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Pr.22 夏は早く終わるものである
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渡月の来訪から1週間。ついにエアコンの修理が完了し、彼女は帰っていった。その後もたまに俺の家に来ていたが、特に何もなく時間だけが過ぎていく。宿題が終わってからの時間は2学期からの授業の予習に充てて、少しずつ内容を理解していく。そんな日々だった。
プール?そんなのどこにあるんだ?当然そんなの誘われてないし、そもそも1回も行ったことがないからそこがどんなところなのかも分からない。今どきそんな人少数派なのかもしれないが、近くに同じ境遇の人(トモ)がいたので、別にいいだろう。
夏祭りはどうやらあったらしい。渡月が「クラスのみんなと行った~」と行ってきた次の日に言っていた。俺も一応クラスは同じなのだが、これにも誘われていない。まぁ、みんなに含まれる人にはなる気はないからしょうがないんだろうが。
そして夏休み最終日。渡月は今日も俺の部屋に来ていた。
「夏休みももう終わりかぁ」
「無駄に長いよな。」
「ほんとそれ!宿題の量は多いけど、こんなに時間あったらすぐ終わるし。」
そんなことを言いながら渡月はグータラしている。俺の家のソファーはもうこいつの居場所になっていて、それが日常になりつつあるのが本当に怖い。
「だからさ、花火しようよ!」
「花火?そんなものあるのか?」
「あるよ。私の家に。」
何を変なことを言ってるのと言わんばかりに、こっちを向いて言ってくる。その姿は男子の家にいるとは思えないほどのラフな格好で、本当に落ち着かない。
「まぁどっちでもいいけど。ってことは、今日の晩ご飯は俺ん家?」
「よろしく。」
「えーい。」
渡月は元の体勢であるうつ伏せに戻って、またスマホを見始めた。
夜になって渡月は自分の部屋にシャワーを浴びに戻り、そしてまたやってきた。Tシャツ1枚にホットパンツという、もう恥も何もない格好である。そして、その手には花火のセットとライターがあった。
「来たよー。やろー。」
「待て待て。その前に飯だ。」
俺ももうシャワーを浴びていてスウェットだけの格好。もうこいつに見せるのは慣れた。
夏休み最後の晩はざるそばにした。別に学校が始まったら食べられなくなるわけではないが、最後の晩にはこれを食べようとちょっと前から決めていたのだ。
「「いただきます!」」
この夏休みの間に、飯は俺ん家で2人で食べるというのが随分習慣化してしまった。ほんの数ヶ月の付き合いになるが、今となってはトモよりもよく喋ると言っても過言ではない。
「そういや、橘くんって暇なとき何してたの?」
「予習。」
「えら!えらすぎ!私、予習のよの字もなかったよ!」
「そりゃあ天才様にはいらないもんな。」
「へへ~それほどでも~!」
2人で1つの皿をつつきながら、蕎麦をすする。そしてすぐに食べ終わった。
この夏休みで分かったことだが、渡月は食べるほうだと思う。その細い体にどうやって入っていってるか知らないが、食べる量は男の俺とほぼ変わらない。そんでもって太らないとか、羨ましすぎる。
皿を洗っている間は、渡月は俺の背中を見ている。これも変わらない光景だ。本人曰く、「やってもらってる間に私だけ遊ぶのは違う」とのこと。気持ちとしては嬉しいのだが、少し緊張するのでやめて欲しいところだ。
そしてもう1つ、確かなことがある。この生活が居心地よくなってきていること。渡月と一緒にいることに何ら違和感を感じなくなってきていることだ。今はまだ、渡月が叶華のような存在になるかは分からないが、少なくとも一緒にいて心地いい。馬鹿みたいなかけ合いも、時計の針の音が聞こえるような静けさも、全て居心地よく感じる。そして落ち着くのだ。
「早く早く!」
こうして急かしてくる渡月にはそんなこと言えないが、俺の中で渡月という存在が強くなってきているのは確かだろう。
「わかったって。そう急かすな。ガキか?」
「ガキです~!もう16歳のガキです~!」
そう言って目の前で笑っている渡月。花火を開けて、何本かに一気に火をつけそして走っていく。家の前の駐車場でくるっと回るって笑う、光に照らされたその顔は、幼い子供のようだ。
「ねえ!もう1回回るから写真撮ってよ!」
「分かった。」
俺はスマホを取り出して、カメラを起動させる。そして左手を軽く上げた。
渡月はくるっとその場で1周回り、俺はそのタイミングで連写する。回り終えた渡月は走ってこっちに来た。
「どうどう?」
俺のすぐ横から画面を覗き込み、「おおー!」と叫ぶ。俺から見てもわかる、いい写真だった。
「橘くんもやりなよ。」
「いや、いいよ。見てるだけでも楽しいから。」
「ほらほら持って。」
渡月は俺に花火を持たせて火をつける。青白く光るその花火はとても綺麗に見えた。
俺は隣の渡月を見る。また花火に火をつけて、パァーっと笑顔を輝かせるその顔を見てふと考えてしまった。
俺はこいつを「ちはや」と呼ぶ日がくるのか。
そのとき初めて思ったのだ。夏休み短かったなと。
プール?そんなのどこにあるんだ?当然そんなの誘われてないし、そもそも1回も行ったことがないからそこがどんなところなのかも分からない。今どきそんな人少数派なのかもしれないが、近くに同じ境遇の人(トモ)がいたので、別にいいだろう。
夏祭りはどうやらあったらしい。渡月が「クラスのみんなと行った~」と行ってきた次の日に言っていた。俺も一応クラスは同じなのだが、これにも誘われていない。まぁ、みんなに含まれる人にはなる気はないからしょうがないんだろうが。
そして夏休み最終日。渡月は今日も俺の部屋に来ていた。
「夏休みももう終わりかぁ」
「無駄に長いよな。」
「ほんとそれ!宿題の量は多いけど、こんなに時間あったらすぐ終わるし。」
そんなことを言いながら渡月はグータラしている。俺の家のソファーはもうこいつの居場所になっていて、それが日常になりつつあるのが本当に怖い。
「だからさ、花火しようよ!」
「花火?そんなものあるのか?」
「あるよ。私の家に。」
何を変なことを言ってるのと言わんばかりに、こっちを向いて言ってくる。その姿は男子の家にいるとは思えないほどのラフな格好で、本当に落ち着かない。
「まぁどっちでもいいけど。ってことは、今日の晩ご飯は俺ん家?」
「よろしく。」
「えーい。」
渡月は元の体勢であるうつ伏せに戻って、またスマホを見始めた。
夜になって渡月は自分の部屋にシャワーを浴びに戻り、そしてまたやってきた。Tシャツ1枚にホットパンツという、もう恥も何もない格好である。そして、その手には花火のセットとライターがあった。
「来たよー。やろー。」
「待て待て。その前に飯だ。」
俺ももうシャワーを浴びていてスウェットだけの格好。もうこいつに見せるのは慣れた。
夏休み最後の晩はざるそばにした。別に学校が始まったら食べられなくなるわけではないが、最後の晩にはこれを食べようとちょっと前から決めていたのだ。
「「いただきます!」」
この夏休みの間に、飯は俺ん家で2人で食べるというのが随分習慣化してしまった。ほんの数ヶ月の付き合いになるが、今となってはトモよりもよく喋ると言っても過言ではない。
「そういや、橘くんって暇なとき何してたの?」
「予習。」
「えら!えらすぎ!私、予習のよの字もなかったよ!」
「そりゃあ天才様にはいらないもんな。」
「へへ~それほどでも~!」
2人で1つの皿をつつきながら、蕎麦をすする。そしてすぐに食べ終わった。
この夏休みで分かったことだが、渡月は食べるほうだと思う。その細い体にどうやって入っていってるか知らないが、食べる量は男の俺とほぼ変わらない。そんでもって太らないとか、羨ましすぎる。
皿を洗っている間は、渡月は俺の背中を見ている。これも変わらない光景だ。本人曰く、「やってもらってる間に私だけ遊ぶのは違う」とのこと。気持ちとしては嬉しいのだが、少し緊張するのでやめて欲しいところだ。
そしてもう1つ、確かなことがある。この生活が居心地よくなってきていること。渡月と一緒にいることに何ら違和感を感じなくなってきていることだ。今はまだ、渡月が叶華のような存在になるかは分からないが、少なくとも一緒にいて心地いい。馬鹿みたいなかけ合いも、時計の針の音が聞こえるような静けさも、全て居心地よく感じる。そして落ち着くのだ。
「早く早く!」
こうして急かしてくる渡月にはそんなこと言えないが、俺の中で渡月という存在が強くなってきているのは確かだろう。
「わかったって。そう急かすな。ガキか?」
「ガキです~!もう16歳のガキです~!」
そう言って目の前で笑っている渡月。花火を開けて、何本かに一気に火をつけそして走っていく。家の前の駐車場でくるっと回るって笑う、光に照らされたその顔は、幼い子供のようだ。
「ねえ!もう1回回るから写真撮ってよ!」
「分かった。」
俺はスマホを取り出して、カメラを起動させる。そして左手を軽く上げた。
渡月はくるっとその場で1周回り、俺はそのタイミングで連写する。回り終えた渡月は走ってこっちに来た。
「どうどう?」
俺のすぐ横から画面を覗き込み、「おおー!」と叫ぶ。俺から見てもわかる、いい写真だった。
「橘くんもやりなよ。」
「いや、いいよ。見てるだけでも楽しいから。」
「ほらほら持って。」
渡月は俺に花火を持たせて火をつける。青白く光るその花火はとても綺麗に見えた。
俺は隣の渡月を見る。また花火に火をつけて、パァーっと笑顔を輝かせるその顔を見てふと考えてしまった。
俺はこいつを「ちはや」と呼ぶ日がくるのか。
そのとき初めて思ったのだ。夏休み短かったなと。
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