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バイバイ

バイバイ

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「Q。」
「あぁ、分かってる。」

ステージから桜が降りるのを確認して、俺は走り始めた。桜が向かって行ったのは正門のほう。スタンドから正門に向かうには、観客席の中を抜けないといけない。ステージ上のことに注目しているから、間を通り抜けれるが、それでも桜には追いつけそうにない。

 観客席の中を通り抜けた頃には、桜はもう見えなくなっていた。

「あいつ、どこ行ってん。」

とりあえず教室の方へ。階段を駆け上がってH組の教室の前についたが、桜のカバンはなかった。校舎内から靴音すら聞こえないから、もう校舎を出ているか、そもそも校舎に入っていないか。その場合、消えたカバンは?植え込みの中に隠していたなら全て筋が通る。俺は正門を向いた。

 うちの学校の前にはバス停がある。俺たちは基本的に使わないが、ある一定の需要はあるようで、毎日長い列を作っている。そんなバス停の方を見れば、見慣れた姿があった。けど、名前を呼ぶ前にバスに乗り込んでしまう。

「くそ」

俺はもう一度足に力を込めて走り始める。

 いつもは歩いている、近道である住宅街がただ寂しさに満ちている。冷たい風が通り抜け、道の終わりが見えた。ここで俺が抜かしていたら…

 そんな思いも虚しく、バスは目の前を通り過ぎていく。最後の坂を登りきった時にはもうバスの姿は無い。

「くそっ!」

桜が改札にたどり着くまでがタイムリミット。駅まではあと200mほど。こんなのあの日々に比べたらまだ楽な方だ。俺はまた走り始める。

 ロータリーの横を通り過ぎたときには、バスは乗客を下ろしきって、休憩時間に入っていた。人の波はまだ続いているからそう遠くないところにいるはず。改札の方に繋がる歩道橋を渡った。

 ちょうど大阪市内からの電車が着いたからか、改札前は人でごった返していた。この中で桜を見つけることは至難の業だ。けど、この2年間は伊達じゃない。毎日見てきたその姿ははっきりと俺の目に写った。

「桜!」

俺は改札の中に入ってしまった桜に声をかける。桜は立ち止まって振り返った。

「なんでいきなり帰ろうとすんだよ!」
「帰るんじゃない。これで最後。」
「は?」
「こんな醜い私がいたらみんなの仲を壊してしまうかもしれない。だから先に私から消えておく。普通のことでしょ?」
「何言ってるか分からん!」
「分かってよ。」

桜は悲痛そうな顔を浮かべる。今にも崩れそうなそんな心が透けて見える。

「バイバイ。楽しかったよ。私はこの一年半を忘れないけど、みんなは私のことなんか忘れて頑張ってね。」
「ちょ…」

階段の奥に消えていく桜の背中に、俺は何も言えなかった。
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