陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

インタイ

せんご③

　試合用の水着に着替えて、クラブジャージを上から着る。身体は十二分に温まっている。頭も冴えてるし、指先まで感覚がビンビンだ。

「藍、行こ。」
「せやな。もうそろそろ行かんとあかんな。」

同じく準備を終えた藍と共にスタンドを離れる。他のメンバーはもう召集所に入っていて、俺たちがいちばん遅い。

「すみません。遅れました。」

ADカードを見せて、協会公認の水着であることを証明するマークがあることを見せ、そして試合で使うシリコンキャップを見せる。全部OKされて、召集所に通された。

　センターレーンのところには、さっき400を一緒に泳いだ奴がいる。去年も同じだった。

「身体の疲れヤバない？」
「マジヤバい。多分吐くで、俺。」

大阪1位の強豪校の選手であるこいつは、中央大会のレギュラーが取れなかったからこっちに出ているようだ。それでもセンターを取るんだから、この高校はやっぱり強い。

「よし、入場しようか。」

どこかの学校の顧問の先生が言う。俺はキャップを被って、ジャージを脱ぎ、シリコンキャップを被った。

　去年は端っこのレーンだった。でも今年は違う。端っこじゃない。隣には藍がいる。そのことが何よりも心強い。

　きっと藍には置いていかれるだろう。それでも、俺は俺に出来ることを全部するだけだ。

―ピッピッピッピッ…ピー

飛び込み台に上がる。静かに1度息を吐き、手を2回叩く。人差し指に親指をかけ、音を鳴らす。だんだん心臓が高鳴ってきた。そして、飛び込み台に手をかける。

「Take your marks…」

会場全体がシンと静まる。いつもは何も感じないのに、この時間が長く感じた。

―ピッ

その音が鳴った瞬間に反応して飛び込む。潜りすぎないように注意しながらドルフィンを6回。最初の25mだけはキックをちゃんと打つ。そしてターンをして、浮き上がってくる。

(やっぱり速いな。)

そこそこの入りをしたはずなのに、藍の足が見えている。

　前回藍と1500をした時は、150m差をつけられた。時間にして約2分ほど。今回はその結果を超える。というか、超えないと中央大会に出れない。

　ストローク数は少なめをキープ。キックでリズムを刻んでそれが崩れないように頭をフル回転させる。レースプランはない。あるとしたら、ちょっとしんどいくらいをキープするってだけ。前にも後ろにも誰もいないから、俺はただ自分のペースを信じるだけ。

　呼吸の度に見える藍がどんどん近くなってくる。すれ違いがターン後すぐになって、そして泳ぎながらでも見えるようになる。そうなればすぐに抜かれて、そしてまた一人旅。