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第5話:ポール様と森の中を歩く

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 アラン様の弟、ポール様と一緒に歩く。
 この方は話がうまいので、つい、私も笑ってしまうこともある。

 楽しい人だ。
 いや、楽しい吸血鬼か。

 村道から離れて、少し暗い森の中を歩く。

「この森はモンスターとか出ないから大丈夫だな、イノシシくらいかな」
「そうみたいですね」

「それにしても眠くてね」
「え、なぜですか」
「夜中の三時に兄貴の部屋から女性の大声が聞こえてきてねえ、うるさくて眠れなかったよ、ああ、眠い、眠い」

 私はびっくりした。
 アラン様に抱かれて、興奮と快感のあまりに、あの分厚い扉も阻めないほどの喘ぎ声を私は無意識に出していたんだ。

 私は恥ずかしくなって、ポール様に謝った。

「……あの、大変申し訳ありませんでした……その、これからは何とか声を出さないようしますので、ご容赦願います……」

 すると、ポール様が笑った。

「おいおい、あの分厚い扉や広い廊下を超えて、声なんて聞こえてくるわけないじゃないか、君と兄貴はそんな夜中までやってたの」

 それを聞いて、私の顔が真っ赤になる。

「ポール様、ひどいですう、引っかけるなんて!」
「あはは、いやあ、すまん、すまん。君たちがどれくらい愛し合っているのかなあって思ってね。しかし、確か昨夜、君と廊下で会ったのが午後十一時頃だよなあ、すると四時間もやってたのかあ」

 私はますます顔を赤くしてうなずいた。

「はい……その通りです……」
「しかし、君は普通の人間だろ、毎晩、そんな風に抱かれたら身体を壊さないか」

 ポール様に心配されてしまった。

「そうですね……ただ、私が疲れるとアラン様はちゃんと休憩を取らしてくれますので、大丈夫です」
「うーん、失礼なことを聞いていいかなあ。真面目な質問だけど。いやなら答えなくていいけど」
「はい、何でしょうか」

「君は、その、兄貴以外の男性と経験があるの。普通の人間の男性とか」
「……あの、私はアラン様に出会うまでは、その、処女でしたので……経験はなかったです」

「そうか、実はなあ、吸血鬼ってのは、普通の人間の十倍から百倍の快感を人間の女性に与えるようなんだ。俺、人間の女性と寝たことないんでわからないんだけどさあ。下手したら、君の身体がおかしくなってしまうんじゃないかと思うんだけどなあ。もっと、フランソワーズを大切にしてやれ、夜中の三時まですんなってそれとなく兄貴に言っておこうか」
「あ、いえ、自分から言いますので……」

「そうか、まあ、愛し合っているなら、いいかな。兄貴も君のことを大事にしてくれるみたいだし。とにかく身体を壊さないように、あんまり激しくやらないほうがいいんじゃないの」
「はい、わかりました……」

 十倍から百倍の快感か。
 私は性的快感でアラン様に屈服してしまったのかしら。

 私はアラン様のことを愛してしまったと思っているんだけど。
 実は愛しているんじゃなくて、快感がほしいだけなのかしら。

 そうだとしたら、かなりいやらしい女だなあと自分でも思ってしまった。
 アラン様以外の男性との経験がないからよくわからないけど。

 私が恥ずかしげにうつむきながら歩いていると、突然、ポール様が私の身体を森の大木に押しつける。
 私のあごや唇をさわる。

「フランソワーズ、よく見ると君はなかなか可愛い顔をしているね」
「あ、あの、ポール様、まずいと思いますが。アラン様は、他の吸血鬼の方には私には絶対さわらないようにと厳命されているはずです」
「おいおい、別に君を乱暴しようなんて思ってないよ。そんなことをしたら、兄貴に八つ裂きにされちまうよ」

 ポール様は依然として私の唇を撫でながら、顔をしげしげと見る。

「ふーん、兄貴はこういう顔が好きなんだな、君は何才だっけ」
「十九才です」

「人間の年齢で十九才にしては、君はやや幼い顔つきをしているね。兄貴の趣味がわかるな。まあ、君は兄貴の大のお気に入りなんだから、俺は手を出すことはないよ、安心しなよ。それにしても、夜中の三時って、君も兄貴にすごく愛されているわけだ。君も嬉しいんだろ」
「はい、そうですね……とても嬉しいです……」

 そう答えた私だったが、ポール様は勘違いしているなあと思った。
 私は別にアラン様から愛されているわけではない。
 私はアラン様を愛してしまったのだけど……。

 前にも言ったが、私の身体には秘密があった。
 私のおしっこ、それに絶頂へ達したときにあそこから噴き出す体液。
 いわゆる潮噴き。

 それを飲むと、吸血鬼の身体が活性化されるのだ。
 私は特異体質だった。

 それに気づいたのはアラン様だけ。
 暗殺に失敗して、アラン様の前に引きずり出された時、私は恐怖のあまり失禁してしまった。

 その時、そのおしっこの匂いでアラン様は気づいたようだ。
 他の吸血鬼たちは気づいていないようだ。
 失禁していなければ、その場で他の仲間のように惨殺されていただろう。

 だから、抱かれる時は、毎回、何度も私はアラン様に絶頂へいかされ、あそこからはしたない液を噴き出して、それをコップに注ぐ。アラン様はそれを飲み干してしまう。

 国王暗殺部隊員の私がなぜ助命されたかは、公式発表では、トランシルヴァニア王国の吸血鬼たちが人間を殺して血を吸うことはしていないこと、そして、アラン国王陛下の寛大さを宣伝するためとなっているけど。ただ、吸血鬼の中には、私が夜の淫らな行為でアラン様をたぶらかしたと噂にもなっているらしい。

