上 下
21 / 82

第21話:デルフィーノさんとのデート、じゃなくて巡回

しおりを挟む
 午後は、待ちに待った、デルフィーノさんとのデート、じゃなくて巡回。

 アホ毛を直す。
 直らん。
 けど、デルフィーノさんは、そんなことは気にしないだろう。

 ドキドキしながら、一緒に歩く。
 デルフィーノさん、ゆっくりと歩く。

 あ、もしかして彼女いるのかなあ。
 ちょっと不安になる。

 さて、なにをどう話しかけようと思っていたら、デルフィーノさんから話かけてくれた。

「プルムさんが来た時、かの有名なドラゴンキラーが部下になるって、ビクビクしてたんだよ。そしたら、可憐な女性が来て、びっくりしたよ」

 えっ! 可憐な? 可憐な? 可憐ってかわいいってことだよね。
 デルフィーノさんが、あたしのことかわいいって言ってくれた。
 キャッホー! ああ、顔が赤くなる。
 やばい! 完全に惚れちゃいそう。

 けど、ドラゴンを倒したって思われてるのはいやだな。
 そんな凶暴な女に思われたくないぞ。
 あたしは、うら若き十七歳の可憐な乙女なんよ。

 えい! いっそのことドラゴンキラーの真実を話しちゃえ!

 それは極秘事項だろって? いいんよ、恋は盲目よ! 愛する人と秘密を共有すんの! こんな素敵なことがあるかしら?
 本当にアホだ、お前はって? アホですよー!

 あたしはドラゴンキラーの真実を話してしまった。
 苦笑するデルフィーノさん。

「じゃあ、結局のところ、プルムさんはペンダントを外しただけなのか」
「そうなんですよ~」
「いや、それだけでも凄いよ。巨大なドラゴンが現れたんだよね。私なら逃げてるな。プルムさんは立派だなあ」

 ワーイ! デルフィーノさんにほめられた! ほめられた!
 もはや、完全に調子乗りまくりのあたし。

 恋は盲目どころか、恋は頭が空っぽ。
 赤ひげのおっさんの事も喋っちゃう。

「アレサンドロ大隊長の机の下にドラゴンのデザインのマットが置いてあったんです。アレサンドロ大隊長はもしかして、ドラゴン秘儀団かもしれません。どうしましょうか」
「まさかアレサンドロ大隊長に限って、そんなことはないだろうけど。うーん、それはクラウディア参事官に一応相談したらどうですか」
「はい、そうします」

 楽しいな! 楽しいな! これで手をつなげればいいんだけど。
 ああ、せめて腕を組みたいなあ。
 お前、仕事しろよって? いいじゃん、これくらい。

 スポルガ川を渡る橋にさしかかる。
 あたしが、宙を舞うようにウキウキと橋を渡ってると、下の川で何か騒ぎになっている。

「助けてー!」

 悲鳴が聞こえてきた。
 子供が川に落ちたらしい。

 流されてるぞ。
 お母さんらしき人が慌ててる。

 急いで、デルフィーノさんと川岸に駆けつける。
 デルフィーノさん、さっと上半身裸になって、制服とサーベル、拳銃をあたしに渡して、川に飛び込む。

 わ! 体も引き締まって素敵。
 とか言ってる場合では無いか。

 昨日は雨が降ったんで、増水して、けっこう流れが速い。
 今の季節、水も冷たいぞ。

 流されていく子供に向かって、泳いで近づいていくデルフィーノさん。
 あたしはハラハラして見てるしかない。

 子供をつかまえて、岸に引き返そうとするデルフィーノさん。
 ああ、一緒に流されそう。

 あたしも飛び込もうかと思ったら、何とか岸まで到達。
 良かった!

 子供を岸に引き上げて、様子を見る。
 大丈夫そう。
 お礼を言う、お母さんに子供を預けて、デルフィーノさんが近づいてくる。
 水も滴るいい男。

 正義のヒーローが近づいてくる。
 あたしのヒーローが近づいてくる。
 にこやかに笑いながら近づいてくる。
 あたしの愛する人が近づいてくる。

 ラブレター渡そうか、いや服のポケットに入れればいいんだ、って間に合わない!
 ああ、いっそこの場で告白しゃえ!
 目の前に近づいてくる。
 ドキドキし過ぎで、ああ気絶するー!

