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Pr.12 それでも君は隣にいる

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Pr.12 それでも君は隣にいる
「それだけじゃなかった。俺に対する嫌がらせってのは。」

 そんな俺にも話しかける女子はいた。けど、どんどん減っていって最後に残ったのは1人だけだった。名前は三笠叶華かのか。昔から遊んでいる幼なじみってやつだ。友達に何回も止められるも「悠人はそんなやつじゃない」と言い切って、俺のところにやってきた。そんな強いやつだった。

 それは夏休み中のことだった。

 俺の家と叶華の家は昔からの付き合いがあって、叶華はよく俺の家に遊びに来ていた。

「悠人は今の状況でいいの?」
「別に構わない。とは言えないな。正直辛い。」
「先生とかに相談すればいいのに。」
「ああいうやつは、先生から注意されたところで何も変わらねぇよ。」

夏休みの宿題をしながら、そんなことを話す。しばらくの沈黙が続き、先にその沈黙を破ったのは叶華だった。

「私が守ってあげよっか?」
「は?」
「悠人が私の彼氏になれば、ちょっとは気が楽になるかなって。」

小学生同士の付き合いなんて、絶対に続くわけがないが、それでも当時の俺たちはマセていて、学校を歩けばそこら中にカップルがいる。そんな生活だった。

「いや、それは俺が嫌だ。」
「なんで?」
「叶華を傷つけたくない。叶華の学校生活まで危うくなるんだ。そんなの、嫌だ…」

今この家には俺たちしかいない。こんな親がいたら絶対にできない話も、今なら出来てしまう。

「私さ、悠人のこと好きだよ。ずっと前から。」
「俺も好きだよ。叶華のこと。」

叶華は俺の初恋の相手だ。小さい頃からずっと居て、こうして一緒に過ごしている。好きにならない訳がない。

「なら、「もういいんだ!」」

思わず声が大きくなる。叶華に言葉を続けられると、あれを言わないといけなくなってしまうから。絶対に言いたくない。「ごめん」なんて言いたくない。

「これは俺が決めたんだ。誰にも邪魔させない。邪魔されたくない。俺が決めた道なんだ。誰とも喋れなくたっていい。それでみんなが…叶華が…幸せに暮らしていけるのなら。」

叶華はこんな感じになるまでずっと一緒にいてくれた。支えようとしてくれた。その気持ちを俺は今踏みにじった。

「そっか。私は悠人のそんなところが嫌い。自分のことしか見えてなくて、それに相手を巻き込んで、それに気づかないところが嫌い。そんなところも好きだった。でも、今は、今は…」

叶華の目から涙が零れ落ちる。俺も言いたくない。

「好きだから付き合っちゃいけないってこんな気持ちなんだなぁ。」
「今それを言うタイミング?しょうがない。その自分勝手に付き合ってあげる。もう学校では話しかけないようにするし、こうして家で会うこともない。私もみんなの中に入る。だから、いつか迎えに来て。それまで待ってるから。」

叶華はそう言って家を出ていく。きっとこの選択は間違っていない。そう思いながらその背中を見送った。

 そして、お互いに何も無いまま別々の中学に上がり、俺は誰とも話さない生活を、叶華は華々しい生活を送り始めた。


「ってのが、俺がこんな感じになった理由。って、なんで泣いてんの?」
「だって、だって、だってぇ~!」

何が言いたいのか分からないけど、理解はできる。少し話重かったかもしれないな。

「先に言っとけばよかったな。重くなるって。」

 泣き止んだ渡月は俺の目の前に笑って立った。

「それで、橘くんはその叶華ちゃんがまだ好きなの?」
「分からない。もう好きって気持ちがどんなのかも忘れてしまったからな。」
「それは困った。じゃあ私のこと好きになってもいいんだよ。それで好きって気持ち思い出せるんなら。」
「それはお断りだ。渡月は絶対に好きになれない自信がある。相手のパーソナルスペースを余裕で侵してくる奴は俺は苦手だ。」
「あちゃー、じゃあ直すから!」
「今更無駄だ。もう遅い。」

久しぶりにこんなに人と話した気がする。言葉を発せないのだと勘違いされてもおかしくないくらいに喋ってなかったからな。

 渡月は俺の手にそっと触れる。今までこんなことをされることなんてなかった。パーソナルスペースを侵してくると言えど、直接触れるなんてことはしてこなかった。

「いきなりどうしたんだ?」
「んーん。私がこうしたいからしてるだけ。」

お互いに何も言わない時間が流れる。蝉の鳴き声と、車のエンジン音だけが聞こえ、静かにゆっくりと時間が流れる。

「叶華ちゃんって彼氏作ったのかな?」
「どうなんだろ?全く話してないから分からないな。そもそもあの日のこと覚えてるかも分からないし。」

渡月の指が俺の指の間に入って、ギュッと握られる。

「私は隣にいるよ。何があったって、何と言われようと。私は絶対橘くんを1人にはしない。私が絶対にそばにいてあげる。それだけは約束する。」

あの日の叶華と重なる。叶華もこんな優しい顔をしていた。今どこで何をしているか分からないけど、叶華はこう言ってくれるのだろうか。

「ありがとう。」

あの日言えなかった言葉がやっと言えた気がした。
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