16 / 82
第16話:幼馴染のチェーザレたちと再会
しおりを挟む
「誰?」
あたしが振り返ると、鼻くそをほじくりながら、ずんぐりとした男が立っている。
後ろにもデブとヤセが二人。
チェーザレとその子分のアベーレとベニートの三人組だ。
三人ともヘラヘラと笑っている。
北部の地方都市ラドゥーロの西地区トランクイロ街、いわゆるスラム街出身。
幼馴染だけど、ろくでもない連中だ。
あたしはびっくりして思わず言った。
「何で、あんたらが首都にいるの」
「俺たちも一旗揚げに、この都に来たんだよ」
チェーザレが答える。
他の二人は黙ってヘラヘラしてるだけ。
「何の旗揚げよ」
「新聞で見たぞ。お前、ドラゴンを倒したんだってな」
「そ、そうだけど」
ちょっとあたしは動揺する。
「当然、ウソだろ」
「何で、何を根拠にウソって言うんよ?」
「お前がドラゴンを倒せるわけがない。詐欺だろ、それとも何か裏の事情があるんだろ」
チェーザレの奴、昔から顔も頭も悪いけど、勘はいいんだよな。
だけど、情報省のクラウディアさんと約束した以上、事実を言うわけにはいかない。
「うるさい! 本当よ!」
「何か機嫌が悪いな。誰かに振られたんか?」
あたしの頭の中で、リーダーの顔が一瞬で浮かんだ。
大きなお世話だー! 腹立つー!
「うるさいって言ってんでしょ!」
「なに怒ってんだ? だいたい、泥棒が何で警備隊員になれんだよ。どうやってもぐり込んだ? 何か当局の弱みを握ったのか?」
「王様の命令なんだから仕方がないじゃない。あんたらも試験受けたら。頭が悪いから無理でしょうけど」
「頭が悪いのは自覚してるよ。それよりトランクイロ街を出る前に借金取りが来たぞ、お前を探しに」
「え、ほんと?」
ビビるあたし。
「ドラゴン倒せるほどの奴が、何で借金取りに追われるんだよ」
「うるさいわい! で、しゃべったの? あたしが首都に居ること」
「言わないよ。借金取りも自分たちが追っているのが、かの有名なドラゴンキラーとは気づいていなかったようだけどな」
チェーザレはほじくった鼻くそを指でピーンとはじく。
「汚ーい! 不潔!」
昔からヒマさえあれば鼻くそほじくってばっかり。
この鼻くそ男!
「言わなかった俺に感謝しろよ」
「ふん、余計なお世話よ」
強がるあたし。
「まあ、どんな手を使ったにしろ、俺たちのスラム街出身で公務員になったのはお前が初めてじゃないかな。それは褒めてやろう」
「偉そうに言うな!」
「ところで、警備隊とかは、街の裏情報とかも大切だろ」
「それがどうしたんよ」
「情報屋として使ってくれよ」
「お断り!」
情報屋ってよく分からんが、ムカついているので冷たく断る。
「同郷だろ、冷てーな。見捨てんのかよ」
「自分で努力しなさいよ」
自分のことは棚にあげるあたし。
「努力? お前が努力とかそういう言葉使うようになるとはな。随分心変わりしたもんだなあ」
「フン、乙女心は複雑で変わりやすいんよ」
「乙女? ああ、お前まだ処女か」
「しょ、しょ、処女じゃないよ」
動揺するあたし。
「はあ? 何で動揺してんだ?」
「ど、動揺なんかしてない!」
ますます動揺するあたし。
「処女のなにが悪いんだ?」
「うるさい! 向こう行け!」
完全に動揺して、逆ギレするあたし。
「だから、なに怒ってんだよ?」
「あ、あんたらだって、まだなんでしょ」
「ここは首都。女遊びする場所はいくらでもあるよ。お前も遊んで来たらどうだ。あ、お前、女だったな」
ギャハハ! と笑うバカ三人組。
くそー、何とか逆襲したい。
「フン、そんなところへ行って、かわいそうな人たちね。恋人いないんでしょ!」
「じゃあ、お前いるのかよ」
「い、い、い、い、いるわよ」
さらにさらにさらにさらに動揺するあたし。
またギャハハ! と笑うバカ三人組。
「見栄を張るなよ、俺が最初の男になってやってもいいぜ」
チェーザレがニヤニヤ笑いであたしに言った。
「うるせー! あんたのような鼻くそ男なんか絶対嫌よ」
恋愛至上主義のあたし。
愛がない男女関係なんて信じられない。