 デルフィーノさんが右手をあたしに差し出した、その時。

「分隊長殿、黒装束の男を逮捕しました!」

 遠くからドタバタと走ってきたバルドが大声で叫んだ。

「本当か! 今すぐ行く」

 服とサーベル、拳銃を引っ掴んで、デルフィーノさん行っちゃった。
 ラブレターは渡さなかった。
 あたしは、仕方がなく、クラウディアさんのところへ行った。

 今日は、夜勤。
 例の『ドラゴンペンダント』を運搬する日だ。

 バルドに黒装束の男を逮捕した件を聞く。
 どうやら、単なる空き巣だったみたい。

 あたしは、午後八時から午後十時までが休憩時間。

「休憩してきます」

 あたしはみんなに声をかける。
 そのまま、休憩室には行かず、気づかれずに建物の外に出た。
 だいぶ寒くなってきたなあ。

 そっと、外から窓を通して、分隊のいる部屋を見る。
 デルフィーノさんがなにやら書類仕事をしている。

 アデリーナさんはお休み。
 リーダーもアデリーナさんに付き添いでお休み。
 つわりがひどいらしい。
 アデリーナさんかわいそう。

 バルドはボーっとしてる。
 サビーナちゃんは書類仕事と思いきや、何かイタズラ書きしてる。

 セルジョ小隊長はいない、トイレかしら。
 あたしは情報省へ向かった。

 クラウディアさん以下情報省職員たちが待っていた。
 鞄を受け取り、地下一階へ。

 ここが、王宮へと続く、地下通路か。
 何の変哲もない通路。

 ランプではなく、電灯がついているので、昼間のように明るい。
 午後九時。
 出発。

 お願いだから、ドラゴン秘儀団出現しないでくれ。

 途中、通路の天井に点検口があった。
 点検口が突然開く。
 黒装束の男が現れた。
 剣を持って、あたしに襲いかかろうとする。

 あたしは手を前に出して言った。

「やめてください、デルフィーノさん」

 黒装束の男の動きが止まる。
 ああ、最悪だ。

 前後から情報省員が現れて、廊下をふさぐ。

「デルフィーノさん、武器を捨ててください。私はドラゴンペンダントは持っていません」

 あたしはもう一度、呼びかける。
 黒装束の男はあっさりと武器を捨てた。
 覆面を取る。

「何で分かった」

 デルフィーノさんはあたしの顔を無表情で見ながら言った。

「右腕の傷跡です」

 ニエンテ村の宿屋で、夜中に黒装束の男に襲われたとき、あたしはナイフで相手の右腕に傷をつけた。かなりの深手だったはず。

 あたしのナイフは先端が特徴的な形をしている。
 川で溺れた子供を助けた後、あたしに近づいてくるデルフィーノさんが右腕を差し出した。
 その時、腕の傷に気づいた。
 傷跡があたしのナイフの形にそっくり。

 呆然とするあたしを置いて、デルフィーノさんは、バルドの呼びかけに答えて行ってしまった。

 その後、あたしはクラウディアさんにこの事を報告した。急遽、計画は変更。あたしは偽の鞄を持って行くことになった。

 そして、今夜、あたしは間違いであってくれ、せめてドラゴン秘儀団が現れるならあたしの知らない人にしてほしいと願いながら、鞄を運んだ。

「デルフィーノさん、私は頭が悪いし記憶力もないけど、さすがに自分が殺されそうになった時のことは覚えてます」

 デルフィーノさんは無言であたしの話を聞いている。

「何で、ドラゴン秘儀団なんかに入ったんですか」

 あたしは泣きそうになって問いかける。
 それには答えず、デルフィーノさんは少し微笑んで、あたしに一言だけ言った後、情報省員に連れて行かれた。
 
「さすがはドラゴンキラーだな……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...