隊長殿」

 体を揺すられる。
 ん? 小隊長って誰の事だ。
 おっと、あたしのことか。

 起きて振り向くと、アデリーナさんが憮然とした表情で背後に立っている。

「プルム小隊長殿、あの、調子が悪いなら休憩室に行って、休まれたほうがいいのではないでしょうか?」
「アハハ、そ、そうですね。あと、プルムでいいです。敬語もいらないですよ」
「はあ、わかりました」

 そのまま、何も言わずに机に戻るアデリーナさん。
 アデリーナさん、怖いっす。
 あたしのいい加減ぶりに、いつか怒って攻撃魔法で吹っ飛ばされそうだ。

 ちょっと、反省かつビビっていると、今度はバルドに呼ばれる。

「プルム小隊長殿」

 どうも落ち着かないなあ。

「ちょっと、五日ほど休みを取りたいんですが」
「プルムでいいって。敬語もいらない。で、体調不良?」

「父親が亡くなったんだ」
「あ、それは、ご愁傷様です。忌引き休暇ね。その間、あたしが分隊長兼任するからいいよ」

 って、あたしで大丈夫かな。
 いいか、適当で。

 あれ、そういや、バルドの親御さんって大企業の社長じゃん。
 ゴッジコーポレーションだっけ。

「ねえ、バルド。まさか、このまま警備隊辞めないよね」
「え、なんで、俺が仕事辞めなきゃいけないの?」

 なんて言うか、遺産で大金が入るんじゃないかと思う、意地汚いあたし。
 こんな時に聞く話題ではないな。
 あたしって、やっぱり育ちが悪いなあと反省する。
 
「いや、なんでもないです」

 しかし、あたしなら、遺産とかがいっぱい入ってきたら、すっぱり警備隊を辞めて、毎日、賭博と昼寝だな。

 さて、そんな風に適当に勤務してたら、ある日、緊急小隊長会議が招集された。
 また会議かよ。

 公務員はやたら会議をやるんだよなあ。
 ワンマン企業みたいに、全部、赤ひげのおっさんが決めてくれよ。

 面倒だなあ。
 眠いし。

 楽しみはイケメンのジェラルドさんの顔を見るだけなんだけど、あたしの横に座るもんだから、会議中は見れない。

 見ればいいじゃんって? 会議中に横見てたら、おかしいでしょ。
 仕方が無いので目の前に座っている、赤ひげのおっさんの怖い顔を見るだけ。
 つまらん。

 会議室に入って、大隊長一名、小隊長五名。
 計六名。

 こんな少人数で、会議なんてやる必要ないと思うんだけど。
 隊員全員に一斉に通知せいと思っていると、赤ひげのおっさんが深刻な顔をしている。

「金庫から、押収された金を盗んだ奴がいるんだ。どうも隊員の仕業らしい」

 赤ひげのおっさんがあたしを見ながら言った。
 びっくりするあたし。

 おいおい、あたしは知らないよ。
 泥棒なんかしてないぞ、泥棒だけど。

 そりゃ、赤ひげのおっさんの机から百エン硬貨一枚とか、ウィスキーのミニチュア瓶をちょろまかしたり、栓が開いているウォッカを飲んだりしたことはあるけどさ、とあたしはすっかりビビってしまう。

 すると、名無しの第一小隊長が立ち上がって、謝罪した。

「大変申し訳ございません」

 どうやら、第一小隊の隊員が盗んだらしい。
 金額は一千万エン。ヒエー、大金だ。
 どうやら、ヤクザ組織が隠していた金を押収して金庫に入れてたんだけど、その金を盗んだようだ。

 おまけに、その隊員自殺しちゃったらしい。
 で、お金がどっかにいっちゃった。
 おいおい、どうすんの。

「仕方が無いので世間には発表するが、問題はその一千万エンをどうするかだな。結局、一時的に警備隊員のポケットマネーで補填することになった」

 えー! そんな金ねーよ、ギャンブルで全部使っちまったよ。

「あのー、私は貧乏で貯金が無いんですけど」
「お前からは取らんよ。もっと上の人たちが出すんだ」

 上の人たちと言うと、警備総監とかそういう人たちか。
 何だよ、ビビらせんな、赤ひげ。

「問題は、お金がどこにいったかってことなんだ」
「もう使ったんじゃないですか」

 ジェラルドさんが発言すると、赤ひげのおっさんが不機嫌そうに答えた。

「いや、その隊員が使った形跡はないようだ」

 その隊員は、元近衛連隊に所属していたそうだ。
 軍人だったけど、カクヨーム王国との戦争での論功行賞が不満で、怒ってやめちゃったらしい。

 で、警備隊に転職。
 せっかく、再就職したのに。

 バレそうになって、自殺したんじゃないかって話。
 お金に困ってたのか?
 借金でもあったのか?

