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第28話:オガスト・ダレス邸を捜査

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 さて、あたしたちは、とりあえず、殺人現場を確認することになった。

 ルチオ教授とカルロさんにアナスタシオさん。
 分隊からあたしとリーダー、バルド、ロベルト。
 それにセルジョ小隊長も参加。
 計八名。

 ロベルトがうるさいので、ライフルも持って行くことにした。
 セルジョ小隊長は、あたしが分隊長として、ちゃんと仕事するか見張るつもりらしい。
 一応、心配もしてくれてるのかな。

 真っ昼間に現場へ行ったら、見覚えのある家があった。
 壁を真っ黒に染めた大邸宅。

 去年の秋頃、エロ本を盗まれて焦っていたおっさんの家だ。
 デカくて重くて黒い表紙の本だっけ。

 いや、ペンキ屋兼泥棒が黒く塗ったんだっけ。
 あんまり覚えてないや。

 厳重に鍵が閉まってたなあ。
 本の題名なんだっけ。
 忘れちゃった。

 この家でペンキ屋兼泥棒二人組を捕まえたんだっけ。
 分隊長のデルフィーノさんがかっこよかった……。

 今や悲しい思い出になってしまった。
 大邸宅は、すっかり真っ黒に壁が塗ってある。

「この黒い家の右隣が女子学生さんが殺された家です。そして、真向かいのパン屋『ブルット』でおかみさんが殺されました。どちらも昼間に家の前の路上で倒れていました。犯人の目撃者はいません」

 あたしは事件の資料を見ながら皆に説明する。

「なんつーか、この黒い家、怪しくないすか。この家の周りで奇怪な現象が起こっているみたいっすよ」

 そう言いつつ、相変わらずヘラヘラしているロベルト。

「確かこの家、オガスト・ダレスって人が住んではずだ」

 リーダーが皆に言った。
 そうそう、名前はオガストさんだ、思い出した。

「ちょっと、ご本人に聞いてみましょう」

 あたしは玄関の扉をノックするが、誰も出てくる気配が無い。
 本人が戻るのを待ってるのは面倒くさいな。

 仕方が無い。
 さり気なく、皆に見えないようにシーフ技を使って扉を開ける。

「お、突然、開いたぞ!」

 あたしはわざとらしく驚く。

「開けてくれたんだから、中に入れってことじゃないですか。家の中に入りましょう」

 あたしは、みんなと一緒に家に入った。

 一階は前に見た通り本だらけ。
 去年はきれいに本棚に並べてあったけど、今は床にも乱雑に置いてある。他にもゴミやら酒瓶やらが床に転がっていて、何だか荒れた生活を送っているようだ。

 去年、クラゲを飼っていた水槽が空っぽ。
 確か蛸もいた記憶があるけど。

 今は水槽はどっちも空っぽだ。
 もう、死んじゃったのかな。
 クラゲや蛸の寿命って知らんけど。

「何だ、これは! クトゥルフ神話の本ばかりではないか!」

 本棚に並べられている本を見て、ルチオ教授が驚いている。

「そのクトゥルフ神話って、何ですか」

 リーダーが教授に聞いている。

「太古の地球を支配していたが、現在は姿を隠している異世界の者たちを、旧支配者と呼ぶ神話じゃな。なかでも目が不自由で、馬鹿の王アザトスは、この宇宙の真の創造主と考えられているようじゃ」

 何じゃ、馬鹿の王アザトスって。
 あたしもバカだから、バカ比べなら負ける気がしないぞ。

「この家の主は、非常に危険な研究をしていたようじゃな」
「なにが危険なんすか」

 ロベルトが床の本を蹴とばしながら教授に聞く。
 他人の物を蹴とばすなよ。

「クトゥルフ神話の研究をしているうちにクトゥルフを崇拝して、復活させようとしたり、違法な魔術を使ったりするんじゃよ。中には、研究にのめり込んだあげく発狂する者もいるんじゃ」

 不快感をあらわにして語る教授。
 本棚の大きい本を指さして、教授がまたびっくりしている。

「おお、これはネクロノミカンではないか。こんな本まで持っているとは」

 根暗な蜜柑? 何か聞いたことあるな。
 そうそう、去年、盗まれたとオガストのおっさんが警備隊に届け出たエロ本のことじゃん。
 エロ本にも詳しいのか、ルチオ教授は。

