陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

バイバイ

Hの文化祭準備①

「はい、カット！」

私たちのクラスは、文化祭で自主映画を上映する。今はその撮影だ。

　脚本演出は私、熊野音羽が担当して、その他小道具はみんなで夏休みの間に作った。

　ストーリーは至ってシンプル。ある日の教室に閉じ込められた高校生5人による脱出ゲーム。扉はいくつかあるが全て開かないように工作されていて、唯一開く扉にはダイヤルキー付きの南京錠がかかっている。黒板にはびっしりと文字が書かれていて、それが謎解きの問題になっている。

　と、ここまでが私が考えたストーリーだ。ここからは全てアドリブ。謎解きを作った淡嶋くんしかその答えを知らないし、私も脚本をしていない。みんな、いつも通りの姿で問題を考えてもらうだけ。ちょっと面白くなるようにとは伝えたが、それも全部任せてある。

「おつかれ～！今日はここまでね！」
「疲れた～！」
「頭痛てぇ～！」
「しんどっ！」
「淡嶋のやつ、ムズいの作りすぎだろ。こりゃあ尺収まりきるか分からんぞ。」
「あとちょっとでなんか分かりそうやったのにな。」

出演するのは古屋くんと田倉くん、松江くんに八巻くん、そして西脇くん。クラスのみんなは桜を推していたけど、「私なんかじゃ勿体ない。」って断られた。私も、桜がやってくれるだろうって考えていたので、そこで脚本を1度見直さないといけなかった。

　撮影で何度も見ているが、淡嶋くんの考えた謎解きは本当に難しい。大体35分くらいでストーリーが完結するようにしたいから、次の回で正解を導かないといけない。最悪、ヒントだけでも教えてもらって撮影を終わらせるのもアリだが。

「I見に行ってくるね。」
「行ってら。」

桜は教室を抜けてI組の様子を見に行く。どうせQと一緒に帰るんだろう。きいのクラスはほぼ準備が終わってるって言ってたからもう帰ってるだろうし、同じ方向…いや、同じ家だもんな。

「あーあ、私の青春どこ行ったんだろう。」

誰にも聞こえないように、そう呟くのだった。