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Pr.11 仮面は剥がされる
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「どうして陰キャのフリをしているの?」
ついにか。ついにバレてしまったか。俺の生きていくための仮面が。
高校生活が始まって1年と少し。今まで取り繕ってきた仮面ももうボロボロになって、砕け始めていたのだろう。だから、こんなことになって、よりにもよって1番気づかれたくない人に気づかれてしまった。
「あーあ、これまでか。」
渡月の前で、ちゃんとした声で話すのは初めてだな。今まではつぶやくことしかしてきていないから、俺の声に驚いている。
俺はもう渡月の前では取り繕えない。仮面で隠せない。
俺は覚悟を決めた。
「そうだ。よく気づいたな。俺は内気でコミュ障な陰キャの仮面を被った男子高校生だよ。」
自嘲するように笑みを浮かべながら、渡月にそう告げる。俺はもう渡月の前では仮面はいらない。自分の色を自分らしく塗っていける。
「長くなりそう?」
「あぁ、長くなる。」
「じゃあ、こっち来て。」
そう連れられて来たのは小さな公園。周りには木が生い茂っていて、外から中の様子は見えない。
渡月はそこのベンチに腰掛けて、隣をポンポンと叩いた。
「いつか見た光景とは逆だな。」
「ふふっ、そだね。」
笑いながら隣に座り、買った缶コーヒーのプルタブを開ける。少し口に含むと、苦味とほのかな酸味が口の中を包んだ。
「それで、何があったの?」
「そこまで分かってるとかほんとエスパーかよ。」
「ニシシ!周りの空気読んで過ごしているクラスの一軍ですから。」
「クラスの育成契約で悪かったな。」
「そもそも契約されてないの間違いじゃない?」
「いや、俺から蹴ったんだ。」
何気ない会話、何気ない冗談。こんな生活が出来たらどれだけ楽だったのだろう。でも、決して自分から話しかけようとはしない。所詮は受け身なんだ。
「俺はさ、昔はもっと笑えてたんだ。」
思い出すのは小学生の頃、周りより頭が良かった俺は、テストの度に注目の的になって、分からない問題があったらいつも質問されていたくらいの奴だった。当時は今よりももっと笑えていて、休み時間になったら校庭で走り回って、ドッジボールして…放課後は誰かと一緒に過ごすのが当たり前で、沢山遊んだ。正直クラスでも上手くやれていたと思う。だけど、あの日。全てが崩れた。
その日は珍しく教室に宿題を忘れてしまった日だった。職員室に行って、担任の先生に鍵を貰って、そして教室に向かった。廊下に人はあまりいない。駄弁っていたであろううちの学年の男子のみ。そんな静かな廊下だから聞こえてしまったのだ。
「橘ってさ、チョーシのってるよな。ちょっと頭いいからって女子と話してさ。」
「それな。あいつがいるから俺とか全然話しかけてくれんようなったもん。あいつマジで腹立つ。」
「俺いいこと考えたわ。あいつの悪い噂バラまこうぜ。クラスの女子に加えて、一緒の塾の女子までまとめて食ってるクソ野郎ってな。」
「ははっ!それいい!そうしよう!」
聞いていて腹が立った。そして、なんて醜い生き物なんだろうと思った。こんな話、アニメの主人公の過去の物語でしか聞いたことがない。
でも同時に、こうも思った。「俺は俺だけしか守れない」。そんなことを悟った。小学5年生夏休み前のことだった。
それから夏休み前のテストがやってきた。いつも通り俺に聞きに来るやつらもいれば、噂を信じて自分の席で他の奴と勉強している奴らもいる。悔しい。本当に悔しい。あんな嘘に俺の人生は翻弄されてしまうのか。俺の人生はあの一言だけで狂ってしまうのか。
もうあんな思いしたくないな。
「もう俺に話しかけるな。今忙しいんだ。分かるだろ。」
気づけばそんな言葉が零れていた。それを聞いたクラスメイトは俺のことを見て口をあんぐり開けている。そして、噂を広めた張本人たちは必死に笑いを堪えている。
これでいいんだ。きっとこれでいい。道を踏み外しても、導もない場所を歩いて、また道に戻ってこればいい。
その日の休み時間は1人で過ごした。
その日の放課後は誰とも遊ばず家に直行した。
ドアを開けて家に入る。部屋の明かりは灯っていなくて、中からは人の気配がしない。そんな部屋の玄関で靴を脱ぎ、音を鳴らしながら歩く。
「なんで泣いてるんだ…俺。」
目からは自然と涙が溢れだしていて、視界はぼやけ、ソファーにダイブしていた。クッションを口元に置き、必死に声を殺しながら泣く。今更後戻りなんてできない。今まで作りあげてきた信頼も何もかもを捨てる結果になったが仕方ない。あくまで小学校の付き合いなんだ。別にこれからに響くものではない。だから、いいはずなんだ。
「くそっ…くそっ…くそっ…」
結果として俺はあの嘘に翻弄されてこんな惨めな姿になってしまった。
「アハハハハハハハ!馬鹿だなぁ、俺!なんでこんな選択したんだろ!馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ!あーあ、これで俺の小学校生活も終わりか、あーあ、あーぁ、ぁーぁ…」
誰もいない家、その静けさの中に俺の嗚咽混じりの鳴き声だけが響いた。
ついにか。ついにバレてしまったか。俺の生きていくための仮面が。
高校生活が始まって1年と少し。今まで取り繕ってきた仮面ももうボロボロになって、砕け始めていたのだろう。だから、こんなことになって、よりにもよって1番気づかれたくない人に気づかれてしまった。
「あーあ、これまでか。」
渡月の前で、ちゃんとした声で話すのは初めてだな。今まではつぶやくことしかしてきていないから、俺の声に驚いている。
俺はもう渡月の前では取り繕えない。仮面で隠せない。
俺は覚悟を決めた。
「そうだ。よく気づいたな。俺は内気でコミュ障な陰キャの仮面を被った男子高校生だよ。」
自嘲するように笑みを浮かべながら、渡月にそう告げる。俺はもう渡月の前では仮面はいらない。自分の色を自分らしく塗っていける。
「長くなりそう?」
「あぁ、長くなる。」
「じゃあ、こっち来て。」
そう連れられて来たのは小さな公園。周りには木が生い茂っていて、外から中の様子は見えない。
渡月はそこのベンチに腰掛けて、隣をポンポンと叩いた。
「いつか見た光景とは逆だな。」
「ふふっ、そだね。」
笑いながら隣に座り、買った缶コーヒーのプルタブを開ける。少し口に含むと、苦味とほのかな酸味が口の中を包んだ。
「それで、何があったの?」
「そこまで分かってるとかほんとエスパーかよ。」
「ニシシ!周りの空気読んで過ごしているクラスの一軍ですから。」
「クラスの育成契約で悪かったな。」
「そもそも契約されてないの間違いじゃない?」
「いや、俺から蹴ったんだ。」
何気ない会話、何気ない冗談。こんな生活が出来たらどれだけ楽だったのだろう。でも、決して自分から話しかけようとはしない。所詮は受け身なんだ。
「俺はさ、昔はもっと笑えてたんだ。」
思い出すのは小学生の頃、周りより頭が良かった俺は、テストの度に注目の的になって、分からない問題があったらいつも質問されていたくらいの奴だった。当時は今よりももっと笑えていて、休み時間になったら校庭で走り回って、ドッジボールして…放課後は誰かと一緒に過ごすのが当たり前で、沢山遊んだ。正直クラスでも上手くやれていたと思う。だけど、あの日。全てが崩れた。
その日は珍しく教室に宿題を忘れてしまった日だった。職員室に行って、担任の先生に鍵を貰って、そして教室に向かった。廊下に人はあまりいない。駄弁っていたであろううちの学年の男子のみ。そんな静かな廊下だから聞こえてしまったのだ。
「橘ってさ、チョーシのってるよな。ちょっと頭いいからって女子と話してさ。」
「それな。あいつがいるから俺とか全然話しかけてくれんようなったもん。あいつマジで腹立つ。」
「俺いいこと考えたわ。あいつの悪い噂バラまこうぜ。クラスの女子に加えて、一緒の塾の女子までまとめて食ってるクソ野郎ってな。」
「ははっ!それいい!そうしよう!」
聞いていて腹が立った。そして、なんて醜い生き物なんだろうと思った。こんな話、アニメの主人公の過去の物語でしか聞いたことがない。
でも同時に、こうも思った。「俺は俺だけしか守れない」。そんなことを悟った。小学5年生夏休み前のことだった。
それから夏休み前のテストがやってきた。いつも通り俺に聞きに来るやつらもいれば、噂を信じて自分の席で他の奴と勉強している奴らもいる。悔しい。本当に悔しい。あんな嘘に俺の人生は翻弄されてしまうのか。俺の人生はあの一言だけで狂ってしまうのか。
もうあんな思いしたくないな。
「もう俺に話しかけるな。今忙しいんだ。分かるだろ。」
気づけばそんな言葉が零れていた。それを聞いたクラスメイトは俺のことを見て口をあんぐり開けている。そして、噂を広めた張本人たちは必死に笑いを堪えている。
これでいいんだ。きっとこれでいい。道を踏み外しても、導もない場所を歩いて、また道に戻ってこればいい。
その日の休み時間は1人で過ごした。
その日の放課後は誰とも遊ばず家に直行した。
ドアを開けて家に入る。部屋の明かりは灯っていなくて、中からは人の気配がしない。そんな部屋の玄関で靴を脱ぎ、音を鳴らしながら歩く。
「なんで泣いてるんだ…俺。」
目からは自然と涙が溢れだしていて、視界はぼやけ、ソファーにダイブしていた。クッションを口元に置き、必死に声を殺しながら泣く。今更後戻りなんてできない。今まで作りあげてきた信頼も何もかもを捨てる結果になったが仕方ない。あくまで小学校の付き合いなんだ。別にこれからに響くものではない。だから、いいはずなんだ。
「くそっ…くそっ…くそっ…」
結果として俺はあの嘘に翻弄されてこんな惨めな姿になってしまった。
「アハハハハハハハ!馬鹿だなぁ、俺!なんでこんな選択したんだろ!馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ!あーあ、これで俺の小学校生活も終わりか、あーあ、あーぁ、ぁーぁ…」
誰もいない家、その静けさの中に俺の嗚咽混じりの鳴き声だけが響いた。
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