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Pr.9 諦めない心を持つのは陽キャだけである
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人生は諦めの連続だ。
自分の能力に悲観して、自分の不甲斐なさに打ちひしがれて、自分の気持ちも吐き出せなくて、結局水風船みたいに落ちて弾ける。その度に現実というものを知り、諦めて、大人になっていく。
些細なことでも、何か一つぽっかりと穴が開けば、それがどんどんと広がって蝕んでくる。その度に取り繕って、自分という色を出すのを諦めてしまう。そして大人になっていく。
テスト前の教室の一角でなにか話している集団がいた。
「まだ諦めるのは早いよ。あと2週間もあるんだし、間に合うって。」
「そんなの、こんなに課題出てるんだよ。無理だよ。無理無理。」
「〇〇ならできるって。」
俺はこの「できる」って言葉の響きが嫌いだ。自分に言い聞かせるのはいい。でも、他人から言われるのだけはどうしても許せない。
その理由は簡単。その「できる」は相手に対して自分の理想を勝手に押し付ける。そんな魔法の言葉だからだ。
「なんか不満そうな顔ね。」
その「できる」と言っていた女、渡月が話しかけてくる。隣の席になってからより一層話しかけられることが多くなった気がする。
それはそうと期末テスト2週間前だ。俺は前回と同じように、そこそこの目立たない成績を取りたいから、ちゃんと勉強しないと。
「なぁーんで話しかけてるのに勉強始めちゃうかなぁ。そういうところだと思うよ。君に友達が少ないのは。」
渡月は席に座って、こっちに椅子を持ってきて、俺の顔を覗き込む。淡い黄色の髪が俺の机の上に少しかかって広がっている。朱い瞳は俺の顔だけを映して…いやいや、何見てんだ。今は勉強だろ。
「今絶対私のこと見てたのに目逸らした。気づいてるんでしょ?ねぇ、ねぇ!」
最近はより一層距離がバグり始めてるから、周囲から「あいつら付き合ってんの?」みたいな視線が突き刺さる感じがする。本当は全力で否定したいくらいだが、俺にはそんな勇気はない。ただ渡月にされるがままに毎日を過ごしている。
ノートに少しかかった髪の毛をどけて、そこに書き込んでいく。
「今髪の毛どけた!どけた!私のこの髪を邪魔ってした!」
不満そうに机をバンバン叩いて、頬をぷくぅーっと膨らませる渡月。机が揺れるがその間は1度書くのをやめて、揺れが収まってから、もう一度書き始めた。くるくるとペンを回し考えながら。
しばらく静かな時間が流れる。それもそう。今は放課後だからだ。放課後になれば教室は自習室として解放されて、俺たちの勉強空間となる。進学校というものに片足を突っ込んだうちの学校、その理系コースとなれば、みんな勉強に集中していて、全く集中していないのは、俺の横にずっといる渡月だけだ。こんなのでも頭がいいもんだから、家では本当に頑張ってるんだろうなって思う。
「(静かだね。)」
そりゃあそうだろ。喋ってるのは渡月くらいだ。他の奴らは机にかじりつくように勉強していて、俺だってその1人のはずだ。ただ1人に執拗に絡まれて、集中力がもたないだけである。
集中が切れると、さっきまで感じていなかった喉の渇きをかんじて、なにか飲み物が欲しくなって立ち上がる。財布を持って食堂に向かう。その後ろを渡月は犬のようについてきた。
「何買うの?」
自販機の前で俺がお金を入れている横でそう言う。俺は無言でコーヒーの粉の量をプラス、そして80円のコーヒーのブラックのボタンを押した。これで、この機械で作れるいちばん苦いコーヒーの完成である。
「おおー大人。私もそれやってみよっかな。」
渡月は俺がカップを取り出すと同時に、お金を投入し、俺と全く同じ設定でコーヒーを淹れた。絶対苦いだろうから止めたいけど、止められない。あっという間に出来上がってしまい、カップを取り出してしまった。
「何やかんや言って、結局私を引き離そうとはしないよね。橘くんってさ。」
俺もなぜかは分からない。だが、この生活が少し居心地良くなっているのも確かで、その状況を不思議に思っている。
「優しいんだね!」
そう言って教室に入っていく渡月。みんなに笑顔を振りまきながら、「何それコーヒー?」って言われても、
「別に変わったことじゃないよ。ただ飲みたくなっただけ。」と笑顔で答えるだけ。そして一口飲んでみて、苦そうに顔を歪める。
このコーヒーの苦味も青春の1ページ。いつかこれよりもっと苦いコーヒーが飲めるようになって、こんなこともあったなって思い出すんだろう。もちろんその光景には俺はいなくて、忘れられている。俺は風景だから。
俺もいつかそんな感じで誰かと話したいとは思う。でも、怖いんだ。誰かと面と向かって話すのがもう怖いんだ。あの冷えた目、突き刺すような言葉。そして、もう誰も俺のせいで傷ついて欲しくない。だから、全員と距離を置いて過ごしている。
でも君はきっと笑顔で答えてくれるだろう。このことを言ったら「橘くんならできる」って言うんだろう。だって、君は優しいから。