愛こそ全て。
たとえ片思いでも。
いや、いつかあたしにも……。
「お前って、俺らと同じスラム街出身のくせに、昔から妙な考えを持ってたよな」
チェーザレが依然としてニヤニヤしながら言った。
「なに、妙な考えって」
「いつかあたしにも白馬に乗った王子様が迎えにやって来るわ~って妄想してただろ」
こいつ、ほんとに勘がいい。
「実際はそんなのお前のとこに来るわけねーぞ。いや、もしかしたら来るかもな、豚に乗って」
またまたギャハハ! と笑うバカ三人組。
「ふざけんな、この野郎! いい加減にしろ!」
「高望みすんなってことだよ。人生、妥協することも大切だぞ」
「あんたに妥協なんかしないよ!」
「見栄を張るなよ。しかし、ここぞという時は相手に正直に話したほうがいいぞ」
「何で、あんたに正直にならなきゃいかんのよ!」
「処女だと恋人ができたら、相手に病気だと思われるぞ」
「誰がそんなこと言ってんの」
「有名文化人だ」
「気持ち悪い最低文化人ね、頭腐ってんじゃないの」
あー、キモイ、キモイ。
「じゃあな、プルム首都警備隊員殿。自分の大事な所を警備してな!」
ギャハハと笑いながら去っていくバカ三人組。
なんちゅー下品な奴ら。
最低! 最悪!
ああ、だけど、あたしもあいつらと同じ環境で育ったんだよなあ。
リーダーはいいとこのお坊ちゃん。
アデリーナさんもいいとこのお嬢さん。
バルドは大企業の三男坊。
サビーナちゃんは貧乏で母子家庭だけど、お母さんに愛されてる。
あたしはスラム街の孤児。泥棒、万引き常習犯、ギャンブル依存症。
劣等感にさいなまれて、暗くなる。
ああ、スカッとしたいなあ。
お、賭博場がある。
ダメダメ、今、勤務中。
いや、勤務中だから、悪い奴がいないか見張らんと。
ダメダメ、耐えきれずに自分もギャンブルしちゃう。
いや、不正が無いか監視しないといけないと体が賭博場に吸い込まれた。
……。
賭博場から放り出される。
「イカサマだあ!」
わめくあたし。
「ふざけてんのか、お前」
賭博場の用心棒にどつかれ、脅される。
「あ、すみません。ふざけておりません。お許しください」
あたしがビビっていると、大柄な男ともう二人、おっさん三人組がやってきて仲裁に入ってくれた。大柄な男は赤ひげのおっさんことアレサンドロ大隊長だ。
「この金で許してやってくれないか」
何枚かお札を差し出す。用心棒は金を受け取ると、さっさと賭博場に戻っていった。
「助けてくれて、ありがとうございます」
あたしは赤ひげ大隊長にお礼を言う。
すると、赤ひげのおっさんは不機嫌そうな顔する。
「好きで助けたわけじゃないぞ。部下がトラブル起こすと、こっちが迷惑なんだよ。一応、大隊長だからな。責任問題になる」
赤ひげのおっさんの後ろにいた男に、嫌味を言われた。
「ドラゴンキラーのくせに賭博場の用心棒には勝てないのかよ」
見覚えがあるぞ、この陰険な顔。レッドドラゴン事件のとき、赤ひげおっさんと一緒に逃げたセルジオ大佐だ。
「仕事さぼって、ギャンブルかよ、最低だな」
もう一人の痩せたおっさんにまた嫌味を言われた。このおっさんは、たしかブルーノ中佐だ。同じく逃げ出したんだっけ。
この人たちも軍隊クビになったのかな。三人とも酒臭い。やけ酒ですか。悲惨だなあ。
それにしても、敵前逃亡したあんたらに言われたくないぞと思ったが、仕事さぼっているのは事実でもある。
「大隊長殿は、なぜこの場所に来られたんですか?」
「今日は休みだよ。飲み屋をはしごしてたんだ。家に居てもつまんねーからな。じゃあな、さぼり魔」
アレサンドロ大隊長は吐き捨てるように言って、セルジオ、ブルーノの両おっさんと去っていく。真っ昼間から飲み屋のはしごとは赤ひげのおっさん、荒んでるなあ。ちと、かわいそうな気もする。
……………………………………………………
巡回から戻ると、セルジョ小隊長の机に呼びつけられた。
「おい、プルム! お前、勤務中にギャンブルやってたそうだな」
ひえ、何で知ってるの? 赤ひげのおっさんがチクッたの?
