陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君

文字の大きさ
上 下
436 / 773
ミカヅキ

全て

しおりを挟む
 桜の作ってくれたうどんを食べて、少し動けるようになった。

「ホテルはどうしたん?」
「チェックアウトしてきた。今日帰るつもりやったから。」
「でも、その体で電車に乗せんのはちょっと嫌やな。」

桜は困ったような顔を見せる。今から探す手もあるが、今は年末。どこも混みあっているだろう。

「とりあえず、今日は泊まっていきなよ。」
「いいん?」
「いいよね?お母さん。」
「いいよ。それくらい。」

どこからどう見てもそれくらいって感じではないんだが、この季節に野宿するのは無理だからお言葉に甘えさせてもらおう。

 いつの間にか日も落ちていて、外はすっかり暗くなっている。

「コンビニ行くけど、来る?」
「行くわ。ちょっと待ってて。」

俺は着てきたジャンパーに身を包んで、外に出た。

 この辺りはコンビニも少なく、1番近いところでこの数日間行っていた駅の少し向こうのところ。商店街を抜けて、そのまま歩いていくと、コンビニと今日の朝まで使っていたカフェが見えた。

 俺たちはそれぞれ、今日の晩のカップ麺を購入する。外に出て空を見上げた。

「やっぱり大阪とは違うな。」
「そりゃそうでしょ。何せ人がいないし、街灯も少ない。」

スタスタと雪に足跡を残して歩いていく桜の後ろを歩く。どこかよそよそしくて、いつもの桜と全くの別人みたいだ。

 商店街に戻ってきて、さらに奥へ。おそらく2人でしっかり話せるのも、これが最後なんだろう。

「本当に、帰ってくる気はないんだな。」

海沿いを右に曲がって、アパートが見え始めたくらいでそう言う。我ながら卑怯なやつだ。

「うん。そうだよ。だって私には帰るがない。」
「本心を言えよ…」
「は?」
「桜が帰りたいか、帰りたくないか聞いてんねん!権利?そんなこと知らんわ。勝手に自分で決めつけて、勝手に納得して、そんなことを聞いてるんやねぇ!お前の気持ちを聞いてんねん!」

気づけばまくし立てるように喋っていた。桜にはまだ見せたことのない俺の1面。この際、全部さらけ出してやろうと決めたのだ。

「私が帰ってきたら、迷惑やろ?」
「んなもん、コレ見たら全部分かる!」

俺はスマホを取り出す。その手は桜に止められた。

「いいよ。知ってるから。あの歌詞のこと。」
「なら何でその結論になるねん。」
「それは…」

〇〇〇〇〇

「それは…」

その先の言葉が繋がらない。みんなが私のことを認めてないって思わないといけなかったから。

 夢を見るのは怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

〇〇〇〇〇

 桜は口ごもったまま、下を向く。こんなに弱い桜を見るのは初めてだな。

「なら、俺から全部言ってやる。桜がいなくなってから、俺の生活は全部変わった。何も手につかなくなったし、学校をサボることもあった。食べ物は喉を通らないし、十分に寝ることも出来ない。歩けば頭がふわふわして、すぐ転けちまう。そんな感じだった。」
「………」
「人の心ってのはジェンガみたいなものなんだと思う。大事なところが1個でも欠けたら、全部崩れる。その1個が、俺にとっての桜なんだ。」
「………」
「こんなことを言うのは正直恥ずい。だけど、全部言うって言ったからには、言わないといけない。」
「………」
「俺は桜の隣にいたい。桜が俺の隣にいてほしい。どんな弱みも全部見せあって、どんな間違いも一緒に背負いたい。」
「……ばか。」

桜は買ったカップ麺をその場に投げ捨てて、俺の方に来る。

「そんなこと言われたら、帰りたくない理由が無くなるやん。」

桜は泣いていた。弱く、儚く。周りには誰もいなくて、ただ打ち寄せる波が響いている。そんな中、雪に降られて街灯に照らされている桜は綺麗だ。

「俺たちはさ、所詮弱い生き物なんだ。繋がりを求めてもすぐに切れてしまう。俺たちにとっての繋がりは結局あの家。あそこなんだ。だから、帰ってきてくれないか。」
「ねぇ、ちゃんと言葉にしてよ。こうやって。」

桜は俺に抱きついてくる。ちょうど雪が溶けかけて、凍ってしまっているところに立っていたからか、俺は足を滑らせて、そのまま倒れてしまった。

 それでも桜は体勢を変えて、馬乗りになる。そして、笑った。

「ずっと一緒にいよ。久志。」

桜は俺の顔に近づいてくる。俺はそれを受け入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ!

コバひろ
大衆娯楽
格闘技を通して、男と女がリングで戦うことの意味、ジェンダー論を描きたく思います。また、それによる両者の苦悩、家族愛、宿命。 性差とは何か?

処理中です...