 二階に上がると、前に見た蛸のような生き物を描いたグロテスクな絵が依然として飾ってある。

「キモイ絵っすねえ」

 ロベルトが珍しく真面目な顔してる。
 所狭しと絵が飾ってあり、去年よりだいぶ増えてるみたい。

「この家の主は、もうクトゥルフに憑りつかれているのう。多分、違法な魔術にも手を出しているじゃろう。捕まえて病院にでも隔離したほうがよさそうじゃな」
 
 そう言いながら葉巻に火を点けるルチオ教授。
 それに対してリーダーが答える。

「けど、逮捕するには何らかの違法行為をした証拠がないと無理ですよ」
「適当に何かでっちあげて、牢屋に放り込んじゃえばいいんじゃないすか」

 チャラ男ことロベルトが無茶なことを言うが、みんな無視。

「とりあえず、オガスト氏から参考人として事情聴取をする必要がありますね。この自宅で聞いてもいいですし」

 冷静な意見をいうセルジョ小隊長。
 さすがベテラン。

 一階に戻って、オガストのおっさんが帰ってくるのを待つことにした。
 ロベルトが棚から本取り出して、テキトーにパラパラと見ていると、何やら怪しげな装置を見つけたようだ。

「ありゃ、本棚の奥に変なスイッチがあったすよ」
「オガストさんが帰ってくるまで待ったほうがいいんじゃない。本人を立ち会わせないと」

 リーダーが止めようとするが、ロベルトが嬉しそうな顔で言った。

「もう、押したっす」

 自分勝手に行動している。
 さすがチャラ男。

 ロベルトがスイッチを押すと、本棚が横にスライドして、鉄製の扉が現れた。

「これは隠し扉っすねえ」
「ちょっと、オガストさんが帰って来るのを待ちなさい」

 あたしが言う前に、ロベルトが開けやがった。
 ったく、あたしのことを分隊長とも何とも思ってないらしいな、このチャラ男は。

「どうします。プルム分隊長殿」

 ロベルトが聞くけど、止めたって降りるだろ、このチャラ男は。

「まあ、とりあえず一応、降りてみましょうか」

 仕方なく、全員で地下室へ降りることにした。
 割と幅が広い階段が現れた。

 ランプを点けて、皆で下に降りていく。
 下まで降りると広い部屋があった。

 ここにも本が乱雑に置いてあり、他にもわけのわからない道具が転がっている。
 目の前に頑丈そうな大きいスライド式の鉄扉があった。

 シーフの勘よ。

 この扉を開けるのは危険だなとあたしは思った。

「ロベルト、開けるのは待って!」

 あたしは制止したんだけど。

「開けるなと言われると、開けたくなるんすよね」

 またヘラヘラしながらロベルトが鉄扉の取っ手を掴んで、扉をスライドして開いた。
 おい、隊長の指示に従えよ、このチャラ男。
 全く、完全にあたしを舐めてるな、こいつ。

 扉を開けるとかなり広い空間があり、人間と同じくらいの大きさの赤いクラゲみたいな生き物がたくさん漂っていた。真っ赤に染まっていて、何本もある触手の先には、大きな鉤爪がついている。 

「何すか、こいつらは!」

 ロベルトが素っ頓狂な声を上げた。

「ふーむ、これはスターバンパイアですな。どうやらこいつらが女子学生とパン屋のおかみさんを殺したようじゃな」

 葉巻吸いながら、のん気そうなルチオ教授。

 おいおい、犯人はヴラディスラウス・ドラクリヤ四世じゃなかったのかよ、いい加減な爺さんだなあ。
 あと、前に立たれると邪魔なんですけど。
 などとあたしが思っていたら、スターバンパイアが襲いかかってきた!

 鉤爪でリーダーの服を引っ掛けて、奥へと引きずり込もうとする。
 あっさりと引きずり込まれて、情けない声を出すリーダー。

「ヒエー! 助けてー!」

 すると、カルロさんが叫ぶ。

「いくぞ、アナスタシオ!」

 カルロさんとアナスタシオさんが同時に例の十字架クロスボウを発射。命中して、リーダーを引きづっていたスターバンパイアがはじけ飛んだ。
 おお、クロスボウ効果ありだな。

 真っ赤な血を浴びて逃げてくるリーダー。
 あたしたちもライフル銃で応戦。
 次々とスターバンパイアがはじけ飛ぶ。

 あれ、ライフルでも倒せるじゃん。
 まあ、倒せるら何でもいいか。
 しかし、何匹いるのか分からん。

 バルドが叫ぶ。

「続々と部屋の中から出てくるぞ!」

 すると、ロベルトが叫びながら、前に出て、ライフルを撃ちまくってる。
 
「ヒャッハー!」

 興奮しているロベルト。
 危ない奴だな。
 あたしらも返り血を浴びて、そこら中、血塗れだ。

「イテテ、鉤爪で引っ掛けられたっす」

 ロベルトが慌てている。
 あたしはロベルトに叫ぶ。

「前に出過ぎだぞ、チャラ男! 後退しろ!」

 みんなでクロスボウや銃でモンスターを撃ちながら、後退しつつ、階段を登って一階の部屋に戻ろうとする。

 あれ、人の気配がして振り返ると、一階への出口に男が立っている。
 思い出したぞ、オガスト・ダレスのおっさんだ。
 オガストが鉄の扉を閉めようとする。

「ちょっと、閉めないでよ!」

 制止しようとすると、オガストが拳銃を持ち出し、あたしに向けた。

 ひえ! やばい!
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