「だ、誰がそんな事、言ってるんですか!」
「賭博場から直接、通報があったんだよ」
あの用心棒、金を貰ってながら通報とは。
許せん! あの賭博場には二度と行かん。
「警備隊員の恰好でギャンブルとは、お前はあまりにもいいかげんだ! 懲罰委員会にかけることにする」
「ひえ、そんな、お願いいたします。真面目に働きます。毎日、朝早く来て、皆さまの机を拭きますから。あと、廊下の掃除と窓ふきもします。職場の皆さま全員にお茶も入れますので、どうかお許しを」
「ダメだな。とりあえず、懲罰委員会にかけられたら、給与は半分に減俸だな」
そんな、半分に減らされたら、ギャンブル出来なくなっちゃう。
「お願いいたします。勘弁してください、小隊長殿! トイレ掃除でも耳の掃除でも足の指の掃除でも何でもしますから」
マジに半泣き状態で必死なあたし。
「ダメ!」
「そんなあ! お許しください、今度からは真面目にやりますから」
あたしは必死になってセルジョ小隊長に頭をさげる。
そこへ、デルフィーノ分隊長さんが間に入って、かばってくれた。
「まあまあ、そこを何とか許してやってくださいよ。プルムさんも二度とやらないって言ってるし、そうだよね」
デルフィーノさん、優しい。マジ、惚れちゃいそう。
「ううむ、デルフィーノ君がそう言うなら」
お、さすがデルフィーノさん、小隊長にも信頼されてる。
デルフィーノさんのおかげで、何とか助かった。
小隊長が席を空ける隙に、頭をさげる。
「デルフィーノ分隊長殿、先ほどはありがとうございました」
「全然気にする事ないよ」
ニッコリ笑うデルフィーノさん。
やばい、まじ、やばい! 惚れちゃう。
乙女心がヒートアップ!
机に戻ると、居残っていたサビーナちゃんに聞かれた。
「プルムさん、仕事中にギャンブルをやっていたんですか」
やばい! サビーナちゃんに軽蔑されちゃう。
「誤解よ、監視に行ってただけ」
テキトーに誤魔化す。
ふう、今度からは私服に着替えて行こうっと。
あたしが振り返ると、鼻くそをほじくりながら、ずんぐりとした男が立っている。
後ろにもデブとヤセが二人。
チェーザレとその子分のアベーレとベニートの三人組だ。
三人ともヘラヘラと笑っている。
北部の地方都市ラドゥーロの西地区トランクイロ街、いわゆるスラム街出身。
幼馴染だけど、ろくでもない連中だ。
あたしはびっくりして思わず言った。
「何で、あんたらが首都にいるの」
「俺たちも一旗揚げに、この都に来たんだよ」
チェーザレが答える。
他の二人は黙ってヘラヘラしてるだけ。
「何の旗揚げよ」
「新聞で見たぞ。お前、ドラゴンを倒したんだってな」
「そ、そうだけど」
ちょっとあたしは動揺する。
「当然、ウソだろ」
「何で、何を根拠にウソって言うんよ?」
「お前がドラゴンを倒せるわけがない。詐欺だろ、それとも何か裏の事情があるんだろ」
チェーザレの奴、昔から顔も頭も悪いけど、勘はいいんだよな。
だけど、情報省のクラウディアさんと約束した以上、事実を言うわけにはいかない。
「うるさい! 本当よ!」
「何か機嫌が悪いな。誰かに振られたんか?」
あたしの頭の中で、リーダーの顔が一瞬で浮かんだ。
大きなお世話だー! 腹立つー!
「うるさいって言ってんでしょ!」
「なに怒ってんだ? だいたい、泥棒が何で警備隊員になれんだよ。どうやってもぐり込んだ? 何か当局の弱みを握ったのか?」
「王様の命令なんだから仕方がないじゃない。あんたらも試験受けたら。頭が悪いから無理でしょうけど」
「頭が悪いのは自覚してるよ。それよりトランクイロ街を出る前に借金取りが来たぞ、お前を探しに」
「え、ほんと?」
ビビるあたし。
「ドラゴン倒せるほどの奴が、何で借金取りに追われるんだよ」
「うるさいわい! で、しゃべったの? あたしが首都に居ること」
「言わないよ。借金取りも自分たちが追っているのが、かの有名なドラゴンキラーとは気づいていなかったようだけどな」
チェーザレはほじくった鼻くそを指でピーンとはじく。
「汚ーい! 不潔!」
昔からヒマさえあれば鼻くそほじくってばっかり。
この鼻くそ男!
