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ミカヅキ

音を紡げば③

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 前回と同じファミレス。その2人席に俺と柚さんは向かい合って座っていた。

「で、作詞家くんが聞きたいことって?」

柚さんはもう飲みほしたコップの中に入っている氷をカラカラと回しながら、照明を透かして見ている。

「桜のこと。」
「つまり?」
「桜に昔何があったのかってこと。まぁ、ある程度はちょっと前に聞いてんだけどさ。」
「ふーん。」

柚さんは俺の目をじっと見る。まるで俺の心の中までも透かしそうなほど。そして、納得したように頷いた。

「いいよ。」
「ありがとう。」

 俺はそれから、前に桜から聞いたところまでの話をした。柚さんと富田さんと桜は幼馴染だったってこと、富田さんが告白したのは御浜くんだってこと、それで振られたのは桜が好きだったからだってこと。そこまでは聞いたと話した。

「そこまで聞いてるんだ。なら、そこからは早いね。

 作詞家くんはさ、ずっと光善寺に住んでるんだよね。」
「まぁな。」
「私も昔はあの辺に住んでたんよ。もうちっちゃい頃。しかも、恐らくやけど小学校は隣やで。」
「マジか。知らんかった。」
「それもそう。中学校入る前に引っ越したから。私も、桜も。」
「―――――」

柚さんは頼んでいたティラミスを1口食べて、話を続ける。

「私は今住んでる大阪市内に、桜は…静岡のおばあちゃん家。どっちのかは忘れたけど。2人とも逃げるようにあそこから…。もちろん同じタイミングでアイツも引っ越したみたい。なんか嫌になったんやろうね。そんなこと分かりたくもないけど。」

「それで、私たちは離れ離れになった。これが小6の卒業後のこと。中学校に入ってから、私はそこそこ楽しい生活をしていた。部活には入らずに友達とスイーツ食べに行って、遊びに行って、映画見て。なかなか充実していたけど、それでもどこかにしこりがあった。」

「もちろん、たまに桜にも連絡していた。こんなことあったとか、そっちは元気?とか。」

余程楽しかったのだろう。そんな話をしている柚さんは楽しそうで、キラキラしていた。

 でも、そんな目が暗くなるのは一瞬だった。

「私ね、塾に行っている最中にスマホを落としたんだ。そのことに気づいたのは塾に着いたあと。とりあえず帰り道に探しながら帰って見つかったけど、ちゃんと水没していた。その日の行き道に志望校を桜に伝えていたのが不幸中の幸い。やけど、データ引き継ぎをしていなかったからそのまま連絡先は消えちゃってん。」

弱い細い声で、呟くように後悔を漏らす。

「だから、入学してからずっと、桜に気づかなかったのか?」
「うん。なんせ本当に戻ってきてくれるとは思ってなかったし、私よりもお姉ちゃんになってたから。」

ニシシと笑う柚さんは、ティラミスの最後の1口を口に入れて、フォークを置いた。

「もう、桜と離れてるのは嫌。だから、次は作詞家くんが連れ戻して。」
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