陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

ノンビリ

one flame㉒

　今日は久しぶりに奏の家に泊まる。

「奏、晩ご飯どーする？」
「温かいもん食いたい。」
「そー言われてもな。」

中身はほぼ分かっているけど冷蔵庫を開ける。野菜系はほぼほぼ使い尽くしていて、冷凍庫は豚の薄切り肉だけ。

「買いに行く？」
「ん～、久しぶりに外食でもすっか。楓もなんか疲れてるっぽいし。」

こいつ、目ざとい。確かにここ数日は疲れがなんか取れなくて、溜まってる感じがする。桜たち相手にはなんとか隠せてたんだけど、奏には無理だったか。

「奏の奢りならいいよ！どこでも！」
「そういうキャラは似合ってねぇぞ。払うけど。」
「ありがと！お兄ちゃん！」
「妹にしたくない1位が妹になったとてやな。ほれ、さっさと用意しろ。」
「それはなんか酷くなーい？」

私は不満そうにぶーぶーと口を吹く。奏は悪そうな笑みを浮かべながらこっちを向いた。

「行間を読めよ。行間を。」

行間…あっ

　その瞬間、私の頬に熱が帯びていくのが分かった。

　別に誰に見せるとかでもないからって、奏の家に置いていたパーカーとデニムだけに身を包んだ私はリビングで寛いでいる奏に声をかける。

「用意できた。」
「ほんなら行くか。」

スマホと財布とキーケースだけ持った奏は立ち上がり、電気を消す。スニーカーを履いて外に出て、鍵を閉めた。

　奏の格好は私とほぼ一緒。パーカーの色が私はカーキで奏がホワイト。デニムは私の方が少し淡い色。

「合わせた？」
「いや、何となく楓が俺ん家置いてる服でパッと選ぶんやったらこれかなて。」
「なんか読まれてるみたいでムカつく。」

奏の家に居すぎるからか、お互いの服が何があるかまで覚え始めたのはきっと必然なんだろう。

　駅に向かい、いつもと違う側のホームに降りる。

「何食いに行く？」
「鉄板で焼いてるやつとかどう？暖かなるやろ。」
「ほんなら樟葉やな。お好み焼き食お。」
「高いけど奏の奢りやしええか。行こ。」
「え～、それマジやったん。」

来た電車に乗って北に向かっていく。ガタゴトと揺れる電車の中は少し暗い。日はもう短くなってきていて、冬なんだなと意識せざるを得なくなる。

「ねぇ、奏。」
「ん？」
「なんもない。ちょっと呼んでみただけ。」
「そ。」

奏の肩に頭を乗っける。半分の幸せとその半分の嬉しさ、その半分の心地良さとそのまた半分の寂しさを雑に混ぜたような、そんな気持ちだ。