「言わなかった俺に感謝しろよ」
「ふん、余計なお世話よ」
強がるあたし。
「まあ、どんな手を使ったにしろ、俺たちのスラム街出身で公務員になったのはお前が初めてじゃないかな。それは褒めてやろう」
「偉そうに言うな!」
「ところで、警備隊とかは、街の裏情報とかも大切だろ」
「それがどうしたんよ」
「情報屋として使ってくれよ」
「お断り!」
情報屋ってよく分からんが、ムカついているので冷たく断る。
「同郷だろ、冷てーな。見捨てんのかよ」
「自分で努力しなさいよ」
自分のことは棚にあげるあたし。
「努力? お前が努力とかそういう言葉使うようになるとはな。随分心変わりしたもんだなあ」
「フン、乙女心は複雑で変わりやすいんよ」
「乙女? ああ、お前まだ処女か」
「しょ、しょ、処女じゃないよ」
動揺するあたし。
「はあ? 何で動揺してんだ?」
「ど、動揺なんかしてない!」
ますます動揺するあたし。
「処女のなにが悪いんだ?」
「うるさい! 向こう行け!」
完全に動揺して、逆ギレするあたし。
「だから、なに怒ってんだよ?」
「あ、あんたらだって、まだなんでしょ」
「ここは首都。女遊びする場所はいくらでもあるよ。お前も遊んで来たらどうだ。あ、お前、女だったな」
ギャハハ! と笑うバカ三人組。
くそー、何とか逆襲したい。
「フン、そんなところへ行って、かわいそうな人たちね。恋人いないんでしょ!」
「じゃあ、お前いるのかよ」
「い、い、い、い、いるわよ」
さらにさらにさらにさらに動揺するあたし。
またギャハハ! と笑うバカ三人組。
「見栄を張るなよ、俺が最初の男になってやってもいいぜ」
チェーザレがニヤニヤ笑いであたしに言った。
「うるせー! あんたのような鼻くそ男なんか絶対嫌よ」
恋愛至上主義のあたし。
愛がない男女関係なんて信じられない。
愛こそ全て。
たとえ片思いでも。
いや、いつかあたしにも……。
「お前って、俺らと同じスラム街出身のくせに、昔から妙な考えを持ってたよな」
チェーザレが依然としてニヤニヤしながら言った。
「なに、妙な考えって」
「いつかあたしにも白馬に乗った王子様が迎えにやって来るわ~って妄想してただろ」
こいつ、ほんとに勘がいい。
「実際はそんなのお前のとこに来るわけねーぞ。いや、もしかしたら来るかもな、豚に乗って」
またまたギャハハ! と笑うバカ三人組。
「ふざけんな、この野郎! いい加減にしろ!」
「高望みすんなってことだよ。人生、妥協することも大切だぞ」
「あんたに妥協なんかしないよ!」
「見栄を張るなよ。しかし、ここぞという時は相手に正直に話したほうがいいぞ」
「何で、あんたに正直にならなきゃいかんのよ!」
「処女だと恋人ができたら、相手に病気だと思われるぞ」
「誰がそんなこと言ってんの」
「有名文化人だ」
「気持ち悪い最低文化人ね、頭腐ってんじゃないの」
あー、キモイ、キモイ。
「じゃあな、プルム首都警備隊員殿。自分の大事な所を警備してな!」
ギャハハと笑いながら去っていくバカ三人組。
なんちゅー下品な奴ら。
最低! 最悪!
