陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君

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バイバイ

私の集大成⑥

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 後半になってくると少しずつ体が悲鳴を上げ始める。若干顎が上がったり、キャッチが雑になったり。そんなのにあまりならない人が基本的に中・長距離専門をする。

 でも、例外はたまにいる。私とバカ兄。私たちはフォームが崩れやすいってことはないが、同じ専門種目の人たちからしたら、フォームが崩れている。もちろんそれを自覚しているし、直そうともした。でも結局、『体力でゴリ押しできるやん』ってなったのだ。

 8レーンの子を見ながら、様子を窺う。その奥の水しぶきは小さいから身体1個半分くらいリードを取られているだろう。8レーンの子とは腕1本分くらいの差。このペースで行けばラスト勝負ができるだろう。ひとまずここは休憩か。力を抜いて楽に泳ぐ。

 楽に早く泳ぐのはこの冬に散々やってきたことだ。実際、タイミングと体重移動だけでどうにかできる。そうすれば回復にも繋がって、ラスト勝負で負けないようになる。

 250m、300mとターンして、ラスト100m。私が向こうを見ながら泳げるのはこの50mで最後。とりあえず抜かして、リードする。が、相手も相手で強い。なかなかリードを広げられない。

「(くそっ!このままやったら、ラストで抜かされて負けや。)」

泳ぎに若干焦りが出始める。泳ぎが固くなって、進まなくなるのが分かった。

「(こんなとき、バカ兄なら…)」

 バカ兄は400mを専門にしている選手だった。しかも、超後半型。最初の200mは楽に入って、ズルズルと上がっていく。妹である私から見ても、性格の悪い泳ぎだった。でもたまに、同じようなレースプランを組む人がいる。そのときはどうするか。バカ兄は言っていた。

「なら、本当にラスト勝負にしたらええ。」

そういうレースはラスト50mで一気に抜き去っていた。

 今こそ、バカ兄の再現をするべきだ。

 私は1度上げたペースをイーブンする。すると予想通り8レーンの子は並んでくる。そのままラスト50mのターン。

 私にはこの3年間で染み付いた感覚がある。自信がある。この50mこそ、私の集大成だ。ギアを一瞬でいくつも上げるのは当たり前。上半身は崩れないようにできるだけ丁寧に。でも、ピッチは上げる。下半身は感覚が麻痺るまでキックを打つ。

 7レーンの子が今どこにいるのかは見えない。いや、気にしなくていい。どうせ掲示板を見れば分かることだ。今はただ無心に、黄色い壁まで。
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