12 / 24
Pr.12 それでも君は隣にいる
しおりを挟む
Pr.12 それでも君は隣にいる
「それだけじゃなかった。俺に対する嫌がらせってのは。」
そんな俺にも話しかける女子はいた。けど、どんどん減っていって最後に残ったのは1人だけだった。名前は三笠叶華。昔から遊んでいる幼なじみってやつだ。友達に何回も止められるも「悠人はそんなやつじゃない」と言い切って、俺のところにやってきた。そんな強いやつだった。
それは夏休み中のことだった。
俺の家と叶華の家は昔からの付き合いがあって、叶華はよく俺の家に遊びに来ていた。
「悠人は今の状況でいいの?」
「別に構わない。とは言えないな。正直辛い。」
「先生とかに相談すればいいのに。」
「ああいうやつは、先生から注意されたところで何も変わらねぇよ。」
夏休みの宿題をしながら、そんなことを話す。しばらくの沈黙が続き、先にその沈黙を破ったのは叶華だった。
「私が守ってあげよっか?」
「は?」
「悠人が私の彼氏になれば、ちょっとは気が楽になるかなって。」
小学生同士の付き合いなんて、絶対に続くわけがないが、それでも当時の俺たちはマセていて、学校を歩けばそこら中にカップルがいる。そんな生活だった。
「いや、それは俺が嫌だ。」
「なんで?」
「叶華を傷つけたくない。叶華の学校生活まで危うくなるんだ。そんなの、嫌だ…」
今この家には俺たちしかいない。こんな親がいたら絶対にできない話も、今なら出来てしまう。
「私さ、悠人のこと好きだよ。ずっと前から。」
「俺も好きだよ。叶華のこと。」
叶華は俺の初恋の相手だ。小さい頃からずっと居て、こうして一緒に過ごしている。好きにならない訳がない。
「なら、「もういいんだ!」」
思わず声が大きくなる。叶華に言葉を続けられると、あれを言わないといけなくなってしまうから。絶対に言いたくない。「ごめん」なんて言いたくない。
「これは俺が決めたんだ。誰にも邪魔させない。邪魔されたくない。俺が決めた道なんだ。誰とも喋れなくたっていい。それでみんなが…叶華が…幸せに暮らしていけるのなら。」
叶華はこんな感じになるまでずっと一緒にいてくれた。支えようとしてくれた。その気持ちを俺は今踏みにじった。
「そっか。私は悠人のそんなところが嫌い。自分のことしか見えてなくて、それに相手を巻き込んで、それに気づかないところが嫌い。そんなところも好きだった。でも、今は、今は…」
叶華の目から涙が零れ落ちる。俺も言いたくない。
「好きだから付き合っちゃいけないってこんな気持ちなんだなぁ。」
「今それを言うタイミング?しょうがない。その自分勝手に付き合ってあげる。もう学校では話しかけないようにするし、こうして家で会うこともない。私もみんなの中に入る。だから、いつか迎えに来て。それまで待ってるから。」
叶華はそう言って家を出ていく。きっとこの選択は間違っていない。そう思いながらその背中を見送った。
そして、お互いに何も無いまま別々の中学に上がり、俺は誰とも話さない生活を、叶華は華々しい生活を送り始めた。
「ってのが、俺がこんな感じになった理由。って、なんで泣いてんの?」
「だって、だって、だってぇ~!」
何が言いたいのか分からないけど、理解はできる。少し話重かったかもしれないな。
「先に言っとけばよかったな。重くなるって。」
泣き止んだ渡月は俺の目の前に笑って立った。
「それで、橘くんはその叶華ちゃんがまだ好きなの?」
「分からない。もう好きって気持ちがどんなのかも忘れてしまったからな。」
「それは困った。じゃあ私のこと好きになってもいいんだよ。それで好きって気持ち思い出せるんなら。」
「それはお断りだ。渡月は絶対に好きになれない自信がある。相手のパーソナルスペースを余裕で侵してくる奴は俺は苦手だ。」
「あちゃー、じゃあ直すから!」
「今更無駄だ。もう遅い。」
久しぶりにこんなに人と話した気がする。言葉を発せないのだと勘違いされてもおかしくないくらいに喋ってなかったからな。
渡月は俺の手にそっと触れる。今までこんなことをされることなんてなかった。パーソナルスペースを侵してくると言えど、直接触れるなんてことはしてこなかった。
「いきなりどうしたんだ?」
