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ミカヅキ

音を紡げば⑧

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 今日は珍しく平日のOFF。なので俺たちはH組の前に来ていた。

「柚音ちゃんいる?」

楓がそうやってH組の1人に声をかける。

「おるで~、柚ちゃん!お客さん!」
「うい~!」

女子グループでご飯を食べていた小倉さんが立ち上がって、こっちにやってきた。

「で、どうしたの?楓と加太くん。って聞くまでもないか。桜のことでしょ?」
「あぁ、話が早くて助かる。その事なんだが、今日の放課後でいいか?」
「もち。空いてるよ。」
「なら放課後階段前で。」

とりあえず放課後に話を聞けるように話をつけることができた。

〇〇〇〇〇

 私は悩んでいる。このまま桜の過去を知らないままでいいのか。知りたいけど、それが本当に開けていいものなのか。桜はそういうことをされて喜ぶのか。その事が頭の中で駆け回るのだ。

 私たちは所詮友達だと思っていた。一緒の学校に行って、喋って、そして帰る。休みの日には遊んだり、試験前には勉強会をしたり。家族以上の時間を過ごすけど、家族未満の関係。そんなのが友達だ。

 その中でも、お互いのことを深く知りたいと思えば本当の友達ってことになるのではないか。

 戻ってくる柚ちゃんを見る。

「ねぇ、柚ちゃん。」
「どした?音羽。」
「私にも教えて。桜のこと。」
「ん。待ってた。じゃあ、放課後一緒に行こ。」

〇〇〇〇〇

 昨日でやっと分かった。私にとって桜は大切な存在だと。そうと分かれば行動は早い。

 昼休みも終わりかけの頃、私はH組の前に立っていた。中からは普通に女子の声がしている。目を瞑って深呼吸を2回。やっと決心がついた。

 ドアノブに手をかける。自分の鼓動が早くなっていくのを感じる。怖い。けど、これくらいの怖さは乗り越えないと。

 ドアノブを捻って開ける。いつもと違う景色に少し後ずさりしそうになるけど、ぐっと堪える。

「お、小倉さん、いる?」
「ん?おぉ!きいちゃん!どしたん?」

溢れ出す陽のオーラに溶かされそう。でも、もう下を向かないと決めたんだ。

「桜の、桜のことを教えて!」
「ふふっ!きいちゃん声デカすぎ!」

H組のみんなが私のことを見ているのに気づいて、死ぬほど恥ずかしくなる。

「いいよ。放課後、階段前でね。」
「ありがと、じゃあ、また、あとで。」

とりあえずまず第1歩。
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