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マナツノ

夏祭り③

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「今どこら辺だー?」
「今はもうちょっとで須磨ってとこ。」
「須磨?須磨なら明石近いやん!上行かんと!」

カレンが少し興奮して立ち上がる。そんなカレンを他のメンバーが不思議そうに見上げた。

 今は昼ごはんを食べ終わってのびのびと過ごしていた。奏は奏でなんかやってるし、久志は作詞している。それはもちろん文化祭の曲だ。そして新宮くんはスマホをぼーっと眺めていて、女子は固まってこの先の小豆島が舞台になっているアニメを見ていた。

「逆になんで行かんの?いつもは見れん角度から見れんねんで!」
「そうは言っても橋やろ?」
「Qは分かってない!行ったら絶景って分かるから!」

私たちは新宮くんに連れられて、フェリー屋上にある展望デッキに向かった。

 まず上がって気づいたのがどこまでも遠く続く青空。そして海。まだ海岸に近いから見えているその浜は須磨海浜公園だ。そしてその少し奥に見えるのが明石海峡大橋。明石市と淡路島を繋ぐその橋を一望できる。船上に吹く風は強く、そして潮の匂いに満ちている。

「やっぱ橋見るならこの角度やな。」
「カレンって橋好きなん?」
「好きとは言わんけど、1番いい角度ってあるやん。」
「せやな。」

1番いい角度。その説明はあっていると思う。橋を見るなら上からでも正面からでもなく、この角度が1番映える。私もこの角度が1番好きだ。

「とりあえず写真撮ろーや。ちょうど真下に来たタイミングでさ。」

新宮くんがスマホを取り出し、近くにいた人に話しかける。どうやら写真を撮ってくれるようだ。こういう時の新宮くんの行動力は本当にすごい。

 そしてその時はやってきた。明石海峡大橋が目の前に迫り、私たちはそれに背を向けるように並ぶ。画角に収まるように立ち、そしてカメラに向かってピースした。

「それでQ。分かった?」
「分からん。でも、いい写真は撮れたと思う。」

うちの彼氏はやっぱりちょっと変わっていた。

 再び船内に戻り、時間を潰しているともう小豆島に着いたようだ。窓の外に見える景色は山と民家になり、港が見えてくる。

『着いたー!』

私たちは船を降りるなり、そう言う。ここまでの所要時間は4時間ほど。そんなカーナビのような音声が頭の中を流れ、少し笑いそうになる。

「ここで残念なお知らせです。」

奏が神妙な面持ちでそう言い始める。

「この周りにはあまり何も無い上、バスが来るのが1時間後となっております。」

奏が告げたのは、この炎天下の中、燦燦と降り注ぐ日差しの下、1時間を過ごさないといけないという事実だった。
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