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マナツノ

私の進路①

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「そういや、桜って大学どうするつもりなん?」

リビングでくつろいでいると久志からそんな話が飛んできた。今、家には私たち2人だけで、杏ちゃんはクラブに行っている。

 夏休みも直前…いやほぼ入って、本格的に進路を確定させないといけない。3年間一緒に過ごしてきた相手であり、彼女でもある私の進路が気になったのだろう。

「どうするって…一応ここかなってのは決めてるけど。久志こそどうなん?養殖したいんでしょ?」
「俺はもう決めてるぞ。桜の母さん家の近くのあそこ。」

これは年末まで遡る。

 『和さび』という店で晩ご飯を食べていた、30日のことだ。

「この熊みたいな人どこで働いてると思う?」

女将さんがそんなことを言う。熊みたいな人っていうのはこの店の店長さんのことで、本当に熊みたいに大きく、体も太かった。

「ここ以外にどこかで働いてるってことですよね?」

Qは面白い問題にぶつかったときと同じ顔をして言った。2年間見てきた私には分かる。これは当てるまで帰る気がないと。

「この時間になったら時間が出来て、この店に来れる人なんだから、夜勤があるところではないとして…バスの運転手とかならもうちょっと遅い時間になるはずだから…」

久志はブツブツと呟きながら、推理を始める。そんな様子を見て、女将さんは笑いながらこっちを向いた。

「いつもこんな感じなの?」
「いや、いつもってことはないですけど、一度ぶつかった問題からはなかなか逃げないです。」
「なるほど。なら、ちょっと時間がかかりそうね。」

その女将さんの言葉に反応したのか、久志はピクリと震えて、そして顔を上げた。

「どこかのレストランですか?」
「その心は?」
「この店に来るまで、色々なレストランがあったんですけど、そのどれも閉まっていて、もしかしたらここら辺で夜に営業している店は少ないのかなと。だからここに来れるのかなと思っただけです。」
「なら、そのどこかも言い当てて欲しいかな?」
「それは困りますねぇ。」

久志はまた悩むような仕草を始めた。が、その思考は店長さん自身の声によって止められた。

「さすがにここら辺のことを知り尽くしてないと分からないだろう。答えは大学の食堂だよ。」
「大学?この近くにあるんですか?」
「すぐそこ。橋を渡ったところに大学のキャンパスがあるんだ。」
「ちなみに、どこの大学ですか?」
「福井県立大学。たしか水産系の学部のキャンパスだったかな?」

水産系の学部。その言葉を聞いて、私は久志の顔を見た。その顔は笑っていた。
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