「んーん。私がこうしたいからしてるだけ。」
お互いに何も言わない時間が流れる。蝉の鳴き声と、車のエンジン音だけが聞こえ、静かにゆっくりと時間が流れる。
「叶華ちゃんって彼氏作ったのかな?」
「どうなんだろ?全く話してないから分からないな。そもそもあの日のこと覚えてるかも分からないし。」
渡月の指が俺の指の間に入って、ギュッと握られる。
「私は隣にいるよ。何があったって、何と言われようと。私は絶対橘くんを1人にはしない。私が絶対にそばにいてあげる。それだけは約束する。」
あの日の叶華と重なる。叶華もこんな優しい顔をしていた。今どこで何をしているか分からないけど、叶華はこう言ってくれるのだろうか。
「ありがとう。」
あの日言えなかった言葉がやっと言えた気がした。
「それだけじゃなかった。俺に対する嫌がらせってのは。」
そんな俺にも話しかける女子はいた。けど、どんどん減っていって最後に残ったのは1人だけだった。名前は三笠叶華。昔から遊んでいる幼なじみってやつだ。友達に何回も止められるも「悠人はそんなやつじゃない」と言い切って、俺のところにやってきた。そんな強いやつだった。
それは夏休み中のことだった。
俺の家と叶華の家は昔からの付き合いがあって、叶華はよく俺の家に遊びに来ていた。
「悠人は今の状況でいいの?」
「別に構わない。とは言えないな。正直辛い。」
「先生とかに相談すればいいのに。」
「ああいうやつは、先生から注意されたところで何も変わらねぇよ。」
夏休みの宿題をしながら、そんなことを話す。しばらくの沈黙が続き、先にその沈黙を破ったのは叶華だった。
「私が守ってあげよっか?」
「は?」
「悠人が私の彼氏になれば、ちょっとは気が楽になるかなって。」
小学生同士の付き合いなんて、絶対に続くわけがないが、それでも当時の俺たちはマセていて、学校を歩けばそこら中にカップルがいる。そんな生活だった。
「いや、それは俺が嫌だ。」
「なんで?」
「叶華を傷つけたくない。叶華の学校生活まで危うくなるんだ。そんなの、嫌だ…」
今この家には俺たちしかいない。こんな親がいたら絶対にできない話も、今なら出来てしまう。
「私さ、悠人のこと好きだよ。ずっと前から。」
「俺も好きだよ。叶華のこと。」
叶華は俺の初恋の相手だ。小さい頃からずっと居て、こうして一緒に過ごしている。好きにならない訳がない。
「なら、「もういいんだ!」」
思わず声が大きくなる。叶華に言葉を続けられると、あれを言わないといけなくなってしまうから。絶対に言いたくない。「ごめん」なんて言いたくない。
「これは俺が決めたんだ。誰にも邪魔させない。邪魔されたくない。俺が決めた道なんだ。誰とも喋れなくたっていい。それでみんなが…叶華が…幸せに暮らしていけるのなら。」
叶華はこんな感じになるまでずっと一緒にいてくれた。支えようとしてくれた。その気持ちを俺は今踏みにじった。
「そっか。私は悠人のそんなところが嫌い。自分のことしか見えてなくて、それに相手を巻き込んで、それに気づかないところが嫌い。そんなところも好きだった。でも、今は、今は…」
叶華の目から涙が零れ落ちる。俺も言いたくない。
「好きだから付き合っちゃいけないってこんな気持ちなんだなぁ。」
「今それを言うタイミング?しょうがない。その自分勝手に付き合ってあげる。もう学校では話しかけないようにするし、こうして家で会うこともない。私もみんなの中に入る。だから、いつか迎えに来て。それまで待ってるから。」
叶華はそう言って家を出ていく。きっとこの選択は間違っていない。そう思いながらその背中を見送った。
そして、お互いに何も無いまま別々の中学に上がり、俺は誰とも話さない生活を、叶華は華々しい生活を送り始めた。
「ってのが、俺がこんな感じになった理由。って、なんで泣いてんの?」
「だって、だって、だってぇ~!」
何が言いたいのか分からないけど、理解はできる。少し話重かったかもしれないな。
「先に言っとけばよかったな。重くなるって。」
泣き止んだ渡月は俺の目の前に笑って立った。
「それで、橘くんはその叶華ちゃんがまだ好きなの?」
「分からない。もう好きって気持ちがどんなのかも忘れてしまったからな。」
「それは困った。じゃあ私のこと好きになってもいいんだよ。それで好きって気持ち思い出せるんなら。」
「それはお断りだ。渡月は絶対に好きになれない自信がある。相手のパーソナルスペースを余裕で侵してくる奴は俺は苦手だ。」
「あちゃー、じゃあ直すから!」
「今更無駄だ。もう遅い。」
久しぶりにこんなに人と話した気がする。言葉を発せないのだと勘違いされてもおかしくないくらいに喋ってなかったからな。
渡月は俺の手にそっと触れる。今までこんなことをされることなんてなかった。パーソナルスペースを侵してくると言えど、直接触れるなんてことはしてこなかった。
「いきなりどうしたんだ?」
「んーん。私がこうしたいからしてるだけ。」
お互いに何も言わない時間が流れる。蝉の鳴き声と、車のエンジン音だけが聞こえ、静かにゆっくりと時間が流れる。
「叶華ちゃんって彼氏作ったのかな?」
「どうなんだろ?全く話してないから分からないな。そもそもあの日のこと覚えてるかも分からないし。」
渡月の指が俺の指の間に入って、ギュッと握られる。
「私は隣にいるよ。何があったって、何と言われようと。私は絶対橘くんを1人にはしない。私が絶対にそばにいてあげる。それだけは約束する。」
あの日の叶華と重なる。叶華もこんな優しい顔をしていた。今どこで何をしているか分からないけど、叶華はこう言ってくれるのだろうか。
「ありがとう。」
あの日言えなかった言葉がやっと言えた気がした。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】碧よりも蒼く
多田莉都
青春
中学二年のときに、陸上競技の男子100m走で全国制覇を成し遂げたことのある深田碧斗は、高校になってからは何の実績もなかった。実績どころか、陸上部にすら所属していなかった。碧斗が走ることを辞めてしまったのにはある理由があった。
それは中学三年の大会で出会ったある才能の前に、碧斗は走ることを諦めてしまったからだった。中学を卒業し、祖父母の住む他県の高校を受験し、故郷の富山を離れた碧斗は無気力な日々を過ごす。
ある日、地元で深田碧斗が陸上の大会に出ていたということを知り、「何のことだ」と陸上雑誌を調べたところ、ある高校の深田碧斗が富山の大会に出場していた記録をみつけだした。
これは一体、どういうことなんだ? 碧斗は一路、富山へと帰り、事実を確かめることにした。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
不審者が俺の姉を自称してきたと思ったら絶賛売れ出し中のアイドルらしい
春野 安芸
青春
【雨の日に出会った金髪アイドルとの、ノンストレスラブコメディ――――】
主人公――――慎也は無事高校にも入学することができ可もなく不可もなくな日常を送っていた。
取り立てて悪いこともなく良いこともないそんな当たり障りのない人生を―――――
しかしとある台風の日、豪雨から逃れるために雨宿りした地で歯車は動き出す。
そこに居たのは存在を悟られないようにコートやサングラスで身を隠した不審者……もとい小さな少女だった。
不審者は浮浪者に進化する所を慎也の手によって、出会って早々自宅デートすることに!?
そんな不審者ムーブしていた彼女もそれは仮の姿……彼女の本当の姿は現在大ブレイク中の3人組アイドル、『ストロベリーリキッド』のメンバーだった!!
そんな彼女から何故か弟認定されたり、他のメンバーに言い寄られたり――――慎也とアイドルを中心とした甘々・イチャイチャ・ノンストレス・ラブコメディ!!
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
男女比:1:450のおかしな世界で陽キャになることを夢見る
卯ノ花
恋愛
妙なことから男女比がおかしな世界に転生した主人公が、元いた世界でやりたかったことをやるお話。
〔お知らせ〕
※この作品は、毎日更新です。
※1 〜 3話まで初回投稿。次回から7時10分から更新
※お気に入り登録してくれたら励みになりますのでよろしくお願いします。
ただいま作成中
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる