陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君

文字の大きさ
上 下
650 / 773
マナツノ

旅の終わり

しおりを挟む
 日も段々と低くなってきて、少しずつオレンジ色に色づき始める。

 私たちは朝と同じように後ろの方に座り、バスに揺られていた。奏も楓も音羽もカレンもきいも寝てしまっている。起きているのは私と久志の2人だけだ。

「みんなめっちゃ寝るやん。」
「まあ疲れてるんでしょ。着いたら起こしてあげよ。」

バスの窓からは暖かい夕日が差し込んでいて、私たちの頬を朱く染めている。

「久志はどうやった?この旅。」
「いい息抜きになった。それに、このメンバーで高校生の間にどこか行けるのってたぶんこれが最後やからな。」
「せやな。」

久志は少し寂しそうに言う。出会った頃の久志なら、絶対にこんなことは言わなかった。

「久志も大人なったなぁ。」
「バカにしてんのか?」
「いや、高校生活満喫できてるんやったらいいんよ。どう?『青春』って何か見つかった?」

あの頃久志が知らなかったこと。今ならそれの答えは知っているのだろう。

 でも、その答えは聞こえてこなかった。

 左肩、久志が座っている席の方の肩に体重がかかる。大好きな匂いと、ゆったりとした呼吸が感じられる。

 久志は私の肩に頭を乗せて眠り始めた。

「やっぱりかー。眠そうやったもんね。」

私は起こさないように久志の肩をこっちに寄せ、首を倒した。

「おやすみ、久志。」

そして私も眠りについた。



「起きろ~、起きろ~、もう着くぞ~。」

奏のそんな声で目を覚ます。そこにはニヤニヤ笑っている久志以外のみんながいた。

「おはよー、2人だけの世界はどうだったかな?」
「よくもまあ、そんなことやるよね。」
「私やったら人前でやろうとは思わんな。」
「アツアツショット、あざした。」
「えーっと、とりあえずひい君解放したげて。」

きいのそんな言葉に私は今の自分の状況を確認する。肩を寄せて、頭を寄せていたからか、私の首筋の辺りに目を覚ました久志がいるのだ。

「ご、ごめん!」
「別にええで。俺も起きたんさっきやし。」

 荷物を持ってバスを降り、フェリーの待合所に入る。

「今から乗って、着くんは9時ぐらいと。どーせ船内は場所ないんやろうな。どーする?」

久志はチケットに書いてある到着予定時刻を見ながらこの後のことを考える。9時に三ノ宮に着くとして、そこから晩ご飯を食べてたら、今度は終電が危なくなってくるはずだ。つまり、家に帰って食べないといけないわけで…

「それやったら船内で食ったらええやん。立ち食いそばあったやろ?」

カレンがそんなことを言った。確かに記憶のどこかにそんなものがあったような気がする。

「じゃあ順番で食べに行こか。そんで、席やねんけど、いいとこあんねん。」

奏がニヤリと笑った。

 やがてフェリーがやってきて、私たちは乗り込んでいく。奏を先頭に階段を上がって行き、そして最上階までやってきた。

「ここもないやん。どないすんの?」
「いやぁ、もっと上だ。」

そして外に出た。来る時にも写真を撮ったあの場所。

「夜の海の上やねんから、ほぼプラネタリウムやろ?」

少しずつ離れていく小豆島を見ながら、私たちは壁にもたれて座る。離れていく小豆島の写真を撮ろうと上がってくる人の背中を見ながら、小豆島の影を見送った。

「また来ような。」

久志が呟く。

「そうだな。また来よう。」

奏が反応する。

「集まれない訳ちゃうんやし、来れるやろ。」

楓が笑う。

「じゃあ、その約束ってことで、」

音羽が立ち上がる。

「写真でも撮るかぁ!」

カレンがスマホを壁に立てかける。

「次もこのメンバーで!」

きいが言うと、カウントが始まる。

「絶対来よう!」

私が叫ぶと、シャッターが切られた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

これにて第14章完結!夏休み編終了です!

途中勉強を優先にしていた時期もあり更新が途切れ途切れになりましたが、何とか元の予定通りに進みました!

次は文化祭、そして受験が近づいてくる2学期編です。また更新が途切れることもあるかもしれませんが、作品の応援のほどよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...