 しかし、この私の特異な体質も二十代まで。
 それが終わったら、人間の村へ帰してやるとアラン様からは言われている。
 用が無くなったから殺すとかはしないと言ってくれた。

 多分、アラン様のことだから信用していいと私は思っている。
 ただ、私としてはアラン様から離れたくないんだけどなあ。

 そんなことをポール様と話していたら、背後から男がやってきた。
 吸血鬼のようだ。

 吸血鬼と人間は外見はほとんど変わらない。
 口を開けば犬歯が尖っていて、吸血鬼とすぐわかるけど。

 ただ、私も吸血鬼城で働き始めてから数か月で、なんとなく雰囲気でわかるようになった。
 吸血鬼は無表情なことが多い。
 ポール様は例外だが。

 近づいてきたそいつがいきなり剣を突きつけた。
 強盗か。

「お楽しみの最中、悪いが、金を出しな。後、その女を寄こせ」

 ポール様が右手を振った。
 いつの間にか鉄製のナイフを持っている。

 強盗の首が吹っ飛んだ。
 頭のない身体から血が噴き出して、倒れた。

 一瞬の出来事で私は足がガクガクと震えてしまった。
 
「やれやれ、いまだにこんなどうしようもない吸血鬼がいるとはね」

 ポール様が私の方へ振り返る。
 そして、ちょっとびっくりしている。

 私は手で護身用の銀のナイフを持っているのだが、足元は、失禁して尿で水溜まりを作っていた。
 メイド服のスカートがおしっこでびしょ濡れ。
 私は恥ずかしくてうつむいてしまう。

「いや、今の奴は何人もの平民の吸血鬼の女性を乱暴しているろくでもない奴だから、生かしておく必要はないと思ってさあ。単なる強盗なら刑務所送りで済ませてやったんだけどなあ。君を脅かして本当に悪かったね」
「あ、あの、何で今の吸血鬼が、何人もの平民の吸血鬼の女性を乱暴しているってわかったんですか……」

「俺は相手の頭の中身が読める能力があるんだよ。これは兄貴も持っていない能力なんだ。と言うか、この能力を持っているのは、この国でもほんの数人しかいないんだよ。俺の唯一の自慢できることだな」
「え、そうなんですか」

 まずいなと私は思った。
 私とアラン様の極秘の儀式がポール様にバレてしまう。

 考えまいとしても、つい、昨夜に裸でアラン様の顔にまたがった自分を思い出してしまった。
 そして、絶頂へ達したときに私のあそこから噴き出した液をコップに注いで、そして、それをアラン様が飲んでいる場面を。

 しかし、ポール様が言った。

「ただ、わかるのは俺より低位の吸血鬼だけなんだよ、兄貴が何を考えているかは読めないんだ。俺より高位の吸血鬼だからね。後、俺より年上の吸血鬼とかな。例えば執事のブレソールとか。それに、人間については、赤ちゃんだろうが老人だろうが、どんな奴でも何を考えているか全く読めないね。わかるのは下っ端の吸血鬼だけさ。大して役に立たない能力だな、あはは!」

 それを聞いて、私はホッとした。
 あの秘密は守られたみたい。

「ただ、人間が何を考えているかわかる方法もあるんだがね」
「え、どうやってわかるんですか」

「我が吸血鬼城に代々伝わる魔力のある大きな鏡があってねえ、そこに映った人間の考えはわかるんだ。但し、一瞬だけなんでほとんど役に立たないなあ」
「その鏡ってどこにあるんですか」
「貴重品だから倉庫に保管されているみたいだな。まあ、今言ったように、一瞬だけじゃあ、あまり役に立たないしね。かなりでかい鏡みたいだけどな」

 倉庫にあるのか、じゃあ、大丈夫ね。
 そもそも、アラン様におしっこを飲ませていること自体が恥ずかしい。
 国王陛下におしっこを飲ませているなんて。

 もし、知られたら、ますます周りの吸血鬼たちに軽蔑されてしまう。
 お城から追い出されてしまうかも。

 いやらしい淫らな娼婦。
 変態行為で国王をたぶらかしているいやらしい人間の女。
 そう思われてしまう。

 ただ、夜に激しく淫らに乱れているのは事実なんだけど。
 気持ちが良すぎて。

 けど、あの行為、私は恥ずかしく仕方がないんだけどなあ。
 アラン様の命令には絶対服従なので仕方がないけど。
 そんなことを考えている私にポール様が、また言ってきた。

「あのさあ、正直に言って悪いけど、君は元剣士なんだろう。こんなことは見慣れているんじゃないのか。なんせ、兄貴を暗殺に来たんだろ、これくらいで粗相をするとは……」
「あの、確かに剣技はそれなりだったんですけど、精神力が足りなかったみたいです。申し訳ありません……」

 それとも、私のあそこの尿道口って緩いのかなあと思ったりもした。
 アラン様暗殺未遂事件の時も捕まった後、殺される恐怖のあまり盛大に失禁して、警備の吸血鬼たちに大笑いされて、さんざん罵倒されたっけ。
 情けない思い出だ。

 しかし、その恥ずかしい思い出もいつかは忘れるだろう。
 または笑い話として。

 しかし、仲間を見捨てたこと。
 また、私の頭の中で吊り橋から転落していく仲間のクロードの絶叫が響いてくる。

 つらい思い出だ。
 やはり忘れることが出来ない。

 クロードの笑顔を思い出して、そして、同時にあの時のクロードの絶叫も頭に響いてくる。
 私はまた憂鬱になってしまった。
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