陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

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コタエハ

俺たちは最後の祭り⑩

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 だんだんと桜の番が近づいてきた。桜たちH組がいる黄色チームは、現在4位。前ともそこまで差が開いていない。

 スイッチが入ったなと思う。俺と一緒にいる時とはまた違う、狩人のような目。いつもは可愛いとしか思えないのに、かっこいいと思ってしまった。

「へぇー、あんな目もするんや。」
「俺も知らんかった。でもめっちゃかっこいい。」
「分かる。また大変なるんちゃう?」
「大丈夫やろ。今年もやし。」
「今年も?」
「まあ、楽しみにしときーさ。」

このとき、俺の頭の中には最高の画が浮かんでいた。俺くらいしか思いつかないような最高の画が。

 そしてついに、桜がバトンを受け取って走り始める。

「はっや。」
「流石やな。」

桜の走る姿に誰もが見蕩れている。それは俺も同じだった。自分がいつかしていたような、全力で楽しんでいるような目をしていたから。

 トラックを1周走りきるのもあっという間だった。桜は順位を2つ上げ、1位を走っていた琴さんに並ぶような形でアンカーにバトンを渡した。

「差せぇぇぇぇ!」

桜のそんな声がグラウンド中に響き渡る。汗をキラキラと輝かせ、笑いながら叫ぶその姿は

「主人公だ。やっぱり君は。」

そうとしか思えない。

 主人公が陰キャぼっちに手を差し伸べる展開などいくらでもある。でもそれは全部2次元の世界の出来事で、現実ではありえない。そう思っていた。

 でも、こうして、桜が俺の隣を歩いてくれている。若干前な気がするけど、それでも振り向いてくれている。それが本当に嬉しい。

 アンカー同士の勝負は、黄色チームのアンカーが負けて琴さんたちのところが勝った。ちなみにうちのクラスも入っている紫チームは3位だった。

 全チームのアンカーがゴールして、号砲が2回なる。桜は笑ってこっちを向いた。「おつかれ」と口パクで言うと、「ありがと」って返してくれた。

「どしたん?そんな顔して。」
「奏か。いや、勿体ないなーって。」

ちょうど通りかかった奏が話しかけてくる。

「いや、それはないと思うで。だって、Qくらいやろ。」
「何が?」
「誰かの心の奥深くまで入っていこうと思うのは。」
「そうか?」
「そんなもんやろ。知らんけど。」

奏はそう言って立ち去っていく。

「誰かの心の中か。そんなの知りたくても分からねえよ。」

俺はそう呟いた。

 高校最後の体育祭は、そんな感じで終わった。あと残すのは本当に最後の祭りだけだ。
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