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インタイ
せんご④
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結局藍に抜かれること3回。前回と同じだが、俺は内心ヒヤヒヤしている。それもそのはず。藍のベストである17分40秒からだいたい2分ぐらいプラスして中央大会の標準記録になっている。
もしも、藍がベストより遅いタイムで泳いでいたら、俺はその標準記録にすら間に合わないかもしれなくなってくる。1年、2年と出て3年だけ出れないとか話にならない。レギュラー枠の関係ならまだマシだが、そんなのじゃない。ただ実力で出れないだけだからだ。
藍が止まっているのを確認して、俺はスパートをかける。テンポを少しだけ上げて、キックも打つ。省エネで泳いでいたからまだ足は生きているが、肩はもうギリギリだ。でも、そんな状況でも何としても上げないといけない。もう一度あの舞台に行くために。もう一度あの景色を見るために。
カランカランと鐘が鳴っているのが頭の上から聞こえる。ラスト50mだ。俺は若干スピードを上げながらターン動作に入る。右で呼吸して左手を先に掻き切る。右手は水についた瞬間にキャッチを始め、そして掻く。黄色い壁が近づいてきて、頭を入れる。腹筋で体を折って、足を体に寄せ、そして世界が反転する。何回もやってきたこの動作。去年は悪魔とか言っていたが、今年は違う。1500はやっぱり友達だ。こんなに楽しいんだから。
壁を強く蹴って最後の力を振り絞り、ドルフィンを3回打つ。浮き上がってきて1掻き目は呼吸しない…なんてことは出来ずに、やっぱり呼吸してしまう。でも、その分4ビート(2ストローク当たり4回キック)から6ビートに変え、身体を浮かす。呼吸がしんどい。身体が熱い。でも、そんなの関係ない。今はただ全力で泳ぐだけ。
ラストのターン。タイミングを合わせて回り、そしてもう1個ギアを上げる。そして壁に手をついた。
プールサイドに手をかけて、電光掲示板を見る。
「はぁ、はぁ、はぁ…何秒?」
視界もぼやけている。とにかくシリコンキャップとかを全部外し、視界を確保した。
そこに光っているのは『18:46:90』の文字。だいたい30秒ベストだ。それでもまだ俺は頭の中で整理できずに、プールサイドに上がる。目の前にいたのは江住先生だ。
「おめでとう。ベストやん。」
「ベスト。あぁ、そうか。ベストっすね。」
いざ言葉になると嬉しさが溢れだしてくる。本当に長かったトンネルから、やっと抜けれたような気がした。
もしも、藍がベストより遅いタイムで泳いでいたら、俺はその標準記録にすら間に合わないかもしれなくなってくる。1年、2年と出て3年だけ出れないとか話にならない。レギュラー枠の関係ならまだマシだが、そんなのじゃない。ただ実力で出れないだけだからだ。
藍が止まっているのを確認して、俺はスパートをかける。テンポを少しだけ上げて、キックも打つ。省エネで泳いでいたからまだ足は生きているが、肩はもうギリギリだ。でも、そんな状況でも何としても上げないといけない。もう一度あの舞台に行くために。もう一度あの景色を見るために。
カランカランと鐘が鳴っているのが頭の上から聞こえる。ラスト50mだ。俺は若干スピードを上げながらターン動作に入る。右で呼吸して左手を先に掻き切る。右手は水についた瞬間にキャッチを始め、そして掻く。黄色い壁が近づいてきて、頭を入れる。腹筋で体を折って、足を体に寄せ、そして世界が反転する。何回もやってきたこの動作。去年は悪魔とか言っていたが、今年は違う。1500はやっぱり友達だ。こんなに楽しいんだから。
壁を強く蹴って最後の力を振り絞り、ドルフィンを3回打つ。浮き上がってきて1掻き目は呼吸しない…なんてことは出来ずに、やっぱり呼吸してしまう。でも、その分4ビート(2ストローク当たり4回キック)から6ビートに変え、身体を浮かす。呼吸がしんどい。身体が熱い。でも、そんなの関係ない。今はただ全力で泳ぐだけ。
ラストのターン。タイミングを合わせて回り、そしてもう1個ギアを上げる。そして壁に手をついた。
プールサイドに手をかけて、電光掲示板を見る。
「はぁ、はぁ、はぁ…何秒?」
視界もぼやけている。とにかくシリコンキャップとかを全部外し、視界を確保した。
そこに光っているのは『18:46:90』の文字。だいたい30秒ベストだ。それでもまだ俺は頭の中で整理できずに、プールサイドに上がる。目の前にいたのは江住先生だ。
「おめでとう。ベストやん。」
「ベスト。あぁ、そうか。ベストっすね。」
いざ言葉になると嬉しさが溢れだしてくる。本当に長かったトンネルから、やっと抜けれたような気がした。
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