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Pr.16 陽キャは誰かの家に来たがる

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「それじゃ、また夏休み明け。解散!」

担任がそう言って、夏休み前最後の日が終わった。これからは課題に追われるだけの日々になるだろう。それでも、学校の時間が減るわけだから、当然自由な時間も増えて…

 今日は家に帰ったら一学期終了記念のトモとお祝いパーティーでもやろうと思ったのだが…

「なんでついてきている?」
「何となく、橘くん一人暮らしって言ってたし。」

渡月がついてきているこの状況。俺は果たして自由なんだろうか。

「どうせ暇でしょ?」
「暇じゃないと言ったら?」
「ん~、精神攻撃?」
「考えてることやばすぎだろお前。」

とりあえず並んできたので仕方なく一緒に歩く。いつもなら俺より3駅先に降りるはずなのに降りなかったのはこのためか。

 近くのスーパーでポテチとコーラ、冷凍のピザ、そしてミント味のガムを買ってレジ袋を持つ。俺の後ろに並んでいた渡月はカップ焼きそばとサイダーを買っていた。

「地味に俺ん家で昼飯食おうとしてるよな。」
「悪い?寂しい寂しい橘くんの相手してあげようと思ってるのにな。」

寂しいが1個多いと思いつつも、とりあえずついてくる渡月が置いていかれないように歩く。

「あれれ?ダッシュで逃げてもいい所なのに、逃げないんだ。へぇ~。」
「うっせ。ここまで来たんだからもういいかって思えてんだよ。」

鍵を空けて家の中に入る。渡月も招き入れて…の前に一度外で待ってもらうことにした。そう。何も片付けていないのだ。

 10分くらいでとりあえず人の住めるような環境に変えて招き入れる。

「ほぇ~、見た目によらず思ったよりちゃんとしてるんだね。」
「今日は自炊じゃないけどな。」

さっき買ったのは昼兼夜兼徹夜のお供。トモとはとりあえずゲームでもして徹夜することになっているのだ。

「それなら夕方ぐらいで私帰ることにするね。ここなら家からそう遠くないって分かったし。」
「どういうことだ?」
「私ね、3駅ぐらい短い区間で定期券買ってて、いつも3駅分自転車漕いでるんだ。」
「親には?」
「ちゃんとした区間で買ってるって言ってる。」
「悪いやつめ。」
「ずる賢いんです~!」

俺がピザを焼いている間に渡月は勝手にお湯を沸かし、そしてカップに注ぎ始める。つまり、渡月が住んでいるのは同じ最寄りの駅ということだ。

「それでどこに住んでるんだ?」
「え~っ!それ聞いちゃう?」
「そりゃあもちろん。」
「向かいのアパート。」
「向かいのアパート…って近すぎるな。」

俺の家の前には道路を挟んでもう1つアパートがある。そこはここよりちょっとだけ家賃が高いが、新しいアパートでめちゃくちゃ綺麗なのだ。

「まあそんなわけだから、この夏休みの間入り浸らせてもらうね。電気代かさむし。」
「それなら俺の家だってそうだぞ。」
「じゃあ私ん家来る?」
「その答えはNOだ。」
「ちぇー。」

なんて喋っていたらチーンと音がする。ピザが焼きあがったようだ。渡月はシンクにお湯を流し、湯切りする。俺はピザをさらに乗せ、6等分する。そして食器棚からグラスを2つ出した。

「てんきゅ。」

渡月はそれを受け取り、テーブルの上に置いてサイダーを注ぐ。俺もコーラを注いでグラスを持った。

「それでは一学期終了を記念して、家が近いという事実を記念して乾杯!」
「乾杯!」

こうして予定外のパーティーが始まった。

 一学期のことを振り返りながら喋っているともう5時半。かれこれ5時間ほど喋っていたことになる。

「それじゃあ、私は明日みんなと遊びに行くから。友達の橘くんとはとりあえずバイバイ!また凸るから!」

そう言って渡月は部屋を出ていった。

 テーブルの上に残る白いカップと空のグラス。そして空のベットボトル。そのどれもが渡月がここにいた証拠だ。

「はぁ~…」

俺はテーブルの上を片付けながら今日の夜のことを考える。結局夜の分もと思って買ったピザは食べてしまった。かと言って作るのも面倒だ。

 冷凍庫を覗けば、そこには業務用のフライドポテトがあった。

「これにすっか。」

トモに「6時半くらいから」と連絡すると、「ごめん9時からでいい?」と返信が帰ってくる。「おけ」とだけ返して、俺はスマホゲームを少しすることにした。

 時間だけが静かに流れていき、8時過ぎになる。俺は一度ゲームを切り上げて、ポテトを揚げ始める。今日の晩餐はポテトとポテチ。油まみれだがこれでいい。マッチングのときに食って手を拭いたらいいだけだからな。

 そして約束の9時になる。

『よぉっす。一学期お疲れぃ。』
「お疲れ。そっちの方がきついだろ。」
『いや、そう変わらんぞ。航のテスト見てたらうちの学校とほぼ変わらんし。』
「そんなもんか?」

喋りながらゲームのルームを作る。

『今日は何やんだ?』
「いつもの。」
『おっけー。』

トモも同じゲームを開き、ルームに俺が招待する。今日はイベントの開始日。トモと2人でタッグを組み、それで潜り続けるつもりだ。

「いつも通り寝たら罰ゲな。」
『今回はどうする?』
「明日、配信者の誰かと当たるまで寝れまてん。」
『しんど。』

宴の始まりだ。
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