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セナカヲ

三度目の正直③

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 当たったことを意味するホイッスルが鳴って、俺はボールが飛んできた方向を見る。そこに笑っているのはQだ。

 完全に忘れていた。聡を当てることだけを気にしていて、もう1個のボールの行方は追っていなかった。

「ちくしょう!」

俺は外野に出る。内野に残っているのはあと10人ちょい。I組も同じような人数だ。もう俺は内野には戻れない以上、外野から当てまくるしかない。さっそくボールが回ってきて、とりあえず固まっているところに投げる。そうしたら、割と簡単に当たる。

 時間は残り1分と少し。当て続けるだけの作業だが、人数が減ってくるとそれも段々と難しくなってきた。

 向こうのチームもQや聡が中心になってうちのチームを当て続け、外野はどんどん補充されていく。ポイント的には俺たちの勝ちは確定しているが、男子としてここは勝ちたい。その願いはみんなにも伝わっていて、今内野にいるメンバーも必死に逃げ回っている。

「カレン!」
「奏!」

対面にいるカレンと早いパスを回しながら残り1人になった相手を撹乱する。うちのチームの内野もあと1人。勝負はこの1人を当てると決まる。

「陽太!」

俺は今まで使っていなかったサイドの外野を使う。こっち側を使ったらもしかしたら相手に2球回るかもしれないからと使っていなかったサイドだ。

 でも幸いにも相手はそのサイドに寄ってくれている。野球部である陽太なら当ててくれるそう信じてパスを回す。

 あとは願うしかない。

 陽太がボールを取る。

 Qがボールを取る。

 陽太が構える。

 Qがボールを握る。

 陽太が投げる。

 Qが構える。

 ホイッスルが鳴り響く。

『うおおおおおおお!』

陽太が投げたボールは、相手のラスト1人の太腿に当たり、地面に落ちる。その瞬間、女子たちもコートの中に入ってきて、俺たちは陽太を囲んだ。

 真っ青な空の下、人工芝が日差しを反射するグラウンド。俺たちは人差し指を天に伸ばして、ジャンプする。Qと一緒だったから見れた景色。Qに阻まれて見えなかった景色。それを俺たちは俺たちの力で掴み取った。

 三度目の正直なんてないと思ってた。でも、今、現実になったのだ。

「礼!」
『ありがとうございました!』

センターラインに並んで、向かい合って礼をする。正面にいるQと健闘を称え合い、握手した。

「この調子で杏もボコしてくれ。」
「どんな兄やねん。まぁ、勝負する以上ボコすけど。」

Qは笑いながら自分たちのチームの輪に入っていく。最初の頃はあんな感じでクラスの輪に入ろうとなんてしなかったのにな。

 少し感慨深くなっていると、視界が暗くなった。タオルをかけられたのだろう。

「お疲れ。」
「おう。」

楓は俺にタオルだけかけて、また女子たちの輪に戻っていく。俺は汗を拭きながら、男子たちのところに歩いていった。
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