陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

ミカヅキ

answer④

「橋本さん。」

2日後、帰りの用意をしていると、日置くんが話しかけてきた。こうやって話しかけられるのは初めてだ。

「日置くん、どしたの？」
「とりあえず、思いついたパターン全部作ってきたから。まだだいたいこんな感じみたいな感じで、ちゃんと作りきってないけど。とりあえず、聞いてくれん？」

そうやってイヤホンを差し出してくる。

「じゃあ、聞かしてもらおっか。」

私はそれを受け取った。

　まず1パターン目。私が送った歌に、音をのせただけのやつ。しっかりと私のイメージにマッチしていて、音の流れも綺麗だ。ピアノ中心の伴奏は悲しさと悔しさを感じさせて、重たく心の奥底に響いている。まさに私のイメージ通り。特にどんな歌かも伝えていないのに、これが音で伝わるってやつなのか。

「どう？イメージ通りやった？」
「うん。怖いくらいイメージ通り。私の頭の中でも覗いた？」
「いや、あの声だけでこのメロディーが真っ先に出てきた。」

日置くんは恥ずかしそうにそう言う。

　でも、あるのはもう1パターン。

「こっちは？」
「さっきのが気に入ったのなら別に聞かなくてもいいけど。」
「聞かして。」

そう言うと日置くんは再生ボタンを押す。AメロとBメロはさっきと同じ。けど、サビだけが別物になっていた。さっきよりも激情的なものになっていて、一言一言の重みがすごい。私の頭の中では作り出せないなと即座に理解した。

「すごい…」
「インパクトを持たせるならここかなって。元々のやつやったら、少し平坦になりすぎているような気がして。気に入ってくれた？」
「もちろん。こっちで進めて。」
「分かった。じゃあ出来上がったらまた聞いてね。志原にも送っとこ。歌のラインは変わらんし。」

日置くんは今のデモ音源を志原くんに送る。

「私にも送ってくれてよかったのに。」
「いや、やっぱりね、反応が見たかったから。ちゃんといいものが作れてるか不安やったし。こうやって目的を持って作るのは初めてやから、少し怖かったし。」
「何それ、変なの！」
「はぁ？別に変やないと思うけど！いや、変か。うん。変やな。」

　随分と残っていたみたいで、もう教室には誰もいない。外から聞こえてくる部活動の声と、ブラスバンド部の音だけがこの教室を包んでいる。

「じゃ、よろしくね！」
「うん、任せて！」

私は手を振って、ひい君以外で初めて2人きりでちゃんと話せた相手に手を振った。