でも、俺は君にそう言って欲しくないんだ。もう俺に希望の光を見せて欲しくないんだ。
自分の能力に悲観して、自分の不甲斐なさに打ちひしがれて、自分の気持ちも吐き出せなくて、結局水風船みたいに落ちて弾ける。その度に現実というものを知り、諦めて、大人になっていく。
些細なことでも、何か一つぽっかりと穴が開けば、それがどんどんと広がって蝕んでくる。その度に取り繕って、自分という色を出すのを諦めてしまう。そして大人になっていく。
テスト前の教室の一角でなにか話している集団がいた。
「まだ諦めるのは早いよ。あと2週間もあるんだし、間に合うって。」
「そんなの、こんなに課題出てるんだよ。無理だよ。無理無理。」
「〇〇ならできるって。」
俺はこの「できる」って言葉の響きが嫌いだ。自分に言い聞かせるのはいい。でも、他人から言われるのだけはどうしても許せない。
その理由は簡単。その「できる」は相手に対して自分の理想を勝手に押し付ける。そんな魔法の言葉だからだ。
「なんか不満そうな顔ね。」
その「できる」と言っていた女、渡月が話しかけてくる。隣の席になってからより一層話しかけられることが多くなった気がする。
それはそうと期末テスト2週間前だ。俺は前回と同じように、そこそこの目立たない成績を取りたいから、ちゃんと勉強しないと。
「なぁーんで話しかけてるのに勉強始めちゃうかなぁ。そういうところだと思うよ。君に友達が少ないのは。」
渡月は席に座って、こっちに椅子を持ってきて、俺の顔を覗き込む。淡い黄色の髪が俺の机の上に少しかかって広がっている。朱い瞳は俺の顔だけを映して…いやいや、何見てんだ。今は勉強だろ。
「今絶対私のこと見てたのに目逸らした。気づいてるんでしょ?ねぇ、ねぇ!」
最近はより一層距離がバグり始めてるから、周囲から「あいつら付き合ってんの?」みたいな視線が突き刺さる感じがする。本当は全力で否定したいくらいだが、俺にはそんな勇気はない。ただ渡月にされるがままに毎日を過ごしている。
ノートに少しかかった髪の毛をどけて、そこに書き込んでいく。
「今髪の毛どけた!どけた!私のこの髪を邪魔ってした!」
不満そうに机をバンバン叩いて、頬をぷくぅーっと膨らませる渡月。机が揺れるがその間は1度書くのをやめて、揺れが収まってから、もう一度書き始めた。くるくるとペンを回し考えながら。
しばらく静かな時間が流れる。それもそう。今は放課後だからだ。放課後になれば教室は自習室として解放されて、俺たちの勉強空間となる。進学校というものに片足を突っ込んだうちの学校、その理系コースとなれば、みんな勉強に集中していて、全く集中していないのは、俺の横にずっといる渡月だけだ。こんなのでも頭がいいもんだから、家では本当に頑張ってるんだろうなって思う。
「(静かだね。)」
そりゃあそうだろ。喋ってるのは渡月くらいだ。他の奴らは机にかじりつくように勉強していて、俺だってその1人のはずだ。ただ1人に執拗に絡まれて、集中力がもたないだけである。
集中が切れると、さっきまで感じていなかった喉の渇きをかんじて、なにか飲み物が欲しくなって立ち上がる。財布を持って食堂に向かう。その後ろを渡月は犬のようについてきた。
「何買うの?」
自販機の前で俺がお金を入れている横でそう言う。俺は無言でコーヒーの粉の量をプラス、そして80円のコーヒーのブラックのボタンを押した。これで、この機械で作れるいちばん苦いコーヒーの完成である。
「おおー大人。私もそれやってみよっかな。」
渡月は俺がカップを取り出すと同時に、お金を投入し、俺と全く同じ設定でコーヒーを淹れた。絶対苦いだろうから止めたいけど、止められない。あっという間に出来上がってしまい、カップを取り出してしまった。
「何やかんや言って、結局私を引き離そうとはしないよね。橘くんってさ。」
俺もなぜかは分からない。だが、この生活が少し居心地良くなっているのも確かで、その状況を不思議に思っている。
「優しいんだね!」
そう言って教室に入っていく渡月。みんなに笑顔を振りまきながら、「何それコーヒー?」って言われても、
「別に変わったことじゃないよ。ただ飲みたくなっただけ。」と笑顔で答えるだけ。そして一口飲んでみて、苦そうに顔を歪める。
このコーヒーの苦味も青春の1ページ。いつかこれよりもっと苦いコーヒーが飲めるようになって、こんなこともあったなって思い出すんだろう。もちろんその光景には俺はいなくて、忘れられている。俺は風景だから。
俺もいつかそんな感じで誰かと話したいとは思う。でも、怖いんだ。誰かと面と向かって話すのがもう怖いんだ。あの冷えた目、突き刺すような言葉。そして、もう誰も俺のせいで傷ついて欲しくない。だから、全員と距離を置いて過ごしている。
でも君はきっと笑顔で答えてくれるだろう。このことを言ったら「橘くんならできる」って言うんだろう。だって、君は優しいから。
でも、俺は君にそう言って欲しくないんだ。もう俺に希望の光を見せて欲しくないんだ。
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