 なんだか深刻ですな。
 けど、あたしが盗んだわけでもないしな。

「まあ、どこかに隠したかも知れない。もし見つかったら、すぐに報告するように。あと、世間の非難を浴びないよう、これからはなおいっそうの綱紀粛正だ。部下にもちゃんとするよう言っておくように。それから、今後は押収物金庫のカギは大隊長のみが管理する」

 赤ひげのおっさんが発言して、会議終了。

『綱紀粛正』って何のこっちゃ?
 真面目に働けってことかな。

 部下に言ったら、まずお前が働けって言われそうだ。
 まあ、仕方が無いので、そのまま皆に連絡しておくか。
 会議室から小隊長席に戻ったあたしは、一応、各分隊長に報告した。

 翌日、リーダーに呼ばれる。

「プルム小隊長殿」

 また、小隊長って誰だろうと、一瞬思ってしまった。
 あたしのことか。

 座ってばっかで、ますます呆けているあたし。
 これでは太ってしまう。

 あたしの唯一の自慢のきれいな脚もむくんでしまう。
 って、実際は全然太らないんだけど。

「プルムでいいですよ、リーダー」
「いや、それはまずいんじゃないの」
「いいですよ、昔から知ってるし」

 役職とかこだわらんよ、あたしは。
 職業に貴賎なし。
 役職にも貴賎なし。

 上も下も同じようなもんでしょ。
 世の中、偉い人なんていないよ。

 いい加減でしょ、実は。
 みんな似たようなもんでしょ。
 あたしも大隊長のことは、おっさん呼ばわりだしね。

 但し、イケメンは特別よ!
 イケメンは正義!

「で、何用ですか」
「えーと、半魚人に襲われたって事件があって」

 半魚人?
 おいおい、去年の吸血鬼、狼男の次は半魚人かよ。

 なんだか、レトロだな。
 今時、半魚人はないんじゃね。

「誰が報告してきたの」
「ロベルトからなんだけど……」

 リーダーが報告書を見せてくれた。
 報告者名ロベルトで、
『スポルガ川付近で半魚人が女性を襲っていた。追いかけたけど逃げられた』と汚い字で書いてある。

 リーダーに言われて、ロベルトを見ると椅子に座って、顔面を机に突っ伏して、両腕を机の下にだらんと下げて、涎をだらしなく口から垂らし、いびきをかいて寝ている。

「ちょっとリーダー、部下のロベルトを注意してよ」
「ああ、いやあ、疲れているんじゃないかな」

 もう、リーダー優しすぎ。

 サッとシーフ技でロベルトの背後に回り、報告書の紙を丸めてパシパシと頭を叩く。

「痛い、痛い、何するんすか!」

 飛び起きるチャラ男ことロベルト。

「うるさい、チャラ男、仕事さぼるな」

 偉そうなあたし。
 管理職だからね。
 と、よく涎を垂れ流して居眠りしている自分のことは、全く棚に上げる最低なあたし。

「何だよ、この半魚人に襲われたってのは」
「巡回してたら、女性が襲われていたんすよ。財布を奪われそうになったようっす。駆けつけたら、逃げて行ったすよ」

「お前、夢でも見てたんじゃないのか」
「本当っすよ。首にエラがあって、全身に濃い緑色のウロコがあったっす。そいつを追いかけて、かなり走ったんす。けど、半魚人が早くて追いつけなかったんす。だいぶ、長い距離を追いかけたんすけど。だから、疲れちゃったんす」

 マジかよ。
 あと、半魚人なら走るより、泳ぐイメージがあるけど。
 それに、なんで半魚人が財布を盗もうとするんじゃ?

 よくわからん事件だが、現場確認はリーダーの分隊にまかせる。

「じゃあ、第二十五分隊出動よろしくお願いします」

 分隊に命令する、偉そうなあたし。
 うーん、全く貫禄が無い。
 自分でも似合わないと思う。

 さて、一応、半魚人強盗の件を、あたしが赤ひげのおっさんに報告したら、嫌味を言われてしまった。

「お前、さぼり過ぎで、ついに頭がおかしくなったのか、ガハハ!」

 このパワハラおやじが。
 さぼっているけど。

 けど、どうでもいい事件のような気がするな。
 うさんくさい。

 放っとけよと思ってしまういい加減なあたし。
 しかし、モンスターの可能性もあるな。
 分隊長席で、なんだか汚い薄い本を一生懸命調べている、インテリのバルドに聞いてみる。