ああ、だけど、あたしもあいつらと同じ環境で育ったんだよなあ。
リーダーはいいとこのお坊ちゃん。
アデリーナさんもいいとこのお嬢さん。
バルドは大企業の三男坊。
サビーナちゃんは貧乏で母子家庭だけど、お母さんに愛されてる。
あたしはスラム街の孤児。泥棒、万引き常習犯、ギャンブル依存症。
劣等感にさいなまれて、暗くなる。
ああ、スカッとしたいなあ。
お、賭博場がある。
ダメダメ、今、勤務中。
いや、勤務中だから、悪い奴がいないか見張らんと。
ダメダメ、耐えきれずに自分もギャンブルしちゃう。
いや、不正が無いか監視しないといけないと体が賭博場に吸い込まれた。
……。
賭博場から放り出される。
「イカサマだあ!」
わめくあたし。
「ふざけてんのか、お前」
賭博場の用心棒にどつかれ、脅される。
「あ、すみません。ふざけておりません。お許しください」
あたしがビビっていると、大柄な男ともう二人、おっさん三人組がやってきて仲裁に入ってくれた。大柄な男は赤ひげのおっさんことアレサンドロ大隊長だ。
「この金で許してやってくれないか」
何枚かお札を差し出す。用心棒は金を受け取ると、さっさと賭博場に戻っていった。
「助けてくれて、ありがとうございます」
あたしは赤ひげ大隊長にお礼を言う。
すると、赤ひげのおっさんは不機嫌そうな顔する。
「好きで助けたわけじゃないぞ。部下がトラブル起こすと、こっちが迷惑なんだよ。一応、大隊長だからな。責任問題になる」
赤ひげのおっさんの後ろにいた男に、嫌味を言われた。
「ドラゴンキラーのくせに賭博場の用心棒には勝てないのかよ」
見覚えがあるぞ、この陰険な顔。レッドドラゴン事件のとき、赤ひげおっさんと一緒に逃げたセルジオ大佐だ。
「仕事さぼって、ギャンブルかよ、最低だな」
もう一人の痩せたおっさんにまた嫌味を言われた。このおっさんは、たしかブルーノ中佐だ。同じく逃げ出したんだっけ。
この人たちも軍隊クビになったのかな。三人とも酒臭い。やけ酒ですか。悲惨だなあ。
それにしても、敵前逃亡したあんたらに言われたくないぞと思ったが、仕事さぼっているのは事実でもある。
「大隊長殿は、なぜこの場所に来られたんですか?」
「今日は休みだよ。飲み屋をはしごしてたんだ。家に居てもつまんねーからな。じゃあな、さぼり魔」
アレサンドロ大隊長は吐き捨てるように言って、セルジオ、ブルーノの両おっさんと去っていく。真っ昼間から飲み屋のはしごとは赤ひげのおっさん、荒んでるなあ。ちと、かわいそうな気もする。
……………………………………………………
巡回から戻ると、セルジョ小隊長の机に呼びつけられた。
「おい、プルム! お前、勤務中にギャンブルやってたそうだな」
ひえ、何で知ってるの? 赤ひげのおっさんがチクッたの?
「だ、誰がそんな事、言ってるんですか!」
「賭博場から直接、通報があったんだよ」
あの用心棒、金を貰ってながら通報とは。
許せん! あの賭博場には二度と行かん。
「警備隊員の恰好でギャンブルとは、お前はあまりにもいいかげんだ! 懲罰委員会にかけることにする」
「ひえ、そんな、お願いいたします。真面目に働きます。毎日、朝早く来て、皆さまの机を拭きますから。あと、廊下の掃除と窓ふきもします。職場の皆さま全員にお茶も入れますので、どうかお許しを」
「ダメだな。とりあえず、懲罰委員会にかけられたら、給与は半分に減俸だな」
そんな、半分に減らされたら、ギャンブル出来なくなっちゃう。
「お願いいたします。勘弁してください、小隊長殿! トイレ掃除でも耳の掃除でも足の指の掃除でも何でもしますから」
マジに半泣き状態で必死なあたし。
「ダメ!」
「そんなあ! お許しください、今度からは真面目にやりますから」
あたしは必死になってセルジョ小隊長に頭をさげる。
そこへ、デルフィーノ分隊長さんが間に入って、かばってくれた。
「まあまあ、そこを何とか許してやってくださいよ。プルムさんも二度とやらないって言ってるし、そうだよね」
デルフィーノさん、優しい。マジ、惚れちゃいそう。
「ううむ、デルフィーノ君がそう言うなら」
お、さすがデルフィーノさん、小隊長にも信頼されてる。
デルフィーノさんのおかげで、何とか助かった。
小隊長が席を空ける隙に、頭をさげる。
「デルフィーノ分隊長殿、先ほどはありがとうございました」
「全然気にする事ないよ」
ニッコリ笑うデルフィーノさん。
やばい、まじ、やばい! 惚れちゃう。
乙女心がヒートアップ!
机に戻ると、居残っていたサビーナちゃんに聞かれた。
「プルムさん、仕事中にギャンブルをやっていたんですか」
やばい! サビーナちゃんに軽蔑されちゃう。
「誤解よ、監視に行ってただけ」
テキトーに誤魔化す。
ふう、今度からは私服に着替えて行こうっと。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる