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バイバイ

体育祭Ⅱ⑩

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「疲れだぁ~!」
「お疲れさん。絶妙に目立っとったで。」
「うっせ。」

昼飯は教室に戻って食べる。今日ばかりはクラス間での移動が禁止…ってことになっているが、珍しく桜がこっちに来ていた。

「今日は珍しいな。どした?なんかあったか?」
「ん?別に。こっちに来たくなっただけ。」

と少し寂しそうな顔。まるで何かを決意しているかのように、その眼はぼーっと目の前だけを見ている。

 ちなみに船戸さんたちは今日はH組。柚さんとかと一緒に食べるらしい。たしか、そんなことを言って教室を出ていった。

 そんなわけで久しぶりの2人での昼食。夏休みは毎日やってたはずなのに、いつまでも慣れない。

「久志は変わったよね。」
「そうか?」
「うん。前までは絶対に『いかに早くやられるか』って事ばっか考えてたやろ?」
「だな。」
「でも、今は違う。純粋に楽しいやろ?」
「それはどうかな。」

ほぼ同じ内容の弁当を食べながらそんなことを話す。クラスの奴らは俺達のことなんか気にしていない。たとえ俺が女子と2人で弁当を食べてようと、気にもしない。そんな空気みたいな俺はまだ健在。

 意識なんて変えたって仕方ない。それを見てくれる人がいなくちゃ。

「初めて会った時のこと覚えてる?」
「あれは忘れないぞ。俺の平穏な日々がそこで終わったんやから。」
「ははっ。それはごめんね。でも、それで今こんな感じなんやし。」

 入学早々家が燃えてたなんて馬鹿げた話だが、そんな夢みたいな話が現実に起こって、こうして弁当を食えている。こうして毎日学校に通っては、誰かと喋って、そして帰る。中々に満喫している気がする。俺にしては。

 次に口に入れた卵焼きは少しだけ塩辛く感じた。

「ねぇ、久志。」
「ん?」
「私も久志みたいに変わりたかった。」
「急にどうしたん?」
「んーん。忘れて。」

悲痛そうな表情を浮かべる桜はそのまま俯いてしまう。もうその顔は見えなくて、桜の真意は分からないまま。ただ、教室を包む喧騒が俺たちにモザイクをかけているようだ。
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