「ねえ、バルド分隊長」
「バルドでいいよ」

「半魚人って、首都に出没したことあんの?」
「聞いたことないな。それに首都はもうモンスターを一掃したから、まず無いんじゃない」

 そうなのか。
 何だか訳の分からん事件だな。

 まあ、仕方が無い。
 半魚人強盗事件については、リーダーたちの分隊の報告を待つことにした。

「ところで、バルド。その汚い本、何?」
「朝、出勤途中にゴミ箱から見つけたんだよ。なんだか重要っぽいんで拾ってきたんだ。印刷じゃなくて手書きなんだよ。かなり昔に製作されたような本なんだ。古語で書かれていてるようで、読めないけど」

 その本は背表紙もボロボロだ。ノートみたいに薄い本で、今にもバラバラになりそうだ。

「なんでゴミ箱を探してたの」
「出勤途中に、うちの警備隊員が盗んだとか言われている例の一千万エンがないかなあって探していたんだよ」

 バルド、真面目だなあ。
 あたしはそんなことすぐに忘れちゃったよ。

「けど、ゴミ箱に捨てる?」
「まあ、ちょっと覗いてみたら、お金は無かったけど、この本を見つけちゃったんだよ」

 うーん、ゴミ箱にお金は捨てないでしょ。
 まあ、いいや。

 しばらくして、リーダーの分隊が戻って来た。
 リーダーが怪我している。
 頭をおさえているリーダー。

「半魚人に殴られたんだ」
「ひえ、大変じゃん」

 アデリーナさんもリーダーの事を心配そうに見ている。

「突然、飛び出てきたのよ」

 ケガはたいしたことないみたいだけど。
 ロベルトが見逃した地点を捜査していたら、公共のでかいゴミ箱からいきなり現れたそうだ。

 こりゃ、去年のスター・バンパイアの時みたいに大発生したんじゃないか。
 とにかく、リーダーを殴ったのが許せんぞ、半魚人め!

 ついさっきまで、どうでもいい、放っておけと考えていたんだけど、リーダーのためならと、急に張り切る、ますますいい加減なあたし。

「よし、小隊全体に動員をかけるぞ!」
 
 赤ひげのおっさんに報告すると、疑わしい顔する。

「本当かよ、信じられんな。イタズラじゃないのか」
「去年のスター・バンパイア事件みたいになったら大変です!」

 あたしは強引に出動命令の許可を取る。
 とにかく、半魚人を全員逮捕だ!

 小隊全員、ライフルを持って、ロベルトに現場を案内させる。
 スポルカ川の近くだ。

「あ、半魚人だ」

 バルドが指さした。
 確かに半魚人だ。

 全身がウロコで覆われていて、首のところにエラみたいなのがあるぞ。
 半魚人がヒョコヒョコと歩いている。

「待て! 半魚人!」

 あたしが叫ぶと、半魚人はびっくりして逃げて行く。
 半魚人を小隊全員で追っかける。
 
 焦ったのか、半魚人がすッ転ぶ。

「ウヒャー!」

 悲鳴を上げながら、土手を転げ落ちて行ってスポルガ川に落ちた。
 やばい、泳いで逃げられるかと思っていると、川で半魚人が溺れている。

「助けてー!」

 何やら叫んでいるぞ。
 なんで、半魚人が溺れるんだよ。

 川から引き揚げたら、半魚人のコスプレした普通の人間だった。
 何なんだよ。

 小隊の皆さん、全員憮然としている。
 半魚人大発生と煽ったら、ただのコソ泥一人。

 恥かいちゃったよ。
 こりゃ、ますます、小隊長としての威厳がなくなっていくな。

 いや、最初から無いかな。
 やれやれ。

 また、バカにされるのかと憂鬱になりながら、大隊長室に報告に行ったのだけど。

「まあ泥棒を捕まえるのも警備隊の仕事だからな、今回はよくやった」

 赤ひげのおっさんに褒められる。
 珍しいね。

 ちなみに、半魚人は元近衛連隊所属の兵士だった。
 この元兵士も例の論功行賞が不満で辞めちゃったらしい。

 近衛連隊の華麗な軍服は売ってしまい、ゴミ箱に捨ててあった半魚人のコスプレを見つけたんで、それを着て空き巣やったり強盗やったりして生活してたらしい。

 顔が隠れるからいいし、ついでにモンスターのせいにもできると思ったようだ。
 かえって、目立つと思うけどなあ。
 それにしても、例の一千万エン盗んだ奴と言い、近衛兵って金に困っているのか?

 あと、スポルガ川から変な匂いがしていた。
 だいぶ汚くなったなあ。
 なんでだろう?

 後でインテリのバルドに聞いたら、最近人口が増えてきて、スポルガ川に生活排水やら工業用排水など汚染物質が流し込まれるようになったからだそうだ。

 政府はなにも対策してないらしい。
 やる気ないね。

 って、あたしに言われたくないか。
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