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セナカヲ

私はバカ兄の部屋②

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「やっぱり。」
「杏ちゃんもそうなんやな。」

紙に書かれたいくつものワード。それを見て2人は笑った。はっきり言うと、青春の暗いところを書き出す方が簡単だったのだ。

「でも、先生が望んでんのはこんな歌や…」
「いや、イソジンはそんなこと言わへんで。」
「そそ。あの人、人の音楽性に対しては何も言わんから。」

私のことを勇気づけるようにそんなことを言う2人。そんな2人の言葉に、少しずつ自分の書いた言葉に自信が出てきた。

「さ、あとはそれを歌にするだけだ。作曲は誰かに頼んでるんか?」
「それはクラスにやったことある女の子がいたから。」

頼んだのは三玖ちゃん。音楽一家らしくて、幼い頃から音楽に触れてきたらしい。

「んじゃ書き出すだけやな。メロとかもこっちで作っていいんやろうか?」
「それは知らん。書きやすいのは?」
「「作る。」」

2人の圧がすごい。何曲も作ってきたからだろうけど、それにしても音楽に対する熱がすごいんだ。

「じゃ、書いてみるね。」

私はペンを手に取った。頭の中で刻むビートと流れてくるメロディーに身を任せて、思いのままにペンを進める。

 しばらく時間が経って、やっと書き終えた。

「こんな感じかな?」
「ん?どんな感じ?」
「見せてみそ。」

『怖いんだよ 怖いんだよ
 僕のことを 忘れられてしまうのが


 最終下校のチャイムは1人悲しく鳴り響いて
 バックステップ踏んでばっかの僕らの背中を押す
 笑いあえていた嬉しさはきっと儚く脆すぎるから
 大切なアルバムの1ページにもきちんとしまっておこう

 もう分かってんだよ こんなの必要ない
 こんな証明ばっかじゃきっと楽しくなんかないから
 僕だけの 僕であるために
 回り道を探してんだ

 敷かれたレールの上を走ったって
 きっとそこに僕はいなくて
 逢いたいと叫んだ君の虚像が立っている
 本当の僕の瞳に映るものは
 きっと善でもない悪でもない
 ただそこにある虚しさ



 1から100まで全部を一人一人に伝え続けて
 進んで戻って繰り返してたのまるで時計みたいだ
 悲しみなんて全部を掻い摘んで吐き出したら
 キリがないことお腹が減って仕方なくなる

 もう知ってんだよ こんなのどうしようもない
 こんなにリピートしてたらきっと楽しくなんかないから
 僕にはもう 何にもないから
 茨の道 走ってんだ



 言葉だけじゃ足りないから
 きちんと全部態度に変えて
 夢に見ていた青い春を
 隙間もないほど真っ青に染める

 敷かれた
 敷かれたレールの上を走ったって
 きっとそこに僕はいなくて
 逢いたいと叫んだ僕の空想がそこにある
 ホンモノと呼べるものを見つけるため
 狂いそうなほど足掻いている

 信じた道を走ったら
 きっとそこに僕が立ってて
 逢いたいと叫んだ君の実像が立っている
 青い春のその先に見えるものは
 きっと善でもない悪でもない
 ただそこにある煌めき』
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