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インタイ

いんたい⑮

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 思えば長かった。この6年間、あのプールに毎日通って、そして帰る。泳いだ距離はどれくらいだろうか。何mも泳いで、何回もターンして、何回も笑って、何回も拳を握ってきた。

「奏。」
「あぁ、もうこんな時間か。みんな、応援頼んだ。」

レース1時間前になって、ストレッチをするために裏に行く。裏には同じ400m自由形に出る杏ちゃんと憲士、そして藍がストレッチをしていた。

「やっと来た。」
「ほんまにストレッチし始めるん遅いっすね。」
「やっぱり加太先輩は遅かったやろ。憲士あとでジュース1本。」
「2人はなんの賭けしてんねん。」

杏ちゃんは足を伸ばしながら、憲士は肩の辺りを解しながらそんなことを言う。藍はまだ裏に来たばっかりなのか、体操をしている。

 俺も藍の横で体操を始め、身体を動かしていく。一つ一つの動きを丁寧にすれば、水泳で使う筋肉を全て動かせる水泳部体操は、この6年間、毎日のようにやってきた。体に染み付いたこの動きは、もう忘れることはないだろう。

 体操が終わると次はマットにうつ伏せに寝転ぶ。キャッチの位置に手を持っていき、そして床を押す。このときに股関節を後傾させる。腹圧を入れた状態でこれをやるのだ。

 それが終わったら次は下半身の筋肉から順番に伸ばしていく。足首、ふくらはぎ、太もも前、太もも裏、股関節、お尻、腹筋、腹斜筋、胸郭、広背筋、大胸筋、上腕。全てゆっくりと伸ばしていき、身体を温めていく。

「んじゃ、行ってきますね。」
「おう。頑張ってこい。」
「頑張ってこいよ。」
「ベスト出んかったらジュースなしな。」
「え~。」

荷物を持って、笑いながらレースに向かう杏ちゃん。その背中を見送ってから、俺はスマホのタイマーを起動させて、プランクを始める。

 腹圧を入れ、股関節を後傾させて、真っ直ぐの姿勢を保つ。30秒経ったら右手を上げて、20秒。そして10秒休憩してから左手を上げて20秒。

「ふぅー。」

1度大きく息を吐いて、次は腹筋だ。

 足上げ腹筋を20回、スラッシュ腹筋を20回、そしてキックカールアップを20回。これで腹筋が入るようになった。

 試しにスタンドに戻って、試合進行を見てみると、女子の400mの1組目だった。

「やっぱ化け物ばっか。」

試合用の水着が入った袋を持って、もう一度裏に戻る。

「どこら辺?」
「女子の1組目。俺もう着替えるわ。」
「んなら俺もそうしよ。」
「俺はもうちょっとええか。すぐ履けるし。」

憲士もスタンドに戻って、藍はまだ腹筋を続けていた。
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