368 / 732
ミカヅキ
揺られて
しおりを挟む
涙はもう枯れた。目が潤んで見えなかった景色も、いつのまにか田んぼばかりに変わっていて、電車も縦揺れから横揺れに変わっていく。風になびく黄金色の稲穂が手を振って私を迎えているようで…少し寂しい。
「次は東小浜、東小浜です。」
少しずつ民家が多くなってきて、小浜市街地が近くなってきたのが分かる。ローカル線の横揺れは1歩ずつ都会から離れていく歩みのように、私を遠い所へ誘うのか。はたまた、私はそういう存在なのか。
「次は小浜、小浜です。」
次で逃避行も終わりだ。過去の私からの逃避行。今の私には何も残ってないから、もうどうなってもいい。ただお母さんと2人でこの街で過ごすだけ。それが償いになるのなら…
「あれ?」
枯らしたはずの涙が落ちてくる。もう夢を見る時間は過ぎたと分かっているのに、体がそれを拒んでいる。
「私、なんて情けないんだろう。」
せめてお母さんに会うまでには泣き止んどかないと。
そんな私の思いは速攻で無駄になった。
「あっ、ちょっと待っとって。梅ソフトもうすぐ出来上がるから。」
道の駅の待合場所にある小さな飲食スペースで待っていたお母さんは、いつも通りマイペースだった。軽くウェーブのかかった茶色く長い髪の毛は、少しずつ白い線が混じり始めていて、それでも綺麗だ。
「久しぶり、お母さん。」
「久しぶりね、桜。元気にしてた?」
有田杠葉(ゆずりは)。私のお母さんだ。いつもマイペースで何考えてるか分からないこともあるけれど、子供のことを第一に考えてくれる。私はお母さんのことを誇りに思っている。
「お母さんが送ってくれてるお金のお陰で楽しく過ごせたよ。」
「そう、なら良かった。」
私が住んでいる所を教えた唯一の親族。だから、葉書が届いた。
「やっぱり…ね。」
「うん。ごめんなさい。」
「いいのよ。誰にだってできないことくらいあるんやから。」
「うん。」
逃げてきた私をそんなに美化しないで欲しい。私はただ弱いだけ。そう思ってここまでやってきた。みんなに嘘をついて。
「ごめんなさい。」
なんてちっぽけな言葉はいくらでも空を飛んでいるのに、意味を持たせようとして、失敗する。私は馬鹿だ。
「次は東小浜、東小浜です。」
少しずつ民家が多くなってきて、小浜市街地が近くなってきたのが分かる。ローカル線の横揺れは1歩ずつ都会から離れていく歩みのように、私を遠い所へ誘うのか。はたまた、私はそういう存在なのか。
「次は小浜、小浜です。」
次で逃避行も終わりだ。過去の私からの逃避行。今の私には何も残ってないから、もうどうなってもいい。ただお母さんと2人でこの街で過ごすだけ。それが償いになるのなら…
「あれ?」
枯らしたはずの涙が落ちてくる。もう夢を見る時間は過ぎたと分かっているのに、体がそれを拒んでいる。
「私、なんて情けないんだろう。」
せめてお母さんに会うまでには泣き止んどかないと。
そんな私の思いは速攻で無駄になった。
「あっ、ちょっと待っとって。梅ソフトもうすぐ出来上がるから。」
道の駅の待合場所にある小さな飲食スペースで待っていたお母さんは、いつも通りマイペースだった。軽くウェーブのかかった茶色く長い髪の毛は、少しずつ白い線が混じり始めていて、それでも綺麗だ。
「久しぶり、お母さん。」
「久しぶりね、桜。元気にしてた?」
有田杠葉(ゆずりは)。私のお母さんだ。いつもマイペースで何考えてるか分からないこともあるけれど、子供のことを第一に考えてくれる。私はお母さんのことを誇りに思っている。
「お母さんが送ってくれてるお金のお陰で楽しく過ごせたよ。」
「そう、なら良かった。」
私が住んでいる所を教えた唯一の親族。だから、葉書が届いた。
「やっぱり…ね。」
「うん。ごめんなさい。」
「いいのよ。誰にだってできないことくらいあるんやから。」
「うん。」
逃げてきた私をそんなに美化しないで欲しい。私はただ弱いだけ。そう思ってここまでやってきた。みんなに嘘をついて。
「ごめんなさい。」
なんてちっぽけな言葉はいくらでも空を飛んでいるのに、意味を持たせようとして、失敗する。私は馬鹿だ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
家政婦さんは同級生のメイド女子高生
coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
俺の家には学校一の美少女がいる!
ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。
今年、入学したばかりの4月。
両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。
そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。
その美少女は学校一のモテる女の子。
この先、どうなってしまうのか!?
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる