596 / 773
インタイ
いんたい⑤
しおりを挟む
召集所までを藍と一緒に歩く。
「お前絶対決勝行けよ。お前なら行けるから。」
「もちろん。明日の応援頼むで。」
藍は決勝に手がかかっている。エントリーランキング的には全然足りていないが、本人はまだいけたようで、中央は決勝に行くと意気込んでいる。
ADカードと、水着のマーク、使うキャップを見せて、召集所に入った。目の前で始まろうとしているのは予選の1組。神々の領域に達しているメンバーだ。インハイの大会記録を持っているやつ、400でインハイに行っているやつ。大阪で水泳をやってるメンバーなら誰でも知っているようなビックネームが連なっている。
俺はもう一度集中力を高めていく。たまにタイムを確認しながら、センターで泳いでいる化け物のタイムに笑いながら、18分を無駄にしないように待つ。
色んな応援が聞こえる。応援をしているみんなも20分近く叫びっぱなしだ。それはきっとうちの学校のみんなだってそうで、そんな応援を何回も俺はして貰っている。
「ふぅーーーー。っし。」
これで最後の1500だ。もう二度とこんな距離を泳ぐことはないだろう。だからこそ、ラストくらいはベストを出して、みんなのところに笑顔で帰りたい。
キッャプを被り、ゴーグルをして、その上からシリコンを被る。ジャージを脱ぎ、持ってきた袋の中に入れて、インシューズを脱ぐ。
役員の人に声をかけられ、そしてレーンに入っていく。測ってくれる役員の人に挨拶。プールに挨拶。飛び込み台の羽の位置を自分のところに合わせて、ルーティーンを始める。
飛び込み台に手を置いて肩を伸ばす。右、左、両方。
肩を回す。右腕から前5回後ろ5回。次に左腕も同様に前5回後ろ5回。
大きく息を吐く。
右足から足の筋肉の緊張を解いていく。ブラブラと振って、無駄な緊張を無くしていく。左足もやる。
首を鳴らす。コキッコキッと音がする。
そして最後に人差し指だけを鳴らす。親指を人差し指に引っ掛けて、引っ張ってきたら音が鳴る。これでスイッチが入る。
これから泳ぐプールを見る。こんなに長くこのプールで泳ぐことはもうないだろう。誰にも邪魔されない。誰も邪魔できない。俺だけのレースだ。
スタンドから楓の声が聞こえる。そのことに気づいて軽く手を上げると、スタンドから歓声が聞こえた。
―ピッピッピッピッ…ピー
電子ホイッスルの音が鳴り、俺は飛び込み台に上がった。手を2回叩き、そして飛び込み台に手をかける。右足の指を飛び込み台の端にかけ、左足を引く。そして羽に足をかけた。
「Take your marks…」
会場が静かになる。水が流れる音と、自分の鼓動しか聞こえてこない。
つーーっと細く息を吐く。
―ピッ
音が鳴り、俺は飛び込んだ。
「お前絶対決勝行けよ。お前なら行けるから。」
「もちろん。明日の応援頼むで。」
藍は決勝に手がかかっている。エントリーランキング的には全然足りていないが、本人はまだいけたようで、中央は決勝に行くと意気込んでいる。
ADカードと、水着のマーク、使うキャップを見せて、召集所に入った。目の前で始まろうとしているのは予選の1組。神々の領域に達しているメンバーだ。インハイの大会記録を持っているやつ、400でインハイに行っているやつ。大阪で水泳をやってるメンバーなら誰でも知っているようなビックネームが連なっている。
俺はもう一度集中力を高めていく。たまにタイムを確認しながら、センターで泳いでいる化け物のタイムに笑いながら、18分を無駄にしないように待つ。
色んな応援が聞こえる。応援をしているみんなも20分近く叫びっぱなしだ。それはきっとうちの学校のみんなだってそうで、そんな応援を何回も俺はして貰っている。
「ふぅーーーー。っし。」
これで最後の1500だ。もう二度とこんな距離を泳ぐことはないだろう。だからこそ、ラストくらいはベストを出して、みんなのところに笑顔で帰りたい。
キッャプを被り、ゴーグルをして、その上からシリコンを被る。ジャージを脱ぎ、持ってきた袋の中に入れて、インシューズを脱ぐ。
役員の人に声をかけられ、そしてレーンに入っていく。測ってくれる役員の人に挨拶。プールに挨拶。飛び込み台の羽の位置を自分のところに合わせて、ルーティーンを始める。
飛び込み台に手を置いて肩を伸ばす。右、左、両方。
肩を回す。右腕から前5回後ろ5回。次に左腕も同様に前5回後ろ5回。
大きく息を吐く。
右足から足の筋肉の緊張を解いていく。ブラブラと振って、無駄な緊張を無くしていく。左足もやる。
首を鳴らす。コキッコキッと音がする。
そして最後に人差し指だけを鳴らす。親指を人差し指に引っ掛けて、引っ張ってきたら音が鳴る。これでスイッチが入る。
これから泳ぐプールを見る。こんなに長くこのプールで泳ぐことはもうないだろう。誰にも邪魔されない。誰も邪魔できない。俺だけのレースだ。
スタンドから楓の声が聞こえる。そのことに気づいて軽く手を上げると、スタンドから歓声が聞こえた。
―ピッピッピッピッ…ピー
電子ホイッスルの音が鳴り、俺は飛び込み台に上がった。手を2回叩き、そして飛び込み台に手をかける。右足の指を飛び込み台の端にかけ、左足を引く。そして羽に足をかけた。
「Take your marks…」
会場が静かになる。水が流れる音と、自分の鼓動しか聞こえてこない。
つーーっと細く息を吐く。
―ピッ
音が鳴り、俺は飛び込んだ。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる